E3 2011レポート

「Wii U」デモタイトル体験レポート

スクリーン付き巨大コントローラーの魅力を検証


6月7日~9日 開催(現地時間)

会場:Los Angeles Convention Center



任天堂ブースでは、Wii Uを壁際に並べて出展。実物を見ようという開発者やメディアが殺到し、開場後あっという間にブースを1周する大行列になった

 任天堂株式会社がE3 2011で発表した新型ゲーム機「Wii U」は、6.2インチのタッチスクリーンの搭載を始めとした多機能コントローラーを持つ据え置き型ゲーム機という、独創的なスタイルのハードウェアだった。発売は2012年とされているが、久々の据え置き機の新ハードとあって、ゲームユーザーの注目度は高いだろう。

 フルHDのグラフィックスにより、ハイエンドゲームも走るようになり、欧米の大手ゲームパブリッシャーもこぞって大型フランチャイズタイトルの投入を発表している。任天堂自身も、ゲームユーザーを広げるという従来の路線を継承しつつも、Wiiで取りこぼしてきたコアゲーマーをも取り込むためのハードであると宣言している。

 Wii Uを発表したカンファレンスでは、どのような使われ方を想定しているのかというシーンをまとめたムービーも上映された。こちらの記事をご覧いただければ、Wii Uでどんなことができるのか、任天堂が何をしたいのかというのは、おぼろげながら見えてくるだろう。

 しかしそれでも、Wii Uのコントローラーはあまりに異質だ。それまでボタンが増え、大きくなる一方だったゲームコントローラーは、Wiiで一気にコンパクトにまとまった。しかしWii Uのコントローラーは、その流れを真っ向からひっくり返しても余りあるほど、大きく、多機能だ。果たしてこのコントローラーを、ゲームユーザーは受け入れられるのか。

 案ずるより産むが易し……ということで、本稿ではWii Uのデモタイトルを試遊した際のインプレッションとともに、果たしてWii Uは何を狙ってこうなったのか、ということを考えてみたい。なお今回プレイできたタイトルはいずれもデモ用に開発されたもので、今のところ発売は予定されていない。


ブース内に置かれていたWii Uの設置イメージ新型コントローラーとWiiリモコンを併用できる本体はWii似だが、奥行きはWiiよりかなり長く、横置きになるようだ



■ HDグラフィックスを体験するデモ

「HD EXPERIENCE」。リンクがHD画質で登場する
「JAPANESE GARDEN TECH DEMO」。Wii Uの表現力を見せるためのデモ

 まずは任天堂が強調したHDグラフィックス関連のデモから。特に映像を見せるコンテンツとしては、「HD EXPERIENCE」と呼ばれていた「ゼルダの伝説」のHDデモと、日本庭園を映像化した「JAPANESE GARDEN TECH DEMO」の2つが用意されていた。いずれもゲームプレイ要素はない。

 グラフィックスそのものの話は西川善司氏の記事で語られているので細かい話は省くが、感覚的にはXbox 360やプレイステーション 3と同程度のHDグラフィックスを表示できていると感じた。それら以上に美しいというわけでもないが、リンクが巨大なクモを相手に戦う様子がHD映像で見られただけでも、「ついに来たな」と思わされるところはある。

 コンテンツの中身の話をすると、「HD EXPERIENCE」では、リンクがクモと戦うシーンを見られる。テレビにはHD画質の映像が常に流れており、コントローラー側はマップ表示と3D映像表示をタッチパネルで切り替えられるようになっていた。タッチパネルにはほかにカメラ位置の選択(数種類用意されたものを切り替え)や、見た目的に昼夜を逆転させるボタンが用意されていた。またスライドを動かすと、映像の視点を若干ながら上下左右に動かせた。

 「JAPANESE GARDEN TECH DEMO」は、日本庭園の周りを飛ぶ鳥の映像。こちらも「HD EXPERIENCE」と同じく、スライドパッドで視点を動かせる。突然桜の花が咲いたり、枯山水の庭園が描かれたりと、印象的なシーンを盛り込んでグラフィックスの美しさをアピールしている。

 テレビにHD映像が出るのは当然として、気になるのはタッチスクリーン側の解像度だ。公式発表はないが、6.2インチ液晶ではフルHDは出ていない。ドットが見えないほど繊細ということもないが、かといって露骨に低解像度という感じもしない。画面比率は16:9とされているので、解像度は縦横半分のQHD(960×540ドット)か、そこからやや落ちる程度かなという印象だ。HDテレビの代わりとして使うのだから、この画面でプレイしても差し障りのない程度にはなっていて当然、といったところだろうか。




■ 新型コントローラーを活用する新スタイルの対戦ゲーム

「CHASE Mii」。4対1で鬼ごっこするだけのゲームだが、実にWii Uらしいコンテンツになっている
「BATTLE Mii」。ジャイロを使った「メトロイド」風3Dシューティング

 次に、新型コントローラーのタッチスクリーンを始めとした機能を活用した。新しいスタイルのマルチプレイデモを2つ紹介する。

 「CHASE Mii」は、鬼ごっこを題材にしたゲーム。新型コントローラーを持ったプレーヤーが逃げる側、Wiiリモコンを持つ4人が追う側となってプレイする。追う側の4人は4分割された画面に、相手のいる方向と距離が表示されている。しかし逃げる側のタッチスクリーンには、俯瞰視点の映像と、マップの全体図、さらに相手4人の所在地が表示されている。つまり、逃げる側は情報量的に有利で、追う側は人数的に有利、という形だ。

 このゲームのポイントは、タッチスクリーンを見るのは逃げる側だけというところ。個別の画面があることで、特定のプレーヤーにだけ情報を見せるというアプローチが可能になった。例えばパーティーゲームで何かを競い合う4人のプレーヤーに対して、もう1人が新型コントローラーで神の手のごとくゲームに指示を出してゲームをかき回す、といったことも可能になる。隠された情報が得られる神様的、司会者的プレーヤーが存在できるというのは、新しいゲームの出現を大いに期待させる要素だ。

 「BATTLE Mii」は、1対2で対戦する3Dシューティング。新型コントローラーを持ったプレーヤーは、タッチスクリーンに映し出される映像を見ながらUFOのような浮遊機を操作。Wiiリモコンとヌンチャクを持つ2人のプレーヤーは、歩兵のスタイルで戦う。UFO側は数的に不利だが、上下に逃げて姿を隠したり、建物を飛び越えて奇襲したりできる。また耐久値も高く、歩兵2人は3回のダメージでダウンするが、UFO側は2倍の6回になっている。

 こちらはスクリーンを単純にプレイ画面として使っているほか、ジャイロで照準を合わせられる。スライドパッドでは移動と旋回、さらにボタンで高度調整、Rボタンでトリガーと、コントローラーのさまざまなボタンや機能を活用する。操作がかなり複雑で慣れるまでが大変だが、UFOを自在に動かしながら照準・攻撃までできてしまう高度なインターフェイスは魅力的だ。ミリタリーゲームで「戦車やヘリを複座ではなく1人で全部操作したい!」と思ってしまうコアゲーマーにとっては、歯ごたえもあり、遊び甲斐のあるデバイスになっていると感じられるだろう。




■ 新型コントローラーで広がる新たな遊びのアイデア

「NEW SUPER MARIO BROS. Mii」。おなじみ「スーパーマリオ」だけあって会場でも大人気
「SHIELD POSE」。ジャイロを使ったリズムアクション
「MEASURE UP」。新型コントローラーをペンタブレット的に使う

 他にも、新型コントローラーを活用したスタイルのゲームがいくつか用意されていた。

 「NEW SUPER MARIO BROS. Mii」は、その名のとおり、「スーパーマリオ」の世界にMiiが入り込んでプレイできるゲーム。ゲームはWiiリモコンでも、新型コントローラーでもプレイ可能で、4人同時プレイもできた。新型コントローラー側に特別な操作が入っているわけではないが、タッチスクリーンにもゲームプレイ画面が表示されていた。

 「SHIELD POSE」は、新型コントローラーのジャイロ機能を活用したゲーム。テレビに現われた海賊が各方向から撃ってくる矢を、新型コントローラーを盾に見立てて受け止める。タッチスクリーンにはジャイロで向けた方の画面、つまり矢が飛んでくるのが見える。矢を受け止めたら、コントローラーを下に向けて刺さった矢を落とす。……という操作で、海賊たちがテンポよく放ってくる矢を受け止めては落とす、体感リズムゲームになっていた。

 「MEASURE UP」は、新型コントローラーとタッチペンを使ったゲーム。「4フィートの線を描け」、「55度の角度の頂点を書け」といった指示が出るので、フリーハンドでタッチパネルに描き、その精度を競う。複数人でのプレイも可能で、その場合は1人が描いたら次の人へコントローラーを手渡していく。6.2インチの大型タッチパネル搭載のWii Uならではのパーティーゲームだ。




■ Wii U最大の魅力は、テレビの呪縛から解放される据え置き機であること

 いくつかのデモタイトルを見てきて、Wii Uにおける新しさや可能性はいくつか感じられた。だが筆者としては、Wii Uの最大の魅力は、今回のデモでは体験できなかったところにあると思っている。結論から言うと、Wii Uの画期的なところは、「テレビの電源を入れなくても遊べる据え置き機」であるところだと筆者は感じている。

 筆者が子供の頃……20年ほど前を振り返ると、ゲームを遊びたい時は、テレビをつけ、ファミコンの電源を入れた。それがなぜかと問われたら、それ以外にゲームを遊ぶ方法がなかったからだ。しかし今はどうだろう。ゲームボーイから始まる携帯ゲーム機があり、通信環境まで備えた携帯電話がある。状況や気分に応じて、プレーヤーが遊び方を選択できるようになった。

 筆者は誤解を恐れずに言うと据え置き機は、「テレビと据え置き機の電源を入れるのが面倒」だと思っている。例えば真冬の季節、ゲームを遊ぶのに、いちいちコタツから這い出て据え置き機の電源を押しに行きたくない。ゲームをしたいなら、携帯ゲーム機や携帯電話など、すぐにゲームが始められるハードウェアが手の届く場所に転がっているからだ。据え置き機と比べて画面が小さいとか、表現力や容量で劣るという面はあれども、その手軽さは圧倒的だし、そもそも携帯ゲーム機にも十分に面白いゲームが遊びきれないほどある。

 しかし、筆者も決して「ハイエンドなゲームをやりたくない」というわけではない。気軽に遊べるなら、綺麗で大容量のほうがいいに決まっている。携帯ゲーム機でハイエンドゲームを動かせるなら文句はないが、手の中に巨大な据え置き機を抱えるわけにもいかない。そこでWii Uは、本体で処理した映像を無線で飛ばすという手法で、据え置き機の処理能力と、携帯ゲーム機の手軽さを両立させた。その見方で行けば、Wii Uはハイエンドゲームを、新型コントローラーの「驚くほどコンパクトなサイズで実現する」とも言える。

 具体的な例を挙げたい。コントローラーをあえて本体があるのとは別の寝室に置いておけば、寝る前にちょっとだけハイエンドなゲームを遊ぶ、といったこともできる。どのくらいの距離まで通信できるかはわからないが、一般的な家で隣の部屋くらいならば、おそらく何とかなるだろう。テレビの位置を気にせず、好みの姿勢でプレイできるハイエンドゲーム機は、全く新しいものだ。

 今の時代、ただゲームを遊びたいだけなら、テレビの前にどっしり腰をすえて、「よしゲームをやるぞ」と構える必要はない。そこでWii Uは、「テレビの前から解放される据え置き機」という新たな形を示した。性能の進化や機能の多様化といったハードウェア的な進化ではなく、時代のスタイルに合わせる方に向いたことが、Wii Uというハードウェアの最も画期的なところだと思う。

 ただし。それでも、コントローラーがとても大きいという事実は変わらない。マルチプラットフォームのゲームが出てきたとしても、あえてWii Uで遊びたいというコアゲーマーがどれだけいるのかはわからない。またマルチプラットフォームの選択肢の1つとなるには、本体価格もネックになる。このコントローラーを1つ同梱した本体が、プレイステーション 3やXbox 360と並ぶ価格で売られないことには、コアゲーマーの選択肢になりえない。結局のところ、他のハードにはない楽しさを見せて、新たなハードウェアを手にしてもらわなければならないという点は従来と変わりない。ただそれは数多くのキラータイトルを持つ任天堂の得意分野であり、満を持してHD世代に乗り込んだのだろうと期待している。

(2011年 6月 10日)

[Reported by 石田賀津男]