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小高和剛氏の「キャラクターへの愛」によるゲーム制作の手法

「ダンガンロンパ」のキャラクターをいかに小高氏は愛しているか?

3月2日~6日開催



会場:San Francisco Moscone Convention Center

 「My Ordinary Process for Crafting Extra-Ordinary Stories(日本のサブカルチャーでうけるキャラクターとシナリオの作り方)」というタイトルで講演を行なったのは、「ダンガンロンパ」シリーズの企画・シナリオを手がけるスパイクチュンソフトの小高和剛氏だ。

 今回の講演では小高氏がいかにキャラクターを作り、ストーリーを作り上げていくかが語られた。なお小高氏はこの講演で「ダンガンロンパ」のストーリーを解説しているので、未プレイの人は注意して欲しい。

愛することができるキャラクターこそが、ストーリーを、ゲームを作る

「ダンガンロンパ」シリーズの企画・シナリオを手がけるスパイクチュンソフトの小高和剛氏
キャラクター作成のためにいくつものキーワードを書き出し、組み合わせていく
小高氏はPS Vitaの魅力を欧米開発者に繰り返し訴えた

 小高氏はまず講演の最初に「皆さんに一言言っておきたいことがある」と宣言してから、「PS Vitaを買おう!」とスライドで語りかけた。PS Vitaは小高氏にとって小規模の人数と、1つのアイディアでゲームが作れるハードであり、欧米のクリエイターもぜひチャレンジして欲しいハードだと語った。「そうすれば『ダンガンロンパ』ももっと売れますしね」と小高氏は言葉を続け、会場に笑いを誘った。

 そして小高氏は自身のストーリー制作の手法を語った。小高氏がストーリーで最も優先するのが「キャラクター」だという。プレーヤーはキャラクターを通じてストーリーを体験する。キャラクター同士の会話が物語を作り出し、そしてプレーヤーキャラクターの行動を表現するためにゲームシステムが作り出されていく。小高氏のストーリーテリングの“核”はキャラクターであり、そしてキャラクター生み出す際に重要視することが、「キャラクターを愛することができるか」だという。

 小高氏のキャラクター作成の手順はキャラクターの“キーワード”をできるだけ集めること。それは大別すると「バックボーン」、「外見」、「性格」の3つとなる。バックボーンは「格闘家」、「ヤクザ」、「パンク」など。外見は「ゴシックロリータ」、「ベイビーフェイス」、「シック」など。性格は「まじめ」、「ストイック」、「好戦的」などだ。

 そこから小高氏は「ダンガンロンパ」のキャラクターがいかに生み出されたかを解説し、「マイゾノ サヤカ」を、「エキセントリックなキャラクターばかりなので、正統派のヒロインを」ということで、バックボーンはポップアイドル、外見を正統派の女子学生、性格をおしとやかで、おまけに幼なじみであるというという、誰にでも好かれるような設定にした。男性プレーヤーの好みを具現化したような彼女は、ヒロインであり、探偵役となる主人公の“助手”という役割を与えた。

 しかし小高氏は、彼女にものすごい「イベント」を用意する。「ダンガンロンパ」では学園に閉じ込められたキャラクター達がお互いに「コロシアイ」をはじめ、その殺人がばれなければ脱出できるというルールが課せられる。サヤカは「コロシアイ」の第1の犠牲者となってしまう。しかもどうやら彼女は誰かの命を狙い返り討ちにあってしまい、しかも殺人の罪を主人公になすりつけようとしていたのだ。

 彼女は悪人だったのか? 小高氏は「それではつまらないし、愛せない」と語った。ゲームを進めていくと、彼女は仲間のために学園から脱出したかったこと、そのために殺人を決意していたことなどを知る。彼女の性格はあくまでプレーヤーが感じた好意的なまま、その性格故の行動だったことをプレーヤーは知る。彼女は早い段階でいなくなってしまうが、プレーヤーにとってとても印象に残るキャラクターとなる。

 小高氏は大学で映画関連の仕事を志しており、恩師に「キャラクターをコマのように使ってはいけない」といわれたことを心に刻んでいるが、彼自身の中には「コマのように使っていると“見えなければ”そのかぎりではない」という言葉を足しているという。

 作者はキャラクターをコマのように動かすことがある。しかし、キャラクターを愛することができれば、愛することができるまでキャラクターに思い入れを深くできるようにすれば、プレーヤーの心を揺り動かせるストーリーができると、小高氏は語った。

 キャラクターへの思い入れを深くさせるシステムとしては「自由行動」というシステムがあり、ここでキャラクターと一緒にいると、彼女(彼)の意外な一面や、過去を知ることができ、思い入れが深くなる。しかし「ダンガンロンパ」は生徒達がコロシアイをする世界であり、ゲームが進むと必然的にキャラクターは減っていく。思い入れが生まれたキャラクターもその例外にはならないのだ。「ダンガンロンパ」においては、その「死」さえもキャラクター表現の手段なのである。

 もう1つ、殺人を犯し、ばれてしまったキャラクターは「学級裁判」で裁かれオシオキ(処刑)される。超高校級野球選手の「クワタ レオン」はピッチングからガトリングガンのよう飛び出す白球を前進に浴びせられ処刑される。「ダンガンロンパ」のキャラクターデザインはアニメ風のかわいらしいデザインなのだが、だからこそその残酷な死に様は恐ろしい。この死に様もキャラクター表現の大事な要素だ。「すべてのゲーム要素はキャラクター表現のためにあるのが僕のやり方です」と小高氏は語った。

 「やっぱり僕は、魅力的なゲームには、魅力的なキャラクターが必要だと考えています。僕は意図的にキャラクターを中心にゲームを作ろうとしており、すべてのキャラクターを主役級に愛しています。愛があるからこそキャラクターを深く書けるし、結果としてそれがゲームに魅力を与えていると僕は思っています」小高氏はこう語り、講演を締めくくった。

【キャラクターへの愛こそすべて】
登場キャラクターはキーワードを組み合わせて作られる
理想的な正統派ヒロインである要素を組み合わせたマイゾノ サヤカだが、彼女には衝撃的な最期を迎える。そして彼女のキャラクター性を強調させる真実も明らかになる。キャラクターの死も、キャラクター表現の要素なのだ
クワタ レオンへの“オシオキ”。残酷な描写だ
キャラクターへの愛こそがゲームを構成し、プレーヤーの心を動かすと小高氏は語った

(勝田哲也)