【特別企画】

伝説のクリエイターが贈る和製RPG「シェンムーIII」ファーストインプレッション

村人の皺、老婦の調理、フルボイスの会話シーン。随所に鈴木イズムを感じさせる仕上がり

11月19日発売予定

価格:6,980円(税別)

 伝説のゲームクリエイター鈴木裕氏が手がける「シェンムー」シリーズ最新作「シェンムーIII」の発売がいよいよ11月19日に迫ってきた。グローバルではDeepSilver、日本ではDeepSilverと流通周りで提携関係にあるセガゲームスの協力を得る形で、約20年振りにシリーズ最新作がリリースされる運びとなった。今回、gamescom 2019において、DeepSilverのビジネスブースで最新バージョンを試遊する機会を得たのでファーストインプレッションをお届けしたい。

【シェンムーIII】
ついにじっくりプレイできる日が来たぞ!

【Shenmue3 A Day in Shenmue Trailer gamescom 2019】
gamescomに合わせて公開された最新トレーラー

 今回公開されていたのは、E3バージョンと同じ、白鹿村を歩き回って、村人達との様々な交流が楽しめるというもの。プレイ時間は、同じ内容ながらE3が15分に対して、gamescomでは45分まで広がっており、触れあいをじっくり楽しんで欲しいという鈴木氏の意思が伝わってくる。ここはヒロイン“レイ・シェンファ”が暮らしている場所でもあり、彼女との短い会話シーンの後、フリーモードとなり、右下のミニマップを手がかりに自由に行動できるようになる。

【白鹿村】

 筆者の場合、試遊の想定された工程を経ずに、いきなりバトルに突入してクリアしてしまったため、再プレイする機会を得たが、ひととおりプレイを終えた感想は、ゲーム、とりわけオープンワールドゲームに対する遊び手の向き合い方が試される内容だったなと感じた。

 表面だけでこのゲームを評価すると、かなり辛くなると思う。主人公 芭月涼の表情は硬いままだし、誰彼構わず、“顔に傷のある男”を捜していることを伝えるRPGとしての硬直性は、今のゲームの価値観には合わない部分がある。

 バトルも同じだ。「バーチャ」鈴木氏の最新作としては、おそらく本人がもっとも不本意だと思うのだが、3D格闘アクションとして「龍が如く」シリーズはおろか、「バーチャファイター」の水準にも到達していない。全般的に動きが硬く、動きに連続性がなく、オープンワールドアクションでありながら物理演算周りの処理も甘い。「バーチャ4」ぐらいの感覚で多人数バトルが楽しめると期待しているユーザーにとっては、そのガチガチの“硬さ”に驚くのではないだろうか。

【バトルシーン】

【バトルシーン】

 鈴木氏自身、過去のインタビューでこのゲームはアクションゲームではなくRPGだと語っており、涼は自身のテクニックではなく、ゲーム内で修練のミニゲームを繰り返しレベルアップすることで強くなるシステムになっている。「バーチャ」に無数に存在したコマンド技も、LもしくはRで切り替えてボタンひとつで発動できるシステムになっている。これは“ビギナー向けの措置”という見方も出来るが、いずれにしても「シェンムーIII」ではストーリーテリングが第1で、バトルは副次的なポジションとなっており、バトルを期待しているファンにとっては残念なところかもしれない。

【トレーニングシーン】

【道場でトレーニング】
このゲームではトレーニングのミニゲームを繰り返すことで強くなるというRPG的なシステムが採用されている

 ただ、美しい草花が咲き誇る牧歌的な村を歩き回り、一癖も二癖もある村人たちと交流し、“顔に傷のある男”のヒントを集めながら、薪割りのアルバイトをしたり、唐突に存在するガチャガチャを回したり、“顔に傷のある男”を倒すために道場でトレーニングに励んだり、バクチのミニゲームを楽しんだりするうちに、これは鈴木氏が生み出した“シェンムー”という世界に浸りきるゲームなんだなと思い至った。

【薪割りのバイト】

 とにかくこのゲームはディテールへのこだわりが凄い。村人との会話は、すべてフルボイス、カットシーン付きで、ひととおり話を聞いて回るだけで試遊時間を終えてしまう。空き家の戸を叩き不在を確認するシーンすら、涼のボイスとカットシーンが挿入される。ちなみに村人達は、それぞれにストーリーを持ち、涼の問いかけに対して、自身の話を織り交ぜてくるため、無駄な会話というものがない。すべての会話に鈴木氏のこだわりが詰め込まれているのを感じる。

【村人との会話】

 広場では少年達がクンフーのトレーニングをしており、彫りの深い皺が特徴の老人がいるお店では、意味もなく戸棚を空けられたり、その少し奥にある民家では老婆がフライパンを操って料理を作っていたり、さらにその奥には鼻歌を歌い続ける盲目の人物がいるなど、極めて手間暇の掛かる作り方をしている。そのひとつひとつが、こだわって手付けで作られている。

【白鹿村の情景】

 今時、オープンワールドゲームで、このような作り方をしているゲームはほとんどないはずで、言うなれば、他のゲームが3Dプリンターで生み出された作品だとすれば、この「シェンムーIII」だけ手彫り、しかも手間暇の掛かる鳳凰像のような作品だと言える。しかも今回、同じ内容で試遊時間をわざわざ3倍にしているということは、鈴木氏はそこをじっくり味わって欲しいと思っているわけだ。

 色んな意味で「なんというゲームだろう」と思わざるを得ないが、「Fallout」や「Red Dead Redemption」のようなオープンワールドが好きで、「Bioshock」や「Metro」のように厳密にはオープンワールドではないものの世界観が気に入ったタイトルについては、再度頭からなめ回すように遊び込んでしまう筆者としては、早くこの世界に浸りきってみたいと思うし、このゲームはその期待に応えてくれる深さがあると確信している。

 「シェンムーIII」は未だにその全体像を掴ませてくれないが、鈴木氏は「IやIIよりもボリュームがある」とも語っている。鈴木氏の温故知新的な取り組み、今のゲームシーンのトレンドに背を向けるような取り組みを世界がどう評価するのか注目したい。

【ガチャガチャ】

【バクチのミニゲーム】
パチンコゲーム
カメレース。限られた試遊時間の中で、必死にボタンを連打していると、自分は何をしているんだという気持ちになる