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AMD「RADEON PRO DUO」発表イベント“CAPSAICIN”開催

VR映画「Assassin's Creed VR EXPERIENCE」発表、新HMD「SULON Q」の実機も披露

3月14日~18日開催



会場:San Francisco Moscone Convention Center

AMD CEOのDr. Lisa Su氏

 GDC初日の3月14日(現地時間)、AMDは“CAPSAICIN”と題したイベントを開催した。“CAPSAICIN”のイベントタイトルは、唐辛子などの辛み成分のカプサイシンからきているものであり、GPUという小さなパーツがゲームやVRに対して、スパイスの効いた“刺激的な味”を与えることを暗喩している。強いて日本語でいうと“山椒は小粒でピリリと辛い”といったところだろうか(もっとも、山椒にはカプサイシンは含まれないが)。

 イベントは、同社CEOのDr.Lisa Su氏とGPU開発の責任者RAJA KODURI氏の挨拶代わりの掛け合いに始まり、以降は、KODURI氏とChief Gaming ScientistのRichard Huddy氏が入れ替わりでホスト役を務めつつ、AMDのパートナー各社から続々と登壇するという趣向で進行した。イベントは非常に目まぐるしく、“CAPSAICIN”のタイトル通り如何に“刺激的”であったかを駆け足でお伝えしたい。

Vice PresidentのRAJA KODURI氏

 本イベントの目玉は、やはり最新GPU「RADEON PRO DUO」が発表されたことだろう。昨年E3時期の発表会で「dual Fiji + HBM」と、名称未定で存在だけ触れられていた製品が、9カ月を経て登場したことになる。出荷予定時期は本年第2四半期の早い段階で、搭載カードの製品価格は1,499ドル前後と想定されている。

 本発表会でも詳細なスペックは明らかにならなかったが、「RADEON PRO DUO」は、2個のFIJI GPU、8GB HBM、4つのディスプレイポートを搭載し、16T FLOPSの浮動小数点数演算性能を誇る。これは、ほぼ順当にシングルFIJI GPU搭載の「Radeon R9 Fury X/Nano」の約2倍に相当する。既存のGPUユニット2個を1ボードに統合したものなのだから、単純に2倍した数値を越えてきてもらいたいところだが、現実には、やや劣ってしまうようだ。浮動小数点演算性能を17T FLOPSではなく16T FLOPSとしていることから、「Radeon R9 Nano」のクロックを、さらに少し落としたものが搭載されると推測される。

 「Radeon R9 Fury X」のシングルGPUユニットの状態では、スペック的に競合する「GeForce GTX 980 Ti[」との比較して、ゲームプレイに重要なピクセルフィルで分の悪い結果になってしまっていたが、さすがにデュアル構成の「RADEON PRO DUO」では上回ってくるだろう。発売が迫っていることから、詳細スペックの発表も近日中に行なわれるはずだ。続報を待ちたい。

「RADEON PRO DUO」は浮動小数点演算性能が16T FLOPSに
「RADEON PRO DUO」搭載PCもステージに登場

UBI SoftのChris Early氏

 GDCに合わせたイベントということで、ゲーム関連各社からの登壇が続いた。その中でも目を引いたのは、やはりVR関連の話題だ。UBI SoftのChris Early氏が紹介した「Eagle Flight」は、既報の通りGDC会場に試遊台が用意されてるもので、本会場で上映された動画を見るだけで引き込まれてしまう。写真撮影のためにカメラのファインダーからスクリーンに再生されているゲーム動画を夢中で覗き込む格好になってしまっていると、思わず動画中のカメラの動きに引きずられて、筆者が構えるカメラの向きを変えてしまいそうになるくらいだ。

 また、ゲームではないが、UBI Softの看板タイトル「Assassin's Creed」をフランチャイズしたVR動画視聴コンテンツ「Assassin's Creed VR EXPERIENCE」にも注目したい。これは、UBI SoftとFOX、Practical Magicのコラボレーションによって実現した映像コンテンツで、あの「Assassin's Creed」が実写化、しかもVRコンテンツとして、というところが衝撃的だ。登壇したPractical MagicのMatthew Lewis氏によると、マルタ島、スペイン、イギリスなどでロケが行なわれるということだ。

 さらに、SULONのDhan Balachand氏からは、同社のAR/VR HMD「SULON Q」の実機が披露された。PCに接続することなく、HMD単体で動作する「SULON Q」のAPUには、AMDの消費電力35WのRadeon R7内蔵FX-8800Pプロセッサが搭載されており、110度の視野角を持つ2560x1440のOLEDディスプレイが採用されている。OSはWindows10であるため、APUと相まってDirectX 12とVulkanといったAPIにも対応している。会場では、「ジャッックト豆の木」の童話の絵本から飛び出して現実世界の床に落ちた豆が、童話のとおりに発芽して天井を突き破ると、壊れた天井の穴から巨人が家の中を覗き込むといった趣向の「Magic Beans」のデモ映像が上映された。AR/VR両対応のデバイスということで、これはARデモということになるだろうか。他のHMDが完全に閉ざされたVR世界で高い没入感を実現するなか、現実と仮想が合成によって融合した、「SULON Q」ならではのエンターテイメント性の高いARコンテンツが期待できそうだ。

「Eagle Flight」のデモムービー
Practical MagicのMatthew Lewis氏
VR映像「Assassin’s Creed VR EXPERIENCE」はFOXが制作を担当
「SULON Q」の実機を手に登壇したSULONのDhan Balachand氏
ジャックと豆の木をモチーフにしたARデモムービー

コンテンツ関連ホスト役のChief Gaming ScientistのRichard Huddy氏

 「RADEON PRO DUO」は、かなり高価であるということと、GDC時期のイベントであるということから、LiquidVR SDKの存在と共に、ゲームや映像といったVRコンテンツ製作に最適という点が強調されていたが、もちろん既存のグラフィクスカードではパワー不足となるVRコンテンツの快適なプレイも可能になる。イベント終了後、VR試遊ブースで、そのことが確認できた。

 イベント会場には、いくつかのコンテンツのデモブースが設営されており、VR体験コーナーとしては、HTC Viveのものと、Oculus Riftのものが用意されていた。二者のうち、筆者も実際にHTC ViveのVRコンテンツを体験するこができた。トライしたコンテンツは、Steamで配信されているインディ系開発会社Jaywalkers Interactiveの「Arizona Sunshine」で、迫り来るゾンビを両手に構えた銃で撃ちまくるゲームだ。

 あくまで体験ということで、チュートリアル程度の簡単なシーンを3シーンほどプレイしただけだが、VRゲームならではの臨場感と没入感を十二分に味わうことができた。プレイ中、右前方から際限なく迫り来るゾンビを、ようやくすべて仕留めて周囲を見渡した途端、左後方から別のゾンビが目前まで迫っているということがあった。筆者は、そこで思わず首を振って顔を背け、右足が一歩下がってしまった。実際は目の前にゾンビはいないわけだし、一歩後ずさるという現実の動きは、ゲームプレイ的には意味がないのだが、それでも反射的に一歩下がってしまう。頭でわかっていても、つい反射的に動いてしまうのが没入しているということであり、まさにVRコンテンツの醍醐味なのだ。

 体験プレイは「RADEON PRO DUO」を搭載PCにHMDはHTC Viveという環境で、両手に持ったVive専用コントローラーを敵のゾンビに向けトリガーで弾丸を発射して敵を倒していく。弾のリロードは、コントローラー上部のボタンを親指で押すという銃の撃鉄を起こす動作を模した操作で、直感的であるうえ操作でも雰囲気を盛り上げるように工夫されていた。体験した「Arizona Sunshine」のゲームデザインは、かつてのゲームセンターの体感ガンシューティングと大差なく、立体視ではなかったものの、それでもなお圧倒的な臨場感がある。360度見渡して警戒しなければならないという状況、銃を模した直感的な操作、トリガーを引いた時のフォースフィードバックといった要素が大いに盛り上げてくれた。

VRゲーム「Arizona Sunshine」を体験中
ゲーム性はありふれたものだが大興奮。VRならではの没入感が大きい

AMDのVRに対する意気込みが感じられる

 イベント全編を通して、予想通りVRに関連したテーマで登壇するゲストが非常に多かった。また、パートナー各社をホストするAMDも、2016年11月までにVR HMDのCPU/GPU/APUの83%に採用される見込みではあるものの、現在同社のVR READYグラフィックスカードを搭載しているデバイスのうち、わずか1%未満しかVRに活用されていない現状に対して、今後もさまざまな分野でVRエコシステムを確立すべく、積極的なチャレンジをしていくとしていた。本イベントのトピックがすべて実現するなら、今後VR環境は急速に浸透していくに違いない。そういった”刺激的”な未来を大いに予感させるイベントだった。

(谷川ハジメ)