CESA Developers Conference 2009現地レポート

コーエー、ガマニアが語るオンラインゲームへのアプローチ
「大航海時代 Online」危機からの脱出と飛躍
ガマニアの語る開発会社との交渉術

9月1日~3日開催

会場:パシフィコ横浜

 

 パシフィコ横浜で9月1日~3日に開催されたゲームカンファレンス「CESA Developers Conference(CEDEC) 2009」。本稿では「『大航海時代 Online』の運営戦略、そして次のステージへ」と、「ネットワークビジネスの光と影 海外オンラインゲーム開発会社とのやりとりで発生する諸問題について」という2つの講演を取り上げたい。

 「大航海時代 Online」は4周年を迎えたMMORPGだ。会員数は順調に増加しているものの、一時期はユーザーの減少に悩んだという。またクオリティのアップや、海外への対応といった問題に対してどう対応したかが語られた。

 ガマニアの講演ではオンラインゲームパブリッシャーとして、IP電話会議で発生した問題や、こちらが提案する新システムを理解してもらうにはどうするかといった開発会社への対応が語られた。異なるアプローチからオンラインゲームの現状を語る興味深い講演だった。




■ 数年戦う覚悟で、徹底的にコンテンツを分析する、「大航海時代 Online」の戦略

コーエーネットワーク事業部オンラインサービス部長であり、「大航海時代 Online」の運営プロデューサーの渥美貴史氏
数年後を視野に入れ、ユーザーから丁寧に話を聞きながらクオリティアップを図っていく。やみくもに対応するのではなく対応するシステムをくみ上げていけるのが、コーエーというメーカーの強みだろう

 「『大航海時代 Online』の運営戦略、そして次のステージへ」というタイトルで講演を行なったのは、コーエーネットワーク事業部オンラインサービス部長であり、「大航海時代 Online」の運営プロデューサーの渥美貴史氏だ。

 「大航海時代 Online」は中世の大航海時代をモチーフにしたMMORPG。プレーヤーは航海者となり、世界の海に乗り出していきながら、冒険、戦闘、交易のスキルを研いていく。2005年3月よりスタートし、2つの拡張パックによって世界一周が可能になった。2009年4月にはPS3版が発売され、2009年12月には待望の日本を含む東アジアの海域がオープンとなる新拡張パック「El Oriente」が発売される予定だ。

 渥美氏は最初に、「大航海時代 Online」のポイントを説明した後、プレーヤー数の推移を紹介する。本作の累計アカウントは34万人で、現在のアクティブユーザーは3.2万人。新規登録は順調に伸びている。しかし課金有効アカウント数はサービス当初順調ではなかった。「大航海時代 Online」は月額課金のビジネスモデルである。有効アカウントの数がそのままアクティブユーザーの数になる。

 サービス開始時から2005年12月までにかけてどんどん有効アカウントが減少したものの、2005年12月より持ち直し徐々に上昇。2009年3月のPS3版発売に前後して課金ユーザー数が急激に増加したという。コーエーはどのようにユーザーに働きかけ減少するユーザーをつなぎ止め、新規ユーザーを獲得していったのか渥美氏は5年目を迎える「大航海時代 Online」時代の取り組みを説明していった。

 「大航海時代 Online」は企画段階から、かなり先の未来像まで想定して作られていた。大項目としては「拡張パックで海域を区切る」、「韓国や中国など外国でもサービスを行なう」、「コンシューマハードでもプレイできるようにする」という3点があり、これらは現在全て実現されている。本作ならではの世界観とゲーム性を実現、ソロとパーティーの楽しさ、多彩なスキルによるキャラクター、充実したシナリオとクエストという、ゲームのコンセプトもベクトルを保ったままパワーアップを果たしている。

 しかし一方で、世界の広さはプレイ時間が長く退屈になりやすいという点、ユーザーの早すぎるコンテンツ消費のスピード、プレイスタイルの硬直化、PKともいえるプレーヤーによる「海賊」の問題などさまざまな課題が頭をもたげてきた。サービス1年目は課金ユーザーも減少を続け、運営的に非常に苦しい状況になった。

 コーエーはユーザーにアンケートをとり、「コンテンツをやり尽くしたことでのユーザーの離脱」、「繰り返し行為によるプレイスタイルの硬直化」という問題が大きいと判断。一方、掲示板をにぎわせる「海賊問題」に関しては、長期の対応を心がけ、まずユーザーの要望を満たす新要素の追加に注力していった。

 ユーザーの要望もアンケートを元に優先順位を選び、時代に合わなくても性能の高い船を追加したり、運営側のイベントを積極的に行なうようにした。大型アップデートをすぐにはできなくても、今できることを優位性を考えて行なっていったのだ。また、ゲームシステムを利用した極端に効率的なプレイに関しては、いきなりそれを禁止させるのではなく、段階的に、しかし確実に対処していったという。

 また、プレーヤーへ積極的な情報開示を心がけた。これにより情報に対するユーザーの反応を細かく知ることができ、今後の追加コンテンツの優先順位など、予定の組み立てにも役立っていったという。渥美氏はユーザーの減少を止め、今後につなげて行くには「分析を徹底的に行なう」、「やみくもに対応しない」、「対策内容の目的・理由をきちんとユーザーに届ける」事が大事だと語った。

 2006年から2007年に「大航海時代 Online」チームは体制変更を行なった。これまでは開発と運営、さらに海外への担当などを全て同一のチームで行なっていたが、国内は開発部署と運営部署にわけ、海外業務もローカライズを行なう開発部署と運営部署に分離させた。これは、開発を行なう開発チームが、キャンペーンなどのイベントや、海外向けの仕様の対応に追われ、拡張パックの制作に注力ができず、クオリティが低下した事態を受けてのものだ。

 コーエーは部署をわけた上で、運営チーム内に検収班を設置、多面的で詳細なレポートを作成することでコンテンツの品質をアップさせた。コンテンツのテーマも明確になり、ユーザーから高い評価を得られるようになったという。海外への対応も、組織改革によってよりスムーズにできるようになった。開発チームと現地の運営会社の間に運営支援部が入ることで、現地からの声を整理して要望として出し、開発にコンテンツ作成と品質向上に注力させることができた。

 また、運営支援は開発チームの意図や作品の魅力をより正確に理解してもらえるように努力し、かつ開発会社と話をすることでよりよいものにしていく。長期的な展望を提示し、きちんとした形式での話し合い、約束の仕方を決めた上でお互いの意識を理解していく。韓国はその結果基本プレイ無料のアイテム課金というビジネスモデルを実施することができたという。

 次のステージに向けて「大航海時代 Online」はPS3のサービス開始、そして「El Oriente」の告知により、新たな会員だけでなく、多くのユーザーが復帰したという。また、「El Oriente」の目玉の一つである「陸戦」が東京ゲームショウでは一足早く体験できると言うことが発表された。

 渥美氏は最後にまとめとして、「数年戦う覚悟を決め、最初から決めておく」、「提供コンテンツの品質向上が全て」、「徹底的に分析する」、「情報開示を細やかに」というポイントが、国内の開発のみならず、国外へのサービス提供にも重要だと語った。そしてこれらすべてのことは「お客様の満足のために」必要だと語り、講演を終えた。


下降をたどるサービス開始時期に、費用対効果を考慮した新コンテンツを投入しながら、システムを使った単純作業を代替案を提示しつつ改修していく
組織を改編し、自分たちのコンテンツを再評価、自社内から改良案を募集する



■ 成功体験の共有こそが信頼の鍵。ガマニアが語る「海外メーカーとのやりとりで発生する問題」

ガマニアデジタルエンターテインメントオンライン事業本部 第1事業部マネージャーの長谷純倫氏
さまざまな交渉のためのケース。有用性やコストも考えていかなくてはならない
責任者も技術者も同席するIP電話会議での理想的な状況。IP電話の会議ではきちんと責任者と技術者の同席が必須。通訳を兼ねる担当者は板挟みに会いやすい。意思の疎通、こちら側の意識の統一のためにも心配りが必要だ

 ガマニアデジタルエンターテインメントオンライン事業本部 第1事業部マネージャーの長谷純倫氏は、「ネットワークビジネスの光と影 海外オンラインゲーム開発会社とのやりとりで発生する諸問題について」というタイトルで自身の経験を紹介した。コーエーの渥美氏が日本から海外に向けた立場から講演したことに対し、長谷氏はパブリッシャーの立場から、海外の開発会社との関係の構築の上で発生したさまざまな問題を語った。

 ガマニアは台湾に本社を持つオンラインゲームメーカーで、日本では2001年設立、エターナルカオスの運営を皮切りに、巨商伝や飛天オンラインなどさまざまなタイトルをサービスしている。主に韓国、台湾のタイトルを展開しているが、「アンリミテッドハーツ」では中国のメーカーが開発している。今回の講演では主に、開発会社とのコミュニケーションの取り方についての説明がなされた。

 コミュニケーションの方法について長谷氏は「メール」、「メッセンジャー」、「電話」、「IP電話・テレビ電話」、「実際に会う」という項目に分け、それぞれ一長一短があると語る。メールはレスポンスが悪い問題があり、メッセンジャーは手軽だが「退席中」になると連絡が取れなくなってしまう。電話は担当者の携帯電話番号が必要なこと、実際に会うのはメリットが大きいがコストがかかりすぎてしまう。

 長谷氏はIP電話での会議におけるガマニアのケースを語る。ガマニアでは日本側に現地の言葉が話せる担当者兼通訳を置きIP電話での打ち合わせをする。この時に大事なのは向こうに責任者と海外担当者、技術者がいること。海外担当者だけがいる場合は、伝えたとしてもそれが正確に伝わらなかったり、伝えても後で責任者や技術者の了解や納得が得られないという問題が発生する。

 また、議論がヒートアップするときなど、どちらもきつい言い回しをしていると通訳だけが疲労がたまってしまう場合や、汚い言葉を使ったとき、向こうの担当が少しだけでも日本語がわかるとトラブルになりやすい。今回の資料作成にあたり、長谷氏は通訳担当者の苦労を改めて聞かされ反省したという。海外への窓口も兼ねる通訳は、こちらの責任者や担当者とも話し合い、前もってなにを問題としているか、どんなことを伝え、タイトルをどうしていきたいか、意識の共有も大事だと長谷氏は語る。

 この他にも海外の担当者と話すときは、帰ってしまわないようなスケジュールの管理や、「参考に資料を。こういった感じのものを作ってください」と資料を渡すと、そのまんまのものを作って著作権の問題が発生したり、新アイテムなどにも注意が必要だったりしたという。

 議論となるのが方向性の問題だ。特に海外でも評価されている場合はこちらの要望がなかなか伝わらない。中国や台湾ではPvPが人気で、優先して実装する傾向がある。「かわいらしいキャラクターのゲームにPvPを入れるのはどうなのか」と婉曲に指摘してもなかなか理解してもらえない。

 また生産要素など、こちらが必要だと思っている要素を理解してくれないことも多い。「そのシステムを入れればいくら儲かるのか?」という問いに対してこちらでつい大きな数字を言ってしまうと、売り上げに対する枷になるだけでなく、その売り上げを達成しようとアイテムの価格を上げたりと、ユーザーにしわ寄せがいってしまうこともある。

 次に長谷氏は開発会社との情報共有の重要さを語る。定例会議の前にさまざまな情報を提供した上に、会議の後の議事録を提出し共有を計るが、会社内での緊急のスケジュール変更を相手の会社に伝え忘れてしまうことがある。また次に伝えればいいやと思っていたりすると後になって大きな問題になる。交渉に関しては、全てを聞いてもらうと言うことを目標にしているとうまくいかないという。どこで折り合いを付けるか、自分の言うことを全て正論だと思いこまない姿勢が大事だ。

 そして「成功体験の共有」である。ゲームの方向性は開発会社と運営会社の話し合いから生まれる。だからこそ売り上げが上がった、多くのユーザーを獲得した、我々の判断は間違っていなかった、といった成功の実感を共有することこそ、両者を近づける1番の近道だという。売り上げが上がると運営会社は言うことを聞いてくれる。お互いの話し合いが有効なんだと信じ合うことが大事だという。

 公演後さまざまな質問が寄せられた。会議で責任者や技術者が出てくるのをいやがる場合、さらに上の人に話を持ってくるなどの手もあるが、やはり結果が1番モチベーションを上げるという。各国の違いはどうかという質問では、韓国はやはりオンラインゲームの経験値が段違いで、効果を考えた提案をしてくるし、結果や売り上げにこだわるところがある。台湾はまだコンテンツの練り込みがまだ足りないところもあり、遊びやすいシステム作りに関しては話し合うことも多いという。

 会場ではこの他にもオンラインゲーム関係者が多かったようで、顔を見るTV会議のほうが必要かという質問には、「人数が多いと顔が小さくなってしまうので映像はいらないかもと考えるようになった」。開発と運営のパワーバランスに関しては、日本のみで成功しているとよく話を聞いてくれる、といった感じで、実際の体験からの答えも聞くことができた。

 海外との関係というのはさまざまなアプローチが可能なテーマだと思う。現場レベルで体験談を聞くことができたのは非常に参考になった。CEDECではオンラインゲームメーカーのセッションは少ない。特に中堅メーカーの参加が少なく感じる。新しい、日本ならではのオンラインゲーム、日本での運営を模索する機会が増えてほしいと感じた。


(2009年 9月 4日)

[Reported by 勝田哲也 ]