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サイバーコネクトツー、「アスラズ ラース」の開発プロセスを講演

「Unreal Engine 3」を導入した演出特化ゲーム開発事例


4月24日開催

会場:COEX


 韓国ソウル市で開催されている「NDC 12」の2日目にあたる4月24日、会場では株式会社サイバーコネクトツーの下田星児氏が登壇し、同社が開発したプレイステーション 3/Xbox 360用タイトル「アスラズ ラース」における「Unreal Engine 3」導入事例に関するセッションを行なった。

 「アスラズ ラース」は、体験型連続活劇アクションというジャンル名が付けられている通り、アクションシーンと演出映像が交互に繰り返されながらストーリーが進むアクションゲーム。男同士の燃え上がるようなぶつかり合いを激しく描いており、その演出は暑苦しいほどに過剰でありながら、日本のアニメ的表現の魅力が方々に散りばめられている力作だ。

 下田氏は、サード・パーティーのゲームエンジンとなる「Unreal Engine 3」をどのように導入し、「アスラズ ラース」を制作していったのかを語っていった。この記事では、このセッションの模様をお伝えする。



■ アーティストがスクリプトまで組める開発環境を実現

株式会社サイバーコネクトツーの下田星児氏。下田氏は「NDC 12」において唯一の日本人登壇者となった
何よりも映像演出を重視できる環境の実現が決定打だったという
「アスラズ ラース」のスクリプト。チャート式になっており、演出の移り変わりが見た目でわかる

 下田氏は、まず「Unreal Engine 3」を選んだ理由は、「アスラズ ラース」がプレイステーション 3とXbox 360というマルチプラットフォームにおけるゲーム制作を前提としていたことと、社内で使用していた3Dアニメーション制作ソフト「3ds Max」との相性がよかったことだったと話した。

 そして最も決定的になった理由は、このタイトルが“演出”重視だったために、アニメーションを作るアーティストの映像演出的感覚がゲーム制作の上で重要な役割を果たすと判断したからだそうだ。「Unreal Engine 3」は、ゲームプログラムのスクリプトを視覚的に組めるという特徴がある。これにより、アーティストがゲームの中心となる演出部分のプログラムに対して大きく関われるようになったそうだ。

 下田氏は、「Unreal Engine 3」の「Kismet(キスメット)」と呼ばれるスクリプト部分もスライドで提示してみせた。ここでは、特に演出が激しくなるプレイアブルシーンとQTE(クイック・タイム・イベント)が交互に繰り返されるシーケンスが例として紹介されており、一定の条件に進んだ時に入り込むQTE、入力判定、成功演出などとわけられたスクリプトがチャート式に並んでいた。これによってプログラマーでなくても演出のはっきりと流れがわかるようになっている。

 それまではゲームの進行を決めるのは主にプログラマーが担っていたが、「アスラズ ラース」のプロジェクトではプログラマーの人数が限られていた。しかし、アーティストやゲームデザイナーが主導的にゲームの進行を決められたことで、そういった問題も解決できたという。


プレイアブルシーンとQTEが次々と進行していく「アスラズ ラース」のゲーム画面。これらのシーンのスクリプト部分にもアーティストが直接的に関わっているという

スケールアニメーションを実装させるプラグインは自社制作をしたという

 次に下田氏は、「Unreal Engine 3」を扱うにあたって工夫した点について述べた。ここで焦点になったのは、先ほども話題に上った「3ds Max」についてだった。「3ds Max」で作ったものを「Unreal Engine 3」にインポートするには、Epic Gamesから出されている「Actor X」というプラグインが利用できる。そこまでは相性がいいのだが、スケールアニメーションの出力は対応していないため、オブジェクトの移動と回転しか情報がインポートされないという問題があったという。

 そこで下田氏は考えられる解決方法として、「Actor X」を改造したり、「Unreal Engine 3」そのものを改造して使うといったことを挙げたが、これらのツールはゲーム制作中にもアップデートが重ねられるほか、もし1度改造を始めてしまった場合、その後の制作にリスクが生まれるため避けたそうだ。

 最終的には、スケールアニメーションを「Unreal Engine 3」にインポートさせられるプラグインを新たに作ったという。下田氏は、「実装の仕方としては回りくどいかもしれないが、アーティストはこれまで通り『DCC Tool』で制作できるし、エンジンのプログラム部分に直接手を入れることにならなかったので、結局はやりやすかった」と話した。


スケールアニメーションを入れることで「アスラズ ラース」独特の演出が確立されている

 実際の作業では、オブジェクトの移動と回転をアニメーションで見たアーティストが、そこに表現を誇張するような演出をスケールアニメーションによって加えていったという。例えば、「アスラ」がこちらに向かって手を下から振り上げる動作があったとする。この時、アーティストが手をただ振り上げるだけでは表現が“弱い”と思えば、手が振り上がる瞬間に、「アスラ」の腕から先にスケールアニメーションを加えて膨張させるようにする。

 こうすることで、「アスラ」の手が画面にぐわっと寄ってきたようになり、このシーンはより強烈な印象を持ったものとなる。下田氏は、「アーティストが入力や操作を一元してできるようになった。強調表現の制作にはぴったり」と語り、演出とプログラム作成が上手く融合できたと語った。

 以上のようなことを繰り返しながら制作された「アスラズ ラース」は、制作チームの役割分担にも影響を与えたという。もともと社内にはゲームデザイン、レベルデザインを兼任できるアーティストが多めにいたそうだが、「アスラズ ラース」の制作ではアーティストの役割がスクリプトを組むというプログラマーの領域にまで広がり、それと同じようにゲームデザイナーの役割も広がったという。

 ではプログラマーは仕事がなくなったかというとそうではなく、それでもカバーしきれない必要不可欠な部分に特化して専念できるようになった。「これは大きな変化」と下田氏は語り、役割分担の人数に制限のあるプロジェクトでも、この体制である程度は柔軟に対応できるのではないかと、いい結果が得られたことをアピールした。


上段から、スケールアニメーションのなし、あり、そして完成版。腕が巨大化したものを横から見ると少し滑稽だが、映像的な演出として魅力的になっているとわかる

サード・パーティーのゲームエンジンを導入することは、その“思想”を受け入れること。それは大変なことだが、その大変さが後々の財産になる、と下田氏は語った

 下田氏は、外部のゲームエンジンを使うことについて、それは「他の会社のノウハウでゲームを作ることと一緒」として、その時に最も大事なことは「自分のやり方を押し通すのではなく、そのエンジンの思想を理解すること」だと語った。

 下田氏はこれまで、日本の大手のゲーム会社が外部のミドルウェアを使ってことごとく途中で失敗し、別のゲームエンジンに乗り換えたものや発売そのものが中止になった例を見てきたという。

 他社のゲームエンジンを使って問題が発生した時は、それぞれのゲーム会社の経験があるのでつい改造してしまいがちだが、ゲームエンジンは「思想そのもの」のため、その改造によって設計思想が崩れ、結局は後々のアップデートなどに対応できなくなる羽目になる。

 しかし、パラメーター1つにもその構造の意味を読み解いて受け入れていくことで、その後の開発チームに残る経験やノウハウはその先の財産になると下田氏は話した。下田氏自身も、いままでの開発環境で効率化が図れていない部分に気づいたそうだ。

 下田氏は、よく他社からミドルウェアを使った開発について聞かれるそうだが、その時は必ず「今までのやり方を変えなくてはいけないくらいに大変だが、大変だからこそやってみることをおすすめしている」そうだ。

 最後に下田氏は「NDC 12」について触れ、参加者が真剣な眼差しで受講する様子を見ながら、「ゲームの新しい面白さを求めて取り組んだ人たちが、一堂に会して意見を発表し合うのは素晴らしい」としながら、日本の開発者向けゲームカンファレンス「CEDEC」を引き合いに出して「同じ空気を感じた」と話した。

 下田氏は「(直前に行なわれた)『マビノギ 英雄伝』の講演を見て、いい勉強になった。来年も開催されるのであれば弊社からも何人か連れて勉強しに来たい。日本と韓国では共感できる部分も多いと思うので、積極的に交流できれば」と、ゲームカンファレンスの有意義さを語った。


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(2012年 4月 25日)

[Reported by 安田俊亮]