インタビュー

中国でPS4は普及するのか!? SCESHプレジデント添田武人氏インタビュー

気になる“センサーシップ”の中身とSCE上海の今後の展開について

気になる“センサーシップ”の中身とSCE上海の今後の展開について

中国のゲームショップは、正規品と並行品が混在している
発表会では100タイトル近くの新作を公開したが、すべて予定通りに発売されるとは限らないところが中国の難しさだ

――中国のコンソールビジネスにおけるキーファクターであるセンサーシップについてですが、SCE上海としての現状の対応状況について教えて下さい

添田氏: さすがに今どのようなタイトルを出しているというお話はパートナーさんとの兼ね合いもありますのでお話しできませんが、全体の話をすると、最初にビジネスを始めた時にどれぐらい時間が掛かるのかがまずわからないわけです。何が問題で、どこにボトルネックがあるのかもわかりませんでした。そこに関してはこの4カ月で学びました。もちろん今も現在進行形ですが、見えてきたところがあります。昨年12月の発表会のテーマが「これから中国ビジネスを開始していきますよ」だとするなら、今回の発表会のテーマは「これから中国ビジネスを加速していきますよ」とは言えるのかなと思います。

――「中国のセンサーシップを通過するのに半年掛かる」という話を耳にしましたが、実際はどのぐらい掛かるのですか?

添田氏: それはタイトルの中身によります。スポーツ系、カジュアルなものは割と早いです。2~3カ月ぐらい。ボリュームのあるゲームに関しては、中国当局はすべてを見られるので、それだけ時間が掛かります。場合によっては半年というケースもあります。

――たとえば、日本におけるCESAのレーティングでは、映像によるチェックが行なわれていますが、中国のセンサーシップは実際にプレイするのですか?

添田氏: そうです。文字通り、最初から最後まで、すべてをチェックします。それは映画のセンサーシップでも同じですね。問題がある場合は、内容を修正するか、特定のシーンをカットしたりしています。

――しかし、ゲームはインタラクティブで、遊び手に選択肢が与えられます。そのすべてのパターンをチェックするわけですか?

添田氏: そうです。

――実際にセンサーシップを経て、ダメな表現、許されない表現というものの線引きは明確になりましたか?

添田氏: ひとつは中国の主権やイデオロギーに反するもの。もうひとつはあまりにも暴力的なもの。血だらけになって人を殺しまくるみたいなもの、そして賭博やポルノも難しいと言えるでしょう。言い換えれば、海外のレーティングにおける「18+」のものは、発売は極めて難しいと言えます。逆にいえば、それ以外のものに関しては、若干引っかかることはあっても修正すれば発売は可能です。

――「アンチャーテッド」や「The Last of Us」など、PS独占タイトルの姿がまだまだ少ないですよね。この辺りは難しいという判断でしょうか?

添田氏: それらに関しては現在発売に向けて努力している最中です。我々としてもこれまで正規のルートで購入することが難しかったタイトルを正々堂々と購入できる機会をできるだけ多く提供したいと考えていますし、どこでも自由に買えるというのが理想です。ただ、行政側から見た場合に、当局が理想とする管理監督体制にどれだけマッチングしているのか、キチンと秩序を保ちながら成長していけるのかというのもひとつのチャレンジです。タイトルを見ながら、センサーシップへの取り組み方、そもそもの基準の設定の仕方を調整していく。そのあたりはお互いに模索しながら新しい道を作って行くということになると思います。

――外から見ていてよくわからないのは、センサーシップによって海外のゲームを厳しく取り締まる一方で、並行品に対しては黙認しているという現状があります。これはどういうことなんでしょうか?

添田氏: それは我々も知りたいところですが、ひとつ言えるのは、それぞれの監督官庁が異なるので、行政の中での連携が上手く取れていない可能性があるということですね。

――ゲーム以外の映像や音楽、その他アプリケーション等の提供についてはどのように考えていますか?

添田氏: そこはこれからの課題です。規制の問題もあります。我々はゲーム機として申請して展開していますので、ゲーム機としてできること、ネットワークサービスとしてできることには違いがあります。たとえば、Google等の中国では接続できないサービスについては、国の管理上、提供することは難しいのが現状です。そのような状況下で無理に提供を開始しても我々にとってもユーザーさんにとってもメリットがありません。国に認められたネットワークサービスであるということがまず大前提で、その上でゲーム機から繋いでいいという許可が得られれば提供していく可能性はあります。あるいは中国発のオンラインサービスをPSに乗っけるという考え方もあります。関係当局やパートナーと話をしながら決めていきたいです。

――ゲームと、ゲーム以外の各種オンラインサービス、優先順位としてはゲームが先ですか?

添田氏: はい、まずはゲームが先です。我々が掲げているテーマ「すべてはゲーマーのために」が象徴していると思いますが、我々が重視しているのはあくまでゲームです。他社さんには「ホームエンターテインメント」として押し出している端末もありますが、PSのスターティングポイントはゲームであり、ゲーマーのための新しい生態系を中国で作っていくことに軸足をしっかり置いてビジネスを展開していくつもりです。その上で、さらにオーディエンスを増やしていくために、少しずつゲーム以外のサービス、ただ、これはゲームからあまり離れない形で色んな可能性は考えていきたいです。

中国ビジネスを牽引するSCESH董事長(会長)の織田博之氏とプレジデントの添田氏
SCESHが立ち上げ以来使っているスローガン「すべてはゲーマーのために」。今後もこのスローガンを旗印に使って行く考えだ

――SCE上海のスローガン「すべてはゲーマーのために」。これはビジネスの立ち上げ以降変えていませんが、これは何か狙いがあるのですか?

添田氏: これは董事長の織田(博之氏)とも話して決めたことですが、初めてのビジネスをやるにあたって何か明確な旗印が必要だろうと、白なのか黒なのか、何を目指そうとしているのか。そしてこのテーマは、1度決めたらコロコロ変えてしまってはダメだろうと。PSの20年の歴史を振り返ってみても、様々な変化はありましたが、ずっとフォーカスしているのはゲームなんですね。中国においてもやはり軸足はゲームにおこうと。このテーマは当面変えるつもりはありません。

――ゲームの次のトレンドとしてクラウドがあります。SCEさんも北米でPS Nowをスタートさせていますが、中国ではいかがでしょうか?

添田氏: それはまだ先ですね。当面は、他の地域で当たり前に提供できるサービスを中国国内でも展開していくか、それがファーストプライオリティですね。

――提供の仕方を増やすというよりは、まずは提供するタイトルを増やすと言うことですね。

添田氏: はい、それと同時にカバレッジを増やして、しっかり売る体制を整えることも大事です。そしてタイトルも増やしていく。まだビジネスの基礎を作る段階です。

――今回は57タイトルを出展し、100を超えるパートナーがタイトルを開発していると発表されましたが、年度内にどれぐらいのタイトルをリリースする予定ですか?

添田氏: 最低でも二桁、10数タイトルは出していきたいですね。

――PS4は6月末時点、グローバルで2,500万台を販売したと発表されていますが、中国では今後、その何パーセントぐらいを占めていきたいと考えていますか?

添田氏: 志は高く持っていますが、現時点でここまで行きますとはまだなかなか明言できる段階ではありませんね。マラソンでいうとまだ10分ぐらいしか走っていませんから、まだタイムを予測するには早いと思うんですね。まずは1年やってみてからですね。

――今後の目標を聞かせて下さい。

添田氏: 言いたいことは沢山あります。やりたいことも沢山あります。ただ、物事を進めていく上で、「要は何なんですか?」という話で、要素を凝縮して結晶化してわかりやすく伝えていくことが大事だと思います。今後、中国全土で実施される大小のイベントにも積極的に顔を出して、そこで存在感を出していきたいです。ただ、これは中国国内に拠点があるから出来ることであって、外から出展しようと思ったら大変なんですね。中にいるというメリットを活かして、活動の場を広げていきたいですね。ローカライズについても、簡体字のものをもっともっと増やしていきたい。ベストはテキストだけでなくボイスオーバーも中国語。中国人の中国語です。今はまだありませんが、今後目指していきたいです。

――SCE台湾でも10年以上掛けて、繁体字ローカライズの体制を整えてきましたが、SCE上海でも同じようにしていきたいということですね。

添田氏: はい、ただ、そのためには非常にコストが掛かります。そのコストをリクープしないといけませんので、ある程度の市場のボリュームが必要になってきます。先は長いですが頑張っていきますのでこれからも応援よろしくお願いいたします。

――頑張って下さい。ありがとうございました。

(中村聖司)