インタビュー
中国でPS4は普及するのか!? SCESHプレジデント添田武人氏インタビュー
センサーシップや並行品などの課題にどう向き合っているのか聞いた
(2015/8/4 18:00)
ソニー・コンピュータエンタテインメントジャパンアジアの中国法人SCESH(SCE上海)は、ChinaJoyに2年連続の出展を果たした。昨年はローンチ前ということですべて参考展示という形だったが、今年は3月に正式ローンチを迎えてから最初の出展ということで、未発売タイトルばかりをずらりと並べた欧米スタイルの出展となった。
中国においてコンソールゲームが全面解禁されたとはいえ、中国独自のセンサーシップや、並行品や模造新品といった問題、カバーすべき領域の広さなど、様々な課題が存在する。SCESHでは、こうした課題にどう向き合っているのか。今回はSCESHの立ち上げから同社の舵取りを行なう添田武人氏に話を聞いた。
ChinaJoy2年連続出展の手応えと中国ローンチから4カ月間の取り組みを聞く
――ChinaJoy出展の感想を聞かせて下さい
添田武人氏: 昨年はアウトサイダーとして参考出展という形で、我々が持っているPS4、PS Vita、そしてゲームを出展しましたが、今年はインサイダーとして、中国のお客さんに対して我々が何ができるのかを打ち出した出展となりました。今年の出展の特徴としては3つあります。1つは、Project Morpheusです。今回、ChinaJoyで、ウチだけが本格的なVRを出展しています。
もう1つはタイトルラインナップです。昨年は20弱だったのに対して、今年は57タイトルを揃えることができました。初日、ユーザーとコミュニケーションを取る中で、その出展内容に対して、凄くポジティブに受け止めていただいているのが伝わり嬉しかったですね。「まさか新しいMorpheusを持ってくるとは思わなかった」という意見や実際に体験してみて「ゲームってここまで進化しているんだ」などのご意見をいただきました。これまでMorpheusに関しては、海外の情報は沢山あっても体験できなかったわけですけど、それが中国本土で体験できて嬉しかったと。今日も長い列ができていて、暑い中、大変申し訳ないんですが、体験いただく環境を用意することができました。
そして3つ目は、タイトルの中身です。日系、韓国系、中国系、そして欧米のものとバラエティ豊かに取りそろえることができました。昨年と比べると選択肢が格段に増えたと思います。
――今回の目玉として出展したProject Morpheusについてですが、実際に出展してみてどのように感じましたか?
添田氏: 我々が期待していた以上に、中国のゲームファンからの期待が大きいということがまず1つ。人の混み方が半端ではありませんし、キャパシティ以上に集まっていただきました。これは純粋に高い期待の表れですよね。もう1つは、我々がやっていることは、マーケットのニーズに合致しているんだなという確信が持てたことです。いわゆるコアなゲームファンは、中国に限らず、どこでも集まりますが、それ以外の若い女性やお年を召した方、子供など、あらゆる層に来ていただきました。ただ、やるべきことが明確になった反面、プレッシャーとして返って来ていますので、これからが大変です。
――添田さんは過去にGREE Chinaでモバイルゲームを担当していましたが、モバイルのユーザーと、コンソールのユーザー、両者に違いは感じられますか?
添田氏: モバイルはオーディエンスがもの凄く広いですよね。とりわけ中国はモバイルユーザーの分母が世界一であり、一方コンソールはまだ始まったばかりであり、ユーザー層を構成するピラミッドの頂点に位置するコアユーザーから少しずつ様々な層に広がりつつあるという段階です。
――ブースでは初音ミクとの各種コラボレーションを行なっていたのが印象的でした。
添田氏: 6月に中国上海で初音ミクのコンサートが初めて行なわれ、そこに我々も協賛して活動に参加させていただいたんですが、初音ミクとソニーグループとはこれまでにも色々な接点があって、SCEではセガさんにPS3、PS Vitaにタイトルを提供していただいていますし、ソニーマーケティングでも、ウォークマンやヘッドセットに初音ミクを刻印したものを展開しています。ウォークマンには初音ミクの楽曲も入れて、限定版でほぼ秒殺というほどの人気だったのです。そこで上海でのコンサートでは、PSだけではなく、ソニーグループとして何ができるのかと考えたときに、コンシューマープロダクトグループの皆さんと協議して、ミクとコラボしたウォークマンもやってみようというアイデアが出て、今回参考展示という形に繋がりました。初音ミクはまさしくアートと技術の掛け合わせだと思います。それをソニーグループというブリッジを通じてより多くの人に伝えていくことは、ビジネスをしていく上で非常に有意義です。
――記事の反応を見ていると、さっそく初音ミクPS4限定モデルを日本でも売って欲しいという声があがっていましたね。
添田氏: そうですか。それは大変ありがたい話ですが、この限定モデルは初音ミクの上海コンサートのために制作したもので、限定100台販売しました。追加分を急遽用意したのですが、一瞬ですべて売れてしまいました。
――3月のローンチからこれまで4カ月の取り組みを教えて下さい
添田氏: 毎日毎日が非常に長かったですね(笑)。ただ、今にして思えばあっという間でした。ローンチしてから、沢山のユーザーに、コンソールは何なのかを体験して貰うという活動をやってきました。中国にもコアなユーザーが沢山いて、我々がローンチするのを待っていてくれたのです。そういう人たちは初期ロットを購入いただいてソフトも購入していただいたのですが、その一方で新規のユーザーも獲得しなければならない。そこで我々は中国の様々な場所で体験会を実施したんですが、ある大学の学園祭に出展したところ、コントローラーを生まれて初めて触ったという人がいて、「簡単にできるし、おもしろいね」ということで、コントローラーを30分間ただ握っていたということがありました(笑)。PCオンラインとモバイルとは違う経験がコンソールではできる。そのことを知らない人が中国にはまだ沢山います。彼らにいかにリーチしていくかがマーケティング活動のひとつの大きなポイントになります。
もうひとつは、新しいタイトルを出していくこと。海外と国内の開発会社とできるだけ多くの接点をもつことに力を入れています。昨年の12月の発表会では、中国と海外含めて、パートナーは72社でしたが、一昨日の発表会ではこれが101社になりました。これだけ我々のプラットフォームに対する期待度が高いということで、ゲームはハードとソフトの両輪ですから、ハードを出すだけでなく、ソフトもしっかり出していくことが重要になります。中国でゲームを出すということは、中国のパブリッシャーにとってはそれほど大きな問題ではありませんが、海外のメーカーにとってはローカライズ、センサーシップなど色々なプロセスを経ていく必要があります。さらには中国政府とのセンサーシップに関するお話もずっと続いていまして、政府関係、パブリッシャー関係、ユーザー関係と、3つの面で走ってきた、あっという間の4カ月でした。
――3月の正式ローンチ以降、PS4 12タイトル、PS Vita 8タイトル、計20タイトルが発売されましたが、この数字についてどのように捉えていますか?
添田氏: より沢山のタイトルを出したい希望はありました。ですが、タイトルを出すに当たって、ローカライズ、センサーシップの問題がありますので、いきなりそんなに多くのタイトルは揃えられません。ただし、嬉しいことに、中国国内のパブリッシャーにPS向けにゲームを作ってみたいという声も多く頂いておりまして、海外のタイトルとうまくブレンドしてやっていきたいですね。我々としては、海外で大ヒットしたタイトルをできるだけ多く中国に持ってきたいとは考えていますが、中国政府の規制で、許されるもの、許されないものがありますので、許される範囲内でできるだけ多くのタイトルをお届けしたいと思います。
――今後、中国でのゲームソフトの販売は加速していくと考えていいのですか?
添田氏: もちろんです。加速していきたいと思っています。
――ローンチ時の20タイトルの中で、もっともヒットしたタイトルは何でしたか?
添田氏: これはパートナーさんもいらっしゃる話なので、明確な回答は控えさせて下さい。
――やはり日本のコンテンツの「ファイナルファンタジーX/X-2」や、「真・三國無双7 with 猛将伝」あたりかなと思ったのですが、実は意外なゲームだったりするのですか?
添田氏: いえいえ、さすが良いところをつかれていると思います(笑)。やはり知名度のあるコンテンツは、すでにファンのベースがあるんですね。ローンチのタイミングでタイトルを供給してくれたサードパーティーさんには大変感謝しています。
――中国ローンチの特徴は、本体同梱版が多いことです。本体同梱版は新規獲得には効果が大きいですか?
添田氏: 初期段階においては有効だと思います。「ファイナルファンタジーX/X-2」の同梱版は、スチールケースに入れて提供したんですが、お客様に非常に喜ばれています。特別感を出すというのは中国において非常に重要だと思います。
――本体同梱版の戦略は、新規獲得と言うよりコアユーザーの支持を得るための施策と言えるわけですか?
添田氏: それは両方です。両方大事です。そもそも「コンソールって何?」という人たちに対しても積極的にアピールしていきたいですね。
――日本やアジア地域では、「METAL GEAR SOLID V」の限定版として用意される本体が話題になっています。ゲーム的にも本体デザイン的にも中国でもウケそうですが、発売は難しいですか?
添田氏: 発売したいのは山々ですが、まずはタイトルの発売ができなければどうにもなりませんので、我々だけで決めることはできません。そういう意味で、出していきたいタイトルはほかにも山ほどありますよね。
――現在はパッケージとダウンロードはどちらの利用が多いですか?
添田氏: どちらもそれほど変わらないですが、パッケージの方が少し多いぐらいです。
――中国に来て感じるのは、ホテルも含めて、インターネット回線が遅いということです。ダウンロード版を購入して30GBのダウンロードをしているというのは意外ですね。
添田氏: 寝る前にダウンロードボタンを押す(笑)。あるいは仕事や学校に行く前にセットしていく、という使い方が多いですね。
――中国のPS4のサービスについてですが、各タイトルのアップデートやダウンロードコンテンツについてはどういう状況になっていますか?
添田氏: 理想形はグローバルと同一のサービスを提供することですが、まだそこまでいっていません。「DRIVECLUB」についてはアップデートを実施し、随時新しいコンテンツを入手することが可能になっています。ゲームそのものについてはパッケージに加えてダウンロード版も扱っています。追加の有料ダウンロードコンテンツについてはまだ準備ができていません。いまはまだ20タイトルしかありませんので、まずは取り扱うタイトルを増やして行くということに力を注いでいきたいと考えています。
――日本や欧米で大きな収益源となっているPS Plusですが、中国ではいかがですか?
添田氏: 中国でも始めています。1カ月29元、3カ月69元、12カ月209元で提供しています。まだ発売しているタイトルが限られているので、他の地域と同じサービスは提供できていませんが、体験版や無料ダウンロードコンテンツ、割引サービスなどを提供しています。
――織田さんから「添田と遊ぶ会」というものがあると聞きました。すでに添田さんのファンもいるとか?
添田氏: はい(笑)。中国版TwitterのWeiboの個人アカウントを使って、中国のユーザーさんとインタラクションを取っています。今フォロワーは2万8,000人ぐらいで、中国のゲーマーの皆さんがPSに対してどういう期待を持っているのか、我々のやっていることに対してプラスなこと、マイナスなこと含めて様々なことを知る上で、直接コミュニケーションを取る良いツール。それを通じてマーケットやユーザーの声を聞いて、今後のマーケティングに活かしていきたいです。やはりゲームはインタラクションであり、ゲーマーも自分たちの声をPSに届けたいという想いが強いんですね。1日30分以上はユーザーとのコミュニケーションに時間を割くようにしています。朝起きたときやランチの時間、夜の時間を使ってコメントを書いています。
――その遊ぶ会は、どこで行なっているのですか?
添田氏: やる度に場所が違います。前回、前々回は北京で実施しました。北京のSony Storeでやったり、現地のゲームメディアが主催するイベントにゲストとして参加して、ユーザーとコミュニケーションを取りました。私はゲームがうまくないし、まだそんなに遊べていないので自分のIDもまだ教えていないぐらいです(笑)。もう少しレベルアップしてから皆さんと一緒に遊んでいきたいですね。