E3 2011レポート

E3でスクエニ一押しの「DEUS EX:HUMAN REVOLUTION」ってどんなゲーム?

あの名作サイバーパンク・アクションRPGが新シリーズとして復活


6月7日~9日 開催(現地時間)

会場:Los Angeles Convention Center


■ 新「DEUS EX」は、「DEUS EX」ゼロ的な物語

 SQUARE ENIXブースで、大々的にプッシュしていたのが「DEUS EX:HUMAN REVOLUTION」(邦題は「DEUS EX」)だ。「DEUS EX」といえば、サイバーパンク系のアクションRPGとして、金字塔を打ち立てた名作だ。


スクウェア・エニックスのブース

【予告映像】

 「DEUS EX」のオリジナル作品は、2000年に発売されたDirectX 7時代の名作PCゲームだ。オリジナル作品のパート1は世界の各ゲーム賞を多数獲得し、続くパート2の「DEUS EX:INVISIBLE WAR」も高い評価を受けた作品として知られている。なお、このオリジナル2作品は、アメリカが誇る著名ゲームクリエイター、ウォーレン・スペクター氏が手がけたことでも有名だ。

 今回発売されるのは、その伝説的人気シリーズの復活・新シリーズになる。なお、今作は「DEUS EX」シリーズの“3”ということではなく、同じ世界観を舞台にした完全新作となっている。なお、制作にはウォーレン・スペクター氏は一切関わっていない。オリジナル作品との関わりは、世界観設定のみで、過去作品のキャラクターは登場しない。


舞台はオリジナル作品の約30年前本作の主人公、アダム・ジェンセン

 時代設定はオリジナル作品から時間軸的には約30年遡った2027年が舞台となっている。この時代、人類は遺伝子工学やナノテクロジーを発展させ、病気や生化学兵器に対し薬学的だけでなく、人体拡張で対抗する技術までを獲得している。

 こうした人体拡張技術は「オーグメンテーション(Augmentation)」と呼ばれており、デトロイトに本拠を構えるサリフ・インダストリーは、このオーグメンテーション技術開発の最大手企業であり、プレーヤーは、このサリフ・インダストリーの警備部門に属する元警官のアダム・ジェンセンに扮することになる。

 アダムは職務遂行中にテロリストからの襲撃と思われる攻撃を受け、その折、元恋人のミーガン・リードも命を落とす。「この世界が正しい方向に向かっているのか?」という根本的な問題に疑念を抱きつつ、このサリフ・インダストリーを取り巻く陰謀に対し、アダムは独自の調査に乗り出すのだった。


アダムと、元恋人のミーガン・リード

■ 1人称視点シューティングのゲームだが、実はアクションRPG


基本システムはFPSスタイル

 ゲームはオリジナル作品と同じく、1人称視点シューティング(First Person Shooter)スタイルを基本に進行していく。武器を構え、狙い、撃つ……というアクションはFPSゲームそのものといった感じだ。

 しかし、濃厚なストーリー進行と、アドベンチャーゲーム的な謎解きがちりばめられているため、ただゴール地点を目指す一般的なFPSと本作は大きく違っている。

 また、会話シーンにも大きなウェイトを置いており、イベントでの他キャラクターとの会話の台詞はプレーヤーが選択できるようになっている。この受け答え方次第で、相手の態度が変わってシナリオ進行や主人公アダムに対する態度が分岐変化したりするようになっている。

 こうしたゲーム要素は、オリジナル「DEUS EX」でも、ロールプレイ(役割を楽しむ)的な要素として特徴的だった部分であり、新シリーズとなった今作でも、遺伝子として受け継がれていると感じる。


会話シーンは今作では重要度が増しており、進行のさせ方によってはシナリオ進行への影響もあり

 オリジナル「DEUS EX」シリーズは、主人公以外のキャラクターの性格描写が浅かったために、各イベントにおけるドラマに深みが足りない印象をもったものだが、今作は、各キャラクターが魅せる演技でドラマを進行させてくれるため、物語に深みが出ている。

 オリジナル「DEUS EX」では「世界観とゲームメカニクスを与えたので、あとは自由に遊んで欲しい」という突き放した感じがあったが、今作は、良い意味でストリードリブンなゲームとして構成されている。あえて言うならば、日本のゲームファンでも気軽に楽しめるような調整がなされている……といった感じだろうか。


魅せる演技で思わず引き込まれそうなドラマが展開光に満ちあふれた世界描写が美しい今作のグラフィックス

 グラフィックス描写もそうだ。常時、1人称視点となっているわけではなく、一部の格闘アクションのときや、物陰に隠れて敵の動向をうかがうスニーキング動作のようなときには、日本のゲームファンが好む3人称視点となる。

 さて、今作の根幹となるゲーム性は「コンバット」、「ステルス」、「ソーシャル」、「ハッキング」の4つだと説明されている。

 「コンバット」は銃器を使ったシューティングが主体となるが、近接戦闘時には格闘戦が繰り広げられたりすることもある。「ステルス」は、敵に見つかってはならないシーンで強いられる、いわゆるスニーキングアクションゲーム的な要素だ。「ソーシャル」は前述の会話選択によるキャラクター間の関係性を戦略的に楽しむ要素になる。「ハッキング」はPCや警報装置に侵入しセキュリティを操るためのミニゲーム的な要素になる。


近接戦闘シーンでは3人称視点になることも

 この他、RPG的な要素として、人体拡張のオーグメンテーションがある。自分の体の部位に対して任意のオーグメンテーション(アップグレード)を施すことで、スキルや戦闘能力をカスタマイズしながら向上させられるのだ。たとえば、スナイパーライフルを用いたズーム視点での狙撃時に呼吸によって照準がぶれてしまうのを姿勢のスタビリティを向上させて改善したり、腕力を上げて壁を破壊できるようにしたり、高いところから飛びおりられるように反重力着地能力を足に付けたり、あるいはスニーキングを効率よく行なう光学迷彩能力を身に付ける……と言った具合に自分好みの多様なカスタマイズができる。


物陰に隠れて様子をうかがう際も3人称視点にコンピューターへのハッキングアクションはミニゲーム仕立てに

■ EIDOSモントリオール、アートディレクターを務めたJonathan Jacques-Belletete氏に訊く「DEUS EX」の魅力

 今回のE3では、アートディレクターを務めたJonathan Jacques-Belletete氏へのインタビューが実現したのでその内容も抜粋してお届けしよう


Jonathan Jacques-Belletete氏(EIDOSモントリオール、アートディレクター)

【Q】なぜ「DEUS EX」シリーズの新シリーズが復活したのか?

Jacques-Belletete氏: とてもいい質問だ(笑)。今作の開発を行なっているのは、自分が属するEIDOSの新スタジオ、EIDOSモントリオールになる。モントリオールという都市は、ゲーム産業がとても盛んでUbisoftやTHQ、Warner Brothersなど名だたるスタジオが軒を連ねている。彼らと対等に戦えるような新スタジオをこの地に始めるに当たって、まず求められたのは求心力のあるプロジェクトだった。「DEUS EX」は不朽の名作であり、「この新シリーズを制作する」という呼びかけの下、モントリオールはもちろん世界各地から、実力者がこのプロジェクトに集うことになった。かくいう自分も、UbisoftからEIDOSモントリオールに移った(笑)。

 もう1つの理由は、昨今、「MASS EFFECT」シリーズ、「Fallout」シリーズなど、SFテイストのアクションRPGが人気を博したことから、プレーヤーはこのタイプのゲームを求めていると判断されたと言うのもあると考える。「DEUS EX」ならば、その意味で、文句なしのプロジェクトだといえる。

【Q】オリジナル作者のウォーレン・スペクター氏から、何かコメントは寄せられたか?

Jacques-Belletete氏: 公式にはないが、彼がSNSなどで呟いていたらしい。それによれば、彼もかなり気に入っているとのこと。我々としてもとてもハッピーだ(笑)。

【Q】オリジナル「DEUS EX」のキャラクター登場の可能性はあるのか?

Jacques-Belletete氏: もしかしたらカメオ出演はあるかもしれないが、物語の根幹イベントには登場しない。物語を進めるの今作の主要キャラクター達だ。

【Q】今作のキャラクター達は欧米ゲームのテイストに、日本のテイストが少し入っているような印象を受けるが。

Jacques-Belletete氏: 気づいてくれて嬉しい。実はアートディレクションにそういった意図を盛り込んでいる部分がある。

【Q】あなたは主人公のアダムに似ていると思うが、まさか、アナタがモデルとか?

Jacques-Belletete氏: 2007年にプロジェクトがスタートしたときに、EIDOS本部に「DEUS EX」新シリーズの企画書の提出を求められた。EIDOSは「TOMBRAIDER」シリーズのララ・クロフト、「HITMAN」シリーズのエージェント47などのゲーム業界を代表するゲーム・セレブを有していることからもわかるように、とにかくキャラクターの存在感を重要視する。そこで企画書には、主人公のイメージイラストが不可欠となっていた。我々はなんとか企画書そのものを書き上げることができたのだが、主人公キャラクタ-のデザインが後回しとなり、締め切り寸前になってしまった。そこで慌てた私は、サングラスを掛けてかっこをつけた自分の写真を撮り、フォトショップでレタッチを行なったのだ。いちおう、自分の特徴は消したはずだったのだが、まぁ、まだ少し、似た部分が残ってしまったかな(笑)。


Deferred Redneringシステムを採用した光に満ちあふれたライティングが特徴的な今作の3Dグラフィックス

【Q】今作の「DEUS EX」が動作しているゲームエンジンについて教えて欲しい。

Jacques-Belletete氏: 今作の「DEUS EX」のゲームエンジンはCrystal Dynamicsが開発したエンジンだが、ライティングエンジンをDeferred Renderingに置き換えている。Deferred Renderingでは動的光源の個数の制約から解放され、とても豊かなライティング表現ができるようになる。これは本作のキーイメージと言ってもいいだろう。

 シェーディングに関しては、フォトリアルはあえて避けて、スタイライスド・レンダリング的なアプローチにしている。具体的には、日本のアニメとかゲームがよく用いるようなテイストを意識的に盛り込んだ。このテイストが「スクエニにEIDOSが買収されたからそうなったのか?」とよく質問を受けるのだが、偶然だ。元々、このアートディレクションが行なわれながら開発が進んでいた。

 グラフィックスの見どころとしては、フォグや煙のようなボリュメトリック表現や、アンビエントオクルージョンによる柔らかな陰影、そしてダイナミックな逆光表現などだ。ビジュアル面においても相当、クオリティの高い作品になっていると思う。

DEUS EX (C)2011 SQUARE ENIX LTD. Published by Square Enix Co., Ltd.

(2011年 6月 15日)

[Reported by トライゼット西川善司]