グリー、「Platform Seminar」のテーマはスマートフォンとグローバル戦略
カプコン、セガ、スクエニなど有名メーカーのパネリストが勢ぞろい
グリー株式会社は8月5日、同社がサービスしているプラットフォーム「GREE」にコンテンツを提供しているデベロッパーや関連会社を招待して、同社の戦略の説明や優秀なアプリを紹介する「GREE Platform Summer Conference 2011」を開催した。
この中で同社は、「Platform Seminar」として、今年、グリーが打ち出している戦略「スマートフォン」と「グローバル」の2つを大きなテーマにした5つのパネルディスカッションと5つの講演を開いた。このレポートではその中でも特にゲームとの関わりが深い4つのパネルディスカッションを、スマートフォンコンテンツの開発と、日本のコンテンツが世界で戦うための方策という2つの側面から紹介したい。
■ 大手ゲームメーカーが体験談で語る海外進出の注意点
モデレーターはエンターブレイン代表取締役の浜村弘一氏 |
大手コンシューマーゲームメーカーが集まった「世界で戦うコンテンツ」は、コンシューマーゲームの海外進出をモデルケースに、主に欧米市場へ進出する上での注意点や工夫について、体験談を交えた話を聞くことができた。
パネリストは、株式会社セガのモバイルニューメディア事業部MMM2部長 岩城農氏、株式会社コーエーテクモゲームス常務執行役員ネットワーク事業部副事業部長 藤重和博氏、株式会社コナミデジタルエンタテインメント執行役員 上原和彦氏、株式会社カプコンCS開発統括大阪製作部MC制作室室長 手塚武氏。
日本のコンシューマーゲームは、かつて世界を席巻する勢いを見せていたが、ここ数年は海外での苦戦が続いている。過去に成功した要因として岩城氏は「プラットフォーマーだったことが成功の要因だと考えている」と語った。セガの人気アクションゲーム「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」のシリーズは、現在も様々なプラットフォームで展開しているが、HD世代で展開しているものについては「正直苦戦している」と語るも、スマートフォン向けのものはトップセールスを記録するなど人気を博している。
セガは去年からリージョン制をとって、開発体制を地域ごとに分けている。現地の商習慣や考え方を顧みることなく国内の成功体験をそのまま持っていこうとした時に失敗が多かったという体験から、地産地消の体制が生まれたのだそうだ。
コーエーテクモゲームスは、旧コーエーのコンテンツである「三國志」や「信長の野望」は国内やアジア圏のセールスが多いが、旧テクモの「NINJA GAIDEN」などは欧米圏の売り上げが日本より高く、「身近なところにヒントがある」と藤重氏。「いくらシステムがよくても現地の生活や習慣をちゃんとキャッチアップしていかなければ、日本のお客様と同じ感じ取り方をしてもらうのは難しい」とカルチャライズの重要性を述べた。
「ウィニングイレブン」や「メタルギアソリッド」、「Dance Dance Revolution」、カードゲームの「遊戯王」など海外で成功したコンテンツを多く持つコナミデジタルエンタテインメントの上原氏は、世界中の人に受け入れられるジャンルがあると言う。「難しく考えずに、向こうで受け入れられるテーマのゲームを作ればいいのではないでしょうか」と語った。
同じく「バイオハザード」など海外でも人気のタイトルを持つカプコンの手塚氏は、ヒントは映画にあると言う。ハリウッド映画は世界中に受け入れられるが、邦画はそこまでではない。「ストリートファイター」でも米国では黒髪のリュウよりも、米国人という設定のケンを使う人が多いなど、感情移入しやすいのは重要なポイントだと説明した。
「スマートフォン市場でも家庭用と同様に、現地に合わせたチューニングなしには成功が難しいと思う」と手塚氏は述べた。上原氏は、「日本のソーシャルゲームは世界の人にとっては未経験の体験なので、いけるのではないかと思う」と語った。海外に出るためには、単なるローカライズではなく、グラフィックス対する嗜好や、日本人とは違う色の感じ方、キャラクターの骨格に至るまで現地に合わせたチューニングを考えていくことが重要だと、それぞれにポイントを挙げた。そして日本のサービス力の高さは世界に通用するレベルなので、目線さえ世界に向けば世界ナンバーワンのコンテンツが作れると思う、と会場にいるデベロッパーを鼓舞した。
セガのモバイルニューメディア事業部MMM2部長 岩城農氏 | コーエーテクモゲームス常務執行役員ネットワーク事業部副事業部長 藤重和博氏 |
コナミデジタルエンタテインメント執行役員 上原和彦氏 | カプコンCS開発統括大阪製作部MC制作室室長 手塚武氏 |
■ 「インベーダーもパズルボブルも既にたくさんあった」中国市場の問題点
TencentのGeneral Manager of Wireless Game Product DepartmentのDavid Guo氏 |
「Smartphone中国市場の可能性」では、タイトル通り中国市場にターゲットを絞って、その地域的な特性や可能性についてのディスカッションが行なわれた。
最初にグリーと提携している中国最大のインターネット会社TencentのGeneral Manager of Wireless Game Product DepartmentのDavid Guo氏が、現在世界第3位で6億5,000万人のユーザーを持つTencentが、中国市場でグリーとどのように提携していくかについて講演した。
講演では、Tencentがカルチャライズ、プロダクト、運営、ファンドなどすべての面から支援し、企画の提出からサービスインまで約51日間かかったという1つの事例を匿名で紹介した。現在はコーエーテクモゲームス、コナミデジタルエンタテインメント、タイトーなどが年末までにサービスを開始する予定であることも紹介した。
TencentとGREEの会員数 | GREEのグローバルパートナー | 中国市場の成長とともに、デベロッパーの収益も増加 |
デベロッパーの取り分は、日本のデベロッパーの方が有利になるよう設定されている | Tencentのサポート体制 | コンテンツ導入プロセス |
コンテンツの導入事例 | 中国のモバイル市場の将来予想 | 資金に不安がある場合はTencentのファンドも利用できる |
パネルディスカッションでは貴重な進出失敗談を聞けた |
パネルディスカッションでは、過去に中国市場に1度は進出したものの、その後撤退したという経験を持つタイトーのON!AIR事業本部長 庄司顕仁氏と、コーエーテクモゲームスのネットワーク事業部長専務取締役 小林伸太郎氏が、自らの経験について語った。
また中国サイドの視点からは「パーフェクトワールド」を開発している北京完美時空網絡技術有限公司のVP Strategy Alex Xu氏、中国で携帯向けのMMOをサービスしているMocaのCEO Stanford氏、そしてTencentのProduct Director of wireless product departmentであるIven Li氏がそれぞれの立場から市場の特性や可能性について語った。
タイトーは2003年からモバイルゲームで中国市場に参入し、2009年12月に撤退。コーエーテクモゲームスは2004年にオンラインとモバイルの事業を始めたが、モバイルは2008年に撤退し、オンライン事業はライセンス契約として運営を現地に任せている。当時の中国のモバイルが市場の難しさについて小林氏は「キャリアチャージなど色々な経費が掛かって手元に利益が残らない。にも関わらず50機種以上の携帯電話すべてに対応しなければならないため、利益を日本に持ってこられないなど問題が多かった」と説明した。
モデレーターが違法コピーの問題について質問すると、庄司氏は当時タイトーが自社の強力IPである「インベーダー」と「パズルボブル」を売り込みに行くと、「これはもう中国にたくさんあるのであまり需要がないと言われた」と当時の海賊版の多さを説明した。違法コピーに悩まされていたのは中国企業も同じで、最初はダウンロード販売をしていた企業は生き残るためにオンラインゲームに移行していった。中国ゲーム市場の半分のシェアを持つ完美時空のXu氏は「中国のゲーム産業は水の中のよう。発達したエラを持つようにならないと溺れてしまう」と中国市場の難しさを比喩した。完美時空は海外にいち早く進出し、現在は総売り上げの3分の1は海外での売り上げだという。Xu氏は「今後はモバイル、ソーシャルの分野にも投資を考えている」と語った。
MocaのStanford氏は、中国のモバイル事情について語った。中国では日本ほど3Gへの移行が進んでおらず、ローエンドのキャリアを持つ人が多い。しかもキャリアの数が非常に多く、100人いるMocaのスタッフの半分はキャリア対応の仕事をしているという。「そんな複雑な中国市場の中で圧倒的なシェアを誇るTencentのプラットフォームからサービスできるのは、中国に出てくるステップとしては1番いいのではないか」とStanford氏は語った。
中国ではオンラインゲーム市場の成長は2008年に比べて鈍化しているが、モバイルゲームは成長率70%と急成長している。その中でもソーシャルゲームは100%の伸びで、1年間に全体の50%がソーシャルゲームに変わるなど飛躍的な発展を遂げている。非常に複雑で参入しづらい中国市場ではあるが、2012年末には中国におけるスマートフォンの普及台数が9,000万台と予想されるように、市場としての魅力は大きい。Li氏は「モバイルのソーシャルゲーム市場は日本が世界で最も大きい。そのノウハウをうまく生かせば大きなビジネスチャンスがあるのではないか」と語った。
■ ベンチャーと大企業のスマートフォン戦略における相違
セガ椎野氏のプロフィール |
今後のローンチ予定なども入った、アドウェイズ桑田氏のプロフィール |
スマートフォン革命ということでオスカルに扮したスクウェア・エニックス安藤氏のプロフィール |
「Smartphoneソーシャルゲームの今後」では、比較的若い開発者によるざっくばらんなディスカッションで会場を笑いに包んだ。
パネリストは「キングダムクエスト」を開発しているセガの第一CS研究開発部プロデューサーの椎野真光氏、「カイブツクロニクル」を開発している株式会社アドウェイズの開発研究センターユニットリーダーを務める桑田一生氏、「ケイオスリング」を提供している株式会社スクウェア・エニックスのモバイル事業部プロデューサーの安藤武博氏の3人。
モデレーターの東京芸者エンターテインメント株式会社 代表取締役CEOの田中泰生氏もベンチャーの開発者とあり、ディスカッションはベンチャーと大手メーカーの開発体制の差が主な注目点となった。大手メーカーは企業ブランドやIPの強みを生かしてプロモーションができるが、ベンチャーはランキング頼りになる傾向があり、「カイブツクロニクル」ではゲーム内にTwitterのボタンをつけるなどの工夫をしている例が紹介された。
売り切りのダウンロードモデルでの販売をメインとするスクウェア・エニックスの安藤氏は、売り切りモデルの限界に触れ、「将来的にはフリー・トゥー・プレイ(FTP)モデルとの両立は必須で、すでにFTPのゲームを開発中」と語った。
プラットフォーム戦略についても、企業体力がないベンチャーはプラットフォームへの依存度が大きいが、セガやスクウェア・エニックスのような大企業ではアプリの形での単独販売にもメリットが多く、どちらの形にするかは様子を見ながら両立していくという戦略を取っている。
Androidのマーケットは、現状では海賊版も多くかなり混沌としているが、将来的にはiOSよりもシェアが大きくなるのは確実で、対応は必ず考えていく必要があると述べ、安藤氏は「コピーガードの重要性が高まっていく」と語った。
モデレーターの東京芸者エンターテインメントの代表取締役CEO、田中泰生氏 | セガの第一CS研究開発部プロデューサー、椎野真光氏 |
アドウェイズの開発研究センターユニットリーダー、桑田一生氏 | スクウェア・エニックスのモバイル事業部プロデューサーの安藤武博氏 |
■ スマートフォン開発にミドルウェアを導入するメリットとリスク
モデレーターのアトリエサード徳岡正肇氏 |
ミドルウェアのメーカーを集めたパネルディスカッション「これからのゲーム開発 ~Smartphoneやゲームエンジンの台頭で訪れる変革期~」では、スマートフォンアプリの開発にミドルウェアを導入するメリットやリスクについて、4つのミドルウェアメーカーの担当者が語った。
パネリストは、安価なミドルウェアとして人気を集めている「Unity」を開発しているUnity Technologiesの日本担当ディレクター 大前広樹氏。PCゲームやコンシューマーゲームにおいて大きなシェアを持つ「Unreal Engine」を提供しているエピックゲームズ・ジャパンの代表 河崎高之氏、動画やサウンドのデコーダーなどオーサリングツールを提供しているCRI・ミドルウェアのモバイル事業推進部ディレクター 畑圭輔氏、CG制作には欠かせない「Maya」や「3ds Max」などの販売元として知られるオートデスクのメディア&エンターテイメントAEマネージャー 門口洋一郎氏の4名。
スマートフォンのリッチコンテンツが増えてきたことで、低コストにリッチコンテンツを作るためのスマートフォン向けのミドルウェアが急速に進化している。これらのミドルウェアを導入する1番のメリットについてUnityの大前氏は「ミドルウェアメーカーが何年も研究を重ねてきたものを、小さなコストで導入することができること」と語った。
畑氏はミドルウェアの安定したプログラムを使えることが利点として大きいのではないかと言う。「プラットフォームを変えるたびに、プラグラムを1から作るのは大変なので、プラットフォームに依存せずに作れるという点にもメリットがある。ビルドする環境を移行するだけで同じソースコードを使えるというメリットを生かして、ゲームにもどんどん使って欲しい」と語った。
またミドルウェアを導入することで、工数を短縮してコストを削減できる。さらに「デザインの幅も広げられる。例えば壁を登ったり、デコボコの地面を登ったりできるようになれば、ゲームのデザインそのものが変わっていく」とオートデスクの門口氏はクリエイティビティに及ぼす影響に触れた。
いずれのミドルウェアも、無償で提供したり試用期間を設けるなどして、導入時のコストを抑え気味にしてある。大前氏は私見だとしたうえで「まずは1カ月か2カ月使ってみて、それで開発速度が上がるのであれば将来的には導入のコストは吸収できるはず。もし速度が上がらないのであれば、むしろ使わない方がいいかもしれない」と語った。河崎氏も「もし1本でやめてしまうのであれば、使わない方がいい。スマートフォン用のミドルウェアを習得するためには最低でも1カ月や2カ月はかかる。ゲームエンジンを使うのであれば、会社の体制をそのエンジンに合わせる形にして、初めて最大の効果が出るのではないかと思う」と導入にあたっての心構えについて語った。
せっかく導入しても、エンジンを開発していた会社が倒産したり、エンジンの技術が著作権に触れてしまい、開発に支障が出る可能性はないかというモデレーターの質問に対して大前氏は、「リスクはバランスが大切。今後世界中でゲームエンジンを使うようになれば、ゲームエンジンを使ったワークフローに移行しないリスクが生まれる」と説明した。
数年前には説明書が英語だったりサポートが海外にしかなく、時差の関係で意思疎通が難しいといった問題もあり、ミドルウェアのゲームエンジン導入には慎重になるデベロッパーが多かった。しかし現在では日本法人ができ、日本語でのサポート体制が強化されてきている。各社の担当者とも、日本初のコンテンツが世界を席巻するようなお手伝いをしたいと語っていた。
Unity Technologiesの日本担当ディレクター 大前広樹氏 | エピックゲームズ・ジャパンの代表 河崎高之氏 |
CRI・ミドルウェアのモバイル事業推進部ディレクター 畑圭輔氏 | オートデスクのメディア&エンターテイメントAEマネージャー 門口洋一郎氏 |
□グリーのホームページ
http://www.gree.co.jp/
□ニュースリリース
http://www.gree.co.jp/news/press/2011/0805.html
(2011年 8月 5日)