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【OGC 2014】BBA理事 松原健二氏がOGC 10周年記念講演を実施
「ゲームには人々の暮らしを豊かにする力がある」
(2014/4/23 16:18)
一般社団法人ブロードバンド推進協議会(BBA)は4月23日、ベルサール秋葉原にて「OGC2014」を開催した。本稿ではオープニングスピーチとして行なわれたBBA理事 松原健二氏の講演の模様をお届けしたい。
「OGC」は、BBAがブロードバンド向けコンテンツの発展および推進を狙いに年に1度開催されているカンファレンス。2005年にBBAの下部組織であるSIG-OG(オンラインゲーム専門部会)の特別講演の拡大版として「AOGC(Asia Online Game Conference)」というタイトルでスタートし、内容的な変遷も経ながら今年でついに10年目を迎えた。
「OGC2014」では、この10周年を記念し、OGCの立ち上げから関わり、現在はBBAの理事を務める東京大学 生産技術研究所 特任研究員 松原健二氏が10周年記念講演を実施した。松原氏は、「信長の野望 Online」初代プロデューサーを皮切りに、コーエー(現コーエーテクモゲームス)にて数々のオンラインゲームの立ち上げに関わり、その後、コーエーテクモゲームス代表取締役社長、Zynga Japan代表取締役社長などを歴任。日本のオンラインゲーム界におけるご意見番のひとりである。
松原氏は、まずはじめにBBA理事として、OGCがスタートした2005年と現在のブロードバンド(高速インターネット回線)の普及状況の変化から紹介していった。2005年3月時点のブロードバンドの契約数は2,329万契約、このうち光回線は545万回線。松原氏は、ブロードバンドがようやく普及して、光回線もようやく入ってきた時期と説明。
一方、ゲーム業界は、「ファイナルファンタジーXI」(2002年12月)や「信長の野望 Online」(2003年6月)のローンチを経て、ようやくMMORPGが、PCゲーマーのコアな遊びではなく、一般層への認知普及が進んできた時期であることを紹介した。
このようなタイミングで始まった「AOGC2005」は、スクウェア・エニックス代表取締役社長和田洋一氏、エンターブレイン代表取締役社長浜村弘一氏(肩書きはいずれも当時)を基調講演スピーカーに迎え、毎年、業界の第一人者に基調講演をお願いしてきたことを紹介。松原氏は、AOGC2005の立ち上げの際、和田氏に基調講演を直接お願いしに行ったというが、「あれからもう10年も経ってしまったのか」と、感慨深げだった。
この間も、日本のゲーム市場は大きなうねりの時期を迎えたが、オンラインゲーム市場は一貫して成長を続け、いまやゲーム専用機のハードとソフトを合わせた金額を上回る規模にまで成長したことを報告。松原氏は「オンラインあっての日本のゲーム市場」と、自らも市場の成長に一定の役割を果たしてきたことに自負をにじませた。
次に松原氏は“本題”として、スマートデバイスとOculus RIFTという2つのテーマからゲーム業界の今後について言及した。
スマートデバイスについては、ゲーム系の講演では必ず“ゲーム機の普及台数”から入る松原氏らしく、今回も浸透スピードと普及率に着目し、スマートフォンとタブレットを中心としたスマートデバイスは、これまであらゆるゲーム機が超えられなかった3,000万台の壁を易々と突破し、5,000万台を突破してなお年間1,000万台以上が売れていることから、ゲームプラットフォームに未だかつてない状況が生まれていることを報告。
こうした状況は日本のみならず、欧米や、中国などのエマージングマーケットでも同一とした上で、松原氏は、コーエーテクモ時代から熱意を示してきたグローバル展開におけるスマートデバイスの絶大な強みについて言及した。
まず、中国市場については、コンソールゲームが国の法律で禁じられている一方で、スマートデバイスにはこうした規制がないため、国のレギュレーションを易々と超えられること。そしてこれまではグローバル展開を考える際、国ごとの流通やプロモーション等のビジネス慣習の違いに悩まされてきたが、iOSのAppStoreやAndroidのGoogle Playではワンストップで、「チェックボックスひとつでサービス開始できる」とし、デベロッパーやパブリッシャーにとってはワンストップで済むので非常にありがたいと、スマートデバイスにゲームプラットフォームが収斂しつつある現状に全面的な賛意を示した。
さらに松原氏は、ゲームプラットフォームとしてのスマートデバイスの熟成ぶりについても言及した。大前提としてスマートフォンを中心としたスマートデバイスは、ゲームプラットフォームとして「すでに十分な処理能力や解像度を備えている」とした上で、これまではタッチ操作がメインだったスマートデバイス向けゲームにUIの変化が生まれつつあるとし、フィンランドのインディーズタイトル「Oceanhorn」(iOS)を紹介した。
松原氏は「はっきりいえばゼルダ(ゼルダの伝説)をそのままゲームにしてる」と、ゲーム性については評価しなかったものの、ゲームコントローラーの操作性をスマートデバイスに持ち込んでいる点を大きく評価。松原氏の視点では、左をアナログ操作、右をボタン操作を行なう、コンソールゲームライクなスマートデバイスゲームはまだまだ少なく、これらのゲームに対して物足りなさを感じているゲームファンもおり、スマートデバイス向けのゲームもまた、ゲームコントローラーの操作性をもっともっと積極的に取り込むべきと考えているようだ。
もうひとつのデバイスとして取り上げたのがゲームに特化したVRヘッドセット「Oculus RIFT」。GDC 2013で正式発表されて話題を集め、GDC 2014では新バージョンが公開され、GDC終了直後に20億ドル(約2,000億円)でFacebookによる買収が発表されるなど、まだ商用タイトルがひとつも存在しないにも関わらず常に話題を提供してくれているゲームデバイスだ。
松原氏は、このOculus RIFTについてエンジニアとして技術的な観点からは一切語らず、日本のデベロッパーが開発した初音ミクと添い寝できる「MikuMikuSoine」と、外に出られない末期ガンの祖母に外の景色をOculus RIFTで仮想体験してもらうデモの2つの映像を披露した。
「MikuMikuSoine」について松原氏は終始苦笑しながら「やっぱりこういう方向に行っちゃうか。非常に頼もしいが、もっと色んなものを作ろうよという(笑)」と、日本人特有のオタク方面へのクリエイティビティについて一定の評価をしながら注文も付けることも忘れなかった。
祖母の映像は、ゲームではなく、Oculus RIFTが備える広視野角、表示能力の高さを活かしたVR的な活用デモとなる。松原氏はこれをあえて見せた理由について「ゲームを作る立場からすると、お客さんに楽しんでいただいて感動を届けたい。ビジネスをするためにガチャを作ったり、IPを取り入れたりするが、ゲームは人に感動を届けることができるし、活用の仕方によって、人の暮らしを豊かにすることができる。これがゲームの力であり、ゲームが持つパワーを活かして、人々の暮らしを豊かにしていくことがゲームの進むべき道ではないか」と語り講演を終えた。
MMORPGのプロデューサーからゲーム業界のキャリアをスタートし、数々のオンラインゲームの立ち上げに関わり、現在は東大の研究員としてちょっと距離を置いている松原氏らしい講演と言える。