Game Developers Conference(GDC) 2010現地レポート

Firaxis Games、GDC2010で「Civilization V」の最新情報を公開
深みを増した戦闘システムに注目! 刷新されたゲームエンジンの能力も披露


3月9~13日 開催(現地時間)

会場:サンフランシスコ Moscone Center


 米Firaxis Gamesは、今年秋に発売予定のPCゲーム「Sid Meier's Civilization V(Civ V)」の情報をGDC2010の開催にあわせて公開した。本作は2005年に発売された前作「Civilization IV」の後継作であり、シリーズの新たなフラッグシップとなるべくゼロから開発が行なわれた完全新作だ。

 本作の開発を指揮するのは、Firaxis GamesのJon Shafer氏。もともとは「Civ II」のβテスターを経て「Civ III」のMODコミュニティで活躍していたというシリーズのファンで、「Civ IV」の開発にゲームデザイナー/プログラマーとして参加したのち、本作のリードデザイナーに大抜擢されたという特異なキャリアを持つ人物だ。

 本稿ではまず、Firaxis Gamesが開催したプレス向けの説明会の模様から、「Civ V」がどのように新しいゲームとなっているのかをご紹介しよう。また、GDCの会場では本作に関する技術セッションが開催され、改良されたゲームエンジンの能力が披露された。その模様もあわせてお伝えしていこう。


【「Sid Meier's Civilization V」プロモーションムービー】



■ シリーズの新たなフラッグシップとなるPC「Civilization V」

ゲームの説明を行なったPete Murray氏と、Tiffany Nagano氏
画面写真。とても繊細で美しいグラフィックスになっている

 今回の取材では、Firaxis Gamesでマーケティングを担当する Pete Murray氏と、パブリッシャーの2K GamesのコプロデューサーTiffany Nagano氏によるタイトルの紹介を受けることができた。30分と短いプリビューセッションではあったが、ここで公開された「Civ V」の主要な特徴は、シリーズのファンなら期待を膨らませずにはいられないものだ。

 コンシューマーゲーム機やその他のプラットフォームへの展開を睨み、「Civ V」ではゲーム全体が完全に作り直されている。単に前作「Civ IV」に何かを追加したとか、改良したという類のものではなく、基本的な部分から全く新しい「Civilization」となるべく開発されているとのことだ。

 まず目をひくのがグラフィックス。メインのゲーム画面となる世界地図は、写実的ながらどこか柔らかみのある色彩で描かれており、繊細で素晴らしい雰囲気だ。地形の種類など、ゲームプレイ上の情報も読み取りやすい。

 その上で本作では6角形のタイル(ヘックスタイル)を採用していることが決定的なポイントとなっている。前作以前は四角形のタイルを採用していたため、斜めに隣接するタイルとの接続が映像的に明確ではなかった。例えば「川に隣接するタイルは商業にボーナス」といったものが、どこまで反映されるのかわかりにくかった。それがヘックスタイルを採用したことで見た目にわかりやすくなった。また東西南北の距離感と実際の移動距離が一致するという点も地味だが見逃せない。

 内政面では、前作よりもかなり新設なアドバイザーが実装されている。アドバイザーはその時々に応じた、適切なプレイの方針を教えてくれるほか、操作するべきユニットへのショートカットを指し示してくれる。このあたりはコンシューマー機版の「Civilization Revolution」の良いところをうまくPC的に翻訳した感じだ。

 文明の国境は、前作と同じく文化圏が基本となる。ただし、文化圏に組み込まれていないタイルを金銭で領土に組み込むことが可能であり、都市成長の戦略にさらなる選択肢が与えらている。また、各タイルの灌漑や鉱山の設置といった土地改善は、前作と同じく労働者ユニットによって行なうようだ。



・深みとスケールを増した戦闘システム。もう「スタック」は要らない!

1タイルに置けるユニットは1つになり、「スタック」の概念が無くなった
遠隔攻撃ユニットを後方に配置する布陣。「Civ V」ではこれが標準的な戦法になりそうだ
都市はヒットポイントを持つようになった。それを削るため、弓兵が火矢で遠隔攻撃を浴びせる

 ゲームの進行はシリーズを通して変わらず、紀元前4000年に入植者として文明をスタートし、人口を増やし、ユニットを作り、他の文明と外交を繰り広げ、ときには戦火を交えて最終的な勝利をめざすというものだ。しかし、様々な面でシリーズ初のゲームシステムが導入され、プレイ感覚は随分と違ったものになりそうである。特に影響大なのが戦闘システムの変化だ。

 前作「Civ IV」では、大量のユニットを1箇所に固めて巨大な「スタック」を作り、敵の都市にぶつけることがほとんどの戦争の形だった。しかし「Civ V」ではひとつのタイルに配置できるユニットは1つだけとなり、「スタック」の概念は消滅した。このため、軍事ユニットは広範囲に配置することになり、結果として「戦線」を構築するようになっている。

 これに伴い、「Civ V」では遠隔攻撃の概念が加わっている。弓兵やカタパルトのような飛び道具を持つユニットは、2タイル先の敵に対して攻撃を加えることができるのだ。今回見ることのできたプレイデモでは、弓兵の射撃を受けた戦士が、一挙に半分ほどの兵力を失うシーンを見ることができた。なかなか強力なようである。

 そのかわり、弓兵のような遠隔攻撃ユニットは、白兵戦を挑まれると簡単に負けてしまうという。このため戦線を構築する際は、最前線のタイルに戦士や剣士といった白兵戦ユニットを配置し、2列目に遠隔攻撃ユニットを置いていくという形が王道となる。

 また、本作では1ユニットの価値が非常に大きなものとなっている。プレイデモでは、数を減らしたところに剣士による白兵攻撃を受けた戦士ユニットが、全滅はせず、残りの兵士1体となった状態で生存していた。こうなったユニットは戦闘能力を失うが、領土内で補充を受けることにより回復が可能であり、前作のように大量のユニットを作っては失い、作っては失いということはなくなるようだ。

 その上で、都市の攻略も前作とは違ったものになっている。本作では都市にユニットを駐留させることは必須ではなくなり、都市自体がヒットポイントを持つ軍事ユニットのような機能を持つ。攻撃側は都市のヒットポイントを0にするまで、占領することはできない。また、確実に攻略するためには多数のユニットで包囲することが効果的になるという。おそらく他都市との交易路を封鎖するような概念があると思われる。



・外交プレイの鍵を握る「都市国家」など、面白い戦略要素が満載

ビスマルク
ワシントン

 外交面で非常に面白い要素となるのが「都市国家(City State)」の存在だ。本作ではプレーヤーらが演ずる主要文明国の周囲に、1都市で構成される都市国家が配置される。都市国家は単体では弱小の存在だが、味方につければ金銭やユニットの提供といった便益をプレーヤーに与えてくれる。

 例えば、ライバル文明の近隣に位置する都市国家に大して金銭を送り、友好度を上げて軍隊の通行許可を取り付ける。その上で、ライバル文明が軍隊を展開していない方面から、電撃的に侵攻するという作戦などが考えられる。また、都市国家が特定の戦略資源を持っていることもあるので、ときには侵略して我が物にしたいという誘惑にかられるかもしれない。だが、都市国家は各文明と同盟関係を結んでいることが多いため、不用意な侵略が原因で大国を巻き込んだ戦争に発展することも。

 AIも大きく改良されており、本作では前作にも増して、人間のプレーヤーのような柔軟な反応を見せるものになっているという。例えば、高圧的な態度をとる文明に対して、国境地帯に大量の軍事ユニットを配置することで威嚇するという作戦はとても有効らしい。示威行動を前にしてナーバスになった指導者は、より良い条件で条約を結んでくれるかもしれない。

 そのほか、本作ではMOD作成の機能も大幅に向上しているという。非常に使い易いMODエディターが搭載され、さらにゲーム内にMOD流通システムが搭載されており、MODを探してインストールしてプレイするという一連の流れがゲーム内で完結するという。

 ここまでの点を見ただけでも、様々な面で新鮮なゲームプレイを期待できそうな「Civ V」。ちなみに前作にあった大きなもののうち、「宗教」はなくなったそうだ。宗教は外交関係をあまりにも固定化しすぎるため、今回は全く別のアプローチで外交のアクセントをつけようとしているという。完成形がどのようになるか、今から非常に楽しみだ。


本作は、シリーズのファンにも予測できないような、全く新しい「Civilization」になっている。また「あと1ターンだけ!」の日々が訪れるかと思うと、非常に楽しみだ



■ ゲームエンジンは新世代の並列処理+スケーラブル設計へ
 ユニット数千体を表示してもグリグリ動作!

講演を行なうDan Baker氏(写真右)とYannis Minadakis氏(写真左)
「Civ IV」エンジンの問題点は「CPUを使いすぎること」
様々な改善案のもと、エンジンは1から作り直された

 続いて関連セッションの情報をお届けしたい。プログラムトラックでは、インテルによるスポンサーセッションとして「Civilization V: A Case Study in Scalable Game Performance」と題する講演が行なわれた。

 発表を行なったのはFiraxis Gamesでリードグラフィックスエンジニアを努めるDan Baker氏と、インテルのYannis Minadakis氏。Intelが提供するGraphics Performance Analyzers(GPA)を用いて、ゲームエンジンの効率性を大幅に改善したという事例が紹介された。本稿では「Civ V」のゲームエンジンがどのように開発されたのかに要点を絞ってお伝えしよう。

 FiraxisのDan Baker氏は、発表にあたり前作「Civ IV」のゲームエンジンが持っていた避けがたい問題について触れた。「ゲームが進行してユニットや都市が増えると重くなる」。プレーヤーの皆さんならばよくご存知のことだだろう。「Civ IV」のエンジンはCPUに依存しすぎており、スケーラブルではないため、どのように強力なGPUを搭載したPCでも終盤ゲームが重くなっていく。コンシューマ機向けの「Civ Rev」も同様で、主にグラフィックス処理のためにCPUを使いすぎてしまい、重くなってしまうのだ。

 そこでユーザーの多くから要望されたのが「マルチコアシステム向けの分散処理をサポートしてほしい」ということだったという。中には「マルチコアをサポートしないゲームなんて買わない」という過激派までいるというのだから事は深刻である。そこでもちろん、Firaxisの開発チームではマルチコアへの最適化を目指した。それも、ユーザーが提案してくる「各文明を別のスレッドで動かす」といったありがちな(そしてナンセンス)なアイディアではなく、「上手にCPUを使う」ことを目指した。

 そうしてIntelのパフォーマンスアナライザーソリューションの助けを借りつつ、新しいゲームエンジンの設計が行なわれた。新しいゲームエンジンでは、グラフィックス描画のシステムがタスクベースのものになっている。それぞれのタスクは、関連するオブジェクトや範囲についての描画を担当し、無駄なオーバードローを避けつつ、処理をスケーラブルに並列化することが基本的な設計思想だ。

マルチコアシステムを前提とし、メッセージベースのマルチタスクシステムを持つゲームエンジンとなっている。目標は同時に1万体のキャラクターを描画できることだそうだ




画面中に大量のキャラクターを描画する。この画面で4000体以上出ているが、フレームレートは20~30は出ていた
高性能GPU搭載システム向けと、統合チップセット型システム向けのコンフィギュレーションの比較

 ゲームの動作を軽くするために様々な最適化が行なわれている。例えばゲームの未知の世界を示す「戦場の霧」について。「Civ 5」ではこの部分に大量のパーティクルを用い、流体シミュレーションを用いてそれらしく見せているという。

 しかしこの処理は計算量が多く、DX11でDirect Computeを使わない限り、CPUを大量に消費してしまう。そこで、上記のタスクシステムに加え、大量の小規模な処理をうまく扱える命令セットへの置き換えや、パフォーマンスプロファイラーの助けを借りて「並列処理の同期に由来するCPU時間の無駄」を徹底的に削減。クアッドコアのシステムで600%のパフォーマンス工場を達成したという。

 ユニットの表示についても大幅な強化が行なわれている。「Civ IV」、「Civ Rev」に使われていたエンジンでは、キャラクター数が100体を超えてくると、フレームレートの低下が顕著だった。これを前述のタスクベースのグラフィックス処理機構を用いて並列化。その他の最適化を行なって、同様のターゲットシステムで数千のキャラクターを表示してもプレイアブルなフレームレートを達成できるようになった。

 実際に会場で見ることのできたデモでは、マップ上に戦士ユニット(16体の小キャラクターから構成されている)を大量に配置して、フレームレートの低下を確かめるというシーンを確認できた。画面が戦士まみれになり、表示キャラクターが5,000近くになっても、フレームレートは30程度で踏みとどまる。これは主に、CPUをより効率的に使えるようになった結果だという。

 こうして「Civ V」のエンジンは、前作のようにCPUを簡単に使いすぎるような事がなくなり、ゲームの終盤まで優れたパフォーマンスで動作するようになった。また、非常にスケーラブルな設計が行なわれている。DirectX 11対応のハイエンドGPUを搭載したシステムで最高のグラフィックスが楽しめる一方、統合チップセットを採用するノートやネットブックなど非力なシステムでも、それほど大きく画質を落とすことなく快適なパフォーマンスが達成できるとのことだ。

 今回の「Civ」が非常に優れたエンジンを搭載するようになったことは、このセッションの内容から見て間違いないことだと思う。ハイエンドからローエンドまで幅広いシステムで楽しめることで、より多くのファンを獲得できるに違いない。




(2010年 3月 14日)

[Reported by 佐藤カフジ]