2K Games/Yager、「Spec Ops: The Line」開発者インタビュー
“The Line”とはあらゆる判断の境界線、あなたは“正しい”判断を下せるか!?


11月21日、22日開催

会場:Take-Two Interactive Asia本社



 「Spec Ops: The Line」レポートの最後は開発者インタビューをお届けしたい。「Spec Ops: The Line」は、“現代の対ゲリラ戦”という今風のモチーフを扱ったリアル系のミリタリーTPSでありながら、ゲームの舞台が、超特大の砂嵐によって廃墟と化したドバイという、壮大なIFを扱っているところに最大のおもしろみがある。ひょっとするとドバイで暮らす人々にとってはおもしろくない話かもしれないが、煌びやかなドバイが一転して廃墟と化し、熾烈な戦場となるというIFは、ミリタリーファンにとっては魅力的に映る。

トレーラーより。砂嵐に飲み込まれるドバイ

 「Spec Ops: The Line」は、2010年に初公開され、1年半の雌伏の時を費やしてようやく2011年11月に発売までのロードマップが公開された。既報のように欧米での発売時期は2012年春を予定し、日本でも同時期を目指して日本語版のローカライズ作業が進められている。

 90分のデモと試遊を受けた限りでは、完成度はすでにかなり高く、すでに全15チャプターが完成し、現在磨き込みに入っているという。ただ、ここ欧米のAAAタイトルの多くがそうであるように、ゲームの売れ行きを左右するクリティカルな要素、ここではマルチプレイモードの詳細は一切伏せられているので、この点についてはまったく掘り下げられていないのであらかじめご了承いただきたい。

 今回はデモを担当してくれたYager Senior Game DesignerのShawn Frison氏と、2K Games Associate ProducerのChris Thomas氏の両氏に話を聞くことができた。ちなみに本作は両社の共同開発となっており、Yagerはシステムやグラフィックスなどゲーム開発全般を担当し、2K Gamesはストーリーやスクリプトなどシナリオ周りを担当するという区分けになっているようだ。




■ 開発に当たってドバイを実地調査、煌びやかなドバイでダークなストーリーを

インタビューに応じてくれたYager Senior Game Designer Shawn Frison氏(左)と2K Games Associate ProducerのChris Thomas氏(右)
E3 2010で公開されたスクリーンショット。中心地に伸びる道路の街灯には、侵入者に対する見せしめのために死体が吊されており、このゲームが通り一遍のミリタリーシューティングではないことをアピールした
摩天楼の半ばまでが砂で埋まってしまったドバイ。実際の風景に照らし合わせてみると百メートル以上の高さで砂が積もっていることになるが、この辺りの表現はインパクトを与えるためにちょっとオーバー気味にしているという

――「Spec Ops: The Line」が最初に公開されたのは去年のE3 2010ですが、あれから次の動きまでに1年以上時間が掛かった理由はなんですか?

Yager Senior Game Designer Shawn Frison氏: ゲームを完全な状態に近づけるために、グラフィックスやゲームの仕様を改良しました。去年、発表した時と比べて、ストーリーが若干変わっています。皆様に完全な状態のゲームをお披露目したかったため、現在に至りました。

――E3 2010のバージョンと現在のバージョンで、1番変わったものは何なんでしょうか?

Frison氏: ストーリーをはじめ色々なものです。変更されたストーリーに関する詳しい話はできませんが、プレーヤーが楽しくプレイできるように、ベスト中のベストを提供したいと思ったので、1年半掛けてゲームを磨くことにしました。もちろん、マイナーな改良も多いです。

2K Games Associate Producer Chris Thomas氏: ストーリーはダークで深みがあり、色んな伏線のあるものになっています。このストーリーを通じて、皆が同じインパクトを受けることを目指して調整しました。

――「Spec Ops: The Line」のデモを見て、もっとも印象的だと感じたのはドバイが舞台になっていることですが、なぜドバイを舞台にしたのですか?

Frison氏: ドバイといえば、とても豪華で、裕福な人が多く、人為的に作られたユートピアという印象ですよね。そこに大きい砂嵐のような自然災害が街を襲ったらどうなるか、とても興味深く思いました。「Spec Ops: The Line」では鮮やかな街の中でダークなストーリーが楽しめます。

――ドバイを再現するにあたって実際にドバイを取材したのですか?

Frison氏: 実際にアートチームがドバイに行きまして、写真を撮りながら、どういう建物が並んでいて、砂はどんな感じなのか、調べました。アートチームの中の一人がヨルダン出身なので、それも助けになりました。

Thomas氏: 建物といった目に見えるものは、すべてドバイに実際にあるものを使用しました。ただ、実際にあるタワーをそのまま再現したのではなく、ある程度の変更はしてます。ドバイの美しいスカイラインといったベースラインを生かしつつ、私たちなりの世界観でドバイを作りました。

――ストーリー設定には時代設定がありませんでしたが、いつぐらいを想定しているのですか?

Frison氏: 近い未来です。何年なのかは特に特定してないです。仮に20xx年のドバイと設定して、こんなことが起こりましたというのは、実際にその20xx年を迎えたとき、“違うじゃないか”と現実とのギャップを言われるのが嫌でした。一応、大体“5年後の今”というのを感じ取れるようにモデリングしたつもりです。

――近い未来ということは、銃器については現行の実在兵器ばかりが登場するわけですか?

Frison氏: 実際に米軍が使っているものもありますし、武器によっては実際のものと似てるけど、改良された架空のモデルもあります。約半分、20種類以上のものが架空の兵器です。ゲームとして楽しめるように、武器によっては、Secondary Fireを持つ武器とかもありますよ。

Thomas氏: AK-47とかは実際のものより、エフェクトを強調していますし、AAというショットガンは改良を加えて、小型のロケットを発射できます。

――リアル系のミリタリーゲームとしては、世界観が非常に特殊ですが、これはどこから着想を得ましたか?

Thomas氏: まず、みんなで、どこを舞台にして、どういう状況なのかといった設定を決めて、世界観を広げていきました。砂というのは、本作でとても重要で、自分に有利に動くか、不利に動くかは、プレーヤー次第です。ゲームの最初に、武装した3人がいたときに、バスの窓を撃って、砂が落ちてきたり。手榴弾を利用して、砂の煙を巻き上げて、敵のスキを狙うとか。そういった環境的なものに1番中心をおいて開発を進めていきました。

――本作の敵は人間だけですか?

Frison氏: そうです。あくまで人間対人間のゲームです。すごくリアルな快感を感じることができるゲームで、人間的にどう動くのかが、すごく大事です。




■ “The Line”とは「何が正しくて、何が正しくないかという選択の境界線」

ストーリー重視のTPSだけあってインタビューも熱のこもったものとなった
インタビュー中で登場するモラルを問われる局面では、このような形で生きたまま吊された捕虜のいずれかを殺害せよというもの
トレーラーより。燃えさかるブルージュ・オーロラ。このシーンの意味は謎のままだ

――ゲームの基本的な内容はシューティングですが、テーマとしては“極限状態での人間のモラル”という哲学的な命題を取り扱っていますね。このような重いテーマを選択した理由はなんでしょうか?

Thomas氏: 本作は戦争をテーマにする映画に影響を受けてます。具体的には「Full Metal Jacket」、「Apocalypse」や、TVシリーズの「Generation Kill」などです。主人公たちが戦争に立ち向かうための精神的な部分は、今までのゲームではあまり上手く取り入れてなかった要素だと思いまして、今回のテーマとしました。今までゲームは心理的なところをあまり深く取り上げていませんが、本作はそういう心理的な面を積極的に取り上げています。

――デモの終盤では、まさにその精神的な部分として人間のモラルが試される局面がありましたが、その他にはどういう選択を迫られるのでしょうか?

Frison氏: どういう局面でどういう選択に迫られるかを、この場で詳しく説明することはできませんが、ゲームの中で選ばなければいけない色んな選択があります。必ずしも何が正しくて、何が間違っているのかではなく、デモでもあったように、ロープを切って助けたつもりでいたら、敵のスナイパーが2人を撃ち殺してしまうなど、今までのない作品になっています。

――残酷な表現が目立つゲームですが、このようなゲームが暴力表現に厳しいドイツから生まれるとは意外でした。

Frison氏: ドイツが表現に関して厳しい規制があるのは事実ですが、世界各国でもそれぞれの審査がありますよね。私たちは、できるだけ多くの人々にプレイして貰いたいので、各国の審査機関と話をし、ルールに従ってやっていくだけです。

Thomas氏: 補足しますと、本作は成人向けのゲームです。世界各国で、それぞれの規定があると思いますが、本作は皆成人向けになっておりますので、どの国でも同じ感覚が保てるゲームにします。

――拷問や焼死体、吊し首といった激しい表現を通じてゲームファンに伝えたいメッセージとは何ですか?

Thomas氏: ストーリーとしては1人の男性と、彼が率いる部隊の話でありますが、激しい表現は戦争というものはどういうものかを伝えたかったです。タイトルにある“The Line”という言葉には色々な意味がありますが、私たちにとっての“The Line”は、1人に兵士にとって何が必要で、何が必要でないか、何が正しくて、何が正しくないかという選択の境界線を意味します。ゲームに敷かれた境界線を通じて、プレーヤーの皆さんは色んな体験と考えが生まれてくると思います。

――演出面ではなんといっても砂の表現が見事ですが、これはどのようなテクニックを使って実現しているものなのですか?

Frison氏: 直接私が担当したわけではないので詳しくは説明できませんが、よりリアルな表現ができるように、エンジニア、アーティスト、レベルデザイナーが、議論を重ねて重ねて作業した成果です。

――砂の使い方は、どのようなものがありますか?

Frison氏: 砂嵐の中で、敵とどう戦うかということの再現に注力しました。これらは自分に有利な使い方としては、たとえば手榴弾を投げて砂の煙を巻き上げて煙幕として利用したり、砂が溜まったテントを撃ち破って、その下の敵をスタンさせるなどができます。逆に自分に害を与えるものとしては、トレーラー映像でも確認できますが、砂がザーッと落ちてきて戦場が混乱するようなこともあります。今回は一部だけ紹介しましたが、色んな局面で砂を使うことになりますので、期待してください。

――「Spec Ops: The Line」はPS3とXbox 360に加えてPC版もありますが、PC版独自の機能は何かありますか? また、DirectX 11にも対応しますか?

Frison氏: 特に違いはありませんが、PC版は敵に命中させるために、もう少し正確さを必要とします。コンソールはゲームバットでの操作ですが、PC版だと、マウスでより正確な照準ができます。DirectX 11に関しては、現時点ではまだお答えできません。

――日本のユーザーに向けて、メッセージをお願いします。

Thomas氏: 本作を皆さんにお見せすることをとても嬉しく思い、興奮しております。スタッフも一団となって、この作品を作りました。とてもダークで、成熟されたストーリーを皆さんに楽しんで頂きたいと思います。今までのない作品となりますので、2012年の春(編注:日本発売は未定)を、ぜひご期待ください。

――ありがとうございました。

【「Spec Ops: The Line」最新スクリーンショット】

□関連情報
【2011年6月17日】2K Games、エイリアンから世界を救う「XCOM」はなんとFPS!
ミリタリーTPS「SPEC OPS: THE LINE」もお披露目
http://game.watch.impress.co.jp/docs/news/20100617_375083.html

(2011年 11月 26日)

[Reported by 中村聖司]