【CEDEC 2012】ガンホーのヒットiOSアプリ「パズル&ドラゴンズ」

“嫁レビュー”が生み出した成功エネルギー




ガンホー・オンライン・エンターテイメント「パズドラスタジオ」プロデューサーの山本大介氏

 AppStoreで110万ダウンロードを達成したiOS用パズルRPG「パズル&ドラゴンズ」の誕生秘話を語るセッション「パズル&ドラゴンズ ~嫁と開発と私~」では、ガンホー・オンライン・エンターテイメント「パズドラスタジオ」プロデューサーの山本大介氏がソーシャルカードゲームに負けない10の開発指針を語った。

 現在進行形でヒット中のゲームだけに、「CEDEC 2012」の会場内でもスマートフォンやタブレットで「パズル&ドラゴンズ」を遊んでいる姿を多く見かけた。このレポートでは、そんなヒットアプリ誕生の秘密に迫ってみたい。





■ スマートフォンのソーシャルゲームを成功に導くための10のヒント

「パズル&ドラゴンズ」のゲーム画面

 「パズル&ドラゴンズ」はパズルとRPGゲームを組み合わせたゲームで、画面下のジェムを3つ並べて消すことでモンスターと戦ってダンジョンを進んでいく。戦ったモンスターは手に入ることがあり、入手したモンスターを合成して強化できる。モンスターには属性があり、ジェムの消し方で弱点を突いたり、強力なスキルを発動させられるほか、戦闘には自分のチーム以外に、ランダムに選ばれる他のユーザーのモンスターを1匹動向させられる。2012年2月20日に配信を開始して以来、ずっとトップランクを守り続けているヒット作だ。

 そんな「パズル&ドラゴンズ」の10の開発指針は、ベストセラーになった「犬と私と10の約束」という本にちなんで、「ゲームと私の10の約束」という形で発表された。ゲームが開発者に対して守ってほしい10の約束という形で書かれている。

(1) 私と気長につき合ってください

 「パズル&ドラゴンズ」は「絶対面白い」という思いだけで立ち上がった。そのため「開発は超楽しい、継続開発も超楽しい」という幸せな状態だ。運営のコツは、楽しいことが1番なので、企画を考える際には自分が面白いと思うもの、作りたいと思うものを考えるべき。

(2) 私の面白さだけを見てください。それで私は幸せです

 ゲームのキモをしっかりと作れば、ソーシャル性や射幸性に頼らなくても、ゲーム性だけで遊んでもらえる。

(3) 私の売り方だけは考えておいてください

 ゲーム内の何を売りたいのか、3から4つくらい考えておく。あまり細かく考えすぎると、後半のチューニングの時に邪魔にしかならないので注意。

(4) 遊んでくれないのには理由があります

 山本氏自身、プレイ前にやめたくなるような要素はすべて廃止した。具体的には、ユーザーネームが重複で登録できない、メールアドレスのような大事な情報を要求してくる、無駄なウェブページにリンクしたりしてすぐにゲームを始められないなど。ユーザーネームは、管理のために重複を禁止しているゲームが多いが、3回もはじかれるとそのまま離脱してしまうので注意が必要だという。

(5) 有料販売クオリティで私を開発してください

 「パズル&ドラゴンズ」はもともと170円で販売する有料アプリとして作られた。この価格はApp Storeではかなり高めの部類。この価格で提供する覚悟で最後まで作りきったことが、現在のヒットにつながっているのではないかと推測された。

(6) ソーシャルゲームを否定しないでください

 ソーシャルゲームというだけで毛嫌いしている人もいるが、ソーシャルゲームにも面白い要素がたくさん詰め込まれている。「パズル&ドラゴンズ」には、山本氏がソーシャルゲームで遊んだ際に面白いと思った要素をかなり取り入れている。もしソーシャルゲームを作ることになったら、しっかりとプレイして楽しさを感じるべき。

(7) 1番遊ばせたいところはサーバーで管理してください

 「パズル&ドラゴンズ」でも、ダンジョン生成アルゴリズムなどはすべてサーバーで管理している。そのためプラットフォーマーの都合に振り回されることなく、自由に追加や調整が可能になる。

(8) 私にも限界があることを忘れないで

 やり過ぎたチュートリアルや情報発信は、通信の回数が多くなってしまい嫌がられる要素になる。「パズル&ドラゴンズ」では公式HPの攻略記事や公式ツイッターへのリンクを貼って、ユーザーが必要な時に信頼できる情報に触れられるようにしている。正確なデータはないが、これが継続率のアップにもつながっていると推測されている。今はほとんどのユーザーがネットでゲームの情報を調べるが、調べているうちに怪しいサイトに誘導されてしまうくらいなら、公式で攻略方法を用意してあげるべき。

(9) あなたには家族や友達がいます

 「パズル&ドラゴン」では社内の意見に加えて、開発スタッフ全員の嫁に頻繁に意見を聞いた。この通称“嫁レビュー”がカジュアルゲーマーの多いスマートフォンで成功できた秘訣となった。

(10) お願いです。どうか私たちをパクらないでください

 コナミの「ドラゴンコレクション」の大ヒット以来、ソーシャルゲームがカードバトルものばかりになった現状について、山本氏はこのままでは将来好きなゲームが作れなくなるのではないかと危惧した。「今後もしソーシャルゲームやスマホで開発されることがありましたら、5年後10年後に本当にゲーム市場があるのか、ちょっとだけ考えて企画検討してほしいです」とコメントにも危機感をにじませた。



■ 開発スタッフ全員の「嫁レビュー」でカジュアルユーザーの意見を取り込む

「太鼓の達人」とのコラボレーション

 「もともと僕は万人受けするゲームを作れるタイプではなかった」と山本氏。本作はそんな山本氏の「この企画は絶対に面白い!」という思い入れから始まった。発想の原点になったのは2011年に出会った洋ものアプリ「Dungeon Raid(ダンジョンレイド)」。Alex Kuptsovという海外のデベロッパーが作ったパズルゲームで、一筆書きのようにタイルの同じマークをなぞって消していく。タイルには剣やコイン、回復薬、モンスターという種類があり、ターン終了後にモンスタータイルが残っているとダメージを受ける。

 山本氏によればパズルゲームなのにダンジョン探索型RPG「ローグ」のプレイ感を再現しているところが画期的で、感動してかなりやりこんだそうだ。このゲームを遊んで、これが次のスマホアプリ開発のトレンドになると確信した。

 当時のスマートフォンゲームは既存ゲームのインターフェイスをスマホ向けに直しただけのものが多かった。しかしこれからは最初からスマートフォン向けに作らなければだめなのではないか。「パズル&ドラゴンズ」はパズルでRPGのターンバトルを再現して、誰でも遊べるRPGを目指そうというところから始まった。

 最初は画面を横向きにした洋物っぽいデザインだったが、社長の「日本人はみんな鳥山明さんのドラゴンで育っているんだよ」、「日本の女子の携帯はテクマクマヤコン持ちだよ(縦持ちという意味らしい)」という言葉でゲームのデザインが変わっていった。ゲームに対するこだわりが強すぎて、普段はあまり人の意見を聞かないという山本氏だが、「まず面白さ、売り上げはその後」という社長の言葉に共感したという。そして子供ができて父親になったことも好影響を与えたのかもしれないと考察した。

 プロトタイプを作った時点では、カジュアルゲーマーと、昔はRPGで遊んでいたが今はあまり遊ばなくなった20~30代のサラリーマンをターゲットにしていた。「そんなカジュアルなユーザーが好きなパズルは?」ということで「Bejeweled Blitz」や「ZOOKEEPER」のような、隣同士を入れ替えて3つをそろえる3マッチパズルを考えていた。

 ところが、できたプロトタイプを山本氏の妻(=嫁)にプレイしてもらったところ、ジェムを一気に遠くに運ぼうとするという、山本氏が全く想定していなかったプレイを披露してくれた。目からウロコとなったこのプレイがきっかけになって、「パズル&ドラゴンズ」のキモとなるコンボのコンセプトが生まれた。「当初はコンボが強すぎて、ゲームバランスが崩壊してしまったのですが、最終的にドロップの待ち時間という概念を持たせることで、修練と達成感を保つベストバランスになりました」と山本氏は話した。

 「パズル&ドラゴンズ」ではターン性バトルのようにじっくりと戦術を考えられるようになっていて、代わりに動かせる回数に制限がある。制限時間性にしなかったことが、結果的に大成功だったと語った。この嫁にプレイしてもらう“嫁レビュー”はその後も威力を発揮した。ジェムの数を6段×5個か7段×6個かに決めかねていた時にも、少ない方が誤動作が少ないという嫁レビューの結果で6段×5個に決めた。

 普段全くゲームをしない嫁の意見を取り入れたことで、当初は想定していなかった初心者ユーザーという新たなターゲットが生まれた。さらに、コンボ技を極めるゲーマー層もターゲットになった。結果「当初予定していたターゲット層の倍くらいが取れるようになりました」。今ではゲーム初心者だったユーザーもコンボを楽しむようになった。

 この経験から、山本氏は「カジュアルゲーマーはゲーム性なんか求めていないというのは間違いで、普段ゲームで遊ばない人にゲームの面白さを知ってもらうまでへの配慮が、ほんの少し足らないだけなのではないか。アルファの段階で家族に遊んでもらうことで、ヒットの可能性を高めることができるのではないか」と語っていた。

 「パズル&ドラゴンズ」は現在はiOSだけのサービスだが、ちょうどセッションがあった日に、この夏Android版が発売されるというリリースが流れた。また現在はバンダイナムコゲームスの「太鼓の達人」とのコラボが行なわれており、次はスクウェア・エニックスとのコラボが決まっている。さらに秋以降はゲーム以外のマルチメディア展開も予定されているようだ。またコンシューマ版も準備段階に入ってるそうで、iOSという枠を超えて今年は「パズル&ドラゴンズ」の旋風が吹き荒れそうだ。


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(2012年 8月 21日)

[Reported by 石井聡]