G-Star 2010レポート

【G-Star 2010】XLGAMES CEO Jake Song氏インタビュー
「ArcheAge」は“MMORPGの限界”を超えるタイトル




11月18日~21日開催

会場:釜山国際展示場(BEXCO)

入場料:大人4,000ウォン(前売り2,000ウォン)
学生2,000ウォン(前売り1,000ウォン)


 今年のG-Starのダークホース的な存在となったXLGAMESのMMORPG「ArcheAge」。戦闘、冒険、生活といったシンプルなキーワードを下地にした非常に自由度の高いオンラインゲームになりつつある。

 韓国では良く「韓国のオンラインゲームにはIPがない」と言われる。どういうことかというと、IPの軸となるキャラクターや世界観、システムが没個性であるため、日本や北米のゲームのように、IPを使った別の展開がしにくいというわけだ。この点「ArcheAge」は韓国産らしからぬほど個性まみれで、独自の味わいに満ちており、特に日本に多いと言われる生活重視派のMMORPGファンを久々にわくわくさせてくれる作品となっている。

 今回は「ArcheAge」の開発総指揮を執っているXLGAMES CEO Jake Song氏に、開発経緯や構想、今後の予定について話を伺ってみた。先に掲載したプレビュー記事では、ゲームの紹介と共に最新トレーラーも掲載しているのでぜひ合わせて参照頂きたい。

【ArcheAge】
海をゲームの柱に据えるという独創的なゲームデザインが特徴のMMORPG「ArcheAge」



■ 韓国の超大物クリエイターの最新作。“MMORPGの限界”超えを目指す

XLGAMES CEO Jake Song氏
XLGAMESのデビュー作となったオンラインレースゲーム「XL1」。商業的には失敗し、公式サイトからも消えているが、そのチャレンジ精神を買いたい

編: まず日本にはまだ馴染みのないXLGAMESの紹介からお願いします。

Jake Song氏: 2003年にncsoftを退職して、周辺のスタッフとともに同年4月にXLGAMESを設立しました。最初に開発したのは「XL1」というレーシングゲームで、いまは「ArcheAge」というMMORPGを開発しています。現在社員は180名です。

編: ずいぶんと大人数ですね。開発者の割合はどのくらいですか。

Jake Song氏: 100名以上が開発を担当しています。

編: ncsoft以前はNexonということですが、どうしてその2社を退職されたのですか?

Jake Song氏: 私はNexonの共同設立者です。Nexonを去った理由は今のNexonのオーナーのキム・ジョンジュ氏と意見の相違がありました。ncsoftも同様の理由で退社することになりました。

編: ソンさんは韓国オンラインゲーム産業の黎明期から活動してきた韓国オンラインゲーム業界の超大物ですが、黎明期を知るソンさんから見て、現在の韓国オンライン市場をどのようにご覧になっていますか?

Jake Song氏: 韓国のオンラインゲームの黎明期はMMORPGから始まり、いろいろなアクションやパズル要素など様々なゲーム性が生まれていきました。その次にコンソールのようなゲーム、現在ではソーシャルゲームです。パッケージゲーム以外でいろいろな方向でチャレンジしているゲーム市場ではないかと考えています。

編: 古巣のNexonやncsoftは依然として非常に活発な活動を行なっていますよね。

Jake Song氏: よく市場を見ているし、うまくやっているなと思います。

編: 今回ゲーム会社を設立した理由は何でしょうか。

Jake Song氏: 家にいると女房に「遊ぶな」と怒られるので(笑)。ただ、実際に会社を設立して開発を始めているうちに目が覚めました。自分の考える“MMORPGの限界”を超えるタイトルを作ろうという目標ができました。

編: MMORPGの限界とは具体的にどういったことを指していますか?

Jake Song氏: 昔から開発していて常々思っていたことは、様々なリソースが足りないということでした。資金や技術、マシンパワーも足りませんでした。Nexonで「風の国」というタイトルを開発した際はネットワークはモデムでした。昔からやりたいことはたくさんあったにもかかわらず作れないことも多かったのです。現在においてもまだ技術的にできないことも多いのですが、ゲームデザインの段階でこれまでターゲットになっていなかったユーザーが考えもしなかったことを表現したいです。

編: 「ArcheAge」の中でもっとも表現したいことは何ですか?

Jake Song氏: 開発者が意図したユーザーの楽しむセオリーがあるわけではなく、ユーザーが自由に楽しめるプレイグラウンドがあります。そこでユーザーが自分たちで楽しめるようなゲームを作っています。

編: というと「ArcheAge」にはいわゆるメインストーリーと言われるものは存在しないのですか?

Jake Song氏: いえ、あります。一本道のメインストーリーがありまして、ジョン・ミンヒさんという韓国のシナリオライターさんが各種族ごとのメインストーリーを作っています。ユーザーには遊び方を提示しなければいけないので、メインストーリーでゲームの世界をプレイさせて、ある程度慣れたところで自由なプレイができる工夫をしています。ジョン・ミンヒさんは小説の「ルーンの子供たち」という韓国で有名なファンタジー小説の著者です。

編: 「ArcheAge」がモチーフにしている世界観の時代や場所はありますか。

Jake Song氏: 世界観を作ったのはジョン・ミンヒさんなのですが、場所は地球ではありません。原大陸という世界があり、8種類の種族がいました。ある事件が起きて原大陸から3つの新大陸ができました。そこから2,000年経過した時点がプレーヤーの存在する時代です。プレーヤーはプレイしていくうちに2,000年前の事件を紐解いていくことになります。今の地球でいえば中世・ルネッサンスの時代です。西洋的な舞台の他にも東洋的な舞台も用意しています。

編: 地球上のあらゆる文化がでてくるわけですね。

Jake Song氏: はい。ビジュアル的なところではそうですね。

編: 日本や韓国をテーマにしたエリアも盛り込まれるのでしょうか。

Jake Song氏: これは韓国、これは日本というようにあてはまるところはありませんが、雰囲気的に当てはまるところはあると思います。



■ 海洋冒険を柱に、攻城戦やハウジングなど多彩なシステムを用意

無人島や海賊といったアイデアを披露するソン氏
ソン氏は「海だけのゲームではない」というが、いくつも海をまたにかけた海洋冒険ロマンが味わえる作品になりそうだ

編: このゲームの一番の魅力は何だと考えていますか?

Jake Song氏: 色々なコンテンツを楽しめるゲームなので、様々な楽しみがあります。公開した中では攻城戦、船で戦う船上戦、家を作るハウジングです。この他にも非公開のコンテンツがたくさんあります。

編: XLGAMESブースでは海戦のシーンが非常に美しくて印象的でしたが、船のシステムについて詳しく教えてください。

Jake Song氏: 実装されたものの中では、材料を集めて船を作ることができ、作って船で海を自由に航海することができます。今後無人島に家を建てて、自分の宝を貯める宝島を作ったり、海賊になったり、様々な方向で楽しめる設計を検討しています。

 船のシステムでは、「ArcheAge」には3つの大陸があります。船は大陸間を移動する手段です。船に他のプレーヤーを乗せてあげることもできます。今後、現在の船よりもっと大きな船を建造できるようにして、船の中をハウジングできるようにして、移動できる家のようなものにしようかと考えています。

編: 船にこだわりがあるようですが、なぜですか。

Jake Song氏: むしろ開発当初は船のコンテンツは入れるつもりはありませんでした。大陸間の移動手段として何があるかなと考えたときに、船にしようということになり、船を作ってから、ちょっと大砲を載せてみようなどと企画が膨らみました。「ArcheAge」は海ばかりでなく、陸でもたくさんのコンテンツを楽しめると思います。

編: 移動手段が船ということは世界はずいぶん広そうですね。

Jake Song氏: 距離でいきますと縦・横20kmほどです。「WoW」にたとえますと、拡張版が入っていないオリジナルの世界くらいの広さです。

編: 「ArcheAge」でもアップデートによって世界が広がっていくのでしょうか。

Jake Song氏: 現時点でも大きくしすぎてしまったのではないかなと私たちでは考えています。ひとまずサービスインしてからタイミングを見て拡張は考えたいと思います。

編: 「ArcheAge」は美しいグラフィックスが特徴ですが、ゲームエンジンはどのような基準で選ばれましたか?

Jake Song氏: 「ArcheAge」では「CryEngine 2」を使っています。その他のエンジンも考えてはいたのですが、検討した結果こちらに落ち着きました。このエンジンの良いところは、クオリティが高いことに加えて、オープンワールドを表現する際に重要な、屋外の表現が優秀だったことが挙げられます。

編: オープンワールドとおっしゃいましたが、マップの切り替えはないのでしょうか。

Jake Song氏: そうです。内部的にはローディングをしているのですがユーザーにはそれと分からないような工夫をしてあります。

編: 攻城戦や海戦以外に、ほかにどういったコンテンツが用意されますか?

Jake Song氏: 最初の攻城戦は、3つの大陸のうち3つ目の大陸で楽しめるコンテンツになっています。プレーヤーは新大陸を発見するように土地を広げていきます。次はジョン・ミンヒさんが作ったメインクエスト、海上戦、ハウジングです。ハウジングではメイドさんを雇って家の掃除を任せたりするようなコンテンツも企画しています。

編: 面白いですね。メイドさんが掃除するということは家は放っておくと汚れていく?

Jake Song氏: 汚れるわけではないのですが、家の前にある畑を手入れしてもらったりします。畑の作物の収穫は本来ユーザーがしなければならないのですが、メイドを雇用すると自動でやってもらえます。



■ サービス開始時期は2011年中を目指す。ビジネスモデルは月額制を想定

ブースでの反応もすこぶる良かった。後はゲームとしてどのように軟着陸させるかが注目される
生活を楽しめるMMORPGということで、船に加えてハウジングがどうなるかも気になるところだ

編: クローズドベータテストに参加したユーザーからのフィードバックにはどのような反応がありましたか。

Jake Song氏: 面白いという意見では海上戦や庭に木を植える要素がありました。ユーザーが集まってりんごの木で森を作りました。

編: どのようにして森を作ったのですか。

Jake Song氏: 第1次クローズドベータテストではどこでも自由に木を植えることができました。それではあまりにも邪魔になるケースが多かったのです(笑)。現在では道などでは植えられない仕様にしました。第2次クローズドベータテストで、ある男女2人のユーザーがりんごの木だけ植え始めてその辺を森のような状態になり、他のユーザーも面白がって参加していました。

 ユーザーからのネガティブな反応としては、キャラクターがあまりかわいくないというものや、戦闘での打撃感や爽快感がいまいちという反応がありました。またクエスト時にクリックすることが多かったり、移動が多かったりで不便だといった指摘がありました。

編: 韓国でのサービス予定はいかがですか。

Jake Song氏: 今年7月に韓国でクローズドベータテストをおこない、11月初めから第2次クローズドベータテストを行ないました。そこでのフィードバックを受けて、改善しているところです。いくつかのクローズドベータテストを経て、オープンベータテストを行なうと思います。まだ予定は立っていないです。はっきりは申し上げにくいのですが、ゲームの方向性は固まっていますので完成度を高めていきたいです。

編: 日本でのサービス予定はいかがですか。

Jake Song氏: 日本ではオープンワールドのゲームがユーザーさんの好みに合うのではないかと思います。なるべく開発してサービスしたいなと思います。

編: 韓国でこれからサービスを控えている「Blade and Soul」や「Tera」といった大作タイトルに対する「ArcheAge」のアドバンテージは何だと考えていますか?

Jake Song氏: 両タイトルとは目指す方向性が異なると思います。いずれもアクション性を重視したタイトルです。「ArcheAge」はもちろんアクション性も盛り込んでいますが、インタラクションや世界での暮らしを楽しめるところに注力しています。

編: ビジネスモデルはいかがですか。

Jake Song氏: 韓国では自社パブリッシングを予定しており、月額課金を想定しています。中国、日本、台湾等の海外での展開方法についてはパブリッシャーと相談して決めていきます。

編: 正式サービスはいつ頃になりそうですか?

Jake Song氏: 最近の韓国のサービストレントとしてはオープンベータテストの期間を短くして正式サービスに入るという傾向があり、「ArcheAge」についてもそのつもりで考えています。個人的な希望としては2011年中にサービスにこぎつけたいです。

編: 現在の開発状況だと可能でしょうか。

Jake Song氏: 頑張るしかないですね(笑)。

編: 日本のユーザーにメッセージをお願いします。

Jake Song氏: 従来のMMORPGの良いところを活かして新しいMMORPGを目指していきたいです。同じことを繰り返すコンテンツを極力排して楽しいコンテンツをたくさん詰め込んでいけるように努力していきます。日本のプレーヤーさんにも楽しんでいただけるようなものを作ってまいります。

編: 日本市場も2011年目標でしょうか。

Jake Song氏: なるべく早くしたいのですが、しゃべっておいて守れないと困りますので、とにかく頑張ります。

編: 頑張ってください。ありがとうございました。


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(2010年 11月 21日)

[Reported by 中村聖司]