G-Star 2009現地レポート

HanbitSoft事業取締役兼HUE CEO Yoo Ra Kim氏インタビュー
日韓のキーパーソンに聞くHanbitSoft、HUEの2010年の戦略

11月26日~29日開催

会場:釜山国際展示場(BEXCO)

入場料:大人4,000ウォン(前売り2,000ウォン) 学生2,000ウォン(前売り1,000ウォン)

 

 HanbitSoftは今回のG-Star 2009 では7本のタイトルを発表し、積極的な姿勢を見せている。フィッシングゲーム「Grand Mer」では専用のリール型コントローラーも出展し、他の韓国メーカーにはないユニークなアプローチも見せた。今回の出展メーカーの中でも大きく注目されたメーカーといえるだろう。

 今回、HanbitSoft事業取締役であり、ハンビットユビキタスエンターテインメント(HUE)のCEOであるYoo Ra Kim氏にインタビューを行なった。HanbitSoftは2008年5月にT3 Entertainmentに買収された。デベロッパーであるT3 EntertainmentがパブリッシャーであるHanbitSoftを買収したというニュースは業界内で大きな話題を集めた。

 T3 Entertainmentの「Audition」の世界的なヒットが実現させた買収劇であるが、この買収によりT3 EntertainmentのCEO Kee Young Kim氏はHanbitSoftのCEOに就任し、HanbitSoftそのものを主導していく立場となった。Yoo Ra Kim氏はKee Young Kim氏の妹であり、現在、HanbitSoftの全てのタイトルを統括する人物である。今回のインタビューでは、「Audition 2」や「Hellgate: Tokyo」、そして今回詳細が明かされなかったタイトルも含めてHanbitSoftの新作タイトルの話を聞き、さらに日本での展開にも質問をぶつけてみた。2010年のHanbitSoftの活動と、日本への展開はどうなっていくのだろうか。



■ 傘下の玩具工場と連携する「Grand Mer」、「Squad Flow」。CEO一押しの「FC MANEGER」など、今回出展タイトルの戦略

HanbitSoft事業取締役であり、ハンビットユビキタスエンターテインメント(HUE)のCEOであるYoo Ra Kim氏
リールコントローラーと共に出展した「Grand Mer」
ずんぐりとしたデザインのロボットが面白い「Squad Flow」。ストーリーも注目したい
プレスカンファレンスで記者の質問に答えるHanbitSoftのCEO Kee Young Kim氏(左)とYoo Ra Kim氏(右)

 今回、HanbitSoftは、フィッシングゲーム「Grand Mer」、三国志世界をテーマにしたMMORPG「三國之天」、ファンタジー対戦TPS「Warcry」、サッカーチーム運営シム「FC MANAGER」、さらにアクションMMORPG「Mythos」、MMORPG「R.O.D」、ロボット対戦TPS「Squad Flow」と、7本のタイトルを出展している。

 Kim氏は今回の出展に関して、「私は6月からHUEのCEOになり、日本にいることが多くなって、あまりソウルに行けなくなってしまいました。このためスタッフへの指示がオンラインになってしまい、今回の出展は心配なところもありました」。

 「実際会場に来てみて、よくスタッフががんばってくれたなと思いました。加えて、私は釜山の出身なので、釜山の皆さんに7本の新作タイトルを見せることができたのは、とてもうれしかったです」と感想を語った。

 7本のタイトルの中でも、特にユニークなのが“リールコントローラー”を使った「Grand Mer」だ。専用コントローラーを用意した韓国のオンラインゲームというのは、あまり前例がない。Kim氏は「私達はユーザーの1番身近なおもちゃはPCだと考えています。それに遊びに特化させるためのアタッチメントを追加してみれば、と思ったんです」と語る。

 「Grand Mer」は2年前から開発を行なっていて、ゲームをもっと面白くするために専用コントローラーの必要性を感じていた。HanbitSoftは玩具メーカーとして韓国で大きな市場を持っている。「玩具メーカーとしても、社内のタイトルと連動した商品が必要だとも感じていたんです」。買収を期に、HanbitSoft傘下の玩具工場を使い、本格的なリールコントローラーを作ることができた。2月のオープンβテストを目標にコントローラーも発売する予定だ。

 HanbitSoftでも特にT3 Entertaimentのラインナップは充実している。Kim氏はT3 Entertaimentの開発体制は「分業」によって効率化を図っていると語る。T3 Entertaimentの開発チームの編成は「企画」、「シナリオ」、「プログラム」で1つのタイトルを作り、「アート部門」は開発チームと切り離して大人数のチームで構成している。

 このため、1本のタイトルでテイストの異なるグラフィックススタッフを導入することができ、結果として多くのコンテンツを短時間で作ることが可能になっている。アートチームは上海で200人、韓国チームは300人というスタッフがいて、1度に大量のスタッフを動員し、ボリュームのあるコンテンツを短期間で生み出すことができるという。

 「War Cry」もアートの分業化がよく出ているタイトルだ。筋肉ムキムキのファイターから、ネコ耳美少女魔法使いまでバラエティのあるユニークなキャラクターがそろっている。しかしゲームそのものは何度もクローズドβテストを繰り返して、開発は難航している印象だ。Kim氏は「韓国国内ではFPSの競争が激しいです。そのなかで勝つにはどうするか、それを考えてもう1度作り込むことにしました」と語る。

 「War Cry」ではプレーヤーに連続してプレイしてもらう、ということを特に考えているタイトルだ。プレーヤーがよりゲームに強い魅力を持つように作り込み、魔法と武器が飛び交うファンタジーRPGの世界観と、FPSの感触の入り交じるユニークなゲームになった。プレーヤーは自分のスタイルにこだわったプレイが可能になっている。現代戦を扱ったFPS以上に「自分のキャラクター」に思い入れが深くなるゲーム性を心がけている。

 「FC MANEGER」は実はHanbitSoft CEOのKee Young Kim氏肝いりのタイトルだという。Kee Young Kim氏は社内の野球チームで4番バッターをするほどの野球好きだが、サッカーにも造詣が深い。コーチ、監督としてサッカーチームを管理するというゲーム性に強く興味を惹かれ、CEOの意見を入れて開発がスタートした。

 Yoo Ra Kim氏はこれからの展望として、「現在、『FC MANEGER』にはKリーグの選手のデータが入っていますが、今後は日本のアマチュアチームのエンブレムや選手名を入れていけばもっと面白くなるのではないかと思っています。各国の法律の問題もありますが、どのチームが勝つかといった勝敗予想のギャンブルもゲーム性に盛り込めればと思います」と語る。さらに「FC MANEGER」はブラウザや携帯電話での対応も視野に入れている。選手の管理やチームの練習メニューなど、簡単な操作はクライアントを起動しなくても操作できる仕組みを考えている。

 HanbitSoftがパブリッシングするタイトルには、JOYIMPACTが開発するタイトルも多い。今回映像出展のみだが、JOYIMPACT開発の「Squad Flow」は、無機質なフィールドを四角いロボットが高速で動き回り、レーザー飛び交う銃撃戦を繰り広げるというオリジナリティを感じさせる、独特の世界観を持ったタイトルだった。Kim氏は「JOYIMPACTは『AIKA』や『R.O.D』などオリジナルエンジンを使い、軽いクライアントをつくる優れた開発会社です。FPSは競争が特に激しい市場ですが、『Squad Flow』は特にストーリーと世界観に心惹かれるものがありました」と語る。

 「Squad Flow」はPvP要素と共に他のプレーヤーと協力しシナリオをクリアしていくPvEでは「人間を助けるために戦うロボット」というストーリーが展開するという。ロボットという機械が、人間のために力を合わせ人を助けるために戦う。そこに感動的なドラマを盛り込んだストーリーになっていく。

 Kim氏は「Squad Flow」のプレゼンテーションでストーリー展開に心を動かされたと語る。人間を守るロボットという展開は「ターミネーター2」のストーリーを思い出させた。ずんぐりとしたロボットのデザインもKim氏のお気に入りで、玩具を販売する方向性も検討している。Kim氏一押しのパブリッシングタイトルだ。




■ 「Audition 2」は革新的なミニゲームに自信アリ。「Hellgate: Tokyo」は2010年の第2四半期に日本上陸!?

全ての新作タイトルから、開発体制、日本への展開と、Kim氏には様々な質問に自身を込めて答える。強いバイタリティを感じさせる人物だ
「Audition 2」のイメージイラスト。ゲーム内容は現在のところ秘密の部分が多い
荒廃した東京を舞台にした「Hellgate: Tokyo」のイメージイラスト。日本でも2010年の第2四半期に展開を予定しているという

 今回出展していないタイトルにも質問をぶつけてみた。やはり気になるのが今回のG-Starで「Audition 2」がプレイアブル出展されなかったことだ。その理由には、パブリッシャーのYD Onlineが、Yedang Entertainmentの傘下を外れ、人事問題など会社的な問題も一因だという。

 「我々の開発体制としては、ゲームは順調にできています。ただ、現在、リリースタイミングをいつ決めるか、というところでパブリッシャー側のスケジュールが明確に決められないのが問題となっています」。サービススケジュールが決まらない状態でゲームを公開すると、アイデアをコピーされてしまうおそれがあるので、今回は出展を見送ったというのだ。

 「私達は『Audition 2』に自信を持っていますが、ダンシングゲームは競合する会社が多い。アイデアは早ければ2カ月でコピーされてしまうような現状があります。だからこそ公開に慎重になったのです。人のアイデアをコピーするのは簡単ですが、オリジナルの企画を考えるのは本当に大変なんです」とKim氏は語る。

 「Audition 2」の優れた要素は、“ソーシャルネットワークサービス”としての側面だという。「Audition 2」はダンスゲームというジャンルにとどまらない。多人数のプレーヤーが集まれるMMO空間を作り出し、仲間達とゲーム内と同じアバターでコミュニケーションを楽しみながら、そのまま気の合う人たちとワンボタンですぐにダンシングルームに移行しダンスを楽しむ事も可能だ。

 MMO空間は数十人のプレーヤーが集まる場所になり、ダンスだけでなく、ミニコンテンツで楽しむことも、恋人同士のプレーヤーがラブラブな時間を過ごすこともできる。このダンス以外のコミュニケーションに「Audition 2」は様々なアプローチを行なうというのだ。「ミニゲームに関しては、特に自信を持っています。今までのオンラインゲームではない要素です。今は秘密ですが、期待してください」とKim氏は笑みを浮かべた。

 ユーザー公開に先駆けて、「Audition 2」は海外のパブリッシャーに要素を公開した。この時のパブリッシャー担当の反応で、Kim氏は大きく自信を持ったという。特に中国の反応がよかったが、もちろん日本での展開も考えている。「日本のプレーヤーさんはコミュニケーションに関して積極的でない恥ずかしがり屋さんも多いですが、『Audition 2』ではゲーム内で積極的に自分をアピールしてほしいです。そのための仕掛けもたくさん用意してあります」とKim氏は語った。

 初代「Audition(邦題『X-BEAT』)」も新しい展開を考えている。1月に「ギターモード」を追加する。USBで接続できるギターコントローラーを発売するのだ。キーボードでもプレイ可能だが、コントローラーを使うことで臨場感のあるプレイが可能になる。ゲームをプレイするためには新しいクライアントは必要なく、「Audition」のアップグレードで対応する。

 「Grand Mer」に先駆けて、おもちゃ部門と協力したプロジェクトとなる。コントローラーの販売で大きな利益を狙うという方向ではなく、コントローラーを使うことで「Audition」に新しい楽しさを盛り込むという方向を重視しているので、価格に関してはできるだけ安価に発売したいという。

 ギターコントローラーは一般販売だけでなく、ネットカフェにレンタルすることも予定しており、さらに中国や台湾、インドネシアなど「Audition」を展開している国への供給も考えており、生産体制を整えている。韓国国内では数万個を供給予定だ。ギターコントローラーを使ったテレビ番組でのゲーム大会なども考えている。

 HanbitSoftは「Hellgate: Resurrection」を11月に発表している。オンラインRPG「Hellgate: London」の再開発プロジェクトで、基本プレイ無料のスタイルになり、12月よりアイテム課金制が取り入れられる。この計画の目玉となるコンテンツが、荒廃した東京を舞台にした「Hellgate: Tokyo」である。このコンテンツは韓国で3月に実装される予定だ。日本でも2010年の第2四半期にはサービスできると思う、とKim氏は語る。

 なぜ東京を取り上げたのだろうか。Kim氏は、「実は東京にするかソウルにするかで意見があり、世界での認知度というところで東京にしました。日本のユーザーさんは『バイオハザード』などでゾンビと戦うシチュエーションにも慣れていますし、まず東京を選んでみました」と語る。

 「Hellgate: London」はロンドンの地下鉄が中心となり、フィールドの広がり、ボリュームで不満があった。地上も舞台にして、もっと広い地域での冒険を目指す。これまではサンフランシスコとソウルのスタジオでゲーム開発を行なっていたが、今後はソウルのスタジオで開発を行なっていく。サンフランシスコのスタジオは新しいタイトルを手掛けていく事を検討中だ。

 「Hellgate: Resurrection」は「次はどんな都市が追加されるのだろう?」という期待をユーザーに持たせる方向で開発を進めていく。クエスト、ミッションを次々と追加し、MAPを増やしPvPなどゲーム要素も追加していく。MAPは東京をメインとしながら、横浜、大阪といった都市の実装も構想として持っている。韓国のファンの間ではソウルの希望も強く、こちらも検討しているという。

 日本で「ちょいトレ英会話」として正式サービスが始まった英会話学習ゲーム「Audition English」は「教育要素を持った今までにないゲームとして、韓国では大きな人気を博しました」とKim氏は語る。先日行なわれた発表会では韓国のメディアから「今年はなぜ教育的なゲームを発表しなかったか」という質問が上がったが、教育ゲームは現在制作中で、来年の3~4月くらいに新作の発表を考えているという。

 新作の発表が来年になる理由は「ボリューム」だとKim氏は説明する。「学ぶためには100年かかる」という韓国のことわざがある。教育には長い時間が必要だという意味で、「Audition English」ではKim氏はこのことわざの意味を痛感したという。「Audition English」はサービス開始当初、およそプレーヤーが2カ月学ぶことができるコンテンツが実装されていた。しかしそのボリュームでは足りないことを痛感したという。

 「私自身も、英語を学校で学ぶためには半年から1年のプログラムを探します。何かを学ぶためには長期間続けられるプログラムが必要だと考えているのです」。だからこそ新しい教育ゲームは開発期間を長くかけて、コンテンツに厚みを持たせてサービスする予定だ。「ゲームを楽しみながら学んでいくようなゲームを増やしていきたいと思っていますし、『Audition ハングル』や『Audition 中国語』といった可能性もあると思います。低年齢層向けの教育コンテンツや、海外旅行で使う実際的な英会話を学ぶなど、様々な方向性を考えています」とKim氏は語る。今後は教育ゲームのポータルかも考えているという。

 2010年のHanbitSoftはどうなるかという質問に、Kim氏は「昨年の5月にHanbitSoftを買収し、内部の人事の改革を行なってきました。T3 Entertaimentとしてここ2~3年開発を行なっていた作品も、いよいよサービスをしていけるようになりました。HanbitSoftは内部で“どのゲームを出すか”ということで競争している状況です。どのようにユーザーに向けてリリースするか、他の会社の予定もみながら考えていきます。他の国からのライセンス料も含めて、来年はたくさんの売り上げを記録できる年になると思います」と応えた。

 一方、HUEとしては「これまでHUEでは2年ほどほとんど新しいタイトルの展開がありませんでした。来年は大きく成長する年だと考えています。今回7本のタイトルをお見せしましたが、他にもいくつもの新作タイトルをどう日本で展開するか、いろいろ考えています。『AIKA』、『アークサイン』、『ちょいトレ英会話』の3本をまず2009年末にスタートさせます。『なぜ日本の展開は遅いのですか?』ともよく聞かれます。韓国でサービスして、大きな問題が出なかったゲームは、できるだけ早く日本でも展開するようにしたいと思っています。この他にも他のオンラインメーカーともチャネリングを行なっていきます。2010年のHUEにご期待ください」とKim氏は語る。

 最後にユーザーへのメッセージとしてKim氏は「日本のユーザーさんが韓国のゲームに興味を持っていただいているのは、本当に感謝しています。私自身日本が大好きですし、日本のユーザーさんに面白いゲームをサービスしていきたいと思っています。努力しますので、皆さんも応援してください」と語った。


(2009年 11月 30日)

[Reported by 勝田哲也 ]