いよいよ発売間近! 解体切断アクションゲーム「100万トンのバラバラ」
開発者インタビュー
PlayStation C.A.M.P! 東京オフィス 池田祐基氏、寺島誠一氏、中塚健太氏(左より)。池田氏が着ているのは初回出荷版のスピードくじに当たればもらえるTシャツだ |
2月18日に株式会社ソニー・コンピュータエンタテインメントより発売予定のPSP用ソフト「100万トンのバラバラ」は、主人公の攻撃隊長である「ティトリ」を操作して、空中を浮遊する敵の戦艦を切断してバラバラにしていくという、今までにない一風変わったアクションゲーム。
この個性的な作品の開発が誕生するまでの経緯や、制作時にはいったいどんな苦労があったのか? 本作の開発を担当した、「PlayStation C.A.M.P!」東京オフィスのスタッフにインタビューをすることができたので、早速その模様をお伝えしよう。(以下敬称略)
■ 「タイトルは最後の最後までなかなか決まらなかった」
戦艦を切り落とす「切断アクション」というジャンルの本作。グラフィックスは独特の雰囲気 |
――「100万トンのバラバラ」の開発がスタートしたのはいつ頃でしょうか?
池田 C.A.M.P!に出した企画が通った時期から数えると、2008年の8月ぐらいからですね。
――プラットフォームをPSPにしようと決めた理由は?
池田 自分たちの力量を考えた結果です。もしプレイステーション 3を使って3Dバリバリのグラフィックスでやろうと思うと、今の自分たちの技術では実現不可能になってしまうんですよ。また、時期的にちょうどPSPが盛り上がっていることもありましたので、最終的にPSPで出そうと決めました。
――ゲームの開発がスタートするまではどんなお仕事をなさっていたのですか?
池田 3人ともゲームとは全然関係のない別の仕事をしていました。私の場合は、東京ディズニーランドの飾り物を作ったりしていました。
――もしかしたら、前のお仕事の経験が「100万トンのバラバラ」の世界観作りにも役立っているのかもしれませんね。それにしても、この作品は絵本や童話をほうふつとさせるような独特の世界観になっていますが、これは企画当初からコンセプトとして存在していたのでしょうか。
池田 いえ、当初は全然決まっていなくて、まず最初に戦艦を切り落とす「切断アクション」というコンセプトがあったところに、後から世界観を付け足すという形で作りました。いろいろな人の意見を聞きながら、より多くの人が手にとってもらえるにはどうすればいいのかを考えた結果、現在のような明るくてポップな世界観ができあがりました 。
――「100万トンのバラバラ」というタイトル自体も、たいへん面白いネーミングですよね。
池田・寺島・中塚 タイトルは最後の最後までなかなか決まらなかったですね……。マスターアップの直前になって、セールス担当者から「早く決めないと、もう(時期的に)マズいよ!」と言われるなか、スタッフみんなで考えた結果ようやく決まりました(笑)。
――ステージ数は全部でどのぐらいあるのでしょうか。
池田 まず本編となる「ストーリーモード」と、別に「チャレンジモード」があります。チャレンジモードは、「制限時間内にクリア」といったように、ステージごとにクリア条件が異なる全50ステージのモードです。遊び応えはかなりあると思いますよ。
――体験版や公式サイトを拝見しますと、戦艦のデザインもかなり個性的ですよね。中には昆虫や動物の形をしたものもあったりしますが、これらのデザインはどなたのアイデアなのでしょうか。
寺島 戦艦の形状や敵の配置は、最初に一緒に制作していただいている株式会社アクワイアさんのスタッフが考えたものをもとにして、こちらで最終的なデザインに起こすという形で作りました。アクワイアさんがいろいろと遊び心を出して考えてくださった結果、特にチャレンジモードのステージに出てくる戦艦は、かなり面白い形のものを作ることができましたね。
――戦艦のデザインについては、何か基本となるテーマみたいなものはあるのですか?
寺島 特にこれといったテーマはないのですが、全体的に“無国籍に見えるようにしたいな”という思いはありました。人によっては洋ゲーにも日本のゲームにも見えてしまう、最初に画面を見たときに何か違和感を覚えるような、他にはない独自の世界観にしたかったんですよ。またゲーム中には、たとえば「自由の女神」みたいな固有のものを一切出さないようにしています。ですから、舞台となる国や町の名前なども、一切決めていないんです。
――すると、主人公のティトリをはじめとする登場人物の名前についても、特に由来みたいなものはないんでしょうか?
池田 ええ。これがもし「太郎君」とかって名前にすると、「ここは日本なのか」って思われちゃいますからね。キャラクターの名前を決めるときも、ゲーム独特の世界観を崩さないように注意しながら作りました。
多数のキャラクターが登場するのも特徴(上)。救出した仲間を閲覧できる「住民票」(中)と、やられた仲間が登録される「墓場」(下) |
――体験版では3ステージだけ遊べるようになっていましたが、ティトリ以外にもたくさんの仲間が登場するのが印象的でした。製品版では全部で何人ぐらいのキャラクターが登場するのでしょうか?
池田 だいたい230人ぐらいですね。どのキャラクターもデザインをコピー&ペーストしたものは一切使っていませんので、こちらも見ごたえはかなりあると思いますよ。仲間のキャラクターについては、各ステージごとに牢屋に閉じ込められているところを救出してからクリアすると、その人たちが「住民票」に追加されて、顔写真や詳しいプロフィールなどが見られるようになります。逆に途中で敵にやられた仲間は、「墓場」に入れられてこちらのリストに追加されてしまいます。つまり、ゲーム中はただ戦艦を切断するだけではなく、仲間を集めるというコレクション的な要素もあるというわけですね。
寺島 住民票の一覧にある顔は、デザイナーをやっている池田の奥さんにも協力して描いてもらっているんですよ。時期的に私が忙しくて、手が回らなかったので。
池田 どこかに頼むか……と考えたときに、身近にいたという(笑)。“へんなヤツをいっぱい描いて”と頼んだんですが。“普通のヤツは描かないで”と頼んだわけではないんですが……変なヤツしか描いてくれなかったんですよね。
――ゲーム中は、ティトリを動かすと救出した仲間も一緒についてくるようになっていますが、仲間を多く連れていると何かメリットなどがあるのでしょうか?
池田 仲間がいわゆる“残機”の役割をしています。敵に触れたりすると仲間が1人ずつ減り、1番最後にティトリが残って、その状態でやられるとゲームオーバーになるというわけです。それと、ティトリの持つノコギリとは別にボムを使用して戦艦を壊すこともできるのですが、戦艦はすべて“空を飛んでいる”という設定ですので、セットしたボムが爆発するまでの間は、その場から下に落ちないように仲間の誰かが抑える必要があるんです。ですから、ボムを使うと爆発と同時に仲間が1人ずつ戦艦から脱出していなくなるようになっています。
――ゲーム中には、ティトリの「やる気ゲージ」がたまっている状態で△ボタンを押すと「やる気アタック」が発動して、ゲージがなくなるまでの間、通常は切ることができない硬い部分を切断できるようになっていますよね。その反面、発動中はティトリの操作が思うようにできなくなるというデメリットも発生しますが、なぜ操作をわざわざ難しくしたのでしょうか?
池田 誰でも若い頃は、「やる気」があるときは周りのことが見えない状態のまま突っ走ってしまいますよね? まさにその人間性をゲーム上でも出してみたかったんですよ(笑)。
――体験版を遊んでみたところ、戦艦を切断すると切り落とした量によって演出が変わるシステムになってるみたいですね。
池田 はい。少しだけ切ったときは単にトン数の表示が出るだけですが、まとめてたくさん切ったときは、より派手な演出になって爽快感を出すようにしています。またステージによっては、あと少しで切断できるギリギリの状態まで亀裂を入れておいて、最後にボムを使うとほとんどすべてのボディが1発で落ちるようなところもありますので、いかに美しく戦艦を切断できるのかを競ってみるのも面白いと思いますよ。
■ 「ゲームを作るのがこんなに大変なものだとは、正直思ってもいなかった」
公式サイトの壁紙の原画なども持ち込んでいただいた。立体になっている戦艦のイラストを見ていると、ハイエンドグラフィックスでの「100万トン」も見てみたい気がする |
――開発の途中で、特にご苦労なさった点はどのあたりですか?
池田 初めのうちは、切断するごとに戦艦がどんどん弱体化してしまって、終わりの部分が盛り上がらなくなってしまうという問題がありました。そこで、終盤になると戦艦の1部が爆発するようにして、これに巻き込まれるとミスになるという仕様を追加しました。それから終盤はBGMも切り替わるようにして、プレーヤーがさらに盛り上がるように工夫しています。
――グラフィックリソース的には重そうなタイトルに見えましたが……。
池田 そうですね。こういう見た目ですが、処理的にはいろいろやっていて、演出を削ったりして調整しましたね。戦艦は小さいチップの組み合わせでできあがっていて、ものによっては1,000枚以上のポリゴンでできています。切断時はそのチップをさらに細かく分割していて、そのグリッドを切っていく形になっているので、プログラマはいろんな切り方をして、負荷のかかり具合をずっと検証していました。
――ちなみに、BGMの作曲はどなたが担当しているのでしょうか?
池田 ノイジークロークの坂本英城さん(※)にお願いしました。坂本さんにお話をしたところ、ゲーム自体をたいへん気に入って下さいまして、ご自分からぜひ作曲したいとご快諾をいただけました。生演奏の楽器もたくさん使っていただいたりしましたね。
※注:坂本英城氏は「勇者のくせになまいきだ。」シリーズや「428 ~封鎖された渋谷で~」、「龍が如く3」などに関わっているコンポーザー。――開発に1番時間がかかったのはどのあたりですか?
寺島 やはりグラフィックリソースに関する部分ですね。それから、バランス調整の部分はアクワイアさんに相当がんばっていただきました。戦艦の登場する順番も、企画当初からかなり変わりました。
池田 開発中は、社内や一般のモニターの方をお呼びして、プレイしていただいた感想なども参考にしながら調整しました。特に印象的だったのが、チュートリアルの画面で「移動しながら○ボタンを押して切断だ」というセリフが出るようにしておいたのですが、そうしたら、“ゲーム中ボタンをずっと連打している”方が何人かいらっしゃったことですね。これはいけないと思って、すぐに文章を「○ボタンを押したまま移動だ」という表現に変えました。
中塚 そうそう。後でモニターさんのレポートを読ませていただいたら、「このゲームはものすごくボタンをたくさん連打して……」と書いていた方がいらっしゃいましたので、もしこのまま直さないで出していたら、本当は連打しなくてもいいのに連打する人がたくさん増えてしまって、きっと今頃大変なことになっていましたね。
単に切断するだけでなく、せっかく切ったところを修復してしまう敵なども登場する |
――ゲーム開発を終えてみて、今ではどんなご感想を持ちですか?
池田 ゲームを作るのがこんなに大変なものだとは、正直思ってもいなかったですね。時間もすごくかかるし、大勢のスタッフが参加したりしましたので、本当にいろいろ苦労しました。まだ自分がゲームをただ遊ぶだけのユーザーだったときは、たとえばロード時間が長かったりすると“アレッ”と思ったりもしたのですが、今では多少のロード時間なら普通に待てるようになりました(笑)。
寺島 元々自分はゲームをあまり遊ぶほうではなかったのですが、最近いくつかのソフトを遊んでみたら、ゲームを楽しむためにプレーヤーが覚えなくてはいけない要素がたくさんあると大変だなあって思ったんですよ。でも、いざ自分がゲームを作る側に回ってみると、最初にルール説明をほとんどしなくても遊べるようにするのは意外に難しいことに気がつきました。そこで「100万トンのバラバラ」については、すぐにゲームを遊びたい人が簡単にプレイできるようにして、チュートリアルモードは本編とは別に用意するようにしました。
中塚 自分もゲーム開発の仕事を始めるまでは、いろんなソフトを遊んでいて“何でこれを直さないのかなあ?”などとよく言っていたりしましたが、その理由が理解できるようになった今では、以前に比べて随分と優しくなりましたね(笑)。そんな経験がありましたので、自分たちで作るゲームはなるべくストレスがたまらない作品になるように気をつけましたね。
――プレイ時間は、だいたいどのぐらいを想定して作ったのでしょうか?
池田 ストーリーモードがだいたい15時間、チャレンジモードが20時間ぐらいですね。さらに仲間のコレクションとかにも挑戦すれば、もうそれこそ無限に遊べるのではないかと思います。
――ソフトの発売後に、たとえば追加ステージを配信するといったサービスの予定などは何かありますか?
池田 今のところは特にないです。すでにソフトの中に、それこそ100万トン分のボリュームがたっぷりと詰まっていますからね(笑)。
――体験版を実際に配信されてみて、ユーザーさんからはどのような反応がありましたか?
池田 お蔭様で“おもしろい!”というお声を頂戴することができまして、配信してからソフトを予約された方の数が増えたみたいですね。それと、体験版に登場するステージは、実は本編とはまったくの別物なんですよ。製品版にも体験版のステージがそのまま収録されていますので、体験版をやっていない人はぜひこちらも遊んでいただきたいですね。
――それでは最後にお1人ずつ、読者の方に向けてのメッセージをお願いします。
池田 誰でも楽しめる作品になっていると思いますので、ぜひ末永く遊んでください。それから、初回出荷版にはパッケージの中にスピードくじが入っていまして、もし当たりが出るとオリジナルTシャツがもらえるようになっていますので、ぜひ初回版をお買い求めいただければと思います。
寺島 アクションの部分だけでなく、サウンドやグラフィックスなどの演出もじっくり味わっていただきたいですね。あと、キャラクターのセリフや「住民票」のプロフィールの文章もかなり面白くなっていますので、読み飛ばさないで見てくれたら嬉しいです。
中塚 私はメニュー回りの制作を担当したのですが、どれかメニューを選ぶと歯車が回転して絵が動いたりとか、私なりにいろいろこだわって作りましたので、もしできればメニュー画面にも注目していただければと思います。
――本日はお忙しいなか、取材のご協力ありがとうございました。製品版の発売を楽しみにしております!
(C)Sony Computer Entertainment Inc.
□プレイステーションのホームページ
http://www.jp.playstation.com/
□「100万トンのバラバラ」のページ
http://www.jp.playstation.com/scej/title/100mt/
(2010年 2月 12日)