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「空の軌跡 SC Evolution」日本ファルコム近藤社長・キャラアニ小金澤プロデューサーインタビュー
キーパーソンが語る軌跡シリーズと「Evolution」の過去・現在、そして未来
(2015/12/7 00:00)
- 11月19日収録
- 【英雄伝説 空の軌跡 SC Evolution】
- 12月10日 発売予定
- 価格:
- 4,800円(税別、ダウンロード)
- 5,800円(税別、パッケージ)
- 8,300円(税別、限定版)
- 9,800円(税別、キャラアニ限定BOX)
- 19,800円(税別、TWINパック)
- CEROレーティング:C(15歳以上対象)
日本ファルコムの名作RPG「軌跡シリーズ」を、キャラアニがイベントフルボイスでリメイクするプロジェクトである「軌跡Evolution」シリーズ。「英雄伝説 零の軌跡 Evolution」、「英雄伝説 碧の軌跡 Evolution」、「英雄伝説 空の軌跡 FC Evolution」の3作を経て、いよいよ12月10日に「英雄伝説 空の軌跡 SC Evolution」が発売となる。また、11月10日には続編「英雄伝説 空の軌跡 the 3rd Evolution」の製作も発表された。
今回は日本ファルコム社長の近藤季洋氏とキャラアニ「空の軌跡 Evolution」シリーズプロデューサーの小金澤力氏という、原作・リメイク両方のキーパーソンのインタビューをお届けする。「空の軌跡」オリジナル版開発時のエピソードから、FC/SC前後編の完結を迎えた「空の軌跡 Evolution」について、さらには軌跡シリーズの今後についてもかなり突っ込んだお話を伺えたので、「軌跡」シリーズに興味のある方はぜひご覧いただきたい。
「空の軌跡」がゼロから企画した初作品だった近藤社長。「とにかく必死だった」
――今回は「空の軌跡 SC Evolution」の発売をきっかけとしてお話を伺う機会を頂きましたが、Evolutionの話に入る前に、まずは近藤社長へオリジナルの「空の軌跡 FC/SC」開発当時のことをお伺いしたいと思います。前後編という形で当時最大級のボリュームだったと思いますが、開発時の思い出や苦労話などありましたら教えてください。
近藤氏:もともと「空の軌跡」って、僕らがファルコムに入社して2、3年という頃に、初めて企画から参加させてもらったタイトルなんです。それまでゲームの舞台設定やシナリオをゼロから考えたことはなかったのですが、それを初めてやったのが「空の軌跡」でした。
それで、僕らもどのくらいの規模のものを考えればいいかわからなくて。まずはゼムリア大陸という世界観を作り上げて、その大陸の西部という設定で、リベール王国とエレボニア帝国、それからカルバード共和国という3つの国を中心に描こうという構想を作ったんですね。
その中でもまずはリベール王国を主な舞台とすることにしましたが、ドット絵によるパーツで町を作っていた頃と違って、3D背景だと今までのように町の数をたくさん作れない。それでどうするかというと、今までの「英雄伝説」シリーズというのは世界を一周するようなゲームだったけれど、今回は1つの国の中でお話を作ろうと。ただ、その分やはり密度は上げたいよねと。
それで細かい設定を作って物語を作り始めて、開発が始まって1年以上経っていたのですが、その時はまだ1本で出す予定でした。ただ、加藤社長(当時)の前で開発チームがプレゼンテーションをする機会がありまして。1年どころか2年くらい開発を続けているところで「全体のうちのどのくらいできたんだ」と何気なく聞かれたんですけど、その時点で半分もできてなかったんですね。
「半分です」と言った時、加藤はしばらく黙っていましたね、怖い顔で。ただその時、「まあイースI・IIという前例もあるしな」と言われたのは覚えています(笑)。
で、それはもう拙いだろうという話になって、とにかく半分で出せと言われまして。そこで「どうしよう」と考えるまでもなく、あそこで終わらせるしかないな、となったのが「FC」のラストなんです。
――狙ってサプライズにしたというよりも、あそこで切らざるを得なかったと……。
近藤氏:そうなんですよ。僕らとしては1本目が売れないと後半が出せないという、背水の陣で最初の「FC」を作っていますので、必死だった思い出ばかりですね。当時「FC」に関わったシナリオのスタッフって、全員新人なんです。全員といっても自分を含め2人ですけど。僕なんかシナリオをゼロから書くのがそもそも初めてでしたし、そういう意味では試行錯誤でしたね。シナリオの書き方の本を読みながらやっていましたし。
――それであのシナリオができたというのは凄いと思います。
近藤氏:ただただ必死だったんです(笑)。よくやらせてくれたなとは思いますね。
それで「SC」を後に出す事になったわけですが、半分にした残りという形は当初の予定ではないので、1本のゲームとしてはボリュームが目減りしているんですよね。だからもうちょっと後半部分の密度を上げたい、せめて「FC」と同じくらいにしたいと考えて、色々とエピソードを足しました。そうすると「FC」の倍になってしまったという思い出があって……。とにかく当時、自分たちとしてはやれることをすべてやったという感じです。
「空の軌跡 Evolution」で“声優全取っ替え”の可能性もあった!?
――ここからは「空の軌跡 Evolution」についてお伺いします。今回、ゲーム本編のイベントフルボイス化ということで、これまでのドラマCDなどにもない新キャストも多かったと思いますが、キャスティングはどのように行なわれたのでしょうか。
小金澤氏:実は最初は、全員変えようとしていたんですよ。
――驚きました。主人公のエステル、ヨシュアまでも含めて変える可能性があったんですか!?
小金澤氏:はい。「空の軌跡」を今までプレイしたことがない人に向けて売るのであれば、ボイスを一新するというのも1つのコンセプトとしてあり得るのではと。10年以上前の作品ですので。ただ、そこで結構大規模にアンケートを取ったところ、ほぼほぼ「変えないで欲しい」という結果が出まして。
――それはもう圧倒的だったんですか?
小金澤氏:圧倒的でしたね。結果を見て、これをひっくり返すのはあり得ないなあと。それで、既にキャストが決まっているキャラクターについては手配を初めて、それ以外に関しては、ちょうどキャラアニにも声優さんに詳しい社員が何人かいるので、その者達に選んでもらって、あとはファルコムさんと調整させていただいて……という形ですね。
近藤氏:(エステル役の)神田朱未さんは「こんなに続くとは思わなかった」と仰っていましたね(笑)。
――大量の収録になったと思いますが、収録時のエピソードなどありましたらお願いします。
小金澤氏:専門的な世界観なので、普通の日本語ではない言葉が多いんですよ。そういう時にはボイスレコーダーを持ってファルコムさんに伺って、近藤社長に「これ、何て読むんですか」と……。
近藤氏:その場で読んでいくんですよ。「リベール」とか「ウロボロス」とか(笑)。イントネーションを伝えるためですね。
小金澤氏:で、その結果を持ってその日のうちに収録スタジオへ行って、「こういう風に読んでください」という。
――そういったチェックは、今でも近藤社長がされているのですか?
近藤氏:今でも見ていますね。
――社長としてのお仕事もされつつですよね……。
近藤氏:でもうち、全員そうですよ(笑)。開発部長でもたまにスクリプト打ってたりとか。僕もプロデューサーと言いつつディレクターもほぼ兼ねていますし、自社タイトルについてはゲームバランスもチェックしています。
1番最初に通しプレイをするのは僕なんですよ。その時に問題を挙げていって、発売までにこれをクリアするという課題設定を行なうのは自分の役目ですね。これは自社の全タイトルそうです。「Evolution」に関しては、キャラアニさんにお任せしていますので要所要所のチェックになりますが。
ツボを押さえた“イベントフルボイス+α”。「キャラアニさんなら安心」の一方で「自社でフルボイス化したい気持ちもあった」
――こうして完成した「空の軌跡 Evolution」をプレイされて、オリジナル版の制作者としての感想はいかがでしょうか。
近藤氏:まずはやはり、ボイスが凄いなと思いますね。声優さんの力を感じます。メインシナリオのイベントももちろんですが、イベントが終わったあと、そのイベントに立ち会っていたキャラクター達が残っていると話を聞きたくなりますよね。そこで話しかけるとちゃんとボイス付きの台詞が返ってくるというのが、ツボを押さえていて。キャラアニさんは気が利いているな、わかっているなと感じます。
実は「空の軌跡」のリバイバル、リブートといったものは自分達でもずっとやりたいと思っていたのですが、僕らはとにかく新作を作らないと、シリーズがいつまで経っても進まないのでそちらを優先しないといけない。それでキャラアニさんからご提案いただいて「Evolution」シリーズという形でスタートを切ったわけですが、まあちょっと「ずるいな」という気持ちもありますね(一同笑)。
それで実際、出来上がったゲームをプレイさせていただくと、自分達が考えてもいなかった所で気が利いていますので。ぜひ次の「空の軌跡 the 3rd Evolution」もと、どちらかというとプレイヤー側の視点で楽しみにしています(笑)。
――今はこういう形になりましたが、自社でフルボイス化したいという気持ちもあったのでしょうか?
近藤氏:ありましたね。「イース」シリーズなどは実際にフルボイスにしているタイトルもあるんですよ。ただ軌跡シリーズのボリュームだと収録だけでも数週間では終わらなくて、数カ月というレベルになりますので。(日本ファルコムとしては)それだけのことをやれる機動力がある所でないと、なかなか難しいんじゃないかというのがあって、躊躇していた所にキャラアニさんからお話を頂いたので。これは面白いなと思いましたね。それまでもドラマCDやグッズ関係でキャラアニさんにお世話になっていたので、軌跡シリーズの世界観なども理解していただいていますし、安心してお任せできると思いました。
――これまでの軌跡シリーズを自社でフルボイス化は難しい、というお話でしたが、これからの軌跡シリーズでフルボイス化という可能性はあるのでしょうか?
近藤氏:それはまだ考えてはいないですね。というのは、僕らが作品を作る時、シナリオはやはり1番気を遣っている部分なので、ギリギリまで手を入れたいんです。フルボイス化というのは完成した後にやるのなら別ですが、作りながらとなるとシナリオの締切が前倒しになるんですね。ところが、例えばシステムとストーリーがリンクしている場合に、システムが後から変更になるということも往々にしてありますので(笑)。
ですので、その鬩ぎ合いの1番ギリギリの所をとって、例えば「閃の軌跡」のような(一部のシーンにボイスという)形になっているんですよ。ゲームとしていいものを目指していくと、そことのバランスという面は必ず出てきますね。
――そうすると、「閃の軌跡」もいずれは「Evolution」という形で……?
小金澤氏:PlayStation Vitaで出させていただいているので、Vita同士で競合してしまうものは出せないと思います。ユーザーさんからすると、同じハードで2本買わせるのか、となりますので。例えばVitaの次の機種が出たら、Vitaの作品は当然ターゲットとして入って来ると思います。
ボイスが付くことでより魅力が増すキャラクターとシチュエーション
――ボイスが付いてより魅力が引き立ったキャラクターなど、特にお気に入りのキャラクターが居ましたら教えてください。
近藤氏:やはりエステルですね。全イベントの台詞にボイスが付くことで、快活さであるとか、落ち込んだ時のトーンであるとか、そういったキャラクターが1番くっきりしたのがエステルだと思います。僕らも女性の主人公というのを「英雄伝説」で初めて描いたので、そういう思い入れがあるためかなとも思いますが。
小金澤氏:私は特定のキャラクターというより、コミカルな掛け合いのシーンが好きですね。例えばエステルとジョゼットとか、オリビエとブルブランとか……。
近藤氏:オリビエの存在は確かに大きいですね。
小金澤氏:コミカルなシーンは読んでいるだけでも面白いのは確かなのですが、声が入るとやはり、喜怒哀楽のシチュエーションがはっきりして、寸劇のような楽しさが出て来ますので。こういう所は特に、声が付いて良かったと思います。
近藤氏:(オリビエ役の)子安武人さん、いつもノリノリで演じてくれますよね。
小金澤氏:オリビエは歌も歌いますしね(笑)。
――「空の軌跡 FC Evolution」のワンシーンですね。あれは原作プレイ時から、いつか本当に歌っているのをゲーム中で聴いてみたいと思っていたので感激しました。
小金澤氏:あれはもう収録を始める前から、歌も録るという前提でお願いしていました。
近藤社長も絶賛のメッセージ自動送りモード。“会話の間”は手動で調整!?
――システム面も大きくリニューアルされた「空の軌跡」Evolution版ですが、原作を手がけた近藤社長が実際プレイしてみての感触をお聞かせください。
近藤氏:やはり細かいところのユーザーインターフェイスが遊びやすくなっていますね。元が10年以上前のゲームですから。中でも地味だけど効いてくるなと思うのが、メッセージの自動送りです。ボイスの話とも関連するのですが、テキスト量の多いゲームなので、プレイしているとイベントを見ながらお茶を飲んだりお菓子を食べたくなるんですよ。そういう時に自動送りにしておくと、お菓子を食べるかメッセージを送るか悩まなくて済みますので(笑)。
これは便利なので、「軌跡」シリーズの続編には絶対入れようねと言ったら「いや、今やろう」という話になって、それで(自社タイトル最新作の)「東亰ザナドゥ」にも付くことになりました。
小金澤氏:自動送りは結構こだわっています。ボイスを普通に会話として聴けるように、“間”を全部調整してるんですよ。
――自然に会話しているように聞こえるな……とは思っていたのですが、あれは手動調整なんですか!?
小金澤氏:ある程度はオートですけど、普通に作ると会話と会話の間にコンマ何秒の空白が発生するんですよ。
近藤氏:流して見ていると、ちょっと不自然になるんですよね。
小金澤氏:でも不自然なのは避けたいので、空白を詰める形で調整しています。開発には最初は反対されたのですが、「いや、そこはやろう」という話をしまして。
近藤氏:その結果、普通にアニメを見ているような感覚になるんですよ。やっぱり機械的に送るだけではああいう形にはならないと思います。「Evolution」シリーズって、そういうチューニングを「軌跡」シリーズのボリュームでやっているのが凄いなと思います。
――プログラムが凄いのかと思ったら、実は人の手が入っていたと……。
小金澤氏:そうですね。例えば「……」と表示される所が短くて、パッと次に進んでしまったりすることがあるのですが、そういう所を全部チェックした上で、「ここはもっと長くしよう」といった調整をしています。
近藤氏:台詞の前に付く場合もですね。レーヴェなどは「……ふむ」とか、よく「……」付きで喋り出すんですけど、そこはやはり“溜め”がないと(笑)。
新たなプレーヤーに向けてゲームバランスは丁寧に調整。「SC」ではさらなる強敵と戦えるやり込み要素も
――ここまでお伺いした内容は、「空の軌跡 FC/SC Evolution」共通のものですが、「空の軌跡 SC Evolution」での新要素などはありますでしょうか?
小金澤氏:システムに関してはほぼ「FC」で完成されていましたが、リングコマンドの位置を覚えるようにしたりとか、細かい部分は調整しています。また、チェインクラフト(「SC」からの新要素である連携攻撃)も強化したりと、ユーザーさんにとってメリットのある部分は極力対応する形にはしています。
近藤氏:パソコン向けだったオリジナル版のゲームバランスって結構きつめで、RPGをやり慣れていてもちょっと苦戦するくらいなので。我々もパソコンからコンシューマーに移っていくにつれてかなり遊び易くしていますが、そういった点をフィードバックしていただいていますね。
小金澤氏:実際、作る時は私がオリジナルのPSP版を一通りプレイして、嫌な敵とかを全部リストアップして、ここはこう調整しよう、という指示を出すんです。それで「Evolution」版ができたらまた1からプレイするんですよ。そこでちゃんと、気持ち良くプレイできたらいいかな、という。先程のメッセージ自動送りの長さなどもここでチェックしています。
それから「FC」では周回プレイ向けに、強い敵が守っている宝箱を配置していましたが、「SC」では2周目以降に特定の条件を満たすと、(主人公達の宿敵となる)結社“身喰らう蛇≪ウロボロス≫”のボス達が強化された状態で戦えるようになります。同じキャラクターなんですけど、エフェクトが足されて、パラメーターがめちゃくちゃ上がっています。
そして「空の軌跡 the 3rd Evolution」へ。ボイスは既に収録済み!
――先日いよいよ「空の軌跡 the 3rd Evolution」の製作決定が発表されましたが、開発はいつ頃から始まったのでしょうか。また、現在の開発状況は?
小金澤氏:「空の軌跡 SC Evolution」の受注状況が良かったため、そこで会社として開発にOKが出ました。「SC Evolution」が売れなければ当然「the 3rd Evolution」は無いよ、という話になっていたのですが、「SC Evolution」がお陰様で好評をいただきまして。
原作の「SC」と「the 3rd」はプログラムの構造という意味では似ているのですが、ゲームの流れとしてやることは全然違うので、そのあたりから手を付け始めています。本当に、今から始めるくらいの感じですね。
――そうなると発売時期の見込みは……。
小金澤氏:完成したら、ですね(笑)。来年には発売したいです。
――ボイスもかなりの量になると思いますが、こちらの収録の進捗はいかがでしょう。
小金澤氏:実はボイスに関しては、「FC Evolution」から「the 3rd Evolution」まで、最初から全部セットで録っています。
――何と、そうだったのですか。「the 3rd Evolution」まで作ると決まっていないうちに、ということですよね。
小金澤氏:作れるか、作れないかはわかりませんが、今後また録れる機会があるとは限らないので、ボイスだけは先に全部収録したんですよ。昨年の7月から12月まで、土日もほぼなく収録していましたね。
近藤氏:その辺の機動力はキャラアニさんならではなんですよね。さらに言うと、「空の軌跡 Evolution」を作るかどうか決まってないうちに、(当時)留学していてたまたま日本に帰ってきた皆口裕子さん(クローゼ役)を捉まえて先に録っちゃったんですよ。次いつ機会があるかわからないからって。キャラアニさんに「録っていいですか」と聞かれて、「いやうちはいいですけど、大丈夫なんですか」というやり取りをした覚えがあります(笑)。
小金澤氏:やはり、キャストを変えたくないという想いがありましたからね。
「空の軌跡 the 3rd」はいかにして生まれたか。「シリーズの“分岐点”となる作品を」
――続いて近藤社長に、オリジナルの「空の軌跡 the 3rd」開発時の思い出などをお伺いできればと思います。「空の軌跡」開発開始当初、「the 3rd」までは予定になかったのではないかと思いますが……。
近藤氏:なかったですね。元々は「空の軌跡 FC/SC」が終わったあとは、そのまま帝国編を作るつもりだったんですよ。ただ「FC/SC」の物語を終えてみて、シリーズ全体をもし続けていけるとしたら、どういった内容が考えられるかという見直しを1度行なったんですね。
そうすると、帝国編をいつかきちんとやる、というのがまずあるのですが、ただ物語を進める中で、クロスベルという地域が元々設定していたものとしてあって。さらには共和国の方がどうなっているのかという情勢も複雑なものが見えてきて。そこで今後、シリーズを色々な方向へ進めていくための“分岐点”的なタイトルを出せないかな、というのが「the 3rd」の始まりだったんです。
シリーズ全体の物語が今後色々な方向へ展開していくというのを、ユーザーの方々にも踏まえて遊んでいただいた方が、より帝国編が盛り上がるだろう、という思惑もありました。例えば帝国のキーパーソンであるオズボーン宰相がどういう人物であるのかを描くとか、さらには「SC」で登場したケビンの顛末もですね。それをゲームシステムとしてどう落とし込んでいくか考えた結果、ああいったエピソード集的な体裁になっていったんです。
「the 3rd」なしでいきなり帝国編に入ってもよかったんですけど、結果的には、「the 3rd」があるからこその帝国編となったと思います。結構怖そうな場所で、怖いおっさん(オズボーン)が居て(笑)。どんな場所なんだろう、となりましたので。
ただ帝国が舞台の「閃の軌跡」を実際にプレイした方は、ちょっと意外に思われたのではないでしょうか。結構普通の人達が暮らしていて、主人公達も割ときちんと青春していて。帝国、思ったより怖くないなと。でも、その裏では「the 3rd」で描かれていたような、何か大きくて黒いものが蠢いていて、その上での主人公達の学生生活だったんだな、とうのが描けたので、そういう意味でも「the 3rd」の存在意義はすごく大きかったと思います。
とはいえ「the 3rd」のあとは結局、(「零の軌跡」、「碧の軌跡」で描かれた)クロスベルの方に行ってしまったわけですが(笑)。やはりクロスベルという地の上に、帝国が大きくのしかかっているという所を描いてから帝国編を描こう、という話になりまして。これも当初の予定ではありませんでした。だから「閃の軌跡」でいよいよ帝国編を描けるとなった時は、僕らもちょっと感慨深いものがありましたね。
「軌跡」シリーズの今後について直撃!「あと何作で完結するかは決まっています」
――「閃の軌跡」でその帝国編まで到達したわけですが、シリーズ全体の、最後までの構想というのは最初にどこまであったのでしょうか?
近藤氏:シリーズ全体の構想は、「空の軌跡」開発当初からラストまでできています。プロットというレベルではなく、全体の展開のメモ書き程度のものでしたが。大きな流れは最初からあった構想の通りに進んでますよ。帝国編がほぼ、予定通りの内容ですし。
ただ少しずつ更新はされています。例えば帝国編は、最初は主人公が完全に軍人の予定だったのですが、軍人という肩書きだとRPGの主人公としては色々な制約が付いてしまい描きにくいということから、士官学校の生徒に変更されました。そういうレベルでの変更は、仕切り直しのたびに入っていきますね。
――そこはやはり、新しいユーザーに向けて学園ものを、といった点もあるのでしょうか。
近藤氏:それもあると思います。特に「零の軌跡」以降はパソコンからプレイステーション・プラットフォームに移行していますから。シリーズを続けていくため……と言うとなんですが、やはり新しいプラットフォームになるべく沿った形に変わっていかなくてはという気持ちもあります。
「空の軌跡」の服装や世界観が、(「英雄伝説」の前シリーズである)ガガーブトリロジーの雰囲気を引き継いでいたのに対して、「零の軌跡」から割と近代的な服装になったりとか、世界観も少しサイバーなものが入ってきたりとか。「閃の軌跡」になったら今度は学園ものの要素が大きく入ってきたりとか、やはり場所が変われば世界観を1回リセットして仕切り直す、というのは結構意識してやっていますね。その辺は、「空の軌跡」を無我夢中で作っていた頃とは僕らも結構変わってきています。
――最後までの構想があるということでしたのでお伺いしますが、その中での今の進捗度というのは……。
近藤氏:60%です。帝国編が完全に完結したところで、6割から7割の間になると思います。
――と、いうことは次も舞台は帝国なのでしょうか?
近藤氏:はい。「閃の軌跡」というタイトルになるかは未定ですが、帝国編の登場人物達の結末はきちんと用意しようと。今、もう開発が始まっていますよ。
――主人公は「閃の軌跡」と同じくリィンでしょうか?
近藤氏:その辺は情報を待っていただきたいと思いますが、リィンはまだまだ謎を残している人物なので、出てこないということはあり得ないですね。必ず登場しますし、彼に関する謎も必ず解明されることになります。
――ちなみに、発売時期については……。
近藤氏:それはまだですね(笑)。
――なかなか出てこない共和国も気になりますが……。
近藤氏:共和国は帝国やリベールとはまた文化圏が結構違って、民族的にも多種多様な国家ということになっていますので。しっかりと力を溜めて繰り出さないといけないかなと思っています。
――ということは、帝国の次が共和国とは限らない?
近藤氏:いや、共和国かもしれませんよ?(笑) 帝国の動向があって、共和国がそれに対応していく、という所が確実に出て来ますので、流れで描くのであればやはり、帝国の次は共和国になるでしょう。ただ、その過程で必要な話が出てくれば、クロスベル編のようにワンクッション入るかもしれないので、確実に共和国とは現時点では言えませんが。
実の所、完結まであと何作という所までは決めてあります。前後するとは思いますが。それで、この地域とこの地域を舞台にやりましょう、という所まで見えていて。そういったシリーズ後半の大きな流れを作るのが帝国編なんです。そういう意味ではやはり、シリーズとしては佳境に入っているのかもしれませんね。
――そこまで決まっているのですね。
近藤氏:もっとも、“あと何作か”というのはまだスタッフの一部しか知らないんです。はっきり宣言するとそれはそれで、引き返せなくなることもありますので。ただ、振りまいてきた謎や伏線というのは確実に回収されていきますし、それは次回作でも結構大きな進展があると思います。ウロボロスの“盟主”が誰かというのも、どこかできちんとはっきりさせますよ。
シリーズのこれからに向けて、押さえておきたい原点。「今からプレイするなら『Evolution』がベスト」
――それでは最後に、お2人から「軌跡」シリーズや「Evolution」のファンへ向けてメッセージをお願いします。
小金澤氏:「Evolution」シリーズも「空の軌跡 SC」で4作目になるので、「零の軌跡」と「碧の軌跡」、「空の軌跡 FC」で良かった点を全部盛り込み、プラスアルファの要素も込めた集大成の作りになっています。いま、キャラアニで考える最高のRPGになっていますので、ぜひユーザーの方にはそれを楽しんでもらえればと思います。
近藤氏:「空の軌跡 FC/SC」って本当に(開発に携わった)僕らの原点でもありますし、それから「軌跡」シリーズの原点でもあります。ちょうど次回作の話が出たついでにお話しますと、例えば「SC」ではエレボニア帝国とリベール王国のしがらみのようなものが描かれますが、そこはやはり、次回作でも大きく関わってくるんですよ。そして「SC」の時点では謎だったもの、オズボーン宰相の思惑といったものが、ようやくそこで描かれます。その辺のリンクというのはかなり緻密にやっていますので、やはりシリーズをセットで遊んで、おさらいしてほしいですね。
とはいえシリーズが長くなっていくと、最初に作ったものがどんどん古くなってしまいます。「閃の軌跡」から入ってくださったお客さんもたくさんいらっしゃいますが、そういった方が今から「空の軌跡」シリーズを遊んでいただくなら、「Evolution」シリーズがベストだと思います。
これだけの同じ期間、同じ世界観で物語が受け継がれていくRPGってなかなか無いと思うんですよ。そういう醍醐味を知るにも「Evolution」はとてもいいタイトルだと思いますので。このような形で新しい環境で遊べるように作っていただけるというのは、制作者としても非常にありがたいですね。そういった部分もユーザーさん達と共有して、シリーズ全体で前に進めるといいなと考えています。
――ありがとうございました!