Game Developers Conference 2009現地レポート

レベルファイブ日野晃博氏が語る「面白いゲームが売れるための仕組み」
「Level-5’s Techniques to Producing a Hit Game-From PROFESSOR LAYTON to INAZUMA ELEVEN and THE ANOTHER WORLD」

3月23~27日開催(現地時間)

会場:サンフランシスコ Moscone Center

 

 パブリッシャーとディベロッパーの2つの顔を持つレベルファイブは、PS2「ダーククラウド」からスタートし、スクウェア・エニックスから発売されたPS2「ドラゴンクエストVIII」などの経験を経て、パブリッシャーとして「レイトン教授」シリーズなどヒット作を世に送り出したメーカーだ。Game Developers Conference 2009では「Level-5’s Techniques to Producing a Hit Game-From PROFESSOR LAYTON to INAZUMA ELEVEN and THE ANOTHER WORLD」と題したセッションで、株式会社レベルファイブ 代表取締役社長日野晃博氏と熊谷宇祐氏が登壇し、「面白いゲームを売るための仕組み」について同社がどのようにゲームタイトルの販売本数を伸ばしているかについて語っていた。




■ 堅調にヒットを飛ばすイチローのような会社
「Catch Corpy planning(Buzzword)」

 セッションの冒頭で日野氏は自社の設立経緯と同社携わったタイトルを紹介。設立10年にして21タイトル類計12,912,000本を販売、この販売本数を平均すると1国あたり614,800本となり日本、北米、欧米のメジャー地域にすると1,844,400本になるといった内容が語られ、「レベルファイブはクリーンヒットを飛ばすイチローのようなゲームメーカーだと覚えてもらえばいいかなと思います」と説明していた。

 また、日野氏は「全世界でのゲームパブリッシャーを見れば、800万本や1000万本というタイトルがある中で、しっかりとヒット作をだしているプロデュースの方法を講義させていただきたい」と語り、エクスキューズとして、「レベルファイブ流儀ですので」とあらかじめ説明していた。

 講演の本篇となる「面白いゲームを売るための仕組み」について日野氏は、「Catch Corpy planning(Buzzword)」と、「Boom Trigger」の2つをキーポイントとし、ヒット作というのはその時の状況にもよるため毎回うまくいくことはないが、その確率を上げることはできるのではないか?と説明し、ゲームを作るだけではだめで、プロモーションをする必要があるが、ソフトが完成した後でプロモーションを行なうことには限界があると思うと提示。日野氏によれば、ゲームタイトルのプロモーションは企画段階からすでに始まっており、ディレクターやプランナーなど製作者も企画からプロモーションを始めることが必要だと語っていた。

 「Catch Corpy planning(Buzzword)」の部分では「レイトン教授」を例にあげ、キャッチコピーをゲームの企画と同時に進行していたことを明らかにし、「謎解きとストーリーの融合」「1,200万部ベストセラー作家に監修を依頼」「映画級のキャストをつける」という3つのキャッチコピーがゲームが企画されたときには決まっていたことを語っていた。また日野氏はこれに併せ、パブリッシングタイトルは発表会の日を想像しながら制作していると説明。逆に言うとゲームの完成についてはまったく考えておらず、発表会でどう人を驚かせるかを考えているという。そのため、発表後に開発者といっしょに「本当にこれできるの?」と悩ませていることなどもあると語った。

ディベロップタイトル、開発タイトルともに堅調な販売本数を獲得

レベルファイブのパブリッシングタイトル制作工程はまずPVが出来上がって初めて人に見せることから始まり、、PV内にはタイトルの特徴となる部分を必ず組み込んでいると説明。例として「レイトン教授と最後の時間旅行」のPVを講演中に上映。

 PVの上映後、日野氏は「当時のDSにはない豪華なキャストを配役するといったソフトにウリを作ることができたので、DSというハードの中で目立つ存在になれたことで大きなセールスになっていった」と語る。またソフトの完成後は、作品の売りを受け入れやすい層に焦点を絞ってプロモーションを仕掛けたと説明し、「レイトン教授」では、パズル好きで豪華な俳優などを好むカジュアル層の女性をターゲットにし、結果として日本のみでシリーズ類計365万本を販売したと語っていた。

 開発サイドに立つ熊谷氏はこの流れについて、「PVを作った段階で、スタッフが今から作っていくというモチベーションがあがる」といったチームのモチベーションがあがるという効果もあるといった相乗効果を説明。結果として「レイトン教授と不思議な町」は大成功をおさめ、スタッフのモチベーションがあがり、以後のシリーズでは「チーム一丸となって制作に取り組めるようになっていた」と語った。

 スピーカーは日野氏に戻り、「ほとんどのゲームクリエーターはゲームを面白くすると考えるが、ゲームを面白くするだけでなく、ゲームを作る段階から、どうやってこれを買ってもらえるかというのがゲームを作る上で大事なことだと思います」と語った。


「レイトン教授」シリーズは、女性層ターゲットを定めたことで大ヒット。同社の看板タイトルとなった

 続いての説明として、作る上でのプロモーション例として「イナズマイレブン」を紹介。同作は、コミックスとアニメなどのコラボレーションや収集可能な1,000人の登場キャラクターをウリに日野氏は1,000人という数字は最初から決まっており、プロモーション上のインパクトなどが大事であったためと語っている。

 「イナズマイレブン」でのプロモーションは、低年齢層の小学生にターゲットに設定。結果として人気漫画雑誌やコラボレーションなども行ない、34.2万本を売り上げており、現在もこの数字は1週ごとに堅調に伸ばしているという。またソフトの本数こそ、ビッグタイトルと比べると見劣りするものの、イナズマイレブンはキャラクターグッズなどが売り上げを伸ばしており、IPとしては成功していることが語られていた。

 日野氏は最後にスタジオジブリとのコラボレートタイトル「二ノ国」の紹介をし、レベルファイブ10周年記念作品として、売れなくてもいいので意義のあるタイトルを作ろうということで制作しているという。この作品もこれまで同様に「アニメーション部分をジブリが担当」、「本を必要としたまったく新しいゲーム性」、「2つの世界で同じキャラクターが演じる相違性」といった特徴が発表されている。

 日野氏は「面白いけど売れないといった不幸な作品がある中、そのままにしておくのはもったいないので、作る上でゲームの企画や開発が企画段階から売るということを意識して作れば売れるのではないかと思う」と語った。また同様にその作品の魅力を受け止めてくれる人たちにプロモーションしていくことが大事だと自身の持っているプロデュース方法論を語った。

「イナズマイレブン」は「レイトン教授」同様のわかりやすいウリを武器にプロモーションを行なったほか、メディアミックス展開を行なった


■ 長く遊んでもらうための要素をしっかり実装する「Boom Trigger」

 もう一方の「Boom Trigger」では、ゲームの中に組み込まれるブームを起こす仕組みについて語り、「ブームトリガーがあることで、長いスパンでタイトルが売れていく」ということを念頭に入れることが大事と説明。ブームというのは「口コミで売れていく」、「話題性の高いものが売れていく」という2つのキーワードをもとに、「情報交換をできる仕組み」、「プレイ時間を延長する仕組み」といった要素をゲーム中に実装することで、これらのことが実現されていくと語っていた。

 日野氏はたとえとして、「すごい面白いゲームだったが、3日で終わってしまっては話題になるのは3日だけになってしまう。情報交換の仕組みが長いことで、いつまでも話題にされる作品になり、結果としてロングスパンで販売本数が伸びる」という。

 また、ここでも「レイトン教授」シリーズの場合を例にあげ、“人に解かせる”要素や、サブゲームを多数実装したほか、1年間にわたって謎を配信するといったことを行なったという内容や、「イナズマイレブン」ではキャラクターの入手方法を情報交換するといったもの、エクステンションの1,000人のキャラ集め、選手や技を配信するといった実例を紹介。またイナズマイレブンで最大の特徴だったのは、テレビアニメを1年間放映し続ける中、子供たちのテンションが落ちずに販売本数が維持されていったと語っていた。

 これらは、「白騎士物語」や「ドラゴンクエスト」でも同じことが言えており、開発途中では非常に大変なことが多いが、「たくさんの人から意見をもらえたときにやってよかったなと思う。高い技術や面白い要素を詰め込んでも、最後に残念な結果になれば落胆もする開発のメンバーもしっかりと士気を上げていくことが大事なことではないか」と述べた。

 日野氏は最後に「ゲーム作りというのは、ただ面白いゲームを作るのではなく、売り上げを意識してしっかりと作っていただければいいかなと思います」と述べ講演は終了した。


各タイトルには長く遊ぶための要素を必ず実装。「レイトン教授」も「イナズマイレブン」も発売初週に爆発的に売れているわけではないが、BOOM Triggerや要素をしっかり組み入れたことで、類計本数では非常に良い成績を収めている


(2009年 3月 29日)

[Reported by 鬼頭世浪 ]