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プレイの熱意を高める対戦TCG「Shadowverse」の緻密なAI構築
「プレーヤーに気づかれずに手加減」も! 合理的で適正な判断を下すAIの作り方
2016年8月25日 00:00
Cygamesがスマホ用デジタルTCGとして鳴り物入りで配信を開始し、最近ではPC版が始動し、さらにはe-Sports大会「RAGE」の競技としても参戦が発表されたばかりの「Shadowverse(シャドウバース)」。他プレーヤーと勝負をする対戦型のゲームでありながら、コンテンツには対戦AIも導入されており、プレーヤーはいつでもAIとの対戦が可能となっている。
CEDEC 2016初日の講演では、Cygames ResearchのResearcherであり、AI関連のアーキテクトデザイン、実装、開発フローの構築、監修を担当した佐藤勝彦氏が登壇し、「Shadowverse」におけるAI開発の活用事例を述べていった。
「Shadowverse」の堅牢なAIは緻密すぎる構想によってできていた!
「Shadowverse」はプレーヤー同士の対戦がメインコンテンツであるため、そもそも対戦AIは必要か? という議論から制作がはじまっており、人間の代理となるようなAIは目指されていない。
本作におけるAIの役割としては、デッキの扱い方やプレイングの教唆、またデッキ調整の練習台などが念頭にある。
たとえばプレイングの教唆という面では、特に初期は「不利な局面でのみ進化する」ことで、「進化」が本作における勝負のポイントであることを例示させるとともに、「適度に良い勝負感を出す」ようになっている。
また教唆段階が上級になると、プレーヤーのクラスにあわせて、そのクラスが苦手とする局面を体感させるなどして、プレーヤーが様々なことを「試す」、「発見する」ことを促しているという。
ここでのポリシーとして面白いのは、プレイの中でAIに「不自然ではない形」でこれらを達成させるということ。
例えば特に能力を持たないフォロワー1枚(仮にAとする)と、プレイ時にすでに場に出ているフォロワーを強化する効果を持つフォロワー1枚(仮にBとする)がAIの手元にあった場合、通常のプレイであれば効果を最大限に発揮するためAを出してからBを出すのが自然な動きになる。
もしAIの難易度を下げた場合、B→Aの順番でカードを出すというパターンも考えられるが、これは明らかに不自然な動きであり、その違和感がプレーヤーの熱意を削ぐ結果になってしまう。ただし1ターン目でBを出し、次のターンでAを出すとすると話が変わってきて、「ドロー」という要素が入ることでプレーヤー側からも自然に見え、しかも難易度を下げることができる。
「Shadowverse」のAIは最後の例のような動きが採り入れられており、「プレーヤーに気づかれないように手加減」し、プレーヤーの勝利体験を損なわないようになっているとした。
なおこのAIとの対戦において、AI側のドロー操作、カードの差し替えなどは一切行なっていないという。AI構築が堅牢だからこそではあるが、最も大きいのは「AIにおいても不公平な動かし方は許されない」というデザイナーの意思だそうだ。
ほかにも、AI側の戦略シミュレーション範囲を人間の状況認識可能範囲に近づけることでCPUの負荷を下げ、かつプレーヤーから見て「合理的」と思える判断を下したり、思考モデルを状況ごとに少しずつ思考していくスパイラル型にすることで、不確定情報に対する柔軟な対応と時間軸での負荷分散も可能にしている。
またTCGにつきものなのはレギュレーションの定期的な変更であり、新たなカードパックの登場や古いカードパックのレギュレーション落ちが繰り返されていくわけだが、これは基礎となるAIモデルとは別に、デッキ・カード別の思考パラメータやシミュレーションの評価ポリシーを外部データとして切り分けて構築することで負担を減らしている。この外部データを調整することで、今後の様々なレギュレーション変更に対応できるようにしているとした。
佐藤氏は、本作では「AIを使い、プレーヤーと対話するつもりで構築している」と話した。実際プレイしている1人のユーザーとして本作のAIは「全然ミスしないしかなり強い」と感じていたのだが、その裏側にこのような緻密な思考があったのには驚かされた。本作をまだプレイしていないという方は、AIがプレイの熱意を高めている興味深い事例として、ぜひチェックしていただきたい。