韓国NEXON、ゲーム開発者向けカンファレンス「NDC 12」を開催
「三国志を抱く」開発者が目指す、スマホ時代のオンラインゲームのあり方
韓国NEXONは4月23日から、韓国ソウル江南地区のコンベンションセンターCOEXにおいて、ゲームカンファレンス「NEXON DEVELOPERS CONFERENCE 2012」(以下、NDC 12)を開催した。このカンファレンスは4月25日まで3日間行なわれる。
「NEXON DEVELOPERS CONFERENCE 2012」はNEXONが毎年開催しているカンファレンスで、今回で6回目。4回目までは自社内のみで行なっていたが、昨年の5回目から社外の開発者向けにも行なわれるようになった。NEXONと関連会社の開発者に加え、韓国のゲーム開発者数千人に受講を呼びかけ、さらにゲーム開発者、ゲーム開発希望の学生の応募を受け付け、3,500名が一般参加として受講できた。NEXON側では3日間で1万人の受講を見込んでいるという。ちなみに、受講資格を満たしていれば、料金は無料である。
カンファレンスはCOEXの6つのルームで行なわれ、1日で36以上、全部で144ものセッションが行なわれる規模の大きなものだ。韓国国内向けのカンファレンスだが、今回は日本のメディアを招いて、一部のセッションで日本語同時通訳が行なわれた。受講できたセッションを中心に取り上げていきたい。
■ 「情報交換を活発に、共に世界有数の企業へ」。今回のキャッチフレーズは「Go together」
NEXON代表取締役社長のソ・ミン氏 |
ソ氏の目指す未来。赤いバーが任天堂で、右側の大きく伸びているのが、韓国オンラインメーカーだ |
提示されたキャッチフレーズ「Go together」 |
「NDC 12」の初日である23日では、基調講演に先がけ、NEXON代表取締役社長のソ・ミン氏が登壇し挨拶を行なった。ソ氏は最初に「料理人は、ニューヨークで働きたがるという、傾向があります。それは何故でしょうか」と会場に語りかけた。それは世界中から“レシピ”が集まるからだという。韓国の有名な伝統料理は、料理の味の秘密は、家族にすら教えない。また、料理人になるには長い下積みが必要で、なかなか料理はさせてくれない。しかしニューヨークでは、ベテランが駆け出しに料理方法を聞き、自分の料理方法を隠すことなく伝え、研究していく。
「東洋と西洋の文化の差かもしれないが、ゲームもニューヨークの料理のように、秘宝を忌憚なく開陳し、知識を共有し、共に学ぶべきではないか」とソ氏は語った。「皆さんが認めているように、オンラインゲームが始まったのは韓国です。無から、私達が努力し、オンラインゲームという文化を創り上げました。現在、K-POPや映画などで韓国ブームと言われていますが、私達はそれより10倍、20倍の輸出実績を出しているのです。このことは、ゲームの開発者皆さんが、誇りを持っていいものだと思います」とソ氏は語った。
さらにソ氏は、雇用効果での実績等も含め、韓国におけるオンラインゲームが生み出した社会へのプラスの効果を上げた上で、「この実績は、まだ初期のものである」という。ソ氏は世界のゲーム会社の売り上げを提示し、韓国No.1のNEXONでも任天堂などのメーカーと比べるとまだまだだ。
ソ氏は、「早く行こうとしたら1人で行き、遠くに行こうとしたらみんなで行け」というアフリカのことわざを引用し、「だからこそ世界のゲームメーカーに肩を並べるために、私達は努力しなくてはならない」とソ氏は語り、今回の「NDC 12」のキャッチフレーズである「Go together(共に)」を強調した。ソ氏は韓国内で開発者、開発会社が協力することで、世界のトップ企業以上に共に成長していきたい、と語った。ソ氏の言葉に、受講者は拍手を送った。
「NDC 12」は今回のキャッチフレーズの「Go together」の通り、NEXONと関連会社のスタッフによるゲーム開発で得たノウハウなどを紹介するだけではなく、NC SoftやBlizzard Entertainment Korea、EPIC GAMES Korea、Neowizなど多数のメーカーから開発者が登壇し、セッションを行なっている。144のセッションの内、93がNEXON関連で、51がその他のメーカーとなる。ちなみに日本からもサイバーコネクトツーの開発者による「アスラズ ラース」開発に関するセッションが予定されている。
扱われるテーマは、「ゲームの開発段階でハッキングに備える」、「物理エンジンのゲーム内への導入について」、「地形を自動生成するツールの作り方」、「成功させるゲームを作るためのチーム作り」……実際の開発から、チーム運営、教育プログラム、投資を考えたゲーム作りなど多岐にわたっている。
NEXONはソーシャルゲームや、ブラウザゲーム等の他、「国内外ゲーム投資環境変化とNEXONの方向性」といった、自社の方向性に関することまで様々なテーマのセッションを展開していた。特に力が入れられていたのが「マビノギ英雄伝」で、ジャイアントの「カロック」のコンセプトや、導入までの経緯の説明や、“ドラゴン”という定番の素材に、「マビノギ英雄伝」ならではの存在にするための試行錯誤などが語られた。目玉となるのは弓を使う新キャラクター「カイ」の登場で、韓国の「マビノギ英雄伝」ではカイの存在が多くのファンを獲得し、大きなヒットとなっているという。こちらは後日、別原稿で紹介したい。
どのセッションも、受講者は非常に熱心で、会場に用意された席では足らず、立ち見が出て、さらに会場から人が溢れるほどのセッションもあった。全体的に登壇者も含めて若い人が多く、韓国ゲーム業界の“勢い”を感じさせられた。1企業が行なうカンファレンスとしては、異例の規模であると感じた。
ちなみに先にも書いた通り、NDCの受講料は無料であり、一般参加者も応募審査に通れば受講できる。オープニングの後、別室で行なわれた韓国メディアによるソ・ミン氏への質疑応答では、「GDCのように、受講者からお金を取るビジネスにはしないのか」という質問がでた。ソ氏は「NDC自体、他のスポンサーを呼んでない。利益を求めたビジネスではなく、これからも料金は取らない。規模は今後ともこれから拡大していきたい」と答えた。
また、「日本のメディアを呼んだのは何故か」という質問に対しては、「各国のNEXON関連会社にも声をかけたが、答えたのが日本だけだった」とのことだ。ソ氏はここでもこれから世界に広げていくオンラインゲームを作るために、韓国国内の開発者が力を合わせていく必要性を強調した。
今回、日本のメディアを招待した事も含めて、「NDC 12」は、GDCと似た勉強会ではあるもの、企業アピールという方向性も強いと感じた。それでも、積極的に開発者の交流を促し、ノウハウを開陳する姿勢は、評価したい。開発者達の交流の機会は、様々な形で増えて欲しいと感じた。
【会場の様子】 | ||
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会場の様子。どのカンファレンスも盛況だった。高度な技術系のものから、ユーモラスに失敗談を話すものなど、ユニークな雰囲気のカンファレンスもあった |
■ 基調講演は「三国志を抱く」開発のキム・テゴン氏による、「スマホ時代のPCオンラインゲーム」
Ndoors常務理事のキム・テゴン氏 |
PC偏重ではなく、スマートフォンとPC版で同じものを目指す |
グラフィックスはダウングレードさせながらも、比率なども全て遜色なく再現する |
「NDC 12」の4月23日に行なわれた基調講演では、「アトランティカ」を手掛け、現在は「三国志を抱く」を開発するNdoors常務理事のキム・テゴン氏が登壇し、「スマホ時代のPCオンラインゲーム」というテーマで語られた。
最初にキム氏が開発中の「三国志を抱く」を紹介したい。本作は、「三国志」をモチーフにしたMMORPGで、プレーヤーは魏、呉、蜀のどれかに所属し、三国志の英雄達を配下にして中原で勢力を拡大していく。韓国ではWindows版、iOS版、Android版の今年の上半期までのサービス開始を目指して、開発を進めており、5~6月でテストを行なう予定だ。日本へは今年の下半期の予定だという。
最初にキム氏はPCオンラインゲームの優位性を語った。開発が容易で、ハードにより制約が少なく、他国への展開もしやすかった。それに比べ、これまでのモバイルゲームは、キャリアによって仕様が違い、ハードの性能も低かった。しかしここに「スマートフォン」というハードが出現する。このハードにより、特に若い世代は目に見えてPCを使う時間が減っている。この状況は、PCオンラインゲームの危機的状況ではないか、とキム氏は指摘した。
一方、PCオンラインゲームはコンテンツはドンドン複雑化し、開発費も上がっている。魅力的だった中国市場は中国のオンラインゲームに押され、韓国のゲームは売れなくなった。そして、ブラウザゲームという、開発費をかけずとも、ユーザーがお金を使うゲームが生まれている。スマートフォンのゲームも同様で、PCオンラインゲームの新規タイトルの開発しづらい状況になっている。
その状況の中で、「私達PCオンラインゲームの開発者にとって、スマートフォンゲームは、敵ではなく同志としてみるべきだ」とキム氏は指摘した。「私達はスマートフォンには詳しくはないが、運営に対しての知識がある。だからこそ、“ハイブリッド”のゲームが作れるのではないか」とキム氏は提案した。
スマートフォンの大きな利点は、「いつも持ち歩けること」。キム氏はPCでプレイしながら、他の時間はスマートフォンでプレイできるゲームを目指すことを考えた。ここで考慮するのが、スマートフォンのゲームはPCオンラインゲームの機能を削ったものにするか、両方同じ機能を持たせるというものだ。
キム氏は後者で行くことにした。機能を削ったバージョンでは、結局ユーザーはプレイしない。スマートフォン版は、PC版のオマケではないと判断したのだ。スマートフォンユーザーにもアピールできるゲームにしたいと考え、同じ仕様のゲームを目指した。
PC開発者にとって、スマートフォンの性能は非常に低いと感じるものだった。このため、グラフィックスをコンパクトにしていかなくてはならない。最初からスマートフォンへの展開を考えた開発を行なっていった。この時には、Web 3Dのブラウザゲーム開発のノウハウが非常に役に立った。
スマートフォンはPCと違い、通信が不安定にもなる。このため、通信を補完していくようなシステムも構築した。ユーザーインターフェイスに関しては、情報をできるだけ少なくし、操作も簡単にした。敵に襲われたときには何をすれば良いか、必要な操作がポップアップする。
バッテリーの消費も大きな問題だ。経験値稼ぎ、お金稼ぎのプレイ時間を割かなくても、NPCに命令を出すことで、ゲームが進む様にする。一方、ゲーム内での状況の変化は、ユーザーに告知するのだが、スマートフォンはいつでも友達に連絡が取れるため、より友達に自分の状況を伝えやすい、というメリットも生まれた。
コンテンツそのものだけではなく、配信も問題がある。QAへの配慮もしなくてはならいし、有料アイテムも、アップルストアなどを介さなくてはならないなど現在取り組んでいる課題も多い。サービス地域によって、年齢制限が問題になる場合もある。
こういった課題は多いものの、開発者は時代の変化に対する柔軟な対処が求められる。「PC+スマートフォンのハイブリッドゲームは、時代への有効な対応策の1つだ。これは確かな答えではないが、アイデアの1つとして活用して欲しい」と、キム氏は基調講演をこう締めくくった。
■ キム・テゴン氏インタビュー。停滞したオンラインゲームに新しい風を
講演の後、キム・テゴン氏にインタビューを行なった |
基調講演の後、さらにキム氏に、「三国志を抱く」に関して日本のメディアで合同インタビューをすることができた。最初の質問は、今回の基調講演のような「PC+スマートフォンのハイブリッドゲーム」が生まれる状況に関しての、キム氏自身の感想を聞いてみたのだが、「スマートフォンの普及は、私の想像を大きく上回っていた。これは他国に比べても早かった」とキム氏は答えた。
その中で、スマートフォンに展開するにあたり、「ブラウザゲーム」の存在は、“クッション”として働いたという。開発側は、従来のクライアント型のゲームから、ブラウザゲーム開発のための変化を求められていた。キム氏のチームは従来のブラウザゲーム以上のものを生み出すべく、特にデータ転送において、ブラウザに合わせたゲームの最適化を行なっており、これがスマートフォンへの展開へ有効だったという。
現在開発体制としてはPC版でのアップデート内容を1週間でスマートフォン版へ移植し、1週間でQAを行なう事を目標にしている。こういった作業は内部のもので、Windows版、iOS版、Android版は全て同時にリリースされる予定だ。
ちなみに、日本展開にあたっては、「日本のプレーヤーの“三国志観”を重視したカルチャライズを行なう」予定とのことだ。細かい部分は未定だが、「アトランティカ」で得たキャラクターに対する日本のユーザーへの想い、「人に迷惑をかけることを嫌う」という日本のユーザーの気質に関して注意は向けていくとのことだ。
「スマートフォンに合わせたゲーム、というのは、PCオンラインゲームプレーヤーの視点から見ると、物足りないのでは?」という質問に対してキム氏は「スマートフォンのゲームが下位互換だったとしたら、PCユーザー以上にプレーヤーが増えない。私達が対象とするのは、スマートフォンしか遊んでいない人も、ユーザーとして取り込むこと。そのためには、スマートフォンでPC版と変わらないゲームを提供する必要があります」と答えた。
技術面だけではなく、コンテンツでもスマートフォンを考慮し、10~15分で終わるクエストが用意されており、プレーヤーは短い時間に集中してゲームが楽しめる。一方で、PCゲーマーの集中して長い時間プレイするという遊び方も可能にしているという。こちらは経験値稼ぎなどを長時間たっぷりでき、他プレーヤーに対して有利になれる側面がある。ただし、狩りが長くなると、得られる経験値が下がるなど、効率を落とすシステムも導入される。「MMORPGとブラウザゲームの良いところを取り入れています」とキム氏は語った。
また、プレーヤー間の取引を不可にすることで複数アカウントを使って特定のキャラクターにリソースを集中させたりはしないようにする。一方で、ギルドで協力して強いプレーヤーに立ち向かう要素なども入れている。ここで、スマートフォンならではの利点があり、他のプレーヤーに襲われたときなど、リアルタイムで警告が出る。仲間から救助要請があった場合も、スマートフォンならその場で応えやすい。
この他、ブラウザゲームでは逆転不可能なまでプレーヤーの力の差ができる場合、勢力図を一定期間でリセットする場合があるが、本作ではリセットはしない。「三国志を抱く」では逆転できる要素を、考えていく予定だ。また、PCユーザーがスマートフォンユーザーよりも有利になるという状況は作らないように注意しているという。
キム氏は最後に「いままでオンラインゲームは、他のジャンルに比べて、停滞していたという印象をユーザーに与えたと思います。よりよいグラフィックスや、打撃感などは提示できましたが、過去のゲームと似ているものばかりでした。この状況に対し、開発者として責任を感じています。そして、今後韓国や日本では、スマートフォンの普及は止められません。この流れに合わせ、今の停滞を打ち破るゲームを作ります。関心を持って見守っていて下さい」と、ユーザーに向かって語りかけた。
クライアント型から、ブラウザ型へ、そしてスマートフォンへという流れは、オンラインゲームの1つの流れである。「三国志を抱く」はここから、PC向けMMORPG開発者のこだわりを持ちながら、スマートフォンでも遜色なく楽しめるゲームを最初から目指しているというところが最大の注目点だろう。
「巨商伝」の商人としての生き方、「アトランティカ」における、ターン制のじっくり考えられる戦闘など、これまでもキム氏率いるNdoorsは独特のアプローチでゲームを作り続けている。MMORPGとブラウザゲーム、PCとスマートフォン、様々な要素を繋いでいく「三国志を抱く」がどんなゲームになるか楽しみだ。
【三国志を抱くスクリーンショット】 | |
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【NDC ART EXHBITION】 | ||
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会場で開催されていた「NDC ART EXHBITION」。開発に使用したイラストや、書き下ろしの他、NEXONの開発者が、他チームの作品も含めて自由に描いたもの、コンテスト応募作品など、約70点が展示されていた |
(2012年 4月 24日)