GDC 2011レポート
ドルビー、「ファイナルファンタジー XIV」にドルビープロロジックIIzの採用を発表
垂直方向を含めた3次元音場を豊かに表現、Windows版とPS3版の両方で実装を予定
米Dolby Laboratoriesは2月28日、同社の最新の音響技術「ドルビープロロジックIIz」が、株式会社スクウェア・エニックスのMMORPG「ファイナルファンタジー XIV」などに採用されたことを明らかにした。GDC会期3日目となる3月2日からは、GDC ExpoのDolbyブースで公開を行なった。さっそく視聴してきたのでその模様をお伝えしよう。
■ 「ファイナルファンタジー XIV」がドルビープロロジックIIzに対応し7.1ch環境に対応
ホームシアターにPS3を繋いだ環境でデモが実施された |
Dolbyは、分野を問わずありとあらゆるコンテンツに様々な音響技術を提供しているメーカーである。その音響技術ソリューションは大別すると2系統があり、ひとつが5.1ch等のマルチチャンネルで高音質のサラウンド環境を提供する「ドルビーデジタル」で、もうひとつが2チャンネルのステレオサウンドや5.1チャンネルのサラウンドサウンドを5.1chや7.1chに拡張する「ドルビープロロジック」である。両者はワンセットで語られることが多いが、前者は音声データの圧縮ソリューションであり、後者はサラウンド拡張ソリューションで、似て非なる技術となる。
「ファイナルファンタジー XIV」は、ドルビーデジタル5.1chに対応しており、同技術をサポートする環境、具体的にはドルビーデジタル5.1chに対応したサウンドカードもしくはサウンドチップと、アンプ、スピーカーを揃えることで5.1ch環境でゲームを楽しむことができる。ただ、同作は現在はWindows版のみのリリースとなっており、WindowsPCはドルビーデジタルには標準対応していないため、ドルビーデジタル5.1ch環境で同作を楽しんでいる人はごく一部に限られる。
そして今回同作が新たに対応したのが「ドルビープロロジックIIz」である。標準の5.1chに加えてフロントハイト(高さ)を2チャンネル追加し、従来のX軸、Y軸に加えて、Z軸(高さ)の3軸で空間情報を判別し、立体的な音場空間を構成する。
スクウェア・エニックス開発部サウンドグループ テクニカルディレクターの土田善紀氏はリリースの中で、「ドルビープロロジックIIzは、導入したその瞬間から、誰もがその効果を明確に体感できる、非常にエキサイティングな技術と感じます。ドルビープロロジックIIzに対応したゲームでは、飛び交う魔法、銃弾、マシン、それら全ての音がクリエイターの意図通りに立体空間を駆け抜けます。前後だけでなく上空からも降り注ぐ環境音は、新しい次元のサラウンド体験をゲームプレーヤーに与えるでしょう。まるで自分がゲーム空間に溶け込んでいるような、そんな錯覚を体験できるゲーム・エンタテインメントをお届けしたいと思います」とコメントしている。
ちなみにスクウェア・エニックスとDolbyとの間では密接なリレーションシップが確立されており、最近の「FF」シリーズはほとんど対応している。「FF XI」と「FF XII」がドルビープロロジックII、「FF XIII」がドルビーデジタル、そして「FF XIV」がドルビーデジタルおよびドルビープロロジックIIzとなる。
今回の発表は、正確にはスクウェア・エニックスの内製のゲームエンジンに、ドルビープロロジックIIzを含むDolbyのソリューションが採用されたというもので、リリースに“「ファイナルファンタジー XIV」など”とあえて書いているのは、今後リリースされるタイトルでも採用される可能性があるためだ。具体的には「ファイナルファンタジー XIII-2」や「ファイナルファンタジーヴェルサスXIII」等で採用される可能性は十分にある。正式発表を待ちたいところだ。
Dolbyブースでのデモでは、リムサ・ロミンサ、ウルダハ、グリダニアのそれぞれのプロローグで流れるカットシーンで構成された7分ほどのトレーラーを見ることができた。機材はなぜかプレイステーション 3で、HDMI接続でアンプに繋ぎ、7.1chで鳴らしていた。Windows版による実機のデモではなく、PS3によるトレーラーによるデモなのかというと、担当者は言葉を濁したが、想像するに元々「ファイナルファンタジー XIV」はPS3版を2011年3月に発売する予定で動いており、「ドルビープロロジックIIz」の採用をPS3版の目玉のひとつにする予定だったためではないかと思われる。ところが「FF XIV」のPS3版はご存じの通り、発売が無期延期されたため、「ドルビープロロジックIIz」採用の発表のみが先行されたのではないか。
実際の組み込みを担当したスクウェア・エニックス サウンドデザイナーの五十川裕次氏によれば、Windows版「ファイナルファンタジー XIV」にもシステムレベルでの実装はすでに済んでいるという。ただし、クライアントには適用されていないため、まだエンドユーザーが利用することはできないようだ。ドルビージャパンの近藤広明氏は、「私の理解では、システムレベルでの実装は終わっていますので、後はスクウェア・エニックスさんの準備が整い次第、パッチによってアップデートされるのではないかと思います」と補足してくれた。PS3版が出る前に、Windows版のみ先にアップデートされる可能性についてはわからないということだった。
【会場の様子】 | ||
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3勢力のプロローグシーンをつなぎ合わせた専用のトレーラー。公開予定はないとしているが、ドルビープロロジックIIzのデモとしてはかなり優秀 |
■ 包み込まれる感覚! 7.1chサラウンドはインゲームにもすべて適用
上空でのイベントでは確かに頭上から音が聞こえてくる。カットシーンだと音が鳴る場所が限られるのでインゲームで体験してみたいところだ |
実際にドルビープロロジックIIzによる新たなサラウンド環境を体験してみた。ドルビープロロジックIIzのゲームへの適用は「FF XIV」が初めてとなる。ドルビープロロジックIIやドルビーデジタルは横方向の音場が構成されるが、ドルビープロロジックIIzはそれに高さもカバーされ、より包み込まれる感覚が強い。ドルビープロロジックIIzの特性として、新たに音は足さないため、ノイズ混じりの音が聞こえたり、音と音がぶつかり合ったりするようなこともない。非常にクリアで自然な音場だ。
音の設定については、プレーヤーの位置と音が鳴る座標との位置関係を判定し、自動的に鳴らすスピーカーを変えてくれるものと、あらかじめ設定しておく“手付け”の2通りがあるという。隕石や稲妻など頭上で展開されるアクションに関しては確かに上から音が聞こえてくる。これらは“手付け”による設定ということで、今回はトレーラーということで、高さに関しては主に“手付け”のものばかりだった。
「FF XI」や「FF XII」で、街やバトルシーンで視点をぐるぐる回すことで音場が動的に変化するのを実感できた。「FF XIV」でももちろんこうしたリアルタイムかつインタラクティブなサラウンド環境が実現されている。五十川氏は「ゲームへの適用はどちらかというとカットシーンより、インゲームのほうがメインです。360度ぐるっと回すと、音場もぐるっと回ります。本当は実機で見せたかったんです。そうすれば、リアルタイムで頭上から音が鳴ることが伝えられたんですが……」と残念だった。
「FF XIV」へのドルビープロロジックIIzの実装時期、実装形態等が一切不明なのが残念なところだが、今回はGDCにおけるサウンド方面の新たな取り組みとして取り上げた。常識的に考えれば、「FF XIV」のドルビープロロジックIIzの適用は、PS3版の発売に合わせてということになりそうだが、気を長くして発売を待ちたいところだ。
□Game Developers Conference(GDC)のホームページ(英語)
http://www.gdconf.com/
(2011年 3月 3日)