Game Developers Conference 2009現地レポート
iPhoneへの熱気と混乱に包まれた「GDC Mobile」
BRICs向けの3Gコンソールゲーム機「Zeebo」が登場
Game Developers Conference(GDC) 2009の開幕初日と2日目、会場のMoscone CenterのNorthホールにて「GDC Mobile」が開催された。モバイルゲーム関連のセッションを集めたもので、今年は基調講演なども含め28セッションが設けられた。
セッション数だけでいえば、47あった昨年よりもかなり少なくなっているのだが、会場の熱気は今年のほうが圧倒的に高い。その原因はiPhoneだ。初日の基調講演を、2008年6月設立の新興企業ながらApp Storeランキングで上位常連となったngmocoのCEO、Neil Young氏が務めたことからも、北米のモバイルゲーム市場がiPhoneで一変しようとしていることが伺える。
■ iPhoneアプリの成功者、ngmocoが語る光と闇
ngmocoのCEO、Neil Young氏 |
会場から感じられるiPhoneのイメージは、まさにこんな感じ |
Young氏の講演のタイトルは、「Why the iPhone just changed everything (なぜiPhoneは全てを変えてしまったのか)」という、北米での盛り上がりを端的に示したもの。キャリアの存在や端末の多様化による性能の違いなど、現在の携帯電話が抱える問題を挙げた上で、これらはもはや時代遅れであるとし、そこに彗星のごとく現われたのがiPhoneだと語った。
この講演では、携帯電話だけでなくニンテンドーDSやPSPも引き合いに出し、「いつでも通信でき、常に身につけている」、「App Storeが消費者と直接繋がっている」といった機能的な利点に加え、「ローンチからの販売の勢いはニンテンドーDSやPSPを上回る」といったデータも示された。iPhoneの場合、全員がゲーム目当てというわけではないので、純粋にゲーム機と比較するのはどうかと思うが、それだけの性能を持つ同一仕様の端末が、過去にないペースで売られているというのは見過ごせない事実だ。
しかしYoung氏は、iPhoneにおける問題点も指摘している。アプリケーションの数は25,000本を超えており、1日に配信されるアプリケーションの数は平均165本にもなる。それ自体は喜ばしいことだが、急激にタイトルが増えすぎたためにタイトルの検索性が急激に落ち、新作を出しても山のように配信された中に埋もれてしまう。また価格を自由に設定できることで値下げ競争も激しく、ユーザーもそれに慣らされつつあるため、適正と思われる価格で売るのが難しくなっている。Young氏の「必ずしもいいゲームがヒットするとは限らない」という一言に、問題の根深さがうかがえる。
iPhoneとApp Storeは、デベロッパーにとってはフロンティアであり、降って沸いたアメリカンドリームだったわけだが、この状況になると独立系デベロッパーとしてiPhoneに立ち続けるのも簡単ではない。どうやってアプリケーションの群れの中で生き残るのか、またヒットのためには次に何をすべきかということは大きな課題になる。
その答えではないが、Young氏は同社が配信しているアクションゲーム「Rolando」のアプローチを紹介した。2008年12月に配信された「Rolando」は、その後もステージの追加などのアップデートを行なって人気を維持している。そして2009年6月には、次回作となる「Rolando 2」を配信する予定。こちらはアップデートではないので、「Rolando」とは別のアプリとして有料で配信される。その後またアップデートを数回行ない、11月には「Rolando 3」の配信を予定している。現状はアップデートでお金を取れる仕組みになっていないので、ある程度はアップデートによってランキングを維持し、その後は適度なタイミングで新作として投入するというライフサイクルを考えているのだという。
Young氏のほかにもiPhone関連の講演はいくつか行なわれているが、どのセッションでもこれらの問題については指摘されている。ただ、「こうすればいい」という打開策はまだ見えていないというのが実情だ。しかもアプリケーションは時間が経つほどに増えていくわけで、いよいよどうしようもない状態に陥りつつある。それでも何かヒントを得ようと開発者がiPhoneのセッションに集まるので、まだ熱気があるようには感じられるのだが、既に「iPhoneは終わった、フロンティアと呼べるものではない」という声も聞こえてきた。
セッションの中には、未だに「Macと99ドルあれば、今すぐあなたもiPhoneクリエイター」というキャッチを語るものも見られるくらいで、来場したクリエイターの聞きたい話題とはかなりズレが生じている。ただGDCが1年間隔で開催される以上、この半年での激動についてこられるはずもない。そういう意味でも、iPhoneは従来のゲーム制作とは全く異なる戦略が必要になる、まさに次世代のプラットフォームであると実感させられた。
PSPやDSを超える勢いで販売を伸ばすiPhone/iPod touch | 販売台数は既にPSPやDSと比較できる数字にまで伸びている | App Storeの配信アプリも25,000本を超えた |
あまりの急激な加熱ぶりで、早くも岐路に立たされている |
■ iPhoneの動きを静観するNokia。BRICs向けの3G搭載据え置きゲーム機も登場
2日目の基調講演を行なったNokiaのTero Ojanpera氏 |
対する世界最大の携帯電話メーカーのNokiaも、例年どおりいくつかのセッションを開いた。対する、とはいったものの、Nokiaのセッションでは特にiPhoneに対して危機感を覚えるような雰囲気は感じられなかった。いくらiPhoneが売れているとはいえ、Nokiaから見れば数%の規模だということもあるし、そもそもビジネスの狙いが違う(N-Gageは若干かぶるかもしれないが、そもそも特別にN-Gageをプッシュする講演を開いていない)ので、ウチはウチで今までどおりにやる、という雰囲気が感じられた。
インターネットサービス「Ovi」を始め、同社のゲーム関連の取り組みについて紹介する内容。ただ一通り話しましたという程度で、iPhone関連のセッションとは温度差があった |
QualcommのMike Yuen氏 |
ZeeboのJohn Rizzo氏 |
会場でデモプレイに使われた「Zeebo」。サイズはWiiと同程度 |
「GDC Mobile」でiPhone以外に注目したいセッションとしては、QualcommのMike Yuen氏とZeeboのJohn Rizzo氏による「4 - Gaming for the Next Billion」がある。Zeeboという企業は聞きなれないのだが、それもそのはず、「Zeebo」という新コンソールゲーム機を手がけている企業で、GDCがその発表の場となっていた。
「Zeebo」はQualcommの3G通信機能を搭載した、BREWベースのコンソールゲーム機。従来のコンソールゲーム機との決定的な違いは、ソフトをダウンロード配信でのみ提供するというスタンスだ。本体にはSDカードスロット以外のメディア挿入口は見当たらない。データは本体に内蔵されたフラッシュメモリに記録される。通信は前述のとおり3G機能を搭載しているので、インターネット接続環境を用意する必要もない。ソフトの販売機能も本体だけで完結するという、まさにオールインワンのゲーム機である。
この「Zeebo」が本当に面白いところは、本体機能ではなく、ビジネスにある。2009年に最初にローンチする地域は、なんとブラジルである。その後2011年までに、メキシコ、インド、東ヨーロッパ、中国へと順次展開するとしている。BRICsを中心としたエマージングマーケットにターゲットを絞ったゲーム機なのだ。
これらの地域は、まだ生活水準が低いこともあり、現行のコンソールゲーム機は普及していない、ないしは参入できていない。しかしながら経済発展は著しく、約8億人の新たな中流層が生まれるとも言われている。その中流層に対して、既存のコンソールゲーム機よりも安価なものを先駆けて提供するというのが「Zeebo」の狙いである。価格は199ドルから販売を始め、2010年には149ドル以下に値下げしたいとしている。
参入企業は、カプコン、EA Mobile、Namco Networks(バンダイナムコホールディングスのグループ会社)、THQ、Id Softwareといったメジャーなゲームメーカーのほか、Com2uSやGameloftといったモバイルゲームで実績のある企業も名を連ねている。会場では「Quake」、「Crash Bandicoot Nitro Kart 3D」、「鉄拳2」のデモも行なわれ、プレイステーションに近いレベルの3D描画性能を持っていることも示した。
3Gによる無線通信を採用したのは、利便性を高めるという理由以上に、不正コピー対策の意味が強いと思われる。講演においても、エマージングマーケットにおける不正コピー問題について述べており、2007年の損害額が30億ドルにも上るというデータを見せていた。3G通信を使えば、ソフトウェアをセキュアに配信できる上、LANからデータをハッキングされることもなくなり、リスクを大きく下げられる。エマージングマーケットに進出するために作られたハードウェアといえるだろう。
(2009年 3月 29日)
[Reported by 石田 賀津男 ]