GDC 2011レポート

アメリカの40代女性はどんなゲームで遊びたいのか?
「Designing Games for the 43-Year-Old Woman」


2月28日~3月4日開催(現地時間)

会場:サンフランシスコ Moscone Center



 40代の主婦と聞くと、ゲームとは最も縁遠い存在というイメージではないだろうか?「Designing Games for the 43-Year-Old Woman」は42歳の主婦で、ZyngaのゲームデザイナーでもあるChris Trottier氏による女性向けのゲームデザインを模索する講演だ。

 GDCの参加者は大半が男性で、ある程度年齢のいった女性の姿は本当に少ない。アメリカでもこの層の女性はどちらかと言えば、ゲームをしている息子や夫に眉をひそめるという役どころだ。

 だが「Bejeweled」などのパズルゲームをFacebookでサービスしているカジュアルゲームのメーカーPopCapが今年の1月に発表したアメリカとイギリスでのソーシャルゲームユーザー調査で興味深い結果が出た。データによると、アメリカとイギリスでのソーシャルゲームユーザーの平均像は43歳女性。そこでこの講演のタイトルが「43歳の中年女性のためのゲームデザイン」という妙に具体的な数字になったわけだ。



■ 40代女性ゲーマーはゲームで楽しくリラックスしたい

Zyngaのゲームデザイナー、Chris Trottier氏。過去には「The Sims」にも携わっていた

 Trottier氏はこの講義をZyngaのためでなく自分の主観で行なうと言い、他の女性開発者の同意は得られないかもしれないと宣言した上でスタートした。Trottier氏はゲーマーを4種類に分ける。そのうちゲームならなんでも好きなハードコアゲーマー、トラディショナルなコンソールユーザーであるゲーマー、そしてウェブでゲームを楽しむカジュアルゲーマーの3つは10年前から存在していた。

 そこに新しく現れたFacebookソーシャルゲームのユーザーは「Accidental(偶然の)ユーザー」という新しい種類のユーザーであり、彼女たちはゲームを遊ぼうと思ってやってくるのではなくフレンド「このゲームで遊んでいます」というフィードをクリックして“たまたま”やってくる。今まではゲームで遊ぶためにやってくる客に向けてゲームを作ればよかった。だがそれは甘やかされていたのだとTrottier氏は語る。

 40代女性も楽しみたい。旅行をしたり買い物をしたりして自分の時間を使いたい。だが子供がいるとそうもいかない。育児の合間に偶然遊ぶゲームは騒がしいものでも、挑戦的なものでもなく、女性を心地よく楽しくロマンティックな気分にさせてくれるものが望ましい。

 Trottier氏は40代の女性が好む要素と、避ける要素についてそれぞれランキング形式でまとめたものを発表した。以下にまとめて紹介しよう。


子育て中の女性は日々の生活の合間を縫ってゲームをする。ソーシャルゲームはそんな新しいゲーマーの層を開拓した




【40代女性ゲーマーができれば避けたい要素 Top10】

女性が避けたい要素。ちなみに写真の女性はTrottier氏の友人なのだとか

1位 3D Camera
 リアル世界では道をナビゲートしてもらっても問題はないが、3Dだと道に迷ってしまう。経験から考えて、身体ではなく風景の方が動いているからかもしれないとのこと。

2位 The Mare Scent of a Rich/Wrong Choice
 「FarmVille」では当初、ワイナリーなどの建物を建てる時に「まだその建物を建てた友人はいません」と表示していたが、そこで建物を建てるのをやめてしまう人が多かったために、その表示をはずした。

3位 Gadgetry
 「剣をつかんでジャンプしながら振る」といった複雑な操作。大量のボタンがあるコントローラーや、画面にボタンがたくさんあるユーザーインターフェイス。

4位 Strangers
アバター・コミュニティタイプのソーシャルゲームなどで、全く知らない人が慣れ慣れしく話しかけてくること。

5位 Stuck Points
 行き詰まってしまう謎や場所。

6位 Rigid Timing
 トーナメントやライブイベント、MMORPGのレイドなど、ゲームのためにあらかじめ時間を開けておかなければならないようなこと。何時間後に野菜を収穫できるかを選べる「FarmVille」のようなゲームなら構わない。

7位 Pinky-Pink
 ピンクを多用するようなゴテゴテした少女趣味。

8位 Dude-Fiction
 ドラゴンが出たり、現代戦だったり、宇宙船が出たりエイリアンが出たりする若い男性が好む世界観。

9位 Eye-Hand Coordination
反射神経や素早い判断が必要なゲーム。

10位 Work to play
 ゲームのためにお金が必要だったり、ダウンロードやサインアップ、専用のマシンなど面倒な手続きや準備が必要になること。


面倒だったり、複雑だったり、騒がしいといった従来のゲームにある要素は嫌われる




【40代女性ゲーマーが好む要素 Top11】

女性ゲーマーが好むもののランキングは11種類

1位 Nice To Touch
 例えばプチプチをつぶすような手触りの楽しさ。PopCapの「Zuma」のようなゲームは玉を消した時の音や反応が面白い。

2位 Yummy On The Eyes
 見た目の楽しさ。動きが楽しく、ゴージャスで幸せな気分になれるようなもの。好奇心をそそるもの。

3位 Simple Pleasures
 シンプルな楽しみ。ゲームを遊んでいて、ちょっと楽しいジョーク。「The Sims」でSimが嫉妬して相手を叩くアクションは、他のアクションに比べてダウンロード数が多かった。

4位 Satisfying Core Action
 達成感や満足感が得られる要素。「FrontierVille」のクエストウインドウは、クエストがどこまで進んでいるかを一覧できて満足感が高い。

5位 Wanting、Getting、Having
 欲しくなる、集めたくなるようなもの。「FirmVille」で作物のレベルをカンストさせるともらえるマスタリーサインは看板のデザインが可愛いから集める意味がある。

6位 Big-Deal Milestones
 「The Sims 2」で恋人と出会い、結婚出産するイベント、「FrontierVille」の恋愛イベントなどは、フィクションであっても、現実と同じくらい意味がある。

7位 Reflects My People
 友人が農場を手伝ってくれたり、店員として働いてくれたりする。パズルゲームでランキングを競う相手が知らない人だと退屈だが、友達だと熱中できる。

8位 Real-World Fantasy
 現実の延長線上にあるファンタジー要素。アバターの着せ替え。郊外に大きな農場を買ったり、ファッションショーに出たり、お菓子の家を建てたりといった実際にはできないけれどやってみたいというファンタジー。

9位 Keep Evolving
 常に進化し続ける。いつも驚きがあり、たくさんの要素が絡み合うようなゲーム。

10位 Help Me Expressive Myself
 「FarmVille」で自由に花を植えたり、「CityVille」で店の名前を考えたり、一生懸命装飾を楽しめるような自由な創造性がある。

11位 Real-World Value
 時間を消費してプレイする価値があるのかを彼女たちは常に考えている。ゲームをすることでリラックスできて自分に優しい。「FarmVille」にはアイテム課金を通じて寄付ができるキャンペーンが定期的に行なわれており、社会に貢献できる。上に説明したPopCapの調査で80%のユーザーはソーシャルゲームが友達や家族との関係が強くなったと感じているという結果が出ている。


43歳の女性は友達とのんびり楽しく遊べるゲームを好んでいる




 最後にまとめとして、ゲーマーが好むゲームは競争や緊張や複雑さがあるものだが、多くの人が好むゲームとは簡単で、直観的、ストレスがなくリラックスできて、綺麗で満足感があり協力要素やつながりがあるようなものだと語り、そういった要素をすべて満たすのは難しいかもしれないが、いくつか入ったゲームを作ってください」とまとめた。

 終了後の質疑応答では、講演の内容について「非常に面白かった」と謝辞を述べる人の姿が印象的だった。日本ではこの年齢層をターゲットにしたゲームはほとんどない。携帯向けのソーシャルゲームもデータを見れば男性が多く、女性でももっと若い年代が多いため潜在的な市場として眠っている状態だ。PopCapの調査やこの講演が、日本のそういった状況に影響を与えるかに注目していきたい。


すべての要素を入れるのは難しいかもしれないけれど、いくつかを入れたものは十分制作可能なはずですと語った

(2011年 3月 5日)

[Reported by 石井聡]