CESA Developers Conference 2009現地レポート

SCEJ「みんなのスッキリ」、セガ「リルぷりっ ゆびぷるひめチェン!」
プロデューサーと現場開発者の視点から語られる、新タイトルでのチャレンジ

9月1日~3日開催

会場:パシフィコ横浜



 パシフィコ横浜で開催されているゲームカンファレンス「CESA Developers Conference(CEDEC) 2009」。本稿では「『みんGOL』『みんテニ』 次の一手は?」と「『リルぷりっ ゆびぷるひめチェン!』~トゥーンレンダリングにもう一工夫」の2つのセッションを紹介したい。

 新タイトルの発売前に作り手からその話が聞けるというのはCEDECならではである。本稿はプロデューサーと、現場でのプログラム支援を含めたテクスチャーライティングという全く違った立場からそれぞれのゲーム制作への想いを聞くことができた。特に後半は同じ現場開発者に向けてのテクニックの開陳であり、少しハードルが高いがスライドを参照しながら読んでほしい。

 「『みんGOL』『みんテニ』 次の一手は?」では、「みんなのGOLF」シリーズのプロデューサー池尻大作氏によるプロデューサーとしてのあり方と、10月1日にPSP用に発売される「みんなのスッキリ」に向けたゲーム制作の想いが語られた。

 「『リルぷりっ ゆびぷるひめチェン!』~トゥーンレンダリングにもう一工夫」では、11月下旬サービス予定の女の子向けの業務用カードゲーム「リルぷりっ ゆびぷるひめチェン!」を制作するにあたり、“漫画イラストのタッチを3Dモデルで再現するには”という課題に挑戦したテクニックが紹介された。どちらも日本のゲーム開発社のさまざまなチャレンジが感じられる講演である。



■ 「プロデューサーは通訳である」。池尻氏が目指す、テンポ、間口の広さ、そして奥深さを持ったゲーム

ソニー・コンピュータエンタテインメントJAPANスタジオエクスターナルプロダクション部シニアプロデューサーの池尻大作氏
池尻氏が提示する売れるゲームと売るべきゲーム。プロデューサーの視点ならではの分析を感じる
「みんなのスッキリ」の掃除アプリ。最初はただ部屋を片付けるだけしか要素がなかったが、体力ゲージが設定され、ミスを誘うオブジェクトや、パワーアップ要素などゲームとしての手法が取り入れられることになった

 「『みんGOL』『みんテニ』 次の一手は?」というタイトルで講演を行なったのは、ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)JAPANスタジオエクスターナルプロダクション部シニアプロデューサーの池尻大作氏だ。セガで様々なタイトルを手がけた後、2000年にSCEに入社、「みんなのGOLF 3」以降の「みんなの」シリーズのプロデューサーとして活躍している。

 今回、池尻氏はプロデューサーという立場から、「みんなのGOLF」シリーズ、「みんなのテニス」シリーズで気をつけたこと、プロデューサーとしてどうユーザーや市場にアピールしていったかを語り、そして10月1日にPSP用に発売される「みんなのスッキリ」を制作する上で気をつけたポイントを語った。

 はじめに池尻氏は自身が求めるゲームデザインにおいて、強いて1つだけに絞るならば「ゲームのテンポ」こそもっとも考慮するものだと語る。そしてプロデュースする上で重要なのは「キャッチコピー」である。デザイナーとプロデューサー、“ゲームの作り手”が目指すのはまず「売れるゲーム」そして次点で「売るべきゲーム」だ。

 売れるゲームというのは、ファンの期待が高いブランド力を持ち実績のあるクリエーターが作ったゲームである。売るべきゲームは、新しい遊びを提示しユーザーの視野を広げるゲームだ。新しいゲームは、ゲーム業界の発展のためにも必要なゲームであり、ここで成功したタイトルは爆発的な売り上げを記録するのだ。シリーズ最初の作品「みんなのGOLF」は、まさにこの売るべきゲームとして成功を収めたタイトルだと池尻氏は語る。

 「みんなのGOLF」は1980年代後半、PCでのゴルフゲームがシミュレーション色を強くし、リアルな方向に向かっていた時代に生まれた。テンポの良さを目標に、「結果が早く出る」ゲームデザインが心がけられた。デフォルトで打つ方向やクラブがセットされており、機能をボタンに振り分け、情報を見やすくシンプルにした。この結果従来のゴルフゲームが1ラウンド2時間弱かかっていたところが、30分で回れるという圧倒的なテンポの良さを実現した。

 テンポの良さは様々なメリットを生み出す。まずストレスを感じないゲーム体験、繰り返しプレイする気持ちを持たせ、そしてより上のスコアを目指す気持ちを沸き立たせる。1プレイが短いため多人数の対戦プレイもより面白く、間口が広いものになった。「ゲームはやはり対人戦が面白い。間口の広い対人戦を実現させるために、繰り返しプレイをしやすく、向上心を持ちやすいゲームデザインがなされたのです」。

 ロードからゲームをスタートする前のアドバタイズデモでも、ゲームのシンプルな操作性と簡単さを強調、基本は方向キーとボタン1つでプレイでき、他の機能を使うことでより上を目指せるように工夫した。キーコンフィグ機能は意図的にカットされた。対戦するときコントローラーをプレーヤーごとにカスタマイズしていたらテンポが悪くなる、という判断のためだ。この他にも、「軽快なBGM」はこれまでのゴルフゲームにはなかった要素だと池尻氏は語る。「テンポの良さ」というテーマにフォーカスしたゲームデザインがシリーズ化を可能にし、以降のゴルフゲームに大きな影響を生み出す作品となったのである。

 そして以降は、売れるゲームとして「みんなのGOLF」シリーズは生み出されていくこととなる。しかし続編ゲームというのはボリューム増加、複雑化に走りがちだ。「みんなのGOLF」はこれ以降常に“初めて遊ぶ人もストレスなく楽しめる”という点に重点が置かれているという。「みんなのGOLF 2」では季節の概念を追加、またプロゴルファーのようにボールを自在に操れるようにショットを調整し、よりゴルフゲームとしての間口の広い楽しさを追求した。誰でも簡単に、プロゴルファーになったかのようなプレイ感を体験できるという要素は、「みんなのGOLF 2」で確立されたものなのだ。

 「みんなのGOLFオンライン」は“日本一敷居が低い家庭用オンラインゲーム”を目指した。対戦をさらに早くするため、一斉にショットを打てるという「リアル大会モード」を実装し、100人同時ラウンドを実現した。「みんなのGOLFオンライン」は社内、社外の啓蒙活動も積極的に行ない、新しい楽しさを提供する“売るべきゲーム”という共通認識を持たせるようにしていった。

 「みんなのGOLF 4」はコース、プレーヤー、キャラクターとも最大となるボリュームを実現した。しかしボリュームは以降の作品の枷になり、ライトユーザーにとってはハードルになってしまうという。しかし、「みんなのGOLF 4」はボリュームだけでなく、幼児やお年寄りを意識した簡単モードを搭載した。SCEで老人にゲームをプレイしてもらう企画をした際に、池尻氏は「普段ゲームをしない人にとってテレビゲームは難しいものだ」という事実を再認識した。

 「みんなのテニス」はこの反省点からより間口の広い、簡単なゲームを心がけて生み出された。既存のテニスゲームは難しくなりすぎており、誰でも遊べるゲームを目指したのだ。このためプレイテストを重点的に行ない誰もが遊びやすいバランスを模索していった。しかし結果として、簡単すぎるという評価になってしまった。1人用プレイは繰り返し遊ぶ気持ちを持たせられず、奥深さが減ってしまった。これらの反省点は現在開発中の「みんなのテニスポータブル」でリベンジする予定だ。

 次に池尻氏は、プロデューサーの適正考察というテーマで自身の目指すプロデューサー像を語る。まず自分の手に「専門職」がないことを意識し、プロフェッショナルを巻き込みながら前進していくことを心がける。ゲームを作る上で専門家達が抱える問題をきちんと取り上げ、時には他の専門家に依頼するなど多くの専門家と関わりながら進めていく。クリエーター達の言葉にできない想い、どう誘導していくのがよりヒットするゲームへと近づけるのか、どんなゲームなのか、徹底的にクリエーターと話し、誰よりもその企画の理解者でありファンでありたいという。

 作り手達がアピールする「面白さ」を販売や営業部門の社内の人間にも共感してもらうようにし、消費者へのアピールへつなげる。もちろん作り手の慣れによる難易度上昇にも心がけていく。意見を聞き何を言うか、プロデューサーにはこの能力が求められる。「プロデューサーは通訳である」と池尻氏は語る。企画を理解した上で、インパクトのある正しいアピール方法を模索し、社内外を問わずゲームのファンを増やす働きかけを積極的に行ない、結果としてビジネス的な成功を追求する。そんなプロデューサーになりたいと池尻氏は語った。

 池尻氏が次のチャレンジが、「ゴルフ」でも「テニス」でもない「みんなの」ゲームだ。スポーツゲームは作りやすい反面、競技に興味のない人を全く取り込めない。さらにテーマを広げることでより幅広いユーザーを獲得できるのではないだろうか。ここで池尻氏が目標に掲げたのが「PSPを代表するカジュアルゲーム」である。ビデオゲームが本質的に持つ快感を手軽に体験させられないか、ここで提示したキーワードが「スッキリ」である。

 時間を忘れて遊びたくなるスッキリ“アプリ”の集合体である。あえてゲームではなくアプリと呼ぶことでツールをイメージしてコンテンツを作成していった。イメージは「ゲーム機を使った無限プチプチ」である。掃除機で延々ゴミを吸うだけのアプリや、ただひたすら草を抜くだけのアプリ。ゲームオーバーすらない、本当の意味での誰でも遊べる作品を目指した。

 コンテンツを作りあげテストを繰り返すことでこの企画の問題点も見えてきた。シンプルで簡単、ゲームオーバーもないとプレーヤーは目標を見失ってしまい、飽きも早くなるのだ。間口が広いからこそ世代や男女で意見が違い、正解が見えにくくなってしまった。このため10歳から39歳まで、男女比率6:4で50名という比較的大きな規模のユーザーテストを2回行なった。ここでのユーザーの声の中に、「ゲームオーバーがないとやめ時がわからなくて不安になる」というのもあった。

 「みんなのスッキリ」はこれらの意見を取り入れて、コンセプトを見直すことになった。掃除機アプリは吸ってしまうとダメージを受けるものを配置し、ホームランアプリは内訳などを工夫するといったよりゲームらしいベクトルを持った。無限プチプチという最初のコンセプトも見直され、よりゲームとしてのベクトルへとシフトさせた。「ゲーム作りにおいてクリエーターの歓声に向き合うために客観的なデータもまれには必要になる。しかしそれ以上に重要なのは、プレーヤーが遊んでる姿を作り手が直接観察することだ」と池尻氏は語る。

 池尻氏はさらに「みんなのスッキリ」を発売するにあたり、2,980円という価格の上でのチャレンジも行なう。最後に池尻氏は「ゲームは所詮水もので、作ってみないと売れるかどうかわからない。だからこそ信念と情熱を持って取り組んで活きたい。日本のゲームは面白いと世界に発信していきましょう」と会場に語りかけた。

シリーズ最初のタイトルである「みんなのGOLF」。これまでになかった要素を盛り込み、間口の広さを実現している
「みんなのGOLF」はシリーズを重ねながら安易なボリューム増加を行なわず、さまざまな試みをして人気を獲得し続けている。「みんなのテニス」はPSPで新しいアプローチを行なうという
作品をプロデュースしながら模索していく池尻氏のプロデューサー像。作品を世に出すための試行錯誤を感じさせられる
新しいアプローチからユーザーテストを繰り返しさらに「売るべきゲーム」を探っていく。「みんなのスッキリ」はどんなゲームとして完成し、ユーザーにどう受け入れられていくのだろうか



■ 手書きイラストのような質感を実現する新しいトゥーンレンダリング。制作現場での模索

セガCS R&D推進部 システムサポートセクションリードエンジニアの林洋人氏
ファミリーエンタテインメント研究開発部デザイナの日下部尚明氏
CSR&D推進部の麓一博氏

 「『リルぷりっ ゆびぷるひめチェン!』~トゥーンレンダリングにもう一工夫」というタイトルで、手書きイラストのような質感を3Dキャラクターにもたらすテクニックを紹介したのはセガCS R&D推進部 システムサポートセクションリードエンジニアの林洋人氏、ファミリーエンタテインメント研究開発部デザイナの日下部尚明氏、そしてCSR&D推進部の麓一博氏だ。

 「リルぷりっ ゆびぷるひめチェン!」は、セガと小学館共同企画による女の子向けのプロジェクトだ。小学館の雑誌、「小学一年生」、「小学二年生」、「ぷっちぐみ」にて漫画が連載されている。セガは、これらの漫画と連動した業務用カードゲームとして11月下旬よりスタートする予定だ。仲良し3人組の女の子が魔法のウサギと出会い、おとぎの国のお姫様の生まれ変わりとして大人に変身できるようになり、おとぎの国を救うためアイドルユニットを結成し、魔法で人々を幸せにしていくというストーリーだ。

 セガのゲームシステムとしては、「オシャレ魔女 ラブ and ベリー」を踏襲し、スタッフも7割近くが同じだという。筐体は上下2画面が振動タッチパネルとなったRINGWIDE基板という新システムを使っている。プレーヤーは表示に合わせて画面をタッチすることでダンスをし、新アイテムを獲得しながら飾り立てていく。アクセサリーや服は変身した大人のキャラクターに着せることができ、服の模様を変更したりとカスタマイズが可能だ。

 「リルぷりっ ゆびぷるひめチェン!」は漫画のタッチの実現にある。ポイントとしては、「アニメのような境界のはっきりしたべた塗りではなく、階調のあるイラスト塗りを実現」、「タッチと色の付いた境界線」、「前髪より手前に来る眉や目」である。これまでの3Dモデル、トゥーンレンダリングとは違う手法にチャレンジしたのだ。この他、足と服の重なり合いやめがねの描画など、「オシャレ魔女 ラブ and ベリー」での問題点にもチャレンジしている。

 キャラクターのモデリングを書き起こし、モーションを追加していく課程のワークフローでは、以前からソフトイマージュでのトゥーンシェーダーの実験していたリソースを3dsMaxに変換し、さらに実機へのフローを考えていくことになった。イラスト塗りを実現させるために従来のトゥーンとは違う効果でシェーディングを行なった。法線ベクトルとライトベクトルの内積をUVにし、テクスチャシェーディングのトゥーンを採用することで柔らかな階層を表現した。

 光を当て影を生み出すライティングも、これまでとは違う手法を使った。視線ベクトルとライトベクトルをUVに転換し、色が乗るもの、乗らないものの2種類を用意することで状況に合わせて使い分けた。また頭髪に白抜きで髪の輝きを表現する「天使の輪」の再現には、特別な真下方向に向けたベクトルで表現。3Dモデルに合わせて変形してしまうため、球状化した放線を計算した上で従来のモデルに乗せることで円形の光を表現した。

 イラスト風の輪郭の表現には、従来のトゥーンで輪郭描画に使われていた「反転モデル方式」と、新しい「ポストエフェクト方式」の2種類がテストされた。既存のモデルの外側に輪郭用のポリゴンを表示し輪郭線を表現する反転モデル方式は、抜きテクスチャに対応できず、小さく表示したときの混みいり方やスキニングとの相性、ゲームの性質上ひらひらした服が多いため自動処理が難しいなど、さまざまな理由から使わないことになった。

 一方ポストエフェクト方式は、3Dのモデルを2D画像として抜き出し、輪郭線がないまま画像処理を行ない、輪郭線を抽出、そこから描画するという手法をとる。ポストエフェクト方式はマテリアル(各要素)の境界に輪郭線を描画する、ものの先端など放線が不連続なエッジに描画する、デプス値(奥行き)に差があるところに描画するといった処理で輪郭線を描画している。この手法の課題としては、常に一定の負荷がかかる。ポリゴンが交わったところに輪郭が表示される。モデル法とは違ったノイズが発生するというものがあるという。

 ここからさらに、実際の状況に合わせた描画が求められるようになる。肌と服の境界線の描画。これは服と肌だけの処理ではだめだ。例えば服の前に肌が来たとき境界線をどう描くか、髪の毛など素材の違いの質感、境界線の色や太さの違いも工夫により対応していった。描画によって生じるジャギは、輪郭部分にだけアンチエイリアスをかけることでなめらかな表現を可能にしたという。処理を重ねるほど重くなる問題に対しては、一部分に使ったり、状況に合わせた抽出を行なうといった工夫をしている。

 この他、目に髪の毛がかかると目が隠れ、当然眉毛も見えない。漫画やアニメは、髪や目を前にして描くという3Dモデルでは破綻必至の描き方をしている。これは、髪の毛を書いてから眉を描写したり、描画の順番を変えたり状況により使い分けることで対応している。めがねをかけた場合、顔>メガネ>目>前髪と描画される。まず顔を描き、前髪を描画してから前髪のデプス値をクリア、顔のデプス値を書き込み目を描画。ツルをのぞいたメガネを描画してから、前髪のデプス値を書き込み、目立つめがねのツルを最後に書き込む。こうすることでキャラクターらしさが再現できるという。

 キャラクターがスカートをはいている場合、スカートから足がはみ出してしまうというのはよく起きる問題である。かといって足にぴったり添いすぎるのも気持ちが悪い。タイトスカートやロングスカートでのダンスは、描画の上ではとても再現できない動き方をする場合もある。対処する簡単な方法としては、「足を消す」という大胆な方法がある。これは簡単で効果的な方法で、トゥーンを使ったモデルだけでなく、リアル調の方法でも使えるテクニックである。

 次に紹介されたのがキャラクターのボーンやポリゴンパーツ数である。キャラクターのパーツは頭、ドレス部分の体、靴(足)、手の6パーツで構成されている。ボーンはスカート以外のパンツなどの場合はもっともシンプルで39、ミドルスカートを足すことで80、ロングスカートで96になっている。

 ポリゴン数は髪で1,000~2,000ポリゴン、顔は1,900ポリゴン、ドレスが3,000~5,000ポリゴン、靴が700~1,500ポリゴン、手が660ポリゴン、アクセサリーが100~1,000ポリゴンとなるという。ゲームでは、さまざまなデータがカードの形でユーザーに提供される。制作にはドレスと靴で5日、髪型が2~3日、アクセサリーは数時間から数日という作業工程を予定している。11月には3人のキャラクターに各36種類の服を提供し、以降アップデートされるという。プレーヤーは服を変えるだけでなく、模様を変えることもできる。自分の好きなオシャレを楽しめるのだ。

 林氏はまとめとして、ユニークなシェーディング、安定した輪郭線を作ることができたことで、漫画的表現が可能になった。これらの技術により、ハイデフで繊細なトゥーン描画が実現できたと語る。トゥーン処理のため追加作業が少なく、衣装などのデータも組み合わせられる、自由度の高さと量産性の高さも実現できた。

 一方今後の課題としては、新開発の筐体だったため、フレームレートとしては25前後という若干目標を下回る処理速度になってしまったこと。また動的なシャドウマップを割愛、デザイナーから提案された被写界深度の描画という最近のゲームのトレンドを入れられなかった。また、モーションブラーも今後挑戦してみたい要素だという。この他、髪の毛、スカートの揺れも現在さらにうまい表現を模索しているという。

 講演の中で麓氏は、「前回のサイバーコネクトツーの講演で紹介していたテクニックを、自分なりに組み入れてみた」と語った。今回紹介されたテクニックも、多くのクリエーター、アーティストを刺激したと思う。トゥーンという手法はアニメや漫画が数多く発表され、日常的に親しんでいる日本に親和性の高い表現方法ではないだろうか。表現方法の今後の進化に期待したい。

小学館との共同企画による「リルぷりっ ゆびぷるひめチェン!」。魔法で大人に変身し、オシャレを楽しむという女の子の夢を実現したような作品だ。「オシャレ魔女 ラブ and ベリー」を踏襲したゲーム性が新筐体でどのようにパワーアップしているかも注目だ
イラストのような質感を表現するためのさまざまな試み。新しいトゥーンレンダリング手法の模索だ
輪郭線描画における新しいアプローチ。同時に処理の軽減などリアル系のグラフィックスにも通じる技術的挑戦も行なっていく
キャラクターモデルでもっとも注目される顔の描写。目と前髪を現実とは違う漫画的手法で再現しながら、髪型を変えたりメガネをかけるといったインタラクティブな課題にも取り組む
ポリゴンモデルは決して複雑ではないが、作品の世界観を活かすための工夫が凝らされている。また、製品としての今後や作業効率も視野に入れられている

(2009年 9月 2日)

[Reported by 勝田哲也 ]