Game Developers Conference(GDC) 2010現地レポート

GDC2010の最大の目玉、「Uncharted 2」の講演をピックアップ
「Among Friends - An Uncharted 2: Among Thieves Post-Mortem」
「Behind the Scenes: Uncharted 2's Unique Cinematic Production」


3月9~13日 開催(現地時間)

会場:サンフランシスコ Moscone Center


 今年のGDCでの目玉は間違いなく「Uncharted 2: Among Thieves」(日本タイトル「アンチャーテッド 黄金刀と消えた船団」/以下、「Uncharted 2」)だろう。今回、全部で8つの講演が行なわれる。一会期中にこれほどの数の講演が行なわれるタイトルはあまりない。

 昨日行なわれたGame Developers Choice Awards 2010では、「Best Audio」、「Best Writing」、「Best Technology」、「Best Visual Arts」そして最優秀賞の「Game Of The Year」の5部門を獲得し、名実共に2009年度を代表するタイトルとなった。演出、キャラクター描写、アクションシーン、どれをとっても超一級の作品である。

 本稿では、3月11日に行なわれた「Among Friends - An Uncharted 2: Among Thieves Post-Mortem」(友達、「Uncharted 2」開発を振り返って)と「Behind the Scenes: Uncharted 2's Unique Cinematic Production」(シーンの背後で「Uncharted 2」の映画的制作)の2つの講演を紹介したい。

 「Uncharted 2」はPS3向けアクションゲームとして、日本では2009年10月15日に発売されている。トレジャーハンターである主人公ネイサン・ドレイクが活躍するアクションゲーム。マルコ・ポーロの秘宝を求めてトルコからボルネオ、ネパール、ヒマラヤとアジアで冒険を繰り広げていく。講演ではこの優れたアクションゲームがどう制作されたかを知ることができた。




■ ゲームの次元を変える膨大なアイデアと挑戦「Among Friends - An Uncharted 2: Among Thieves Post-Mortem」

Naughty DogのGame Designer、Richard Lemarchand氏

 「Among Friends - An Uncharted 2: Among Thieves Post-Mortem」では、本作を開発したNaughty DogのGame Designer、Richard Lemarchand氏による開発の経緯が語られた。「Uncharted」シリーズを開発したNaughty Dogは「ジャック×ダクスター」シリーズや「クラッシュ・バンディクー」などを手掛けた開発メーカーである。サンタモニカにスタジオがあり120人ほどの社員が働いている。

 Naughty Dogは2007年にシリーズ第1作目の「Uncharted: Drake's Fortune」(邦題「アンチャーテッド エル・ドラドの秘宝」)を世に出した後、そして続編である「Uncharted 2」の発売時期を2009年に設定。「Uncharted: Drake's Fortune」は特に欧米で高い評価を受け、続編の「Uncharted 2」はさらなるハイレベルの作品を目指して制作がスタートした。「これまでの常識を打ち破る」作品を目指したという。

 スタッフ達は議論を重ね、「Uncharted 2」が目指すポイントを設定していった。テーマは前作から続く「冒険ロマン」である。前作と世界観を共通させ、前作の主人公ネイサン・ドレイクを引き続き今作の主役に置く。前作以上にストーリーを膨らませ、冒険の世界を大きく広げ、さらに味方のキャラクターを増やす。

 また「Uncharted 2」は“マルチプレイ”の要素も追加させた。シングルプレイだけでなく、友人達と対戦、そして強力プレイを目指すことになった。新しいテクノロージで新ゲームエンジンを作り出し、より豊富なパズル要素、迫力のあるゲームシーン、ゲームプレイを楽しめるシステムを作り出していった。

 こういった要素を実現させるため、入念に「プリプロダクション(事前作業)」を進めていった。プリプロダクションとしての具体的な要素は、ストーリーボードや、ゲームのアイデア、コンセプトアート、また制作に必要な様々な素材だ。ゲームプレイを体験するためのテストプログラムや、ムービーシーンのプロトタイプなども作っていった。

 Lemarchand氏は、早い時期で作品の方向性を決めた“写真”を紹介する。切り立った崖に張り付くように中国風の建物が建っている。この写真から生まれたイメージは、切り立った崖に壮大な建物が張り付いているステージ、高さを活かしたゲームプレイ、そして作品の世界観にも大きな影響を及ぼしたという。

 また、ドレイクが列車で戦うコンセプトアートはそのまま列車を敵を倒しながら進むステージとして、先頭の機関車の設定や、列車に飛び乗るゲームムービーなど様々なアイデアへと膨らんでいった。従来のゲームでは、列車を足場にしたステージの場合、列車そのものは静的なオブジェクトとなり、背景をスクロールさせるという方法で、列車の上や中での戦いを表現していたが、開発スタッフは全て動的なオブジェクトとするハイレベルのテクニックに挑戦することを目標に掲げた。

 「全てを動的なオブジェクトとして“動くステージを作る”」という目標で生み出された技術は、列車ステージだけでなく、様々なステージの要素として拡張された。プレーヤーが立っている足場そのものがリアルタイムで動く映画的演出を可能とし、ステージ最初の崖につり下げられた列車の中からの脱出や、中にいるビルが傾き折れるシーン、何台ものトラックが走る中を飛び乗りつつ先を目指すステージなど、さらに派手な演出への基礎技術となった。

 面白い演出としては、ドレイクを助けるチベットの男性も大きなチャレンジによって生まれたキャラクターだ。彼は英語を話せないため、ドレイクと言葉を使った意思の疎通ができないが、黙々と行動でドレイクに意志を示す。このチベットの男性は、演出、ゲームプレイ、シナリオでスタッフから様々なアイデアが出されたキャラクターだという。ドレイクとチベットの男性は「言葉を使わない友情」を結んだのがプレーヤーにはきちんと伝わってくるのだ。


開発の原動力となる様々なアイデアや資料。中央の写真がゲームの方向性に大きな影響を与えた
列車のイラストがきっかけとなり、列車での戦い、動的なオブジェクトの上での戦いへのアプローチが行なわれていった
身振りだけで伝わる友情を実現したチベットの青年。膨大なアイデアを、ゲームプレイとして織り込んでいく

 「Uncharted 2」はこうした小さなアイデアのかたまり、1つの物事から生まれて膨らんでいくアプローチが非常に膨大な量となった。これらをゲームとしてどう整理していくか、プレーヤーにどんなプレイをさせるか、どういった順番でどうシーンをつなげていくか、プリプロダクションで作られたピースを整理し、ゲームとしてくみ上げていった。

 また、本作で強調されているのが、プレーヤーが「まるで映画の主人公になったような」ゲーム体験である。映画の完全に決められた映像だから可能な迫力のあるアクションシーンを、「Uncharted 2」ではプレーヤー自身のテクニックで実現できるのだ。このインタラクティブ性は映画以上の没入感を実現している。この感触を実現させるため、開発スタッフまずムービーでドレイクのアクションシーンを作り、ここからインタラクティブ性を加味したゲーム性、迫力を生むカメラアングルなどに手を加えていった。こうすることで映画でしかできなかったアクションシーンを自分の“手”で実現させる事ができたのである。

 ゲーム制作に関する膨大な作業は、「マクロゲームデザイン」と「ミニマムゲームデザイン」ときちんとわけることでの作業の効率化を図っている。ステージのレベルデザインなどゲームの骨格となるゲームデザインはマクロゲームデザインであり、スタッフはオブジェクトの判定などゲームの骨格を作りあげていく。ミニマムゲームデザインを担当するデザイナーは設定された簡素なオブジェクトを、こけむした大木にしたり、キャラクターを凝った衣装に身を包む主役やNPCにしていくのだ。

 「Uncharted 2」では、PS3の「CELL」のグラフィックス能力を最大限に引き出すために、SCEスタッフも大きな貢献をしているという。彼らとの協力により、太陽の光を反射する雪や、周囲の者を映し出す水面、遙か彼方まで広がる楽園の風景など、美しく見応えのある映像費用減が可能になった。また、キャラクター達の自然な表情もCELLの能力があってこそだLemarchand氏は語った。

 ここからさらにLemarchand氏は「Uncharted 2」で実現した要素を語っていく。列車の上を動いていく戦いを実現する際には、倒れた敵の武器がどう落ちるか、といったゲームプレイの演出部分や、実際の列車ではあり得ないほどの長い貨車をひかせることでのユニークな創造テクニック。マルチプレイでのレベルデザイン、協力要素を活かすためのステージ作りなど幾つものテクニックが語られた。

 ユニークだったのが「アウトソーシングのフィードバック」だ。「Uncharted 2」のグラフィックスの一部は台湾のゲームメーカーXPECの上海スタジオが担当している。「Uncharted 2」はアジアのメーカーにグラフィックスのアウトソーシングをしたことで、作品をよりリアルにすることができたという。隠された場所への入り口となる神の像はディテールの部分で、中華兼の文化を持つスタッフの力が大きく働いた。チベットの町並みなど、現地に近いスタッフならではのリアリティが生まれたという。

 最後にLemarchand氏はGDC期間中に「Uncharted 2」をテーマにした講演が3日間でこの講演を含めて8つ行なわれること、それぞれの講師とテーマ、時間を紹介した。今回のGDCでは間違いなく最も厚く扱われるタイトルだ。「新しいものを作りあげた」というスタッフの強い自身が伝わってきた。様々なテクニック、方法論をNaughty Dogが開陳することで、ゲーム業界にどんな影響が及ぼされるかも注目したい。


プリプロダクトムービーをインタラクティブのゲームプレイとして実現。映画以上の没入感をもたらす
左はオブジェクトの細かい設定。ゲームデザインとして作られた地形を、ミニマムゲームデザインで美しくブラッシュアップしていく
CELLだからこそ表現できる美しいグラフィックス
アジアスタッフの参加によって実現した、よりリアルなアジアの表現



■ 演技者と、開発のセンスを活かして生み出すムービー「Behind the Scenes: Uncharted 2's Unique Cinematic Production」

Cinematics Animation LeadのJosh Scherr氏
Creative DirectorのAmy Hennig 氏

 「Behind the Scenes: Uncharted 2's Unique Cinematic Production」の講演では、「Uncharted 2」の主にムービーシーンの制作過程やテクニック語られた。講師を務めたのはNaughty Dog Cinematics Animation LeadのJosh Scherr氏とCreative DirectorのAmy Hennig 氏だ。

 「Uncharted 2」のムービーシーンは役者によるモーションキャプチャーで収録されている。モーションを担当するのはゲームで声優を務めるアクター達だ。アクターはゲーム内の登場人物のイメージの俳優が選ばれている。彼らの演技をベースにムービーシーンが作成されるのだ。

 モーションの収録はまず役者の基本的な動きの目安となる「プリプロダクションムービー」をあえて使わず、役者がどう演じていくかをスタッフ間でディスカッションを繰り返して決めていく。オブジェクトを模したアイテムも用意していく。車としてゲームに登場するオブジェクトは木の箱とパイプ、ハンドルとレバーを組み合わせただけのシンプルなものだ。木の箱は階段や建物の柱など様々なものに使われる。ボートやトラックなど、ゲーム内のキャラクターの“位置”をきちんと合わせたステージを作っていく。

 演技の収録は、まずゲーム内の雰囲気を活かした服装を着て役者が演技し、そこからセンサーを付けたキャプチャー用の服で収録する。演技では実際に声も出す。アテレコも行なうが、声の大きさ、実際の聞こえる感じなどを調べるために、マイクは額部分に取り付けられている。

 キャプチャーだけでなく、複数のカメラでの映像も行なう。キャラクターが3人いるときは、全員が写るマスターと、それぞれのキャラクターにフォーカスしたアップ用のカメラを使う。これにより、実際のゲームでもカメラを瞬時に切り替え、モーションキャプチャーの入力座標を活かした絵作りがしやすくなるという。

 役者が実際に演じる前に、ムービースタッフ自身が演じてみて、実際の絵の雰囲気を確認してみることも多い。これによりムービーの雰囲気を感じることができる。スタッフの演技はかなりオーバーで面白いが、例えば「壊れそうな宝物を地面に落ちないようにあわてて受け止める」といった極端なシチュエーションをパターンとしてとっておくことで、実際のゲームに取り入れられるかを検討していく。

 「Uncharted 2」では顔の表情を再現する「フェイシャルモーション」や指のキャプチャーも行なわない。細かい部分は演じている役者の表情をみたり、場面を意識して強調したりと、アニメーターのセンスを活かして作り出していく。キャプチャーデータもそのまま使うわけではない。場面でのキャラクターの心情を考慮して行動のタイミングを変えたり、絵作りを重視して頭の位置を変えるなどのアレンジを行なっている。また、撮影2回目の姿勢に、4回目の声を使うなど収録素材を組み合わせることで最適の画面を模索していく。

 アレンジ、強調、位置関係での声の距離の違いなど、実際のゲームではより一層手が加えられる。そうすることで実写映像に勝るとも劣らない、リアルでありながら場面にぴったりマッチした独特の映像制作が可能となるのだ。動きすぎ、静止しすぎという映像もまた不自然さを増大してしまう。収録データだけ、作った映像だけではなく、センスを活かしたアレンジが必要とされるのだ。

 また、ムービー制作も完全なスタジオ内では終わらずアウトソーシングを行なったという。複数のキャラクターの小さな動きや、シンプルな動き、アニメーションを再利用したシーンなどを発注することで社内の作業量を調整していったという。

 映画「The Lord of the Rings」に登場する“ゴクリ”はCGアニメーションで表現されるキャラクターだが、声を当てる役者が実際に演じてそこからCGを作りあげたという。「アバター」は実際の役者の演技に合わせてCGが制作されている。この他、「怪獣達のいるところ」でも役者が実際に怪獣になりきって演じてそこから映像が作られている。単純なアフレコではなく、音声収録の方法論が欧米では変わりつつあるのかなと感じた。

 今回明らかになった「Uncharted 2」のムービーシーンの収録風景は、リアルにこだわりつつ、クリエーターのセンスを活かす独特のバランスで作られている。日本版「アンチャーテッド 黄金刀と消えた船団」はローカライズタイトルには珍しく、日本語吹き替え版だけでなく、英語音声も収録されている。日本のベテラン声優達が生む独特の味も捨てがたい魅力があるが、聞き比べてみると楽しそうだ。ぜひ英語音声も楽しんでほしい。


声優とキャラクター。雰囲気がとても近い
モーションキャプチャー。最小限の機材でゲームに近いフィールドを作る
撮影スタッフ、役者達で綿密なディスカッションしてモーションキャプチャーを行なう
複数のカメラでの撮影。実際のシーン作りに重要な情報が詰まっている
モーションをその場所に最適化するためにさらにアレンジ。様々なスタッフが関わるからこそムービーそのものに厚みが生まれる


(2010年 3月 13日)

[Reported by 勝田哲也]