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2Dアイドルのかわいさを3Dで再現する! 「デレステ」開発事例公開

ヒャッハー顔、振り袖、胸のホクロ。こだわりが合理化を超えるアイドル愛

8月24日~26日 開催

会場:パシフィコ横浜

 バンダイナムコエンターテインメントのアイドル育成ゲーム「アイドルマスター」の派生作品として、Mobageでスタートした「アイドルマスター シンデレラガールズ」(デレマス)。その最新作であり、現在では累計1,200万ダウンロードを突破している大ヒット作がAndroid/iOS「アイドルマスター シンデレラガールズ スターライトステージ」(デレステ)だ。

 CEDEC 2016では、開発を担当するCygamesより、「デレステ」制作事例に関する講演が実施された。本稿では、「アート編」と「テクニカル編」として実施された2つの講演の内、「アート編」を中心に紹介したい。登壇したのは、Cygamesデザイナー部3DCGアーティストチームマネージャーの谷本裕馬氏と、Cygamesデザイナー部UIデザインチームマネージャーの中村ふじ子氏。

Cygamesデザイナー部3DCGアーティストチームマネージャーの谷本裕馬氏
Cygamesデザイナー部UIデザインチームマネージャーの中村ふじ子氏
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かわいく、自然に見せる3Dアイドルの作り方

2Dイラストから3DCGへ

 そもそも「デレステ」での命題は、「デレマス」で登場する2Dイラストのアイドルを「3DCGで再現すること」にある。

 本作は3DCGで表現されたアイドルたちの楽曲とダンスが最大の目玉であるが、スマートフォンでも問題なく動作し、しっかりとかわいく見えるスペックを模索していった結果、頭部は約4,000ポリゴン、身体は約7,000ポリゴン、テクスチャは頭部、身体が1,024×1,024ドットなどと、スマートフォンゲームとしてはかなりギリギリ、プレイステーション 3に匹敵するほどのスペックで制作されている。

 またグラフィックス面では、2Dイラストを再現するため、アウトラインを表現している。表示自体は「一般的」な、法線方向に押し出したモデルを反転させるという手法で対応。ただしアウトライン用のメッシュモデルにキャラクターのテクスチャーを適用させることでアウトラインに色がにじむように反映されており、仕上がりとして自然に見えるようになっている。

 リリース当初で60人ほどいたアイドルたちの3Dモデルの種類は、「本来は1人1人を作りこみたい」ところだが、スペックと容量的にそうはいかないため、身長ならS/M/L/LL、胸囲ならS/M/Lといったように、各アイドルの身体部分を体型別に共通化している。ただし身長のLLは諸星きらり(身長182cm)のみの適用とするなど、こだわりが合理化をはみ出しているところが面白い。

PS3にも匹敵するスペックで調整されている
アウトラインへの色の反映で、自然な表現に
身長差などは共通化データを用いているが、例外も存在する

表情について。個々に用意された特殊表情が何よりのポイント

 「デレマス」イラストレーターの監修を受けているアイドルの表情は、「通常顔」から「切ない」、「スマイル」など6種類が用意されており、ここに各アイドルで異なる「特殊表情」が加わる。

 「特殊表情」は各アイドルの魅力を反映さえた表情で、城ヶ崎莉嘉なら瞳に星がきらめき、森久保乃々はカメラに目線を合せてくれない、星輝子ならテンションが上がって鬼気迫る表情の「ヒャッハー顔」になる、などとなる。特に星輝子はSSレアを獲得することで常に特殊表情になっている特別扱いで、「頭部データが2つある。コスト2倍ですよ……」と谷本氏は嬉しそうに愚痴っていた。

 また楽曲のリップシンク用に用意された口は「あいうえお」+「ん」の母音と無音の大小2種類ずつを用意。2種類ずつあるのがポイントで、表情にメリハリがつき、より自然に感じられるという。また歌詞がない時用の「スマイル」もある。

 ダンスは、ダンサーによるモーションキャプチャーをベースに、手先の動きは手付けで対応。実はダンスシーンは全員同じデータが走っているが、時間軸をズラすことで生身のアイドルが踊っているようなリアルなダンスが表現されている。

アイドルたちの表情。星輝子は中でも特殊な例となっている
口の動き、ダンスのズレによってダンスシーンがより自然に
他にも様々なこだわりが。監修イラストレーターのフィードバックを受けて、ブラッシュアップは常に行なわれている

アイドル愛炸裂のこだわり事例を紹介

当初の仕様では実装不可能だった依田芳乃の振り袖
最初は表現を諦めていた太田優のホクロ

 「こだわりが合理化をはみ出している」と先に書いたが、それはリリース後もところどころで生じている。

 たとえば、ゲームプランナーから「依田芳乃に振り袖をどうしても着せたい!」という声が挙がった事例では、その時点ではスペックがギリギリだったため実装が不可能だったのだが、処理の最適化を行なうことでCPU処理負荷が下がり、振り袖の計算処理が可能になったという。ちなみに「テクニカル編」で講演したCygames Cygames Researchシニアエンジニアの金井大氏はこの処理の最適化に気付いていたというが、「何かあったときのためにとっておいた」と話していた。

 また太田優は胸元のホクロが特徴となるが、リリース直後はホクロが身体データ共通化のため実装されず、カットされていた。この事態に、世のプロデューサーからは「ホクロがない」とすぐに意見が舞い込むことに。

 そこで制作チームは、それまで色白/通常/褐色の3種類のみだった肌色差分に、太田優専用の「ホクロ差分」を加えることで対応。これによって見事に、太田優の左胸にホクロが描かれることになった。

 ほかにも、各アイドルの利き目を決め手、「ウィンク」をどちらの目で行なうかを個別で設定するなど、アイドルへのこだわりがたっぷりと感じられた講演だった。

 本作は9月で1周年を迎えるタイトルだが、細かいモデリングの修正も含めて、常にブラッシュアップを重ねている。それは配信当初のPVを見返すと「キツイところがある」と感じるほどだそうで、今もなお圧倒的なモチベーションをもって運営を続けていることがわかる。1周年のタイミングでは新たな映像も公開されるそうなので、そちらも楽しみにしていただきたい。

【UI制作の事例】
中村氏からはUIの制作事例が話された。UIは「アイマス」だとわかり、アイドルの魅力を邪魔しないようすっきりとしたデザインにすること。サイズを揃えながら作るパーツを最小限にしておくことで、急な要件にすぐ対応できること、その上で編成画面ではアイコンを大きくして利便性を向上した例などが挙げられていった