インタビュー

「シェンムーIII」プロデューサー鈴木裕氏インタビュー

「シェンムー」らしさとは“湿気”!? 「シェンムーIV」構想も

8月22日収録

 2015年のE3 PlayStationカンファレンスで突如発表され、待望のシリーズ復活ということで話題を集めている「シェンムーIII」。キックスターターによる資金集めや、集まった資金額によって内容が変わるスケーラブルなストレッチゴールといった点でも注目されている同作だが、今年の8月に入って、グローバルのパブリッシャーがDeep Silverに決定し、発売時期も2018年下半期と発表。ついに遊べる日が明確になってきた。

 gamescom 2017では、グローバルパブリッシャーであるDeep SilverのBtoBブースで、開発総責任者を務める鈴木裕氏に対して、2015年以来、2年振りのインタビューを行なうことができた。今回は鈴木氏が求める「シェンムーIII」のゲーム性や、作品に対するこだわり、今後の計画などについて話を伺うことができた。gamescomや東京ゲームショウでの出展予定はなく、本格的なプロモーションは2018年以降になるということだが、今後の展開にぜひ注目したい作品だ。

【Shenmue 3 1st Teaser】

Deep Silverと組んだことで内容を上方修正

「シェンムーIII」プロデューサー兼ディレクターの鈴木裕氏

――「シェンムーIII」について久々に鈴木さんに話を聞く機会が得られて、今日のインタビューを大変楽しみにしていました

鈴木裕氏:ビデオ見ますか? ネットに公開した90秒バージョンではなく、2分半の長い奴です。

――はい、拝見させて下さい。

(トレーラー再生スタート)

――このトレーラーの映像は、インゲームの映像ですか? それともプリレンダーですか?

鈴木氏:すべてインゲームの映像です。

――ゲームの完成度としてはどれぐらいのものですか?

鈴木氏:これは色んなシーンをつなぎ合わせていますから、これぐらいというのは難しいですが、キャラクターについてはまだすべて仮のデータです。

キャラクターの表情が硬いが、これはまだ仮のものだという

――キャラクターの表情が硬いというか、固定ですが、この辺は実際には変わるわけですか?

鈴木氏:はい、表情はまだ入れていません。一カ月前まで表情は入れていたんですが、一旦外しちゃって。

――サウンドが豪華ですが、これは新たに収録したものですか?

鈴木氏:いえ、これは「シェンムーII」のサウンドをそのまま使っています。

(トレーラー再生終了)

鈴木氏:こんな感じです。gamescom用にぶっつけで作ったところがあって、まだ荒削りですが(笑)。

――gamescomといえば、開催前日にDeep Silverさんとの提携を発表しましたね。パブリッシャーとして日本のメーカーではなくDeep Silverさんを選んだ理由は何ですか?

鈴木氏:色んな選択肢を模索していたのですが、ひとつはセガとの取引があるということと、何人かの方に「Deep Silverは堅実で良いよ」という意見を頂いたので、ではミュンヘンの本社まで行ってみるかということで行ってみたら、スタッフに「シェンムー」のファンの方もいらっしゃって、それでという感じです。

――日本でのパブリッシャーはどこになるのですか?

鈴木氏:それはまだ決まっていません。グローバルはDeep Silverです。

――ようやく発売時期が2018年下半期と明示されましたが、これからの作業工程はどのような内容になるのですか?

鈴木氏:どう言えばいいのかな(笑)。Deep Silverさんと組むことになって、バジェットをはじめ、プロモーションのサポートなど様々な点で安定しました。もともとはキックスターターで始めたプロジェクトで、集まった資金の額に応じてスケーラブルな内容になっていましたが、この点については上方修正しました。プロダクションについても上方修正した内容で動き出したというところです。

――ちょっと哲学的な質問になりますが、鈴木さんにとって「シェンムー」とは何なんでしょうか?

鈴木氏:僕がどう言おうが、皆さんには「ライフワーク」と言われそうで(笑)。作りたいゲームは一杯あるんです。ただ、「シェンムー」シリーズに関してはストーリーが完結していないこともあって、皆さんからの要望も多いですし、責任を果たしたいなとは思っていました。

――そのストーリーについてはまだ謎に包まれていますが、基本的には「シェンムーII」の続きになるのですか?

鈴木氏:「II」の続きですね。ただ、「シェンムー」は全11章のノベライズされたオリジナルストーリーがありますが、それに沿ってゲームを作ればおもしろくなるかというとそうではありません。そのときのエンジン、スタッフなど、そのときの条件によって、ゲームとしてもっとも効果的な内容は変わってきます。お金も湯水のように使えるわけではありませんから、その時々のもっとも効率的な手法で、アレンジを加えながらゲームシナリオを組み立てていく形になりますね。

――「シェンムーIII」のストーリーは、ノベライズされた11章のストーリーがベースになるのですか? それともそれとは別のストーリーが描かれるのですか?

鈴木氏:11章のオリジナルストーリーがベースになります。ただ、主人公が訪れる街を端折ったり、入れ替えたり、出会う人びととのエピソードなどが変わってくることはあると思います。

――「シェンムーIII」の主な舞台となるのはどこですか?

鈴木氏:中国の桂林です。桂林の山奥なので、僕が何々ですと言ってしまえば、そこが舞台にはなりますが(笑)。

――桂林を舞台にしようと思った理由は何ですか?

鈴木氏:大本のシナリオが桂林を通るんです。

――「シェンムーIII」で「シェンムー」のストーリーは完結するのですか?

鈴木氏:完結させて欲しいという声も多いのですが、無理矢理完結させようとすると、色んな事を凄く端折らなくてはいけなくなるので、ゲームとして構成したときに、どう組んでもおもしろいものにならないんです。ですから、遊んである程度の楽しさがあるようにしたいのと、(ストーリーの完結については)僕が生きているうちに完結すればいいかなと(笑)。

――それは「シェンムーIV」以降のシリーズも作りたいということですか?

鈴木氏:それはできればやりたいですね。

――ひとまず「シェンムーIII」で、「シェンムー」のストーリーが完結することはなさそうですね。

鈴木氏:はい、完結しないと思います。無理に完結させてもおもしろくならないですよ。

――ゲームのボリュームとしてはどのぐらいを想定されていますか?

鈴木氏:まだ作っている最中なので予測が難しいのですけど、軽く30時間ぐらいはいっちゃうんじゃないですか。

トレーラーで確認できた格闘シーン

――「シェンムー」と「シェンムーII」は、鈴木さんの代表作である「バーチャファイター」シリーズの雰囲気を残したアクションアドベンチャーゲームでしたが、「シェンムーIII」はどのようなジャンルのゲームになりますか?

鈴木氏:今回は「バーチャ」ではありません。「シェンムー」は「バーチャファイター」、「シェンムーII」は「バーチャファイターII」のエンジンを格闘周りで使っていたのですが、今回は「バーチャ」のエンジンは使わず、オリジナルで一から組み直しています。手作りですね。

――シリーズの特徴である格闘要素についてはどうなるのでしょうか?

鈴木氏:クリティカルなコマンド入力を必要とするアクションゲームにはならないと思います。本来「シェンムー」は思考型のゲームで、大事なのはタイミング入力のスキルではなく、判断力です。ですから「バーチャ」のエンジンは前から合わないと思っていましたので、今新しいバトルエンジンを作っている最中です。

――それは注目ですね。新しいバトルエンジンはいつぐらいに完成するのですか?

鈴木氏:どうでしょう。それはどこまで作り込むかにもよります。

――それは「バーチャ」の新作と言えるような内容ではないわけですね。

鈴木氏:はい、まったく種類の違うものになると思います。「シェンムー」において格闘はあくまでひとつの要素に過ぎません。拳法をベースにした冒険の物語なので、どうしても格闘要素は出てくるんですが、そこをいかにドラマティックに、シネマティックに魅せていくかですね。格闘ゲームが苦手な人でも、ある程度適当にボタンを押していけば物語が進んでいくような、そうなればいいなと思っていますね。

――「シェンムーIII」を通じて鈴木さんが表現したいことは何ですか?

鈴木氏:んーー。難しい質問ですね(笑)。「シェンムーIII」を作ることで、自分の中のゲームクリエイターらしい部分が出てくるのではないかなと思います。

――ゲームクリエイターらしさとは具体的にどのようなことでしょう?

鈴木氏:それを答えるのは難しいですね(笑)。たとえば、僕はホラー映画をひとりで見ることができないんですよ。残酷すぎる映画や小説は苦手で、ダメなんです。だから自分の加減で、ちょっとユーモラスだったり、シリアスすぎないようにする。ちょっと古いかもしれないけど、伊丹十三さんの映画のように、お葬式のシーンでもあえて足がしびれた表現を入れたり、どこにでもある日常を描いたり、そういった細かいところが僕の味になるのかなと思っています。

 「シェンムー」は日常というのも大きなテーマです。細かい日常の仕草のようなものを描けたらと思います。欧米の方が遊んだ時に、アジアの習慣が新鮮に映ったりするといいなと思いますね。僕は他の方と描く部分が違うんだと思いますね。細かいところまで表現したいですね。

――鈴木さんが考える「シェンムー」らしさというのは何でしょう?

鈴木氏:たとえば、湿気ですね。

――しっけ、ですか?

鈴木氏:ゲームのCGは砂漠のようなカラッとしたハイコントラストの映像が多いですが、それはそれで気持ちいいんですけど、やっぱりちょっとしっとりした雨上がりの感じとか。あるいは、中国では豚が冷蔵庫に入らずに、炎天下のまま捌いてそのまま売っていたりしますけど、そのもわっとした臭いとか。映像から臭いを感じさせるような、そういうなまめかしい感じをリアリティのひとつとして表現できればいいなと思っていますね。そのあたりを「『シェンムー』っぽいな」とみんなが言うんだと思います。

【スクリーンショット】

――「シェンムー」といえば九龍城の印象が強いですが、九龍城や香港は舞台にはなりませんか?

鈴木氏:はい、出てきませんね。

――前作「シェンムーII」は2001年の作品で、「シェンムー」自体を知らないというゲームファンもいると思います。そうした比較的新しいゲーマーに対して、シリーズのストーリーをどのように伝えていこうと考えていますか?

鈴木氏:一番いいのは、もともとのストーリーを知らなくても遊べるゲームにすることです。ただ、ストーリーの起点として親が殺されるシーンは印象づけておかないと何故旅をしているのかがわからないので、これまでのストーリーとして、キーとなる部分については映像等で補うようにして、それだけだと足りないので、「シェンムー」、「シェンムーII」の登場キャラクターに電話ができるようなシステムを入れる予定です。

――電話ですか?

鈴木氏:はい、中国から昔の友人に国際電話を掛けて、「おまえ、どうしてる?」と尋ねると、昔の想い出として映像が流れたりして、過去に何があったのかがわかるようになっています。そう言う形でさりげなく補おうと考えています。ガッツリやると野暮ったくなるので、大事なところだけ補うことで、「シェンムーI・II」を遊んでいない人でも楽しくプレイできるのではないかなと思っています。

――今、旧作、名作のリバイバルが増えていますが、「シェンムーI・II」のリバイバルの計画はないのですか? PS4で遊べたらやってみたいという人は多いと思うのですが。

鈴木氏:「シェンムー」のIPはセガが持っているので、今すぐに即答できる立場ではありません。私としても「シェンムーIII」と連動して何か上手い具合にやれればいいなと思っています。相乗効果があるでしょうしね。「シェンムーI・II」は当時としては多くの予算、人数を投下して、細かいキャラクター設定など、今ではなかなかできないようなことをやっています。むしろ「シェンムーI・II」が出てきたら、僕らの直接の強敵になるのかなと思っていますね(笑)

――このゲームは、シングルプレイ専用ですか? マルチプレイモードは搭載されますか?

鈴木氏:シングルプレイ専用です。

――リリース後にダウンロードコンテンツを提供する計画はありますか?

鈴木氏:あります。内容はまだ言えませんけど(笑)。

――鈴木さんにとって「シェンムーIII」をどのような作品にしたいですか?

鈴木氏:オリジナリティが重要だし、世界観をキチッと作れたときに、色んな要素が相乗効果を起こしてくると思います。そういう化学反応が起きて、勝手にゲームがおもしろくなっていくようなところまでいければいいなと思っています。

――ゲームには、原作には出てこないようなオリジナルキャラクターも登場しますか?

鈴木氏:そうですね。たとえば、11章の小説をTV化しようとして、1話30分、1時間の内容にする場合、1話完結の盛り上がりを作って行くためには、そういった要素も必要だと思います。寅さんじゃないですけど、爺さんと婆さんばっかりだから、可愛いマドンナを入れようかとか。そういったことは考えています。

――声優についてはどうなりますか?

鈴木氏:それについてはキックスターターですでに約束していることですが、日本語版で芭月涼を演じた松風雅也さんと、英語版のコーリー・マーシャルさんをはじめ、シリーズの声優に出て欲しいという声もたくさんありますから、できるだけ実現しようと考えています。ただ、前作がかなり前のゲームで、もう声優を引退されている方もいるので、たとえばヒロインのシェンファなんかは、新しくオーディションをすることになると思います。

――サウンドについては?

鈴木氏:「シェンムーI・II」のもので足りるかなと思っています。

――といいますと、「シェンムーIII」向けの新曲の収録は行なわないということですか?

鈴木氏:まったく入れないかというと、そこは検討中ですが、おそらく大丈夫だと思います。

――「シェンムーIII」の発売を期待している日本のゲームファンに向けてメッセージをお願いします。

鈴木氏:Deep Silverさんという強力なパートナーを得て、キックスターターで予定していた内容より上方修正した、パワーアップした「シェンムーIII」を企画し、プロダクションに入っているところです。ちょっとでも良いゲームができるように頑張りますので、皆さん引き続きご支援よろしくお願いいたします。

――ありがとうございました。