Game Developers Conference 2012レポート
【GDC 2012】Facebookが初のチュートリアル「Facebook's Developer Day」を開催
Facebookもまたモバイルを志向。「Open Graph」を軸としたソーシャルゲームプラットフォーマーに
世界最大のSNS「Facebook」を展開する米Facebookは、GDC初日の3月5日、初の単独チュートリアルとなる「Facebook's Developer Day」を開催した。主にFacebookアプリを手がけるサードパーティーを対象にしたもので、すでに稼働から5年を経ているだけに非常に専門性の高い内容だったが、ゲームファンにも興味を引く内容を、いくつかのセッションからかいつまんで紹介していきたい。
【数字で見るFacebook】 | ||
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Billion(10億ドル≒810億円)の文字が踊るスライド。投資関係の数字なので、直接的な売上ではない点に注意。むしろ下段のFacebookのモバイル版が、数字の上では大きな数になりつつあることのほうが重要だろう |
■ Zynga抜きのゲームプラットフォーマーの道を模索するFacebook
Facebookは、2010年にGDC Mobileの基調講演でいきなり登場して存在感を見せつけたかと思いきや、2011年は一切参加せずと、ゲームに対する向き合い方に迷いがあった印象だが、今年は一転して「Facebook's Developer Day」という形で自社単独のチュートリアルを実施し、ソーシャルゲームプラットフォーマーとしての立ち位置を再度明確にした。
今回、短い中座を何度か挟みながら、終日このチュートリアルに参加したが、非常に印象的だったのは、最後までZyngaの名前がほとんど出てこなかったことだ。FacebookといえばZynga、ZyngaといえばFacebookというぐらい蜜月の間柄にあることはよく知られている。日本のGREEやDeNAのようにファーストパーティータイトルを持たないFacebookは、Facebookゲームの新しい機能はすべてZyngaを通じて実装してきた。このため、Facebookでのゲームの実装ノウハウを語ろうと思えば、Zyngaに語って貰うのが一番早いはずだからだ。
しかし、Facebookが3月中に、従来の方法論をことごとく覆すタイムラインを強制導入することと呼応するかのように、Zyngaは自社単独でのゲームプラットフォームを3月中に始めると正式発表。3月をもって、両者の蜜月関係が終わりを告げることは決定的となった。「Facebook's Developer Day」にZynga不在という自体は、FacebookがZynga抜きでのソーシャルゲームプラットフォームの道を真剣に模索している何よりの表れだと思われる。
Facebookが、最初のセッション「Facebook Outlook」で、Apple顔負けの手法で華々しい数字と実績をグラフで示しながら、終日のチュートリアルを通じてデベロッパーに伝えたのは、以下の3つのメッセージだ。
・Mobile Platform
・Open Graph
・Quality Game
特に説明に力が注がれていたのが、「Mobile Platform」としてのFacebookのポテンシャルについて。モバイル向けのゲーム市場がホットなのは日本も北米も変わらず、新たなライバルとなったZyngaが近年力を注いでいるのもiOS/Android向けのモバイルアプリばかりだ。Facebookでは、リクエストやブックマーク、フィード、ペイメントなどなど、Facebook特有の機能、サービスをそのままモバイル版にも提供し、ネイティブアプリ、Web向けにかかわらず、共通のAPIを介することで、1発でPC、スマートフォン、タブレットの3つの主要デバイスにソーシャルゲームが提供できることをアピール。
Mobile対応の代表事例としてドイツの独立系デベロッパーWoogaのパズルゲーム「Diamond Dash」が紹介された。Woogaは3年前にベルリンに設立されたゲームメーカーで、「Diamond Dash」は1,800万のMAU(Monthly Active User)を誇る。PCとモバイル(スマートフォン、タブレット)の両方に対応し、完全なクロスプラットフォーム展開を実現している。
Woogaによればモバイルゲームの転機は、近年で3度訪れたという。1度目はApp Storeをはじめとしたモバイルゲーム向けのオンラインマーケットの誕生。2度目はそれらダウンロードコンテンツを中心に広がったフリーミアムのビジネスモデルだという。3度目がモバイルゲームのソーシャル化、つまりFacebookでのモバイル展開だという。
モバイル版は2011年3月にリリースされ、リリースされるや否やたちまち人気タイトルの仲間入りを果たした。どのデバイスにも、同じアカウントでプレイを継続することができ、同じトーナメントに参加でき、しかもソーシャル性の高いゲームプレイが楽しめる。Facebook独自のバイラル性の高さをモバイル版でもそのまま活かすことができるため、WoogaにとってFacebookプラットフォームの全面採用は吉と出たようだ。
次に「Open Graph」は、言葉の定義そのものがどんどん拡張されているので非常にわかりにくいが、このチュートリアル用の説明に限定して定義すると、FacebookのSNSとしてのコアとなる“ソーシャルグラフに関するサードパーティー向けの機能拡張”となる。ゲームメーカーは、Open Graphに準拠したゲームアプリを作ることで、これまでZyngaが恒常的に多用してきたタイムライン(フィード)に直接アクティビティやアクションを表示させることが誰でも可能になる。
デモでは実際に、Facebook上の「GDC Demo」というサンプルゲームで作成したアイテムをどんどんフィードに書き込んでいた。アクションには「Like(いいね)」のほかに、「コメントを付ける」、「このポストをアンフォローする」、「GDC Demoをプレイする」などがあり、Facebookの担当者は、こうしたOpen Graphの活用によって、それそのものを新しいゲームの流通の形として活用できることをアピール。
ゲームをあらかじめOpen Graphに対応させておくことで、ユーザー自身が任意にフィードにポストするようなゲームの作り方も可能ということで、Facebookゲームのソーシャル性がまた一段と高まりそうだという手応えを感じた。その一方で、個人的には、「これを毎日全力でやられたら仲の良い友人でもアンフォローしたくなるかもしれない」と思いつつ聞いていたが、Facebookがここまで一気に踏み込んできたのは予想外だった。日本ではSNS大手のmixiが成長期にあえてゲームから距離を置く施策を採ったが、Facebookはさらに距離を詰めてきた印象だ。
3点目のQuality Gameは、その担い手としてKIXEYEのCEO Will Harbin氏が登壇。Harbin氏はKIXEYEについて、「ハードコアソーシャルゲームカンパニー」と定義し、「INNOVATION OVER IMITATION(偽物を超える革新を)」、「QUALITY OVER QUANTITY(量を超える質を)」、「PASSION OVER PROFIT(利益を超える情熱を)」という韻を踏んだスローガンで、来場者を引きつけ、同社のユニークな特性について紹介された。
Harbin氏によれば、ユーザーの97%が男性で、平均プレイ時間は30分以上、平均プレイ期間は7カ月以上、1日に100万回以上のPvPが実施されているという、モバイルゲーム先進国の日本のソーシャルゲームのような、ユーザーのコアプレイの実態が明らかにされた。ポリシーとしてアバターアイテムの販売は行なわず、時間を短縮するアイテムばかりを販売。結果としてそれらの施策はARPに跳ね返っており、平均客単価は他の20倍にも上るという。
欧米では、Zyngaが開拓してきた主婦向けのソーシャルゲームは一段落し、今後は既存のゲーマーをターゲットにしたコアゲームの開発が急務となっているが、それを地で行くメーカーと言えそう。Facebookは日本市場ではまた若干距離がある印象だが、コア向けのコアソーシャルゲームは日本が得意中の得意とするところだけに、ソーシャルゲームの欧米展開が待ち望まれるところだ。
【Diamond Dash】 | ||
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Woogaの「Diamond Dash」はFacebook Mobileに対応したことで急成長を遂げた |
【KIXEYE】 | ||
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ゲームジャンルがミリタリーものかダークファンタジーものという、コアゲーマーにしか受けないゲームジャンルで成功を収めている。マネタイズに頼らない点も好印象を持った。ユニークな“ソーシャル屋”が育ちつつあるという印象である |
□「GDC 2012」のホームページ(英語)
http://www.gdconf.com/
(2012年 3月 6日)