Taipei Game Show 2010現地レポート

台湾台北市にて「Taipei Game Show 2010」が開幕
SCE Asiaが「FF XIII」中文版を発表、今年は“3D立体視”がトレンド

2月5日~9日開催

会場:台北世界貿易中心

入場料:大人 150台湾ドル
    子供 100台湾ドル


 Taipei Computer Association(TCA)が主催する台湾最大規模のゲームショウTaipei Game Show 2010が2月5日より台湾台北市にて開幕した。初日の2月5日は、大手メーカーのプレスカンファレンスをはじめ、技術処主催のラウンドテーブルや技術セミナーなど、様々な催しが行なわれた。会期は2月9日まで。

 GAME Watchでは本日以降、台湾ゲーム市場の模様を現地レポートしていくのでぜひご期待いただきたい。本稿では、目立ったトピックを中心に、初日の模様をお届けしたい。



■ 即売会色の強いゲームショウ。今年は「3D立体視」の参考出展が目立つ

SCE AsiaとMicrosoft Taiwanのブースは今年も隣同士で超過密ゾーンになっていた
台湾でいよいよ1月19日より正式サービスがスタートした「魔物猟人(モンスターハンターフロンティアオンライン)」は、Softworldグループが運営。大きな人気を集めている
SCE Asiaが参考出展していたブラビアとPS3を使った3Dのデモ。昨年に続いて2度目の出展となる

 Taipei Game Showは、台湾で年に1度旧正月(春節)の前週に開催されるゲームショウ。このゲームショウの特筆すべきポイントはなんといってもすべてのブースに即売コーナーがあることで、各メーカーは新作かどうかにはあまりこだわらず、今もっとも売り出したいラインナップを揃え、ブースの大部分をステージに当ててステージイベントで客を集め、即売コーナーで特売品を売りまくる。

 PCゲームの即売会からスタートして、オンラインゲーム一色になったり、コンシューマーゲームが進出してきたりといった内容的な変遷はあるものの、即売会としての性格は一貫して変わらない。それはSCEやMicrosoftも同じで、PS3やXbox 360が飛ぶように売れていく。

 その一方でGamania Digital Entertainmentのようにあまりの人口密度の高さに、ユーザーの安全を重視して出展を見合わせる台湾メーカーもいるほどだが、来場者のゲームに対する熱意、即売会に掛ける勢いといったものは目を見張るものがあり、アジアのゲームショウの中でももっとも味わいのあるショウとなっている。

 今年のショウを牽引したのは例年通り、SCE AsiaとMicrosoft Taiwanという2社のゲームプラットフォーマーで、任天堂台湾は今年も未出展だった。それ以外の出展では、様々なメーカーのブースで3D立体視の参考出展が目立ったことと、IntelやASUS、GIGABYTE、LG電子といったPC関連系メーカーの出展が多く、Windows 7やIntel Core i 7を使ったデモが行なわれていたことだろうか。相対的に非オンラインゲーム系の出展が目立った恰好となった。

 3D立体視の分野でひときわ目を引いたのがDaxon Technology。一般的な3D立体視は、いわゆる3Dメガネを装着した状態で、視差の付いた映像を見ることで実現しているものが多いが、Daxonは3D立体視の大本命である「裸眼立体視」を、微細な水晶体の集合体で構成された厚さ1.5ミリほどの特殊シートと、専用のドライバのみで実現していた。フィルムは液晶モニタに隙間無く貼り、あとは専用ドライバを組み込み、対応ゲームソフトを走らせるだけ。シートのサイズは42インチから7インチまで対応し、ノートPCにも適用可能。このPC向けの裸眼立体視システムの価格と発売時期は未定とのことだが、PCに強い台湾らしいプロダクトと言えそうだ。

 残念だったのは、台湾ゲーム市場を代表するコンテンツであるオンラインゲーム関連の出展が少なかったことだ。大手ではSoftworld、IGS、Cayenne Entertainment、M-etelといったところで、全盛期の半分以下まで落ち込んでいる。もともと即売会とオンラインゲームはあまり相性がよくなかったが、ここ数年、徐々にオンラインゲームメーカーの出展も減りつつあり、まったく歯止めが掛かっていない。

 昨年は、ブラウザゲームを一同に集めた特設展示があったものの今年はそれもなく、代わりにGAME STARと呼ばれる、東京ゲームショウにおける台湾パビリオンのような、1社1台で20社ほどが軒を連ねる特設コーナーが用意されるなど、地域を代表するゲームショウとしてギリギリのところまで来ているなという印象を持った。即売会ありきという従来のアプローチを変えるか、台湾メーカーに対して出展のメリットが感じられるような取り組みが必要だと感じられた。「台湾のゲームショウ」とは名ばかりの存在にならないように、主催者には抜本的な改革が望まれるところだ。

【即売コーナー】
台湾ゲームショウ名物の即売コーナー。SCE Asiaブースでは、「ファイナルファンタジー XIII」か「キングダムハーツ Birth by Sleep」購入者に抽選でクリエイターのサイン入りグッズが貰えるキャンペーンを実施していた

【3D立体視】
Daxonの裸眼立体視システムは、3D対応モニタや視差を付けるための機材の購入が不要で低コストで立体視を実現する素晴らしいソリューションだ。コンシューマーゲームの3D立体視は、ハードウェアの制約上まだ時間が掛かりそうだが、PCではもうすぐそこまで来ているという実感を得ることができた

【PCメーカー】
オンラインゲームメーカーの出展が減り、その分PC系のメーカーの出展が増えていた。PCはWindows 7やCore i 7といった明るい話題が多いため押し出しやすいところもあるのだろう



■ SCE Asiaが「ファイナルファンタジー XIII」中文版を2010年に発売

SCE Asiaでもっとも大きく展示されていた「ファイナルファンタジー XIII」。右上部にはPS3独占を示す「Only On PlayStation」の記載が確認できる
「Fabula Nova Crystallis」総合プロデューサーとして紹介されたスクウェア・エニックスコーポレートエグゼクティブの橋本真司氏。司会者の質問に、好きなキャラはライトニングで、エンディングに感動したとコメント
「ファイナルファンタジー XIII」中文版は2010年発売予定

 さて、それでは初日の大きなサプライズとなった「ファイナルファンタジー XIII」中文版の発表会の模様を深く掘り下げる形でお伝えしたい。

 今年SCE Asiaは、例年通り大勢の来賓を招いて大規模なオープニングセレモニーを実施。高雄市長を招き、高雄市とSCE Asiaが共同でゲームクリエイター育成事業を行なっていく旨の覚え書きを交わしたほか、数年ぶりとなる台湾産プレイステーションタイトルとして台湾XPECとの共同開発でPSP向けの麻雀ゲーム「東方雀神」が開発中であること。そして台湾で人気の高い女性歌手の楊丞琳(レイニー・ヤン)さんをゲストに招きPSP-3000の新色青瓷綠(ターコイズグリーン)のお披露目などが行なわれた。

 サプライズがあったのは午後に行なわれた「ファイナルファンタジー XIII」ステージイベント。本来は12月17日に日本と同時発売された同作の魅力を紹介するステージイベントになるはずだったが、ステージにはスクウェア・エニックスで「ファイナルファンタジー」シリーズを担当するコーポレートエグゼクティブの橋本真司氏と、SCE Asiaプレジデントの安田哲彦氏が揃って登壇し、「ファイナルファンタジー XIII」中文版が電撃発表された。来場者にとっても予想外の発表だったようで、場内は大きな歓声と拍手に包まれた。

 SCE Asiaによれば、「ファイナルファンタジー XIII」中文版の仕様は、ローカライズは字幕のみ。発売時期は2010年5月を予定し、価格は未定。開発はスクウェア・エニックスで、発売はSCE Asia。「ファイナルファンタジー」シリーズ史上初の中文作品となる。アジアでの目標販売本数は20万本を見込む。3月に発売が予定されている英語版(インターナショナル版)は、予定通り発売を行なうという。

 今回の発表は、アジアコンシューマーゲーム史上において、決定的に重要な発表と言える。台湾や香港で中文化されるコンシューマーゲームタイトルは今では珍しい存在ではないため、「ファイナルファンタジー XIII」中文版の発表にピンと来ない人も多いと思うので、以下簡単に補足しておきたい。

 プラットフォームビジネスにおいて、キラーコンテンツのリリースは、アジアに限らず全世界でプラットフォームビジネスの正否を左右する重要なポイントとなる。だから、「ファイナルファンタジー」シリーズのようなキラーコンテンツは、現地のプラットフォーマーからすると喉から手が出るほど欲しい存在だ。余談だが、昨年、Microsoft Taiwanの幹部が「ファイナルファンタジー XIII」のXbox 360版の発売について、含みを持たす発言をしたことが台湾メディアで報じられ日本で大騒ぎとなったが、あれなどはまさにその願望の現われだと言って良い。「出て欲しい」という願望が伝言ゲームをするうちに発売確定まで昇華されてしまうわけだ。

 話を戻すと、プラットフォーマーがいくら中文化を希望しても、コンテンツホルダーとしては、ビジネス全体としてプラスにならなければ展開する意味が無い。ビジネス全体とは、利益が出るかどうか以前の問題として、ブランド価値を維持できるかどうかも含まれる。特にアジア市場は、慢性的に違法コピー文化に悩まされてきたため、多少の利益が出るとしても、コピー利用者にタダのような値段で遊ばれるぐらいなら最初から中文化しないほうがマシだと判断してきた。そのほうが大事なブランドの価値をいたずらに貶められることを防げるからだ。

 大手メーカーがリリースする大型タイトルは、上記のような考えから、中文化を見送ってきたという背景がある。中文化されるのは、一部の例外を除いてプラットフォーマーの自社タイトルの一部のみで、このことはアジアでコンシューマーゲームの成長を阻んできた弊害のひとつだった。

 今回スクウェア・エニックスが「ファイナルファンタジー」シリーズで初めて中文化に同意したことは、2つの重要な意味がある。ひとつはスクウェア・エニックスが、アジアのプレイステーション 3市場を正規のゲーム市場として認めたこと。もうひとつは、これは海賊版ビジネスに対するプレイステーション 3プラットフォームの完全勝利宣言だということだ。

 日本のゲームのファンが多い台湾では、「ドラゴンクエスト」シリーズよりも「ファイナルファンタジー」シリーズの人気が高い。理由は「ドラクエ」より「FF」のほうが、グラフィックスが綺麗で、ムービーシーンが多いため、“日本語がわからなくても楽しめるから”だという。「FF XIII」中文版はもちろんだが、あらゆるゲームの中文版の潜在需要は非常に高いと考えて良いのではないだろうか。

 PS3が採用しているBlu-Rayディスクは海賊版が存在しないため、欧米や日本と同じようにゲームソフトがしっかりと売れ、アジアで10万本を超えるタイトルがいくつも生まれつつある。今後、「FF XIII」中文化の実績を背景に大手メーカーの大型タイトルが中文化されるケースが増えてきそうで、今後の展開が楽しみだ。違法コピーを“物理的に防ぐ”というSCEの戦略がついに実を結んだ象徴的な発表と言って良いだろう。


【「ファイナルファンタジー XIII」中文版発表会】
SCE Asiaプレジデントの安田哲彦氏は8年の交渉が実ったということで、「台湾の『FF』ファンの皆さん、待ちに待った日が来ました。おめでとう」と来場者と共に喜びをあらわにし、満面の笑みで歓声に応えていた

(2010年 2月 5日)

[Reported by 中村聖司 ]