PS Vitaゲームレビュー「英雄伝説 空の軌跡 FC Evolution」

空の軌跡 FC Evolution

イベントフルボイス・新グラフィックとプレイアビリティ向上で現代に蘇る“軌跡シリーズ”の原点

ジャンル:
  • ストーリーRPG
発売元:
開発元:
  • キャラアニ
プラットフォーム:
  • PS Vita
価格:
5,184円(税込)
発売日:
2015年6月11日

 2004年にPCでリリースされた「英雄伝説 空の軌跡FC」から最新作の「英雄伝説 閃の軌跡II」まで、10年以上7作品に渡って架空世界“ゼムリア大陸”で生きる人々を描き続けてきたRPG“軌跡シリーズ”。シリーズの途中でPCからコンシューマへ移行し、PCゲーム黎明期より数々の名作をリリースしてきた日本ファルコムがより広く知られるきっかけともなった記念碑的なシリーズだ。

 その原点である第1作「英雄伝説 空の軌跡FC」が10年の時を経て、「英雄伝説 空の軌跡FC Evolution」としてリニューアルを果たした。シリーズ第4・5作をPSPからVitaへパワーアップ移植した「英雄伝説 零の軌跡 Evolution」、「英雄伝説 碧の軌跡 Evolution」と同じくキャラアニ企画・日本ファルコム監修によるもので、イベントフルボイス化に加えてキャラクターグラフィックの一新、システムも後の作品での改良がフィードバックされ新要素も追加されるなど、文字通りの“進化”を遂げている。

 技術革新による激動の時代を舞台に、個性豊かな人物達によるドラマを描いたシナリオはそのままに、現代的なプレイアビリティを獲得した本作。シュールなネタの数々で人気を博したアニメ「みんな集まれ!ファルコム学園」(本作リリースに合わせ、原作漫画を日替わりで読めるスマホアプリが公開されている)で軌跡シリーズを知り興味を持った方から、最新作「閃の軌跡II」でシリーズが大きな転機を迎え、改めて原点を見つめ直してみたいと思った方(筆者もその1人である)まで、幅広くお勧めできる作品となっている。

 原作はリリースから10年が経ち既に評価を確立している作品であるため、本稿では主にEvolution版での変更点に着目して紹介していこう。

“導力”と呼ばれるエネルギーの発明により技術革新の最中にあるスチームパンク風の世界が舞台。平和な小国“リベール王国”に住む少女エステルと少年ヨシュアが、人々からの依頼に応えて調査や戦闘をこなす“遊撃士(ブレイサー)”を目指す所から物語は始まる
フリーシナリオ的にさまざまな依頼(サブクエスト)をこなしつつ、各地域で起こる事件を解決しながら物語が進んでいく

キャラクターの立ち絵を一新、新たにイベント絵も追加され物語を彩る

 ゲームを開始するとまず目につくのが、キャラクターグラフィックスの一新だ。主人公のエステルとヨシュアを始め、すべての立ち絵がすっきりとしたデザインにアニメ塗りと、現代風のテイストにリファインされている。

 ただ古参ファンの中には、イラストレーター・椎名優氏による柔らかいタッチのイメージイラストと、そのテイストをベースにした立ち絵に愛着を持つ方もいることだろう。とはいえ、10年にわたるシリーズの中で、主要登場人物のイラスト刷新は何度も起きており、古参ファンならむしろ慣れたものとも言える。

 今回の新イラストも、オリジナルを上書きしてしまうものではなく、新たな一面を見せてくれるものと好意的に受け止めたいところ。筆者も発表当時は「癖がなさすぎてキャラが薄く感じるかも?」とやや不安もあったが、実際にプレイしてこれまでと変わらず豊かな表情を見せるエステル達を見ているうちに、すっかり気に入ってしまった。今では「この整ったデザインでTVアニメ化してくれないだろうか……」と思うくらいである。

 さらに、マップなどの3Dグラフィックスにも手が入っており、ディティールが向上。より丁寧に世界が表現されている。

オリジナル版(左、画像はPS3向けにHD化された「英雄伝説 空の軌跡FC:改 HD EDITION」のもの)とEvolution版(右)の同一シーン。キャラクターはもちろん、背景グラフィックにも注目

 また、新たにイベント絵も追加。旅の途中での日常的なワンシーンや、シリアスな名場面がイラスト化されている。比率としてはコミカルなものが多く、新鮮な解釈でキャラクターを描き出している。一方、戦闘時の必殺技“Sクラフト”の発動時はカットインイラストが追加されており、キャラクターのさまざまな魅力がイラストにより引き立てられている。

イベント絵はシリアスな名場面にも用意されているが、全体的にはコミカルなものが多め
“Sクラフト”発動時のカットインイラスト。発動演出の決め所でアクセントとして表示される

キャラクターの魅力を再発見できるイベントフルボイス。BGMはオリジナルを尊重しつつ絶妙にアレンジ

 Evolution版の特徴である、イベントフルボイス仕様は「空の軌跡 FC Evolution」でも健在。メインシナリオに加えてサブクエストでも、フルボイスでイベントを楽しめる。エステル、ヨシュア、オリビエなど後の作品や関連作品で比較的声を聴く機会が多い主要キャラクターについてはイメージ通りの好演で、オリジナルからのファンとしては「あの名シーンが声付きなら」という夢が叶って感慨深い。

 加えて、これまで声を聴く機会が限られていたキャラクターや、新たに声が付いたキャラクターも多く、キャラクターの新たな魅力を引き出している。

筆者独断による“ぜひボイスを聴いてほしいキャラ”7選
シリーズ屈指のトリックスター・オリビエ。子安武人さんによる快演・怪演の数々を存分に堪能できる。オリビエファン長年の夢だった“初登場シーンで実際に歌う”もついに実現
王立学園の生徒クローゼ。CVは皆口裕子さん。代表作の多いベテランだがゲームで言うと「Kanon」の秋子さんと「ラブプラス」の寧々さんがとくに有名か。クローゼはこうしたお姉さん、お母さんキャラより若い役だが、包容力と気品では引けを取らない。とろけるような甘いボイスがプレーヤーを包み込む
商業都市“ボース”のメイベル市長。今作で初めてボイスが付いたキャラクターで、CVは2012年デビューの木戸衣吹さん。凛としつつも可憐さとお茶目さを併せ持つ、イメージにぴったりの声と演技でキャラクターへの愛着が増す
“リベール通信社”の記者・ナイアル。ものぐさなオッサンと敏腕記者の両面を、「クレヨンしんちゃん」のひろし役でお馴染みの藤原啓治さんが好演
“リベール通信社”のカメラマン・ドロシー。CVは「とある科学の超電磁砲」の白井黒子役など、1度聴いたら忘れられない中毒性のある声で魅せる新井里美さん。マイペース個性派のドロシーにピッタリで、ドロシーの天然ボケに振り回されるナイアルという2人の掛け合いも、声がついてより臨場感のあるものに
放蕩王族・デュナン公爵の執事フィリップ氏。CVは数々の年配役をこなす麻生智久さん。しみじみと染みる演技により苦労人ぶりがさらに際立っている
王都グランセルの闘技場受付のお姉さん。妙に色っぽい。立ち絵のある主要キャラクター以外も、イベント中は声が付く

【「空の軌跡 FC Evolution」ボイスサンプル動画】
上記7名に加え、主役のエステル・ヨシュアの会話シーンを抜粋

 また、50曲以上のBGMにもアレンジが施されている。「零の軌跡」、「碧の軌跡」のEvolution版では、音色なども大胆に変更した上でかなり“盛った”アレンジとなっており、新鮮に感じられる一方でオリジナルに思い入れが深いとやや違和感もあったのだが、今回はオリジナルを尊重した上で、ゲーム曲らしさを損なわない範囲で音色や音の広がりをリッチにするよう調整をかけている印象だ。

 長く聴く機会の多いフィールド曲などは原曲の旋律へ自然に繋がる形で展開が加わってもいるが、全体的には変えるのではなく、原曲の良さを再発掘しているアレンジであると感じさせられた。このあたりの好みは人それぞれだと思うが、名曲「銀の意志」をはじめ長年に渡り親しまれている曲も多いため、筆者としてはこの方針を歓迎したい。

 なお新たな試みとして、ダウンロードコンテンツの追加によるオリジナル版楽曲への切り替え機能も実装されている。オプション画面から手軽に切り替えが可能なので、聴き比べてみるのも面白そうだ。とはいえ前述の通り、Evolution版も原曲のテイストを残したアレンジであるため、原曲に思い入れのある方もいきなりオリジナル版に変えてしまうのではなく、より深みを増した楽曲の数々をぜひ堪能してみてほしい。

UIは一新。メッセージ履歴やオートモードなどシナリオをじっくり楽しめる機能も追加

 メニューなどのユーザーインターフェイスは、オリジナルのPC版、およびPC版をベースにしていたPSP/PS3版から一新。コンシューマに移行した「零の軌跡」以降と同様の、ワイド画面に最適化されたものとなっている。

 シリーズの顔とも言える、“結晶回路(クォーツ)”と呼ばれるパーツを嵌めてさまざまなキャラクターカスタマイズを行なう機械“導力器(オーブメント)”の設定画面もリニューアル。クォーツの組み合わせにより“アーツ”と呼ばれる魔法を使えるようになる仕組みだが、後の作品で実装された“クォーツを嵌めた時に使えるようになるアーツを表示する機能”もフィードバックされ、クォーツの組み合わせパズルをより手軽に楽しめるようになった。

ユーザーインターフェイスが一新。オーブメントの設定画面も最近の作品に準拠した使いやすいものに

 ほかにもさまざまな点でプレイアビリティの向上が計られているが、特筆すべきはメッセージ履歴(バックログ)の搭載。これまでのEvolution版や、本家シリーズの最新作でも搭載されていない「空の軌跡 FC Evolution」の完全新機能だ。会話などを999件まで遡って表示することができ、ボイス付きの台詞なら聴き直すことも可能となっている。

 筆者は常々、ノベルゲーム並みのシナリオ量を備えた最近の和製RPGにおいてはメッセージ履歴の必要性は非常に高いと考えており、とくに“ストーリーRPG”を謳う軌跡シリーズでの履歴実装は高く評価したい。“RPGあるある”のひとつだと思うが、ボス戦後の会話をボタンの押しすぎでうっかり読み飛ばしてしまった時なども、ボス戦前からやり直す必要がないのは嬉しい。これはぜひ本家シリーズにも取り込んでいただきたい機能だ。

 そのほか、こちらは「碧の軌跡 Evolution」からの仕様だがメッセージの自動送り機能も追加。速度調整はないが、ボイス付きの台詞はボイス再生後すぐに次の台詞が表示されるので、フルボイスのイベントと相性がよい。メッセージ表示中にRボタンでいつでもオン・オフできるので、ダンジョン探索やボス戦の後のイベントシーンなど、ちょっと息抜きしたい時にピンポイントで使うと便利だ。演劇鑑賞しているような気分でイベントを楽しめる。

 ×ボタンによるイベント等の高速送り機能も、最近の作品に準拠し3段階まで高速化できるようになった。何らかの事情で少し前からやり直したい場合などにありがたい機能だ。

メッセージ履歴は移動中にカーソルキーの下で呼び出せる。イベントの最中に呼び出せないのは残念だが、イベント終了後に押せばイベントの会話なども読み直すことが可能
メッセージの自動送り中はメッセージ枠の表示が変化する

バトルは大幅にリニューアルされ戦術性とテンポがアップ

シリーズを通じて定番となっているATバトル

 軌跡シリーズの戦闘システムは、戦闘フィールドに配置された敵・味方が入り交じって順次行動するコマンド選択型のAT(Action Time)バトル。行動順が表示される“ATバー”の横に表示されるATボーナスを活用するための行動順制御や、フィールド上での位置取り、さまざまな行動で溜まる“CP”という値を消費して発動する戦技“クラフト”の活用などがポイントとなっている。作品ごとにさまざまな独自要素が加わるが、第1作から完全3Dグラフィックス化した最新作まで、基本的な作りは変わっていない。

 ほどほどの戦術性とチームバトルの臨場感を兼ね備えたシステムとして、第1作である「空の軌跡FC」の時点で基礎は完成していたが、流石に10年前の作品ということもあり、今プレイするとシンプルすぎてやや物足りなさを感じるのも確か。そこで「空の軌跡 FC Evolution」では大幅なリニューアルが施された。

 大きな違いはATボーナスの内容だ。HP回復、クリティカル発生などオリジナルから存在していたものに加え、アーツを使う際に通常発生する発動タイムラグなしでアーツを即時発動できる“ZERO ARTS”や、攻撃を当てると何らかの状態異常が発生する“BAD ATTACK”など、後の作品から一部が逆輸入されている。

 とくにBAD ATTACKは、味方が使うともちろん便利だが、状態異常への対抗手段が少ないゲーム序盤で敵に取られるとなかなか凶悪。石化など、本来序盤で使ってくる敵は居ない深刻な状態異常にかかることもある。有利なATボーナスを狙うのはもちろん、危険なATボーナスを敵に取らせないことも重要で、敵の行動を遅延させるクラフトや、CPが100以上ある時に他のキャラクターの行動に割り込んで発動できる“Sクラフト”などを使って行動順を制御していくのが戦術の基本だ。

 一方で、ヨシュアが最初から使えるクラフト“双連撃”に毒付与効果(成功率30%)が付くなど、全体的にクラフトで状態異常を起こしやすくなっており、このあたりの調整は最新作に近い。CPを消費せずにクラフトを発動できるATボーナス“ZERO CRAFT”も新たに登場し、積極的に攻めていくのが楽しいバトルに仕上がっている。

CPが100以上溜まっていれば、敵の行動に割り込んでSクラフトを発動できる“Sブレイク”
クラフトは全体的に、状態異常効果が追加される形で強化。ガンガン攻めていくのが楽しい

 これらの変更に伴い、ゲームバランス自体も見直しが行なわれている。軌跡シリーズはコンシューマに移行した「零の軌跡」以降、難易度がやや低下傾向にあるが、「空の軌跡 FC Evolution」もこの流れを汲んでいる印象。難易度NORMALの場合、序盤こそ前述のBAD ATTACKに注意が必要だが、クラフトが揃い、装備も整ってくる中盤以降は比較的サクサク進めることができる。

 ボス戦や終盤のダンジョンではほどほどの歯応えもあるが、軌跡シリーズの伝統として敵よりレベルが低いほど取得経験値が増えるためレベルも上がりやすく、作業的なレベル上げ戦闘が必要になることはまず無い。難易度EASYも用意されてはいるが、シリーズ未経験でRPG自体それほどプレイしていないという人でも、筆者としてはNORMALでのプレイをお勧めしたい。一方、ザコ戦も含め戦闘を存分に堪能したい場合は初回プレイからHARDを選ぶのも良さそうだ。

 またゲームバランス見直しの一環として、クォーツも魔法防御力を上げる「魔防」が風属性から水属性になるなど、後の作品に合わせる形で属性や効果が調整された。アーツも一部調整が施されており、オリジナル版でオーブメントのセッティングを極めた人でも、改めて組み合わせパズルを楽しめるようになっている。

 戦闘のテンポという面では、戦闘高速化機能もポイント。これまでの作品でもSTARTボタンによる一部演出のスキップはあったが、本作では×ボタンを押し続けている間、全体的に戦闘を高速化できる。敵の移動中だけ早送りなど細かく制御できる上、高速化中もギリギリ戦況を把握できる絶妙なスピードとなるので、うまく活用すればザコ戦などをサクサク進めることが可能だ。

これから軌跡シリーズに触れるなら最適の良リメイク。「空の軌跡」三部作の総Evolution化にも期待

 10年間7作品にわたり、1つの世界観、1つの時代の出来事を描き続け、今なお新たな展開に向かっている軌跡シリーズ。RPGで長く続くシリーズは多いが、このスケールで直接の連作というのは非常に意欲的な構想だ。この大河RPGとも言えるような作品群に魅せられたファンも多く、筆者もその1人である。

 その原点と言える「空の軌跡FC」を、現代のプレーヤーでも違和感なくスムーズに体験できる本作の意義は大きい。2~3作ごとに舞台が移り変わり、それぞれ独立して楽しめるシリーズではあるが、最新作でも大活躍のオリビエや、人と人の想いを繋ぎ、悩みながらも意志を貫いていく、シリーズ全体を象徴するような人物であるエステル(筆者は彼女がシリーズ全体の主人公だと思っている)の最初の物語が描かれるのが本作。これから軌跡シリーズに触れるならここから始めるのがお勧めであるし、オリジナルをプレイ済みの人なら久々にプレイすると、きっと新たな発見があるはずだ。

 なお、原作リリースから年月が経っているため既に周知の事実だが、「空の軌跡」はFirst Chapterを表すFCと、Second Chapterを表すSCからなる事実上の前後編となっている。とはいえ、エステルとヨシュアの旅はFCでひとつの終着点を迎え、SCでは新たな旅立ちが描かれる形となるため、FCのみがEvolution化されている現状でも、プレイを躊躇する必要は全くない。むしろ今こそが、SCを待ち望んでいたFCリリース直後の空気を追体験するチャンスと言えるだろう。

 現状で「空の軌跡SC」のEvolution化について何ら発表はないが、筆者としてはあのシーンに声が付いたら、あのキャラクターの新デザインは……と想像が膨れ上がっていくのを止められない。最新作で展開されているエレボニア帝国編との関連も深い第3作「空の軌跡 the 3rd」も含め、「空の軌跡」3部作の総Evolution化を心から期待したい。

キャラクターを代表する口癖や定番のサブキャラクターなど、すべてはこの“FC”から始まった
少年少女から壮年まで、幅広い層の人物が活躍する作品。数年ぶりにプレイするとまた違った見方ができるかもしれない
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(中村友次郎)