オートデスク、「Autodesk Design Innovation Forum 2010」を開催
「ロストプラネット2」、「アンチャーテッド黄金刀と消えた船団」の技術的アプローチ
オートデスク株式会社は6月1日、東京・水天宮のロイヤルパークホテルにて、建築・建設業界、製造業界、さらにエンターテインメント業界向けを対象にした1日セミナー「Autodesk Design Innovation Forum 2010」を開催した。
オートデスクは米Autodeskの日本法人で、3DCADソフトであるAutoCADシリーズを始めとして、製造業界、建設・建築業界、教育業界などに向けた製品を発売している。ゲーム業界としては、「Maya」、「3ds Max」、「Softimage」という業界標準とも言える3DCGツールの開発・販売元として抜群の知名度を備えたメーカーである。
今回のフォーラムでは、ゲーム業界からは、エンターテイメント向けセッションとしてカプコンCS開発統括制作部CS第一制作室の加治勇人氏による「ロストプラネット2 における新しい映像表現」と、Naughty Dog Lead Character Technical DirectorのJudd Simantov氏による「『アンチャーテッド黄金刀と消えた船団』におけるキャラクターアニメーションパイプライン」の2つが行なわれた。この2つのセッションの模様をまとめてお伝えしたい。
■ 技術と共に、“遊び”の提供を重視するカプコン「ロストプラネット2」開発者達
カプコンCS開発統括制作部CS第一制作室の加治勇人氏は技術的な紹介はシンプルに、カプコン開発者としての姿勢を強調する講演を行なった |
「ロストプラネット2」のプロデューサーを務める開発統括本部CS開発統括編成部長の竹内潤氏 |
「『ロストプラネット2』 における新しい映像表現」のセッションで、カプコンの加治氏は、「ロストプラネット2」においての様々な技術的な挑戦、また活用法などを語った。取り上げた要素は、クリーチャー、マップデザイン、演出など多岐にわたり、各説明そのものはポイントを抑えたシンプルなもので、様々な角度から「ロストプラネット2」での取り組みが説明された。
「ロストプラネット2」は、前作「ロストプラネット」で温暖化した人類の植民惑星EDN-3rdが舞台となる。入植者達はいくつもの集団に分かれ、それぞれが異なるコミュニティーを形成。いつしか「雪賊」となり、互いに対立するようになっていた。しかしEDN-3rdの危機の前に彼らは結束し、進行しつつある陰謀に立ち向かっていく。個性豊かな雪賊達、巨大な怪物や巨大機械などが出現し、派手なシーンが連続する作品だ。オフラインで2人、オンラインで4人で協力してゲームを進めることができ、さらに最大16人での対戦も可能となっている。
加治氏は最初に「ロストプラネット2」の開発環境に関して説明した。本作はカプコンのマルチプラットフォーム展開を前提とした環境で制作されている。グラフィックスに限った作業工程としては、まずXSIでモデリングやアニメーションを作り、「MT Framework2.0」でライティングやフィルタリング、マテリアル調整などを行ない、ゲームへ作るための素材を作り、そこから実機に合わせた形で作り込んでいく。今回のセッションで取り上げられたのは、主にXSIと「MT Framework2.0」での作業が語られた。
加治氏が最初に取り上げたのは「クリーチャー」に関して。「ロストプラネット2」では巨大なクリーチャーが多数登場する。最初のボスである“ゴディアント”という巨大なサンショウオの様な怪物の場合、「背中に乗って戦う」というシチュエーションが求められた。このため、動きを実現する細かい判定のフレームに加え、胴体部分のシンプルなフレームを作り、これをブレンドしたものをゲーム内で使用している。最初は細かいモデルを作っていたが、実際に戦う場合には表現での不具合も生じ、シンプルなものも求められたという。
クリーチャーの動きにはモーションキャプチャーを利用している。ボディアントf6本足のは虫類のような怪物だが、1人の背中にもう1人が乗り、這うように地面を進む、という形のモーションを利用している。また鳥足のクリーチャーの場合も、人間が屈んで歩く姿や、後ろ向きに歩く姿などから使用可能なデータを抜き出し、動きに活用しているという。クリーチャーが死亡する時に「凍り付いて砕け散る」といった演出なども紹介された。
次に加治氏が紹介したのは「バックグラウンド」。「ロストプラネット2」では爆風で木々が動いたり、プレーヤーが草むらにいることで草が動いたり、プレーヤーのアクションに応じて様々なオブジェクトが影響を受ける。これは前作では実現できなかった要素だ。水面での効果や、水中に沈み込む物質の表現などアプローチも力を入れて行なっている。
ゲームプレイへのアプローチとしてはマップそのものに関して「カプコンの伝統」によるデザインが語られた。カプコンは「仮マップ」という実際にゲームと同じように歩けるテストモデルを用意し、そこでテストプレイを繰り返しながら改良を行なっていく。モデルは歩くだけでなく、敵やアイテムなども配置し、実際のゲームプレイとしてのバランスなども考えて修正していく。また、ボスの攻撃に合わせたマップ作りをしているところもあるという。「ロストプラネット2」ではフックを使って高いところに飛び上がったり、協力プレイ、対戦プレイなどマップによっての独自性や、ユーザーの移動など考慮すべき点が多い様々な点を考慮してマップを作り込んでいったとのこと。
最後に加治氏が紹介したのは「列車戦」。高速で動く列車の上で戦うシチュエーションだが、実は処理的には背景を高速でスクロールさせることで列車が動いているように見せている。これは技術としてはかなりレガシーだが、わかりやすく、臨場感のある絵ができる。「カプコンは新技術のデモンストレーションという要素もですが、『こんなシチュエーションでの遊びがしたい』といったように“遊び心”を大事にしています。この『ロストプラネット2』もアナログの手法と最新技術を融合させてゲームが成立しています」と語った。
加治氏の講演はこの後「ロストプラネット2」のムービーを流して終了したが、会場に来ていた「ロストプラネット2」のプロデューサーを務めるカプコン開発統括本部 CS開発統括編成部長の竹内潤氏が挨拶を行なった。竹内氏は「今回説明させていただいたのは、XSIをベースにした一例です。MT Framework2.0とXSIの有機的な結びつきや、機能などは、プログラマーサイドなどからまたの機会で紹介させていただきたいと思います。昨今、ゲームのテクニック、プログラム技術などが注目されていますが、この会場に来られているデザイナーの方々は、プログラム技術のみによらず、自分たちのアイデアと、努力でものを作っている環境にあります」。
さらに竹内氏は「背景を動かして列車を動かすというようなレガシーな手法も、表現として受け取るお客様にはあまり気にならない、裏方の話で、こういったデザイナー視点の演出も今後も出てくると思います。これからゲームを作る方、映像を作る方は、『技術に偏重されすぎないアイデアの持ち方』というカプコンの作り方からヒントを獲得して頂ければと思います」と語った。
■ Mayaをカスタマイズする多彩なツールによって作られる「アンチャーテッド黄金刀と消えた船団」のキャラクター
Naughty DogLead Character Technical DirectorのJudd Simantov氏はゲームの開発で使用された自社開発の様々なツールを積極的に紹介した |
「アンチャーテッド黄金刀と消えた船団」の開発元であるNaughty DogLead Character Technical DirectorのJudd Simantov氏は、技術職の強いキャラクター作成手法を語った。いくつかの要素はGame Developers Conference 2010現地レポートと内容が重なるが、より細かい要素が紹介された。
Naughty DogではMayaに様々なカスタムツールを作り、メッシュ、テクスチャー表現、UV表現など、基礎的なモデリングや、作業を自動的に書き出した上で、簡単にカスタマイズできる環境を作り上げている。テクスチャーに関しては、Mayaのツールだけではなく、XNormalというソフトを使用して、テクスチャーを貼り付けてモデリングを行なっている。
本作には3つのリグ(骨格)が用意されている。モーションキャプチャーでデータから作られた「Mocap Skeleton」、アニメーターが使用する「Animation Skeleton」、そしてこれらの要素を内包しつつ、実際のゲームとして登場させる「Game Skeleton」を使って作業していく。リグの関節やパーツなどは共有で、男女やクリーチャーなど対象に合わせてカスタマイズしていく。顔はキャラクターによって異なる。リグは自動的に生成させることが出来、様々なカスタマイズを可能にしている。
リグ(骨格)に関しては基本的な要素は共有しながら、可動範囲の表示や、ボーンの周りに仮のモデルをつけたり、パーツに文字の書かれたタグを付けたりとなど、デザイナーの好みでカスタマイズして作業が出来る。これはかなりデザイナーの間で好評だったという。また、モデル変更を行なう場合、素になったデータ用の履歴を登録させられるようになった。アイデアで手を加え変更した場合も、スムーズに手を加える前に戻したり、戻していく過程を見ることも可能だ。
「顔」は97ものボーンが使われ、リアルな表情を生み出すことができる場所だ。「Combination Sculpting」という技術で、表情と表情の間を補完することで、自然な表情の変化を可能にしている。全ての顔のポーズ、多彩な表情がいくつものデザイナーによってライブラリ化されており、例えば「左眉を上げる」といった部分だけを保存して他の表情に反映させることも可能だ。
また、右を調整したら、そのまま左側に反映させることも可能だ。アニメーターは全ての動きを入力するのではなく、キーとなる表情をデザインして、段階的に変化させる事ができる。自然に調整するためのカスタマイズも可能だ。この他、顔のしわに関しても変化のパターンが用意されていて、調整することでより自然なしわの表現が可能になっている。
アニメーション用にも様々なツールが用意されている。ポーズのライブラリ、モーションキャプチャーのライブラリ、これら「動き」は全てのキャラクター共有のリグの動きで記録されているので、すぐに他のキャラクターに反映することが可能だ。追加した動きなどに関しても共有でき、サーチ機能も強力で、自分の欲しいデータを検索したり、足していくことも可能だ。キャラクターの細かい名前がわからなくても、呼び出せばすぐにキャラクターが出て、しかも抽出も可能なので、使いやすいアニメーションデータ集となっている。データにはコメントが付けられたり、部分のデータなど多彩なデータが用意されている。
アニメーターは実際のモーションキャプチャーのリグそのものを作業でいじって修正するのではなく、そのリグを反映させたキャラクターをより自然な形にカスタマイズできる。このツールでは、骨格そのものを変えて反映して再チェック、という作業をする必要がないのだ。もちろん、1つの動きをさせながら他のモキャプチャーデータ、アニメーションデータをブレンドさせることも可能だ。
次にSimantov氏が説明したのが、研究中の課題だ。ボーンの動きの中で、目標に向かってキャラクターが手を伸ばす場合は、肩の関節から計算し、肘、手首とデザインしていく。ところがこれだとの目標の座標の重なりが不自然になるため、目標から腕の動きを割り出す方法が採られることもある。Naughty Dogのツールでは、座標を指定するという方法を採りながら、表現と内部計算上できちんと肩の関節から計算されているため、より自然な可動ができるという。
もう1つの研究が、筋肉の描写だ。これまでボーンと筋肉に関してはMayaにもフォローされている機能ではあるが、Naughty Dogでボーンと連動した筋肉描写のアプローチを行なっている。よりシンプルでありながらリアルを生み出す、一部分の筋肉など任意の描写をしつつ、関節、骨格と密接に関係する筋肉描写をできるか、アプローチを行なっている。この他にも、メモやスケッチなど鉛筆で線を引いたようなシンプルな構図を3Dで表現し、他のスタッフに見せる、といったツールも作っている。これまでは紙に書き、そのスケッチで打ち合わせをしていたが、シンプルな図でも3Dグラフィックスにすることで、よりゲームとしての具体的なイメージで打ち合わせができる。
Simantov氏は最後に「Naughty Dogのみんなには本当に感謝しています。日本の皆さんにこういった話ができるのも、スタッフみんなの力があってこそです。そして、みなさんにも、私を日本に来させてくれたオートデスクにも感謝したいと思います、ありがとうございました」と講演を終えた。
(2010年 6月 2日)