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【GDC 2013】ガンホーCEO森下氏が語る「面白いゲームの作り方」

その秘訣は100%運? いやいや、他にもあります!

3月25日〜29日開催(現地時間)

会場:San Francisco Moscone Center

CEOで企画開発部門統括の森下一喜氏

 「パズル&ドラゴンズ」が空前の大ヒットを続けているガンホー・オンライン・エンターテイメント。そんな状況を反映してか、CEOで企画開発部門統括でもある森下一喜氏の講演「100%Fun:Keeping Players Engaged」は大きな会場だったにも関わらず、満員御礼の盛況だった。

 「パズル&ドラゴンズ(以下、パズドラ)」の開発については、2012年のCEDECでプロデューサーの山本大介氏が講演しているが、今回は開発裏話というよりは、「パズドラ」を作るに至った理由やガンホーという会社がゲームやユーザーとどんな風に向き合っているのかを熱く語った。

ヒットするかは「100%運」。でも「100%面白い」ゲームを目指す

浅草サンバカーニバルのコスプレ姿。この姿で来たら伝説になったかも
ガンホーとそのグループ企業が手がけているタイトル。PC向け、家庭用、スマートフォンと幅広い
「100%面白い」ゲームを100%オレンジジュースに例えて説明
開発の社員も多く参加した、浅草サンバカーニバル

 森下氏は最初に、コスプレ姿で来られなかったことを謝罪し、「ガンホーは簡単に言うと真ん中くらいの会社です」と自社を紹介した。ガンホーといえば「ラグナロクオンライン」のイメージでオンラインゲームの会社と言うイメージが強いが、「グランディア」シリーズのゲームアーツ、「忍道」のアクワイア、「ロリポップチェーンソー」のグラスホッパー・マニファクチュアなどコンソールのメーカーをグループ会社に持つ総合的なゲームパブリッシャーだ。

 「1999年に最初の会社を作り、主にオンラインゲーム用のSDKを受託開発していたが、敢えなく失敗し、2002年に起業したのがガンホーです。10年やってきて、いい時もあれば悪い時もあった。どうしたら面白いゲームを作ることができるのか、どうすればヒットゲームが作れるのか、正直未だにわかりません」と率直な一言。さらに「パズドラ」がヒットしたのは「100%運です」と言い切った。「ああしたからヒットしたとか、こうしたからヒットしたというのは、後からならいくらでも言えます。でも作っている間はただ必死に作っているだけで、理屈とかロジックをあまり考えずに開発しています」ということらしい。

 確かに森下氏が言う通り、儲かる方法に明確な答えがあるなら、世界中のデベロッパーやパブリッシャーはみんな大金持ちになっているはずだし、「GDC 2013」の入場料はもっと高いはずだ。錬金術は存在しないので、毎年集まってああだこうだと話し合いが続いているのだろう。

 とはいえ、そういは言いつつもやはりヒット作の裏には一本筋の通った考え方があるものだ。森下氏はスマートフォンゲームを作る時、その通底に非常にシンプルな考え方を持っている。それは「100%面白くなるよう徹底して作っている」というもの。「最高に面白くなるまで何度でも考え直します。面白くなさそうだったらその場で中断します。面白くないゲームを会社の都合でリリースしても、なにもいい結果を生まないという過去の反省があるからです」。

 かつてガンホーは、オープンβテストまで行なった「ラグナロクオンライン2」が、完成度の低さから発売中止となり、すでに販売していたチケットを払い戻すという手痛い失敗を犯したことがある。自分も苦しみ、部下も苦しめながらいいゲームは作れないと悟った森下氏は「まずは自分がゲーム作りを楽しまないと、人を楽しませることはできない」と言う。

 現代社会において、ゲームは映画やテレビなど他の娯楽産業と限られた余暇の時間を奪い合っている。氾濫するエンターテイメントの中で、これが一番面白いと手に取ってもらうのは大変なのだ。ただし、と森下氏は付け加えた。「面白さは人それぞれで、誰もが違う基準を持っています。だからセオリーはなく、感覚を大事にしています。自分が面白いと思ったことを基準にしています」。

 ガンホーの社員は2012年の浅草サンバカーニバルに出場して40度の猛暑の中、40分間踊り続けたのだそうだ。森下氏も出場し、今年はさらにグレードアップした踊りを見せるという。踊り子の中には開発陣も多く含まれており、遊びを本気で楽しむという会社の姿勢を周囲にアピールした。

ゲームデザインの前提となる5つのモットー

ゲームデザインをする上で重要な5つのモットー
国内だけで1,100万ダウンロードを記録した大ヒット作となった
「パズドラ」プロデューサーの山本大介氏
最初は横画面のゲームとしてデザインされていた
特に苦労した部分である3マッチのパズル要素
スマートフォンゲームはスナック

 ここまではある意味正論で、理想論でもある内容だったが、一息ついた後は「パズル&ドラゴンズ」を例に具体的なゲームデザインの発想プロセスを紹介した。ガンホーでは「革新的、直感的、魅力的、継続的、演出的」という5つのモットーをもとにゲームデザインを行なっている。

 「革新的」は今までユーザーが体験したことがないゲームを作ること。または、既存のルールをミックスしてプラスアルファを付け足したもので、ユーザーにサプライズを提供することだ。

 「直感的」であることは、スマートフォンゲームの開発では特に留意しなければならない。スマートフォンのユーザーはゲームをプレイしたことがなかったり、ゲームのリテラシーが低い人が多いので、UI(ユーザー・インターフェイス)を含めて、より分かりやすくする必要がある。とはいえゲームを触った時の楽しさ、操作性はスマートフォンだからといって手を抜ことはない。

 「魅力的」な部分は「ゲームデザインの革新になる面白さ」。ここには世界観やキャラクターデザインが含まれる。

 「継続的」であることは、オンラインゲームやスマートフォンゲームにとっては非常に重要な要素だ。ただ継続して遊べるというだけではなく、長期にわたってユーザーにサービスを提供するためのホスピタリティが欠かせない。

 「演出的」というのは、ユーザーが目標を達成する為のロードマップをきちんとゲーム内で表現してあげること。ユーザーが目標を達成したときには、喜んでいるユーザーをさらに褒めてあげることで満足感を高めることができる。

 これらの5つのモットーに加え、森下氏が重要視するのが「コンセプトからのプロトタイプ開発」だ。「パズドラ」は山本氏と2人だけで企画を始めた。「日本には死ぬほどたくさんカードゲームが氾濫しています。そうした市場に嫌気がさしたのも、企画を始めた一因です。革新的なカードバトルゲームを作ろうと思って、そこからスタートしました」。

 森下氏は山本氏に1週間で企画を考えてくるようにオーダーを出し、山本氏は2つの企画書を作ってきた。そのうちの1つが「パズドラ」の原型になった。「とにかく最初は2人で約1カ月くらい企画を煮詰めました。その間は一切マネタイズとか、KPI(重要業績評価指標)という言葉は使われませんでした。どれだけ面白いかという所にだけ徹底的にこだわっていました」。

 実は「パズドラ」は最初横画面のゲームとして考えられていた。しかし片手で持てる方がより直感的に操作してもらえるという理由で縦画面になった。縦画面にしたことで、下をパズル、上にダンジョンゲームライクな画面というデザインが固まった。

 「ゲームデザインでもっともこだわったのは、3マッチパズルの部分です。もともと3マッチパズルは隣同士で交換しますが、自由に動かせるようにしたのはコンソールライクな触感にこだわりたかったからです」。パズル部分だけで4回の作り直しを経て、現在の形に落ち着いた。「正直いって、この動きが作れたのはプログラマがこの動きを実現させるためにがんばってくれたからです」。ガンホーの開発陣は、スマートフォンチーム、コンソールチームと別れているわけではなく、プロジェクトごとに必要な人材をチームにまとめるという方法で、コンソールだけ、スマートフォンだけにノウハウが偏ることを避けている。「パズドラ」はスマートフォンゲームだが、そこにはコンソールゲームのノウハウがしっかりと活かされているわけだ。

 修練度と偶発性のバランスも、ゲームを作るうえで注意すべき点だ。森下氏が考える理想のゲームデザインは、なるべくユーザーに努力をしてもらうというもの。「一生懸命がんばってもらうことをゲームデザインに盛り込んでいます。かといって努力ばかりになると、逆にユーザーが離れてしまうので、偶発性を入れます」。

 「パズドラ」は繰り返しプレイしているうちに次第に慣れていて、コンボをうまく作れるようになってくる。しかし、アクションやパズルが苦手だという人でも、落ちてくるドロップ次第で簡単に勝ててしまうことがあるという、運の要素も入っている。逆に運のウエイトが大きくなりすぎると、戦略性やユーザーの努力を否定することになってしまう。だからこそ、この2つの要素のバランスが重要になる。

 「スマートフォンはスナック菓子だと思います。コンソールはいわばメインディッシュ。スナックは暇つぶし感覚で楽しめます。僕もポップコーンが大好きなんですが、何度も飽きずに食べますよね。スナックでもやはりおいしくないとだめ。もちろんメインディッシュもそうで、結果的にはどちらもおいしくないとだめです」。

 このカジュアルゲームをスナック菓子に例える感覚は非常に重要なのだと森下氏。例えば10分間の暇な時間に遊ぶゲームなら、5秒で1回のターンが終わるくらいがいい。10分しかないのに10分掛かるゲームで遊ぶのはナンセンスです。パズドラは4秒で1ターンが終わるようなショートタームでゲームを考えています」。しかし、あっさり分かりやすく、しかも短時間で決着がつくゲームでは飽きられるのも早い。そのためにRPG要素をゲームに織り込むことが、継続プレイの為に必要だと考えているようだ。

運営はテーマパークのような「おもてなしの心」で

運営にとって重要なのは「おもてなし」の心
2012年2月に開催した「パズドラファン感謝祭2012」

 ゲーム開発の後は、運営の話に触れた。ガンホーは「ラグナロクオンライン」を通じて長い運営会社としての経験を持っている。森下氏は「おもてなし」という言葉で日本式のホスピタリティを説明した。「どんな面白いゲームでも、サービスが悪いとユーザーは離れていく。特にオンラインゲームは、ずっと継続するサービスなので、そのサービスに問題があるとユーザーは離れます」。森下氏は、おもてなしはテーマパークのようなものだと言う。「東京ディズニーランドは常に質の高いサービスを提供しており、リピート率は90%にもなります。我々はゲームの中で同じようにおもてなしの心を重要視しています」。

 「パズドラ」では、ゲーム内でトラブルがあり、臨時メンテナンスが行なわれた際に、SNSや様々なウェブサービスで情報を提供するとともに、課金アイテムのマジックストーンを無料で配布している。課金アイテムの使い方を覚えてもらえるという効果もあるが、「普通トラブルが起こると文句を言われるのに、マジックストーンが欲しくて早くトラブルを起こしてくれと待ち望むお客様もいます」という逆転現象すら起こっている。

 「パズドラ」は他にも、デイリー、ウィークリー、マンスリーとユーザーを飽きさせないよう、常に豊富なイベントを用意している。オフラインイベントにも力を入れており、4月にも大規模なイベントを東京で開催する予定。「オンラインだけではなく、オフラインでもユーザーと接点を持って、我々のユーザーがどういう人でどんな言を考えているのかを知るためにアプローチしていくことが重要だと思っています」。

 パズドラは森下氏が「見たことがない」というほど高い継続率やDAU、MAUを記録している。だが「今まで言ったことはあくまでも結果論であって、これが参考になるかどうかというと、ならないのではないかと思っています。実はあまり社長業をしていなくて、基本的には開発にどっぷりハマっています。面白いことを思いついたら、こっちの方が面白いから仕様を変更しようと言います。もちろん開発中に仕様を変えると、時間もお金もかかりますが、へんに予算を意識していたら、どうしても判断がぶれるのです。現場では判断できないこともあるので、トップ自身がクリエイティブのトップをするのが一番いいと思います」。

 森下氏はゲームを開発するとき、なんと予算も事業計画も立てないのだそうだ。「ただ面白いと思うゲームがあったら開発してみるというスタンスです。お金は非常にナイーブな話ですが、費用や期間が決まっていると、どうしてもこだわり抜けなくなるので、つねに躊躇せずに仕様を変えようと言います。たぶん現場の開発者はとんでもない社長だとおもっているでしょうが、こうしているからこそ安心してクリエイティブに専念できるという部分もあります」。

 そんな森下氏も一度はマネジメントに専念しようとした時期があった。しかし、それはいい結果を生まなかった。苦しんで悩み抜いた結果「面白いゲームを作ろう」という結論にたどり着いた。「面白いゲームを作っていれば、誰かが認めてくれ、誰かがプレイして、その面白さを周囲に広めてくれます。そういった運を掴めればいいと思っています」。事実、「パズドラ」は1,000万ダウンロードを超えるまで積極的なプロモーションは行なっておらず、ユーザーによるバイラルがヒットにつながった。

スナックもメインディッシュもたくさん作っていきたい

世界のパートナーとともにゲーム業界を盛り上げていって欲しい

 今回は「パズドラ」を引っさげてのセッションだったので、スマートフォンアプリの話に終止したが、コンソールにも変わらず力を入れていくつもりだと語る。「今年で40歳になりますが、この年まで大好きなクリエイターに囲まれて一緒にゲームを作れるということを、本当に幸せだと思っています。10年かけてようやくそれがわかりました」。

 メインディッシュばかり作っていては飽きるし、スナックもたくさん作っていきたいという森下氏。セッション終了後の質疑応答では、海外版「パズドラ」の欧米IPとのコラボも臭わせる発言が出た。日本ではなにかと問題になることの多いガチャについては、「我々はあくまでもユーザーを補助するためのものだと思っています。ガチャでいいモンスターやアイテムが手に入ったからといって、すぐに強くなるわけではなく、それを使うためにユーザーにがんばってもらおうと思えるように設計しています」。

 森下氏は「これからも全世界のクリエイターと、面白いゲームを作るライバルでもあり仲間として、一緒にゲーム業界を盛り上げていきたいです」とセッションを締めくくった。セッション終了後も多くの人が会場に残り、中にはサインを求めている人もいた。海外でも「パズドラ」は人気で、ワールドワイドのAppStoreやAndroidマーケットでもトップセールスを記録している。元気がないと言われることが多い日本のゲーム業界だが、こうして気を吐く姿を見ると同じ日本人として励まされる。面白いゲームを作りたいという1つの目標に向かって、会場全体が一体化したような心地よさを感じた。

(石井聡)