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キーマン3人が語る、アドベンチャー「√Letter ルートレター」

島根の写真満載、聖地巡礼にも挑戦

発売中(6月16日発売)

価格:
通常版 4,800円(税別)
限定版 7,800円(税別)
CEROレーティング:C(15歳以上対象)

プレイ人数:1人

 角川ゲームスから6月16日、プレイステーション 4/PlayStation Vita用アドベンチャー「√Letter ルートレター」が発売された。コマンド選択式のオーソドックスなスタイルだが、島根を舞台に徹底した取材を元に描かれた、美しい風景の中描かれる切ない物語に心を動かされた方も多いだろう。また、箕星太朗氏の描くキャラクター達も魅力的だ。

 島根という地域性に根ざした物語性を取り入れたゲームとしてこれまでに無いタイトルと言うことができるが、それ故に作り手がどういった想いで作品を作り上げていったのか気になる人も多いだろう。ということで、この記事ではプロデューサーの安田善巳氏、ヒロインの文野亜弥を演じた日髙のり子さん、脚本を担当した藤ダリオ氏のインタビューを掲載する。

 さらには、ゲームに登場した島根県の風景をたっぷりお届けしたい。聖地巡礼のお供にささやかながら役立てて頂きたい。

【「√Letter ルートレター」2nd Trailer】

落ち着いた雰囲気が魅力の島根県・聖地巡礼

 正直、大変申し訳ない話しだが、島根県と聞いてあれもこれも次々と名所や旧跡を思い浮かべられる人は少ないだろう。おそらく思い浮かべることができるのは、出雲大社や石見銀山、境港の「水木しげるロード」……などだろう。今回同作の御披露目イベントの取材のために島根県の松江にお邪魔したが、落ち着いた街並みと豊かな自然にずいぶんと癒やされたものだ。

 荒天のため、残念ながら宍道湖の遊覧船ツアーや松江城の周囲のお堀を船で見ることは叶わなかったが、水の多い街は美しい風景で溢れている。また神話の国だけあり、名所旧跡も多い。若い人には退屈かもしれないが、逆にこのゲームから聖地巡礼に訪れて興味を持って見てみるのも良いのではないだろうか?

縁結びの神様としても有名な八重垣神社。当然だが左がゲームのスクリーンショットで右が実際の写真
伝統的な行事も行なわれている。右の写真は「鏡の池」。占い用の和紙に硬貨を乗せ、池に浮かべて早く沈むと早く結婚できるという良縁占いで大盛況!
松江城近くのお堀。遊覧船で巡ることができるが、残念ながらこの日は風が強くて全便欠航
旧家がそのまま残る街並みは落ち着くし、非常に美しい
ゲームに登場する神代そば。こちらもゲームのまま!
1時間以上並んでなんとか食べることができた。本当に美味しいおそばだったので、時間に余裕を持って訪れると良いだろう
商店街。安田氏は「高校生の生活圏内で展開する物語」にこだわりリアリティを追求したという
やはりゲームに登場する「だんごや萌音」。ゲームに登場する看板娘は実在の人物だとか
なかなか時間が無くキチンと撮れなかったが目の前に見えるのが宍道湖。ちなみに松江と出雲を繋ぐ一畑電気鉄道から眺める夕日に染まる宍道湖は非常に美しい。ぜひ見ておきたい風景の1つだ。そして右はゲームに登場するバー。ここも実在するお店だとか

キーマンインタビュー「島根県への想い溢れるゲーム制作のきっかけとは?」

「√Letter ルートレター」のプロデュースを担当し制作を指揮した島根県出身の安田善巳氏

――改めて島根を舞台にしたゲームを作られた背景やきっかけを教えてください。

安田氏:「KILLER IS DEAD」を作り終えたタイミングがちょうど3年ほど前なんですね。それとほぼ同じタイミングで、私が高校生の時の同級生が島根県の企画局の次長というポストについたんですね。その同級生の彼から「ゲームを通じて島根県を全国にPRできないだろうか?」といった相談がありまして、その時は残念ながら彼の期待に応えるようなことは難しいなと思いながら、ずっと「そういったことができたらいいいな」と考えていました。

 それが「これは(ゲーム化)できるな」と思ったのは、箕星太朗さんから、「高校生以上で成人未満の女性を主人公にしたアドベンチャーゲームを作りたい」という提案があったんです。その時に、アドベンチャーゲームというジャンルにおいて、いわゆる「Heavy Rain」のようなハイエンドなもので我々が作れるようなものはないのですが、ただ、(ジャンルにおける)文法は同じであると考えたときに、いくつかの優れた才能の方からお力をお借りすることと、地道にそういったゲームのシリーズを作っていく中で、少しずつでも、多くのユーザーの方にこういったアドベンチャーゲームを広めていけるのではないかなと思いまして、制作に取り組もうと決意しました。

 このゲームは、かつてアドベンチャーゲームに慣れ親しんで、しっかり目利きができるハードゲーマーの方にも十分楽しんでもらえ、一方で電子書籍などを読んで文字や活字は好きなんだけどゲームとなるとハードルが高いなと感じていらっしゃる文字文化にリテラシーが高い方にも楽しんでいただけるようなゲーム作りを目標にして企画してきました。

――地元で御披露目会を開催されましたが、地元の方の反応や印象をどのように感じられましたか?

安田氏:開発開始当初は「島根県を舞台にしたゲームなんか作って失敗したらどうするんですか? 本当に角川ゲームス、大丈夫ですか?」と心配していただきました。でも、島根県の方は自分のこと以上に人のことを心配してくれる方達なので(そういう方達が見守ってくれているので)「いやいや全く大丈夫な会社ですのでご安心ください」とお答えしていました。

 今回、発表会にたくさんの方にお越し頂きました。リハーサルの時に「次回作の出演権を1等の賞品にしているけど、もし誰も出たくないと思われたらどうしよう……」と心配していたのですが、結果的には杞憂に終り、ほとんどの方が出たいと思ってジャンケンに参加して頂いたきました。それを見て、やはり島根県の方って控えめなんだけど、こういったことに潜在的には興味を持っていらっしゃって、言葉には出さないですが、気持ちの中で応援して頂いているのではないかなと感じました。

日髙さん:今回のイベントで、島根県在住の実在する一般の方達が出演されているという事で、たぶんこのゲームの意図というようなものがお客様に明確に伝わった結果なのではないかなと、私は思っています。そうでなければ、ゲームの続編に出演したいと手を挙げて頂ける方はそうはいらっしゃらないと思うんです。島根県に対してものすごく深い愛情を持って作っている作品だから、自分たちも出てみたいという気持ちになられたのかなと思うんです。

 それがお若い方だけでなく、シニア層の方々もジャンケンに参加されて、そして負けたときに本気で悔しがっていらっしゃたんです。「愛情を込められる作品だな」と感じたときに演じた作品は良い作品になりますし、お客さんにもそれが伝わると同じ気持ちを返してくださるんです。そういった意味では、今回は「想いが伝わったな」と感じました。

【スクリーンショット】

ミステリー女優「AYA」と文野亜弥の演じ分けには苦労しました

ミステリー女優「AYA」であり、「√Letter ルートレター」の文野亜弥を演じた日髙のり子さん

――ミステリー女優の亜弥として演じられましたが、そういった設定上の苦労された点や、演じてみた感想を教えてください。

日髙さん:文野亜弥(「√Letter ルートレター」のキャラクター)としてストーリーを演じるということに関しては、ゲームやアニメでやっているお仕事とそんなに変わらないのですが、(やりこみ要素の1つとして収録された)「ミステリー女優プレミアムトーク」が実は難しかったですね(笑)。

 「ミステリー女優プレミアムトーク」では、AYAちゃんが女優としてこの作品の撮影に関わって……つまり映画女優が撮影に関わったという形の台本になっているんですね。でも、女優としてのAYAちゃんの仕事に対する思い入れとか、AYAちゃんの根底となる性格とかを私は聞いていなかったものですから、それをよりナチュラルに演じるのは難しかったですね。

 ただ、演じていて、キャラクターとしての文野亜弥とミステリー女優のAYAちゃんの違いを出そうと思ったのは、文野亜弥はどちらかというと大人しくて控えめな感じですし、少し暗い影を背負っている部分もあり、儚げな印象が私の中ではあったので、「あれは女優が演じていたんだ」という部分を見せるために、AYAちゃんの方を少し活発な感じに演じることで、よりリアルな感じに見えるよう工夫をしてみました。正直、まだ探り探りなんですけども、今回はそうやってみました(笑)。

――次回作の出演券をプレゼントしたと言うことは、次回作についてもある程度目処が立っていることだと思うのですが、舞台ももう決まっているのでしょうか?

安田氏:そうですね、次回作をご一緒に作るところからたってのお願いで、発表しないで欲しいと頼まれており、発表のタイミングは6月以降になってしまうと思います。然るべきタイミングで発表いたします。

――安田さんに伺いたいのですが、ミステリー女優なのですが、日髙のり子さん、井上喜久子さん、皆口裕子さんという3人の声優さんが3人のキャラクターを演じていらっしゃいますが、なぜ、この3人のお方を選ばれたのでしょう?

日髙さん:ちょっと時代に逆らってる感がありますよね(爆笑)。

――いやいやいやいや! 年代的には直撃世代なんですが、つまり、ちょっとおっさん向けなのかなと。

安田氏:1番の理由は、スタッフがこの3人の方と仕事をしたいと、強い要望があったからですね。もう1点は、いま、日髙さんととても親しくさせて頂いていて改めて思うのですが、この「ミステリー」シリーズを一過性のもので終らせないためには、良いときもあれば悪いときもあるという中で、プロジェクトの内容を理解して頂いて、僕たちが持っていない、“それ以上”のパワーや経験、技術力で取り組んで頂ける方は、私の考え得る中で、この3名がベストであろうと改めて思ったからです。

――そういった安田さんの想いを聞いた上で日髙さんに伺いたいのですが、「√Letter ルートレター」の脚本を受け取られて収録に望む上で、どのように感じられましたか?

日髙さん:実は1番最初にAYAちゃんのキャラクターを受け取って、「このミステリー女優のAYAちゃんを演じてください!」と言われたときには、やはり「なぜ、私に?」と思いましたね。

 ところが台本などを読んでいくと、AYAちゃんが演じる主人公が15年前にさかのぼるということを考えると、主人公自体が33歳ということになりますので、33歳の部分と若い部分とを演じ分けなければならなくなります。それに気付いたときに、技術面も含めて私を選んで頂いた意味を、「なるほどな」と思いました。本当の10歳台の子にその演じ分けは難しいですよね。

 私が22歳の頃「タッチ」において“浅倉 南”を演じたのですが、(浅倉 南が)中学生からのスタートだったんです。「タッチ」では中学生のリアルな恋愛体験が描かれているのですが、その感情を声だけで人に伝えるためには、もし私が“リアルな中学生”の年代の時にあの役を演じたとしたら、そこまで深い感情表現ができていないなと思うんです。22歳の私が演じていても「タッチ」は難しかったんですけど、声だけで演じる難しさってあるんです。

 台詞で直接的に出さないけれど、想いを胸に秘めた中での台詞というのは、それなりに人生経験を積まないと出てこないものだなと思うんです。私自身も、浅倉 南の役をあの年齢だったからできたっていうのがありますね。これは声優ならではの独特な部分かもしれません。そういうものが無く、友達と休憩時間にワイワイ言っているキャピキャピ感はその年齢でしか出せないものだと思うのですが、物語の中で人の想いを受け取ってその想いを返すとなったときは、生で女優さんが演じられるより、声だけの演技のほうが、少し感情表現が難しいのかなと感じますね。

 ですから逆に台本を読んで(自分にオファーが来た事に)納得したと言ったらおかしいですが、自分が演じる意味が見いだせました。安田さんから、私の持っている声自体の音が、島根県の日本の古き良き伝統とかを守りつつ、でもそれが決して手の届かない存在ではなく人のぬくもりと共にあるという、そういう優しい土地を描くという時に、私の声がすごくはまるんだと仰っていいました。でも、私の中ではキャラクターがあるのですごく不安になるんですよ。しかし今回「2nd Trailer」を見て、田舎の素朴な暖かさというか、人と土地の結びつきというか、そういったものを、今の私だからこそ出せるものがあるのかなぁと思い、今は自信を持ってやっています。

――日髙さんは次回作にもミステリー女優として出演されると思うのですが、次回作の内容はまだわかりませんが、「AYAとしてこういった役作りをしたい」という想いがあればお聞かせください。

日髙さん:私の歴史を見てみても、今演じている役を見てみても、このAYAは貴重な役なんですね(笑)。海外では「らんま1/2」のらんまがすごく人気があって、私の演じている役は元気があって強い女性のイメージがあるみたいなんです。でも、「√Letter ルートレター」は海外でも発売されるということもあって、海外の皆さんは「(文野亜弥のような影のある役を演じて)日髙のり子にはこういった部分もあったのか!」と、もしかしたら思われるのかなって(笑)。

 そうなるとですね、やっぱり女優にはイメージというものがありますから、しばらくはその与えられたイメージを踏襲した形で演じて、ここが女優としてワンステップ登るという時に、自分にないキャラクターにチャレンジしていくのかと! 女優として生きていく上での展望なんですけど、そういう意味では次もまた「日髙さんって本当は儚げな人なのかな?」って勘違いしてもらえるくらい、AYAはAYAらしくこの路線で演じていきたいかなと思いますね。まだちょっと儚げな雰囲気のイメージをキープしていきたいな。これが私の野望ですね(笑)。

【スクリーンショット】

ストーリー展開やギャラリーモードについて

脚本を担当された藤ダリオ氏

――アドベンチャーゲームではストーリーの進行と共にギャラリーが開放されていく印象があったのですが、「√Letter ルートレター」ではサブシナリオと連動しているということで意外な印象がありました。何か意図があるのでしょうか?

安田氏:ギャラリーは、ゲームを最後まで遊んでいただいた方に向けたご褒美のような位置づけで考えていましたので、ゲームのストーリーモードをクリアしていただける方は、ゲームのクリアで十分楽しんでいただけると思いますし、サブストーリーのところまでハマっていただいて、そういった方に向けてさらならご褒美という位置づけですね。

 「しまねっこ」は、結構目に付くところにいます。1980年代のアドベンチャーゲームのように、何かをクリックしないと出てこないといったことはございません。スキップモードを使うことによって、エンディングを全てクリアすることはそんなに難しくはなく、おそらくできるんだと思いますが、できれば何度もプレイすることで、様々なグラフィックスや映像を見ていただいて、島根県の原風景を頭の中にどんどん蓄えていっていけるような方にギャラリーを楽しんで欲しいという想いがありました。

――ストーリーの読みどころを教えてください。

藤氏:やはりミステリーなので、テレビのドラマの連続物のような感じなんです。謎が解けると思ったら急にその人が豹変して話さなくなり、でもその場で得られた情報で次の謎に挑んでいくという展開ですね。ですから最後までいくと「なぜそうなったのか?」というのが全てわかるようになっています。

 また、エンディングによってバッドエンドからトゥルーエンドまであるのですが、他のシナリオを読んでもキチンと辻褄が合っているようになっていて、バッドエンドだから全く違った雰囲気になるのではなく、バッドエンドになっても「あぁ、あの時彼が話せなかった理由はそういうことだったのか」と辻褄が合うようには、一応作家としては作っています。(ストーリーを通して)1つの“ウソ”が(最後まで読むことで理由がわかり)筋が通っているように作っています。ライターとしてはそこが苦労したところなので、そこに注目して欲しいですね。

安田氏:デジタルではなくアナログを狙ったと言いますか、正解/不正解以外に半分正解みたいな展開です。まだ半分しかわかってないんだけど、もうちょっとがんばれば半分いけるみたいな、解き方のラインカーブにいくつかの段階を作ったゲームですね。なんとかアドベンチャーゲームの新境地を拓くために、藤ダリオさんにはチャレンジしていただいているところはあります。

 とんでもない展開のシナリオになっているのですが、あとで考えてみると「あの時の台詞はそういった意味だったんだ」と納得していただけるような、そういった作りになっています。

藤氏:それと、松江の1年……春夏秋冬をゲームの中で体験できるような内容になっていますので、そこが見所でしょうか?

――今回はゲームの中の人物だけでなく、実在する人物も登場しますが、キャラクターの設定ですとか、苦労されたことなどございますでしょうか?

藤氏:実在する方達は事前に写真を頂いたり、「こういった人ですよ」といった情報があって書いています。実在の方が登場している部分に関してはあまりおかしな行動を取らせないようにしています。あまり強いキャラクター付けをしてしまうと、ゲームをプレイした人に「こういった人なんだ」と誤解されてしまい、(現実世界で)苦労される可能性がございますので、そこはなるべく当たり障りのないようにしています。

 それと苦労したのは、例えば「○○商店街の誰某の息子さんが不良で……」と書いたら、実際にその方に息子さんがいらっしゃって、「それだとその息子さんのことを言っているようになってしまうのでやめて欲しい」といった要望が出て、他の方にしたといったことはありました。

――藤ダリオさんご自身をキャラクター化した「放浪の作家」が登場しますが、自分のキャラクターを描くのはいかがでしたか?

藤氏:実は自分自身を書いたつもりはなくて、「“放浪の作家”を出しましょう」と言われて書いたら、あとから「“放浪の作家”は藤ダリオさんにしました」と言われました(笑)。だったらもうちょっと格好いいこと言わせた方が良かったなぁって思いましたね(笑)。

――背景画についてお伺いしたいのですが、はっきりした色合いで、静止画のゲームですが今風のグラフィックスなのが非常に印象的でした。それと文章を読むという点で文字のフォントも重要な要素だと思います。この2点についてどのようにお考えになって制作されたのでしょうか?

安田氏:当初、島根県さんの方から出雲地方だけでなく、松江地方や隠岐の島、石見(いわみ)などあらゆるところを、できればまんべんなく取り上げて欲しいと言われまして、そこを舞台にした物作り、絵作りといったところから入ったのですが、案の定上手く作れずに迷走したときがありました。

 高校生の物語なのに、隠岐の島や石見地方に行くということは、まずあり得ないと言いますか、生活圏が自宅と高校とその間くらい……せいぜい休みの日に松江駅のショッピングデパートに行くくらいだと思うんですね。島根県さんのご依頼と言えども、リアリティがなくなってしまいます。

 そういった問題にどう対処しようかと悩みました結果、藤ダリオさんのお力をお借りしてシナリオに埋め込むことにしました。例えば石見に昔から伝わる伝説などをゲームに織り込むことによって、島根県の石見地方を舞台にしているんだと感じていただけるんじゃないかと思います。

 あくまでもゲームの設定自体はリアルな高校3年生が普通に生活するであろう場面を中心に、休日に友達と出かける場所として出雲日御碕灯台くらいまでがマックスかなと。そういった生活圏で繰り広げられるリアルな物語に作り直すといったことを行ないました。

 背景画に関しては本当にこだわっていまして、1つの背景に対して朝と昼と夜の3つのバージョンを作成し、どのタイミングでどのグラフィックスを作ればいいのか? 松江の原風景を1番伝えることができるのか? といった研究をずいぶんしました。従って夕日のシーンもいくつかのバージョンが用意されています。何枚も作成して良いものを選ぶという取り組みをしています。

 ただ文字(フォント)はあれで行こうとすんなり決まりましたね。島根県の落ち着いた風景に溶け込むように考えながら、マックスモードのところなどは盛り上がる必要がございますので、様々な演出を積み重ねました。ただ、「ロリポップチェーンソー」のようにカラフルな色を使うといったことはせずに、一定の線引きの中で演出を考えました。

【スクリーンショット】

――最後に一言ずつコメントを頂けますでしょうか?

日髙さん:島根県で行なわれたイベントに参加して、本当に島根県の方達の暖かさに触れることができたというか、私は東京生まれの東京育ちなのですが、故郷に迎え入れてもらったような暖かさをすごく感じました。島根に伺って宍道湖やお地蔵さんのところなどあちこちを見て、改めてゲームの画面を見て「あ、ここ行った!」なんて話をしたりして、作っている側なのに、実際に見たところがゲームに出てくると嬉しくなるんだって思ったんですね。

 だから、初めはもちろんミステリーというとらえ方でゲームを楽しんでいただいて、そのあとで何度も楽しんでもらう時は、ご自身が主人公になって島根県を旅しているという臨場感を味わっていただいて多方面からゲームを楽しんでいただけたらすごく嬉しいなと思います。

 あと、昔はゲームをプレイしていたけど最近はあまりプレイしていないという方達でもすごく入りやすいゲームだと思うので、青春時代を思い出す形でアルバムをめくるようにこのゲームを楽しんでいただけたらいいなって思っています。

藤氏:オレが書いたと言うこともあって、大人がプレイしても面白いんじゃないかなって思います。ゲームとしても面白くなっていると思うのですが、日髙さんが仰ったように「自分が高校生の時にこういうことがあったな」とか「自分の田舎を思い出すな」とか、懐かしいものを見るような……ノスタルジーに浸れて、なおかつ大人の人はなくした物をもう1回思い出したりする事ができる作品だと思います。もちろん、若い人から年を召された方まで見て欲しいのですが、指がついてこなくてゲームをプレイしなくなった方達も、絵を見ながらプレイしてもらえたらなと思います。

安田氏:微力ではありますが、ゲームというメディアを使って何らかの社会貢献を行ない、少しの方にでも楽しんでもらえることができたらいいなと思っていました。そういった意味では当初思っていた以上に、(島根県を盛り上げようという)若い人を中心に応援していただいたことが嬉しくて、それが今は花開かなくてもいずれゲームというものを使って自分たちの未来を切り開くことが地域レベルで行なわれる日が来てくれるのではないかということを期待したいですね。

 もうひとつは作り手としてチャレンジしている部分です。プレイしていただくと賛否両論あると思うのですが、僕は以前からアドベンチャーゲームに対して「こういう風になったらいいな!」と思っていたシステムを入れております。これはおそらく、「もっと難しくした方がいい」ですとか、「このシステムを入れることでアドベンチャーゲームとしての醍醐味が無くなったのではないか?」といった批判を受けることを覚悟で、実はAI的なコマンドを入れました。「考える」といったコマンドを使うことで、いわゆる理不尽なバッドエンディングや先に進めないといったことを「ルートレター」ではなくしました。

 これによっておそらくゲームというものに普段接してこられなかった方も、「考える」というコマンドを使うことによって、納得のいくようなゲームの進行を感じていただけるのではないかなと思います。一方で、エンディングの持って行き方にいくつか工夫することで、謎解きに対するコアゲーマーのニーズというものに応えられるミステリーアドベンチャーに仕上がっているのではないかと思います。

 3点目は今回のゲーム作りを通じて島根の若きリーダー田部長右衛門氏と出会えたこと、また今回アジアでも販売させていただけるということでソニー・インタラクティブエンタテインメントの江口達雄氏のお力を借りまして、アジアの方にも遊んでもらえる機会を与えていただけました。日髙さんや藤ダリオさんもそうです。僕自身は微力ですが、味方が集まってきてくれると言いますか、角川ゲームミステリーを通じて多くの人たちが集まり、モノ作りの幹が太くなっていくような手応えを感じました。そういったことがどういった形であれ、ユーザーの方に伝わっていくと良いなと思います。

――ありがとうございました。

【スクリーンショット】
ゲームの中の松江城。夕日が美しい
現在建設中の山陰中央テレビ社屋。ゲームでは完成予想図を元に登場する