グリーステージ ビジネスセッションレポート

gumi今泉氏、カプコン杉浦氏、グリー土田氏がソーシャルゲームの“進化”を語る


9月20日~9月23日 開催(20日、21日はビジネスデー)

会場:幕張メッセ1~8ホール

入場料:前売り1,000円、当日1,200円、小学生以下無料


 「東京ゲームショウ 2012」の初日にあたる9月20日、グリー株式会社はグリーブースステージにて「ゲームの進化は止まらない」と題したトークセッションを開催した。

 登壇したのは、株式会社gumi執行役員の今泉潤氏、株式会社カプコンCS開発統括 東京制作部部長の杉浦一徳氏、そしてグリーゲームクリエイターの土田俊郎氏。モデレーターはゲームジャーナリストの新清士氏が務めた。登壇した3名は現在ソーシャルゲーム制作に関わっているが、それぞれはもともと映像業界、オンラインゲーム、コンソールゲームといった異なる分野での経験と知識を有している。

 今回テーマに掲げられたのは、ソーシャルゲームはこの先どう進化していくのか、ということについて。共通の意見があったり、少し違う認識があったりしながら、それぞれが見据えるソーシャルゲームのこの先について語られていった。



■ ガチャ、カードバトル、Free to Play。ソーシャルゲームの現在


gumi執行役員の今泉潤氏
カプコンCS開発統括 東京制作部部長の杉浦一徳氏
グリーゲームクリエイターの土田俊郎氏
ゲームジャーナリストの新清士氏

 トークショーは、まずガチャやカードバトル型とったソーシャルゲームの目下の話題に触れていった。

 今泉氏はガチャシステムの行く末を「どうなるかわからない」としながら、「とにかく今を積み重ねて、もっと面白くするにはどうするかを考えていくしかない。その中でも画期的なものは生まれるし、『パズル&ドラゴンズ』はその典型例」だと話した。カードについては「カードシステムと言っても、イラストのモチーフによってユーザーの傾向が変わる。見た目のかっこよさだったり、他タイトルとの差別化はここでできる」と、ジャンルで一括りにできないことを述べた。

 対して「モンスターハンター フロンティア オンライン」などでオンラインゲーム運営の実績のある杉浦氏は、「どちらかというと複雑なゲームを作っていた人間からすると、ソーシャルゲームのシンプルさには不安を感じることもある。ただ、オンラインゲームやその他で培ったサービスや機能がまだソーシャルゲームに活かされているとは言えない状況なので、もっと幅はあると思う」とソーシャルゲームの印象を語った。

 もともとトレーディングカードゲーム企業の出身である杉浦氏は「トレーディングカードゲームがいまだに衰退していないのは、本腰を入れて頑張っているところがあるからこそ。勢いがあるからやってみようかなという理由では、長くは続かないし、力の入れ方でタイトルやジャンルの寿命に違いは出てくる」とし、ブームのカードシステムは「全くなくなるということはないと思うが、ある程度ブームになると類似品が出てきて、淘汰がはじまる。生き残りには、ブランドや中身など何かキーワードが必要になってくるはず」と話した。

 土田氏はソーシャルゲームの印象について「1人でも多くの人に届けられるような、誰でもはじめられるシステムはいいところ。またリリース後、ログデータを見て遊び方を予測することができるので、リリースしてからのアップデートのスピードが勝負になっている」と話した。

 コンソールゲームのクリエイター出身の土田氏は、カードバトルに感じるのは、バトルで勝つために、「このカードがほしい」と思うことだったり、デッキを育てたいという欲求や仕組みの部分に面白さを感じているという。そこで同日に土田氏が発表した「Project Fantasm:A」を引き合いに出し、「そういった楽しさをなるべく引き継きながら、コンソールゲームならではのストーリーの奥行きや攻略したいという声に応えられるような、ハイブリッドなものを目指している。それが今見えている進化の形かな」と語った。

 またソーシャルゲームの特徴と言えば、無料モデル、つまり、Free to Play方式のビジネスモデルがすっかり主流となっている。このビジネスモデルの変化について杉浦氏は「ゲームが本当に面白いかどうかが勝負になる」と話した。

 売り切りタイプのコンソールゲームは言わば“買わせれば勝ち”のようなところがあるが、Free to Playでは実際に遊ぶという過程が入る。遊んだ上で、さらにお金を払ってくれるのであれば、本当に評価してくれたと言える。「Free to Playは、クリエイターの腕試しになる。やってないで批判しているクリエイターには、まずやってみろと言いたい」と語気を強めた。

 今泉氏もFree to Play方式に価値を見出しているという。今泉氏は前職の映像業界の話を持ち出し、例えば映画では、大量広告によって名前さえ知られていれば、「あの映画は面白いかも」となってしまったり、また以前に担当していた深夜ドラマでは、最初から視聴率など取れるはずがないというところから、「面白さってなに」と悩んでしまったそうだ。

 しかし、Free to Play方式であればチャンスの機会はある。とりあえず遊んでくれれば、価値を見出してもらえる可能性がある。そして価値を見出してくれたのであれば、それは売上へと繋がる。今泉氏は「ソーシャルゲームはお金の支払いが面白さに直結し、面白さが数値化できている」ところが素晴らしいと語った。

 これを受けて土田氏は、「面白さをどう数値化するのかは大きなテーマで、お金のかけ方が面白さ、というのは近似値だとは思うが……」と意見がほぼ一緒であることを示しながら、「大事なのは、どれだけ面白さを伝えられるか」だと述べた。

 1人でも多くの人にお金を払ってまで面白いと思ってもらうために、どうやってその面白さを伝えれるか。クリエイターとして、「伝え切った」と感じられたならば、そこに価値があるのでは、と土田氏は話した。



■ ソーシャルゲームにスペックは必要か?


三者三様の意見が次々と話されていった

 続いて、話題はスマートフォンのスペックの上昇についてへと移った。今泉氏はスペックが上がってくると、「やはりゲーム会社は強い(笑)」と感じているそうで、「ベンチャー企業としては、とにかくスピードをもって手探りするしかない」と述べた。

 最近では、スマートフォンの需要が伸びている中で、今泉氏はあえてフィーチャーフォンの特徴に注目しているという。今泉氏が考えるスマートフォンにはないフィーチャーフォンの特徴は、ズバリ“ノールックプレイ”。

 フィーチャーフォンではボタンの位置がどこかわかるので、他の場所を見ながらポチポチできるのが本質の1つだったと分析した。「画面を見ていないとできないゲームの答えの1つが『パズドラ』だった。“ノールックプレイ”をスマホで対応させたら面白いなと思う」と今の考えを少しだけ明かした。

 杉浦氏は、スペックの上昇は必ずしもいいとは限らないとして、グラフィックスの例を挙げた。グラフィックスのリッチ化は、「フィーチャーフォンのゲームはコンソールゲームに比べるとあまりに差があるのである程度は必要」だとしながら、「オンラインゲームの面白さは継続率だとよく話しているが、継続率とグラフィックスはあまり関係がない。ゲームが面白ければ継続してくれる」と話した。

 リッチにすれば工数やコストがかかるし、ハイエンドなものを作っても採算が取れるか保証はできない。であれば、その時ターゲットにした客層にいかにして継続的に遊んでもらえるかを考え、分析した上で、最適な解を出すべきではないかということだ。

 そのような中、土田氏は株式会社コナミデジタルエンタテインメントと協力して「メタルギア ソリッド ソーシャル・オプス」を作っている。本作はソーシャルゲームならではのカジュアルなカードゲームでありながら、スマートフォンの中で「メタルギア」のキャラクターたちがコンソール版の3D表現とほぼ変わらない形で登場するところに特徴がある。

 土田氏は「メタルギア」シリーズが時代の最先端のハードウェアで常にかっこいい絵作りとゲーム演出を作り出してきたという歴史を踏まえながら、「そういったゲームのファンをがっかりさせたくなかった」と語った。本作は、端末のスペックの後押しもあって、いかにして「メタルギア」を表現し切るかが目標の1つだったという。

 ただし、それも「程度問題」だと述べた。杉浦氏が語ったように、それで負担を強いるのであれば本末転倒であるし、折り合いの付け方が大事になる。土田氏によれば、「メタルギア ソリッド ソーシャル・オプス」では、サクサクとゲームを動かすのに相当苦労をしているという。「お客様を待たせないで、かつ画面が綺麗になるなら、少しずつリッチなものを提供するのはいいかな」と語った。



■ バリエーションが増えてこそソーシャルゲームの進化


最後はそれぞれの話に熱がこもり、予定時間が延長された

 話が後半に差し掛かると、再びガチャの問題について語られた。日本だけで特に流行しているガチャシステムは、海外に進出した際に制限される可能性もある。社会問題として取り上げられて以後、ゲーム制作の幅は狭まったのか、という話題だ。

 今泉氏は、「狭まったのかもしれないが、制約の中でクリエイティブで解決するのが仕事。ルールに則ったもので面白いものを作りたい」と話した。

 一方で杉浦氏は「影響はない」と断言した。マネタイズの面では、意地でもガチャというシステムを乗り越えるという気概が必要で、マネタイズの依存率は4割程度に抑えつつ次の方法を創出しないと進歩がないという。ガチャのバリエーションや確率を考えるよりも、新しいマネタイズを考えるべきだとした。

 また「運営の基本は納得させること」だとして、ユーザーから文句が出るのもガチャの確率がちゃんと表記されておらず、納得しないからこそ文句を言われるのだと述べた。「何年も前から表記しろと言われていて、ようやく最近になって皆さんやり出した。なぜ表記できないかというと、レアの確率が0.1%じゃ回してくれないよね、みたいな邪な気持ちがあるから。お客様はバカじゃないですから、納得できるマネタイズを考えてほしいと思います」と話した。

 すると今泉氏が「杉浦さんに怒られるかもしれないが、ガチャは面白いと思っていて、種類を増やすのもアリだと思っています」と話した。注目しているのはUFOキャッチャーで、「UFOキャッチャーはものすごく商品がもらえない。が、面白い。なんであれが法律に引っかからないのかと思うくらいだが(笑)、あのような達成感を入れ込んでいけたら」と語った。

 また最近登場した「ボックスガチャ」というガチャシステムにも触れ、ファミリーレストランなどに置いてあるカードダスを1台回しきった時にその面白さを実感したのだという。「ボックスガチャ」は、あらかじめ設定された残りのレア枚数が表記されていて、全部を引き切る過程では必ずレアリティ最高度のアイテムがもらえるというもの。

 今泉氏は「カードダスを引ききったときには達成感があった。むしろ途中から、『このカードダスは俺が育てているんだ』くらいの気持ちになった。この感動を、どう受け取ってもらえるかを考えたい。制約の中で遊びを作って、健全性も保っていきたい。ひるまないで面白いものを作るのがエンターテイメントだと思う」と話した。

 社会問題とも結び付けられるソーシャルゲームだが、土田氏は、「ゲームはこんな時代だからこそ必要だし、そんなゲームを作る仕事はいい仕事だと思っている。ソーシャルゲームが流行して、店先でゲームが売れない時代にゲームをやる人が増えたのは嬉しかった。やはり、ゲームをする人たちのことを第1に考えて作っていかなくては」と述べた。

 また土田氏は、「ソーシャルゲームは色々な形で注目されているが、変わっていく時期に来たのかなと思う。例えば支払いでも、フリーで遊べたり、場合によっては5,000円、あるいは1万円で遊べたりと、そういった配慮が行き届き、バリエーションが増えることによって、遊びの広がりだったり、満足度であったりが進化していくのではないか。そういった進化を突き詰めていきたい」と話した。


(2012年 9月 22日)

[Reported by 安田俊亮]