E3 2011レポート

ゲームポット、ロサンゼルスで「Wizardry Online」発表会開催

ヘッドロック岡田氏も来場。「人は基本的にモンスターに勝てない」


6月8日 開催(現地時間)

会場:ESPN Zone LA Live



 株式会社ゲームポットは6月8日、Windows用MMORPG「Wizardry Online(ウィザードリィ オンライン)」のプレスカンファレンスを、ロサンゼルスのESPN Zone LA Liveにて開催した。

 「Wizardry Online」が北米地域でお披露目されるのは今回が初めて。米国で誕生した「Wizardry」が、オンライン化されて北米に逆輸入されるという流れは不思議な感覚がある。日本でのサービスはまもなくの見通しだが、北米と欧州では2012年よりサービス予定としている。


会場のESPN Zone LA Live。発表会は2階にあるバーで開催された。隣にはアーケードゲームなどが置かれているアミューズメントスペースもある

植田修平氏

 カンファレンスには、ゲームポット代表取締役社長の植田修平氏が来場。「『Wizardry』は多くのゲーム開発者に影響を与え、日本にも多くのファンがいる。誕生から30年を迎えるのに合わせて、我々は新しい、他のオンラインゲームでは見たことのないスタイルの『Wizardry Online』を作り上げた」と語った。合わせて、日本でも未公開の新プロモーションムービーが上映された。


【プロモーションムービー】

岡田信之氏

 また本作の開発を担当している、株式会社ヘッドロック代表取締役の岡田信之氏が挨拶。本作の開発コンセプトとして、「オリジナルの『Wizardry』を活かしたMMORPGにすること。プレイスタイルは違うが、プレーヤーがすぐ死んでしまうようなダンジョンを再現する」と語った。

 また本作の特徴として、「生と死」、「迷宮」、「高難度」という3つを挙げた。「最近のMMORPGは、死んでも簡単に復活できて、ほとんどペナルティがない。そこを変えたいと思った」と述べ、「Wizardry」の伝統である復活に失敗すると灰になり、ロストするという流れや、PvPがどこでも可能で、ダンジョン内ではPKが罪にも問われないことを説明した。

 迷宮については、「最近のMMORPGは、ダンジョンのミニマップがあり、勝手に移動したりするものもある。本作はそういう助けは一切ない。周囲を意識し、道順を把握しないと、帰れなくなる。冒険の生々しさを感じられる、リアルな迷宮を作っている」という。

 高難度であることもリアリティの追求の一端。「人は基本的にモンスターに勝てない、と考えた。プレーヤー同士の協力や、職業の特性を活かした戦略が重要になる。難しいことで、プレーヤー間の強い絆が結ばれる」と語った。


岡田氏がゲームの特徴を説明。いずれも妥協のない要素を並べ、ハードコアなゲームであることを強調した



■ 岡田氏にインタビュー。「これは敵を狩るゲームではなく、先に進むゲーム」

キャラクタースロットのスクリーンショット。右のキャラクターは死亡状態のようだ……

 発表会の終了後、岡田氏に少しお時間をいただいて、ヘッドロックが本作を開発することになった経緯や、開発にかける思いを伺った。

――現地のメディアからの取材も受けられていましたが、反応はいかがでしたか?

岡田信之氏: 質問が「World of Warcraft」のようなゲームを作たんでしょう、という前提になっていまして。このゲームはちょっとコンセプトが変わっているので、答えやすいものもあれば、根本的に違うので答えようのない質問もありました。期待はされているようですが、意図が伝わっているか少し心配もあります。

――本作の特徴というと、やはりキャラクターロストの存在ですね。ここはどのような形になるのでしょうか?

岡田氏: せっかく育てたキャラクターがロストしたら、それまでの努力はどうなるのかとか、ゲームをやめてしまうのではといった心配はされていると思います。我々も馬鹿ではないと思っているので、そこは工夫しています。また最初から冒険し直して、同じクエストをやってという形にはしていません。

――クエストなどの進行度合いは、キャラクターではなくアカウントに紐付く、といった感じでしょうか。

岡田氏: そんな感じです。それを具体的にどう処理するかが課題ですが、突飛なことはしていません。ゲームに詳しい方なら予測できるようなものになっていると思います。

――さきほどコンセプトについて少しお話しされていましたが、このゲームはどういうものにしようと考えて開発されたのでしょうか。

岡田氏: ファンタジー世界に登場するオークなどの怪物を、人間が殴り倒すのはリアルじゃないということです。ですから、勝てなくてもやり過ごすとか、倒せなくても持っているものを奪いたいとか。要するにみんなアイテムが欲しいわけで、別に倒さなくてもいいし、場合によっては逃げてもいいのです。

 「Ultima Online」や「EVERQUEST」といったMMORPGは、いきなり世界に投げ出されて、歩いていたら殺されたりするという理不尽なゲームでした。当時はムカつきましたが、今思えば新鮮な体験でした。それを当時のゲームを知らない、若いスタッフに見せたかったのです。しかし今はそれらのゲームも拡張され、親切になり、当時のよかったところを見せてあげられるものがありません。「今では考えられないゲームにも、面白いところはあるでしょう?」ということを若いスタッフに伝えたい、というのが私の中にはありました。

――そういう理不尽さと面白さは、オリジナルの「Wizardry」にも通じるところがありますね。

岡田氏: 1番重要なのは、ワクワクするとか、次に行きたいと思うことです。クエストを区切って誘導して、自然にレベルが上がっていくという、最近のオンラインゲームはよくできていると思います。でもそういうのを1つ作ったら、新しいものを作る必要はないでしょう? と思うのです。有名なRPGみたいなゲームを作りたいと思っても、それは大抵神業的なバランスでできていて、劣化版を作ってしまうじゃないですか。そこに迎合しなくていいから、自分でいいと思うものを、そのまま表現しようということです。

――それだと確かに「World of Warcraft」と比べるべくもないですね。

岡田氏: かと言って、「昔のをやれば面白い」と言っていたら何も進化しません。「Ultima Online」は素晴らしいゲームだと思うし、それを復活はできないですが、復活できない分だけ何かを継ぎ足して形にするのが理想かなと思っています。

 我々はずっとゲームを作ってきているので、採算度外視でやりたいこともあります。しかしビジネス的にそう簡単にはできません。ところがゲームポットさんがいらっしゃってこのゲームを提案された時、「本当にこれをやるんですか、そんなことを」と逆に聞いてしまいました。我々が今の流行を無視して、「こんなのを作りたい」と言ってもダメだと言われる流れが普通なのに、むしろ逆だったのです。その分、面白いものができたかもしれません。

――これまで御社で開発されたものは、割とカジュアルなイメージのタイトルが多かったと思います。その辺りは開発の支障にはならなかったのでしょうか?

岡田氏: 例えば「エミル・クロニクル・オンライン」は、萌えをテーマにしたものです。しかし日本のゲームスクールなどを出てクリエイターになった方は、ハイエンドな3Dのゲームを作りたいという方がマジョリティです。別に2Dや萌えがダメだというわけではありませんが、こういったテイストのゲームを作れることは、デザイン部門にとってはやりがいのある仕事になりました。

 あと最近の流行であるスマートフォンやSNSのゲームは、ゲームをライトに作って最初にどうリテンションを確保するかという、ビジネスモデルありきの作り方をしています。「Wizardry Online」はハードコアゲーマーをターゲットにしているので、そういうところが1番重要というわけではありません。我々はずっとオンラインゲームを作ってきて、作りがビジネス寄りになってきたのが、これは逆行しています。スタッフは大変な部分も多かったと思いますが、作り甲斐があったのではないかと思います。

――確かにスタッフにとっても、他ではなかなかできない経験ですね。

岡田氏: 「コアゲーマーしかやらなくていいです」なんてゲームを勝手に作ったら怒られてしまいますから(笑)。

――では作り手の立場から教えていただきたいのですが、端的に、このゲームの面白さはどこにあるのでしょうか?

岡田氏: モンスターを数多く倒してキャラを強くするゲームではない、ということです。乱暴に言えば、モンスターを狩るゲームではなく、先に進むゲームです。先に進むことを考えていれば自然に強くなっていきます。冒険してください、ということです。雑魚を延々と狩ったり、レアアイテムを入手するためにボスを何度も繰り返し倒す必要はありません。

――奥を目指せ、ですか。それは紛れもなく「Wizardry」ですね。

岡田氏: その奥には何があるのか。オリジナルを活かしてMMOにしたとは言いましたが、オリジナルではないこともあります。それが何かは先に進めばわかるので、どんどん先に進んで欲しいと思います。

――なるほど、このゲームの面白さが見えてきた気がします。ありがとうございました。


【スクリーンショット】
日本ではクローズドβテストのスケジュールも発表された。大きな問題が出なければ、近いうちに正式サービスも開始されるだろう。とことんハードなこのゲームが、果たしてどこまでの人気を集められるのか、また海外で受け入れられるのか。先が読めないタイトルだ

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(2011年 6月 11日)

[Reported by 石田賀津男]