インタビュー

「-CHASE- 未解決事件捜査課 ~遠い記憶~」インタビュー【前編】

元CING、金崎泰輔氏登場! その波瀾万丈な業界歴、新作の魅力を聞く

5月11日 配信予定

価格:800円

 硬派で、大人が楽しめる、ハードボイルドなアドベンチャーゲーム。その系譜が帰ってきた。

 アークシステムワークスより、ニンテンドー3DS用のダウンロード専用タイトル「-CHASE- 未解決事件捜査課 ~遠い記憶~」が5月11日より配信される。取調室で展開する刑事もの、ハードボイルドなアドベンチャーゲーム。価格は800円で重厚なストーリーを2~3時間楽しむという、大人向けの作品だ。

 本作のゲームデザイン、キャラクターデザインを手がける金崎泰輔氏は、かつて「J.B.ハロルド」シリーズなどハードボイルドなアドベンチャーゲームを手がけた、今はなきリバーヒルソフトでゲーム制作をし、リバーヒルソフトから独立したCINGにて、ニンテンドーDS用アドベンチャー3作品(「アナザーコード 2つの記憶」、「ウィッシュルーム 天使の記憶」、「ラストウィンドウ 真夜中の約束」)のディレクター、キャラクターデザインを務めた人物。

 「-CHASE- 未解決事件捜査課 ~遠い記憶~」は、その金崎氏をはじめとした元CINGのスタッフと、アークシステムワークスがタッグを組んで制作した、完全新規のハードボイルドアドベンチャー作品だ。

 ゲームデザイン・キャラクターデザインの金崎泰輔氏(現在はILCAAPPS所属)、アークシステムワークス所属で本作のディレクターである庄司哲朗氏、本作のシナリオを手がけたライターの咲良まゆ氏に、インタビューをさせて頂いた。

 「-CHASE- 未解決事件捜査課 ~遠い記憶~(以下、『-CHASE-』)」の魅力、そして硬派でハードボイルドなアドベンチャーゲームへの考えや想いをたくさん伺ったので、お楽しみ頂ければ幸いだ。

テクノソフト、リバーヒルソフト、CING、そしてCINGの倒産から6年。ゲームデザイナー金崎泰輔氏の波瀾万丈なゲーム業界歴

「-CHASE-」のゲームデザインおよびキャラクターデザインを務めた金崎泰輔氏。業界を渡り歩き、リバーヒルソフト、CINGからのハードボイルドアドベンチャーを継いでいる1人だ

――まずは金崎さんのプロフィールからお伺いいたします。かつて、CINGが開発、任天堂が販売のニンテンドーDS用アドベンチャーゲーム「アナザーコード 2つの記憶」、「ウィッシュルーム 天使の記憶」、「ラストウィンドウ 真夜中の約束」の3作品で、ディレクターおよびキャラクターデザインを務められましたよね。

金崎氏:そうです。宮川(CINGの代表であり、元リバーヒルソフトのゲームデザイナーであった宮川卓也氏)がアイデアを出して、それを任天堂の人に見せたときには「おぉー!!」と驚いてもらえました。そこから「アナザーコード 2つの記憶」ができていったという感じでしたね。

――ニンテンドーDS本体の作りを活かしたギミックがありましたね。あれは斬新でした。

金崎氏:ニンテンドーDSだからこそ、というアイデアだっただけに喜んでもらえましたね。

――ただ、その3作の後に……、2010年に株式会社CINGは破産手続申請を取られました。あれは「ラストウィンドウ 真夜中の約束」のゲームレビューを書かせて頂いた私もショックで。「ラストウィンドウ」の発売が1月で、破産手続申請はそのわずか2カ月後のことでしたから。

金崎氏:そうなんです。ある日突然にそういう話になって、ショックでしたね……。

――CING倒産のニュースに長くゲームファンをされている人たちからは、日本のゲーム文化の将来を心配するような声がありました。硬派なアドベンチャーゲームの系譜が途絶えてしまうというような。

金崎氏:ありがたいし申し訳ない話です。ちなみに、今回シナリオを担当してもらっている咲良さんは、CINGで開発していたWii用RPG「王様物語」の和田康宏さん(「王様物語」のエグゼクティブプロデューサー)とも仕事をされたことがあって。その繋がりから今回お声かけさせて頂いたんですよ。

――「王様物語」が話題になったのは2009年頃で、CINGの倒産はその翌年でした。金崎さんがCINGに入られる前はどのような経歴になるのでしょう?

金崎氏:僕は18歳の頃からこの業界で働いています。最初はテクノソフトでした。シューティングの「サンダーフォース」シリーズを作っていた会社ですね。

 テクノソフトを退社後はレッドカンパニーに。広井王子さんのところですね。そこに「ゲート オブ サンダー」や「ウィンズ オブ サンダー」を作っていた“レッド雷門”というチームがあって、合流させて頂いたんです。

 その後は九州に戻ってきて、その人たちと一緒にCAプロダクションという会社を立ち上げました。そこには4、5年ほどいて。 僕は当時にプレイステーション用の「b.l.u.e ~Legend of water~」というゲームでキャラクターデザインをさせてもらいました。

 CAプロダクションを退社後は地元の福岡に戻って。そこで「リバーヒルソフトってあるなぁ」と、ふと思ったんです。僕もリバーヒルのアドベンチャーゲームの世界観が好きだったので。それで入社しました。

 ……ですが、その頃のリバーヒルソフトは、後のレベルファイブへと独立するという人たちが出ていってしまった時期で(当時、リバーヒルソフトの社員であり、現在レベルファイブの取締役社長である日野晃博氏を中心に起業)。ほどなくしてリバーヒルソフトもなくなってしまったんです。

 僕はその後しばらく専門学校の講師などをしていたのですが、たまたま宮川や鈴木と会うことがあってCINGに入り、10年ぐらいCINGでゲーム制作をさせて頂きました。そこからは、先ほどの話に繋がりますね。

CING開発の「ウィッシュルーム天使の記憶」より。このテイスト、渋さ。これぞハードボイルド

――いやぁ、ものすごい経歴ですね……。そうすると、金崎さんご自身はがっつりリバーヒルソフト出身というわけではないんですね。むしろシューティング畑。

金崎氏:ですです。僕自身は純粋なリバーヒル育ちかと言われるとちょっと違っていて。リバーヒル最後の……みたいな感じですね(笑)。

――なるほど。そしてCINGに合流して、リバーヒルの直系と言える硬派なアドベンチャー作品を手がけていったと。

金崎氏:宮川と鈴木の作るアドベンチャーというのがCINGの柱でしたし、僕自身も好きでしたから。でも、アドベンチャーゲームってどうしても時代の浮き沈みがあるんですよね。

 同時期だとレベルファイブの「レイトン教授」がずいぶんとヒットしたじゃないですか。「ああいうものも作らないといけないんじゃないか?」と、その頃から思ってはいたんですけど……なにせ同じ福岡の会社でしたから。

――リバーヒルソフトという出自も一緒ですし。

金崎氏:そうなんですよ(笑)。

――当時も両社が比較されるところはやはりありましたよね。ポップでライト路線のアドベンチャーを作ったレベルファイブと、ハードボイルドなアドベンチャーを変わらず作るCING。

金崎氏:ですね。CINGは「正統派なアドベンチャーゲームを作りましょう」というスタンスでした。

――逆に、レベルファイブさんの存在があったからこそというところも……あったかもしれませんね。同じ出自の同じ地域で、似たようなアプローチをしても……という。

金崎氏:そうですね、あったかもしれないです。

――……それから6年後。現在ですが、今回の「-CHASE- 未解決事件捜査課 ~遠い記憶~」がリリースされることになり、リバーヒルソフトからCINGというアドベンチャーゲームの系譜が帰ってきたという想いがあります。一連のアドベンチャー作品のファンにとって本作の発表は嬉しいニュースでした。

金崎氏:そういう声をチラホラと頂けたみたいで。本当にありがたいです。

――CINGの後、この6年はいかがでしたか?やはりアドベンチャーゲームを作りたかった?

金崎氏:先ほどもありましたが、アドベンチャーというジャンルはすごく浮き沈みが激しくて。そのうえ、ニンテンドーDSというハードによって“スタンダードなアドベンチャーゲームの発展系はやり尽くされた感”が出ちゃったところもあると思うんですよ。

――正統派なテキストアドベンチャーの進化としては、ニンテンドーDS世代だとタッチ操作で場所や物を調べることができたり、2画面でテキストとグラフィックスを別々に見せることができるようになったり。やりたかったことが次々にできて、ひとつの到達点のように思えたところがあったかもしれませんね。

金崎氏:そうなんですよね。

――今回の「-CHASE- 未解決事件捜査課 ~遠い記憶~」はアークシステムワークスから発売となりますが、アークシステムワークスさんに合流されたのはいつ頃なんでしょう?

金崎氏:木戸岡さん(アークシステムワークス代表取締役 木戸岡 稔氏)とは以前から交流があったのですが、ちょうど去年の今ぐらいにその木戸岡さんから「アドベンチャーゲームやらないの?」って言われたんです。

 アークシステムワークスは「探偵 神宮寺三郎」シリーズもやられていましたし、木戸岡さんのなかには“新しいアドベンチャーゲームのシリーズを立てたい”という気持ちがあるのかなと思います。

 それで、「やらせて頂けるのなら……!」ということで何もない状態から始めました。元CINGの宮川と話あって、シナリオは咲良さんにお声かけさせて頂いて。咲良さんは文体としてはいろいろと書ける人ですから。そしてアークシステムワークスからは担当ディレクターに庄司さんに就いて頂いて。

「-CHASE-」のディレクターを務める、アークシステムワークスの庄司哲朗氏。硬派なアドベンチャーというジャンルを絶やしてはいけないと語ってくれた

――ディレクターの庄司さんは、こうしたアドベンチャーゲームというジャンルについてはどのように考えられているのでしょう?

庄司氏:僕個人としてもアドベンチャーゲームはよくプレイしていました。こういう硬派なアドベンチャーでは「探偵 神宮司三郎」シリーズなどが好きだったので、すぐにピンとくるものがありましたね。

金崎氏:これは本当に幸運だったと思うのですが、すごく前向きにお力を頂けて。担当の方に恵まれましたね。

――なるほど。硬派なテイストの国産アドベンチャーゲームというのは、ほぼ見あたらなくなってしまいましたが……ないと寂しいという気持ちがありますよね。

金崎氏:そうなんですよねぇ。

庄司氏:絶やしてはいけないジャンルだと思うんですよ、ホントに。

――昨今ヒットした国産アドベンチャーゲームというと、やはりポップな路線で、アニメ的なものが多いです。ですが、アドベンチャーゲームの魅力って「そういうものだけではない」とも思いますね。

金崎氏:確かに。アドベンチャーって何かしらで生き残っているジャンルではあるんです。アニメ的な女の子が出てくるものが多くて、例えば「ダンガンロンパ」シリーズや「逆転裁判」シリーズもアドベンチャーですし、毎作品いろんなギミックを入れて、ゲームとして楽しいものに仕上げていますよね。

 僕はああいう世界観は作れないので、隣の芝生は青く見えるじゃないですけど、「羨ましいな」と思います。でも逆に“こっち側の作品のようなものは作れないよね”と思ってもらえるようなものを確立していければ。それはそれでいいのかなと思います。

CING開発の「アナザーコード 2つの記憶」より。アシュレイのビジュアルには、惹き付けられる独特な魅力がある

――自分たちにしかできない、他にないものを……ですね。ただ、女の子が出てくるという点では、「アナザーコード」シリーズでアシュレイというかわいらしい女の子も描かれていますよね?

金崎氏:描きますよ(笑)。得手不得手ではないですけど、渋いおじさんの方が描きやすいというのはあります。でも、かわいい女の子を描くのも好きです。ただ、描いているところを見られたくなかったりはするんですけど(笑)。

――金崎さんは独自の魅力がある女の子を描かれますよね。そこは少し気になっていたんです。「アナザーコード」のアシュレイは、独特な透明感のある女の子のキャラクターだったなと思います。

金崎氏:あれは当時、CING内で「任天堂さんに企画書出すからキャラクター描いてよ」って言われて、「あぁ、わかりました」っとバーッとラフを描いたんですよ。そうしたら、任天堂の方にほめていただけて。

 で、「せっかくほめてもらえたのだから、適当に描いたものじゃダメだ!」と思って気合いを入れて。任天堂さんが販売する作品なんだし、子供のユーザーさんの存在も少し意識しようとか考えて描いたら、「こういうのは別に求めてないんです……」って反応が返ってきて(笑)。

――考えちゃダメ(笑)。

金崎氏:狙っちゃダメ(笑)。

――あるあるですね(笑)。

金崎氏:あと、よく言うのが“ラフに勝てない”っていうものですね。

――イラストを描かれる方はよくおっしゃられますよね。ラフは生きているから、と。ラフ以降のものは命が消えてしまう、まとまってしまうと。

金崎氏:そうそう、そうなんです。そういうのもあって最初に描いたものを喜んでもらえたのかもしれないですね。

――金崎さんの描かれるキャラクターは、任天堂の方が喜ばれたように、かなり独特なテイストのある絵だと感じます。どういったものから今のタッチになっていったのでしょう?

金崎氏:うーん、特別意識したわけではなくて、気がついたらこういう絵を描くようになっていた、という感じなのですが。

 学校がデザイン系だったので、その頃に好きだったイラストレーターさんの影響を受けたんだと思います。ペーター佐藤さんというミスタードーナツのパッケージイラストを描かれた人や、江口寿史さん(イラストレーター、漫画家)が好きで。そのあたりからの影響があったんだと思いますね。

「-CHASE-」の主人公、七瀬 祥之介[ななせ しょうのすけ]。左と中央は金崎氏によるラフ、右はゲーム中のグラフィックスだ。再現度は充分に高いが、イラストレーターの方がよく言われる“ラフに勝てない”という言葉が理解できるところもある

――金崎さんの好まれる世界観についてですが、小説はお読みになりますか?やはり海外翻訳の推理物とかがお好きだったり?

金崎氏:そうですね、読みますよ。「かわいい女」(アメリカの作家レイモンド・チャンドラーのハードボイルド小説)とか、「ブラック・ダリア」(アメリカの作家ジェイムズ・エルロイの犯罪小説)が好きで、作品世界としてはそういうものが好きなんですよね。

――なるほど、そうした下地から作品の世界観やテイストが自然と出てくるのかなと思えますね。例えば、アニメ好きな人がアドベンチャーを作れば、そういった色になるのだと思いますし。

金崎氏:確かにそうですね。ただ、鈴木や宮川の作るものって、システム的には良い意味でも悪い意味でも古いとは思うんですよね。それで、例えば「シュタインズゲート」が出てきたときには、「うわ、やられてるじゃん」とも思いましたし。話も面白いし、トリックとしても面白かった。そういうものを羨ましいなぁと思ったりしましたね。

――なるほど同じアドベンチャーゲームというジャンルでも、相当に違ってきますよね。例えば「シュタインズゲート」だと、いわゆるPC用に多く発売されてきた美少女ゲーム路線からの発展なのかなと思います。それに対して、リバーヒルソフト、CING、と続いてきたのは“推理小説の世界をゲームで楽しめるようにするとどうなるのか?”という系譜なのかなと思えます。

金崎氏:そうですね。いろんな作品を羨ましく思いつつも、ハードなものもやっぱりないと。その気持ちで「-CHASE-」を作りました。

ハードボイルドの世界観に欠かせない“酒とタバコと無口な男”

――「-CHASE-」の制作について伺っていきますが、企画立ち上げの当初から、今のハードボイルドなアドベンチャーゲームというイメージだったですか?

庄司氏:最初から今の形に近かったですね。コンセプトに“取調室”というのがまずあって、もちろん刑事物であるということも最初からでした。

金崎氏:イメージにあったのは、海外ドラマの「コールドケース 迷宮事件簿」ですね。僕はあれがすごく好きで。でも、好きだからってそのままそういうものを作ったわけではなくて、ひとつの指針なんですけど。

 ただ、シナリオの咲良さんにはよく「コールドケースみたいな!」って言っちゃって、そしたら咲良さんに「私たちはオリジナル作っているんですから、あんまり具体例を言わないでください!!」って怒られることもありました(笑)。

――あんまり具体例を出されると、その作品に引っ張られちゃってアイデアが出なくなったりしますよね(笑)。

金崎氏:そうそう(笑)。あくまでも指針ですね、雰囲気とかの。

――これまでの作品もそうでしたが、やはり海外刑事ドラマのテイストですよね。ただ、日本ではゲームに限らず、硬派というかシリアス路線の刑事物というのはだいぶ減ってしまいました。ファンタジックな要素や日常的なゆるい要素が必ず入るようになったり。

金崎氏:ハードな推理物って本当に減ってしまったんですよね。

「-CHASE-」のシナリオを手がけられたライターの咲良まゆ氏 。これまで手がけられたアドベンチャーゲームのシナリオは女性向けなテイストが多かったようで、ハードボイルドなシナリオは新境地の開拓となった

――そうした時代なわけですが、咲良さんは今回シナリオを手がけるうえで、すんなりと作れましたか?

咲良氏:シナリオを書く上で1番最初に伝えられたのは“ハードボイルドなもの”ということだったんですけど……当初の私にはやっぱりハードボイルドっていうものがすごく難しくて。パッとイメージしたのは「ゴルゴ13」みたいな感じだったんですけど(笑)。

金崎氏:レイモンド・チャンドラーの小説の「かわいい女」とか「長いお別れ」みたいな世界観は、当初の咲良さんのなかにはあまりなかったかもしれないですね。ただ、ハードボイルドって一口に言っても幅がいろいろとあると思いますし、最終的にはうまくいったと思いますね。ゴルゴではないですけどね(笑)。

――中年にさしかかっているぐらいの世代だと“ハードボイルドってこんな感じ”というのが大体はあると思うのですが、今20歳代、30歳前半ぐらいの人だと具体例があまりないかもしれませんね。ここ10年だと国内でのハードボイルドものというのはあまりないのかも……。

金崎氏:でも例えば、テレビドラマで「MOZU」ってあったじゃないですか。あれがまた、主演の西島秀俊さんがかっこよくて(笑)。「MOZU」にはタバコを吸っているシーンもしょっちゅう出てくるのですが、それも昨今にない感じだなぁと思って。

――なるほど、ハードボイルドの世界観にタバコは欠かせないですよね。

金崎氏:ですよね。これまでの作品ではタバコを吸うシーンは入れられなかったんですけど、今作の主人公の七瀬はいっつもタバコを吸ってますよ。

咲良氏:吸いまくってますよね。どこでも、ところ構わずっていう感じで。シナリオ書きながら「こんなところでタバコ吸わせちゃっていいのかな?」って心配になるぐらいでした(笑)。

金崎氏:主人公の七瀬はもう、そういうのを気にしない人なんですよ。パートナーの雨倉が「ここは禁煙です!」って言っても無視して吸うぐらい。ハードボイルドにとって“タバコとお酒”は重要なキーアイテムなのかなと思います。

――ハードボイルドって何かと聞かれたら、まずはお酒とタバコの似合う男が思い浮かびますね。

庄司氏:それと、無口ですかね。

――普段は皮肉っぽいことも言う雑な男で。でも、いざというときには信用できる男のような。

金崎氏:そうですね。いざというときには信頼できるというところが大事かも。雑なだけの皮肉屋人だと、ただの嫌な人ですからね(笑)。

――確かに(笑)。咲良さんは代表作にレベルファイブの「シンデレライフ」や トイボックスの「ホームタウンストーリー」といったガールズ系なゲームのシナリオ制作がありますが、こういうハードボイルド感というのは、難しかったですか?

咲良氏:そうですね、代表作にはそうしたガールズ系なシナリオがあるんですけど、特にそういうジャンルだけをやりたいというわけではなくて。いろんなジャンルに挑戦したいとは思っています。

 実は、恋愛物は苦手で(笑)。中身が男っぽいところがあるんですよ。逆に女の子向けなシナリオという方が難しかったんですよね。女の子にとっての“カワイイ”とかが、あんまりわからなかったりして(苦笑)。

――でも、ハードボイルドにも恋は欠かせないですよね。もっとアダルトでしっとりとした、マットな色合いの恋というか。

咲良氏:そっちはイケると思うんですよ。きゃぴきゃぴとした恋とか、きゅんきゅんとか萌えとかが、あんまりわからない(笑)。今回のミステリーやハードボイルドという世界観のシナリオは初めてでしたが、勉強にもなったし、すごく楽しんでやらせて頂けました。

――そのあたりは金崎さんとディスカッションしつつ、掴んでいった感じですかね。新境地の開拓ですね。

主人公の七瀬は、未解決事件捜査課の刑事。冷静沈着で、無口。しかしたまに口を開けば、口が悪い。とっつきにくく、変わり者。基本、やる気がないが、本気になると鋭い洞察力と類まれなる想像力を発揮する

咲良氏:そうですね。主人公の七瀬も、私の中のハードボイルドなキャラクターになっていると思います。……ただ、七瀬には変人要素も入れていて。トランプを肌身離さず持っていて、いつも触っているんですよ。

――なるほど。実は、私もトランプをいつも持ち歩いている人なんですが……(カバンからトランプを取り出す)

金崎氏:えぇ!? あ、本当だ(笑)。

咲良氏:えー!私の知り合いにも、トランプをシャッフルしながら人と話す人がいるんですけど……。シャッフルしながら考えると落ち着くんですか?

――あぁ、まさにそれです。シャッフルしながら会話したりしますね。主人公の七瀬もそれをやるんですか?

金崎氏:シャッフルさせたかったんですけどね。それは残念ながらしないんですけど、カードをいじっている感じです。それにしても、本当にいるんですね……すごいなぁ。

――でもさっき“変人要素”って……。

金崎氏:いやいや、それはあれですよ! 変人というよりは、独特な雰囲気だったり、とっつきにくい独特な雰囲気を出すための小道具という感じなんですよ。

咲良氏:七瀬は冷静沈着で無口、たまに口を開いたと思ったら口が悪いところもあります。でも、人を傷つけるような口の悪さではなくて。ぶっきらぼうな感じですね。感情表現が苦手というか、見せないようにしているところもありますね。

金崎氏:そういうところは正統派なハードボイルドの主人公だと思います。

CING開発の「ラストウィンドウ」より、画像の左が主人公のカイル・ハイド。七瀬に通じるものが確かに多い

――なるほど、七瀬の外見には、CING時代の「ウィッシュルーム」や「ラストウィンドウ」のカイル・ハイドを思わせるものがありますね。

金崎氏:あごひげのある男しか描けないわけじゃないんですよ?(笑)。ただ、七瀬を見た時に「これCINGのチームっぽくない?」と思ってくれたらいいな、という気持ちがあって。テイストを寄せていますね。

――カイル・ハイドを連想させるキャラクターにわざとしているんですね。

庄司氏:それは最初からそうしようと考えていました。CINGの作品が好きだった人に気づいてもらいたいというのがありますね。

金崎氏:そこに多少、「MOZU」の西島秀俊さんの雰囲気がちょっと加わっています。「MOZU」にどハマりしてたので(笑)。

――なるほど。主人公の七瀬が最初に出来上がったのですか?

咲良氏:そうですね。パートナーの雨倉という女性は七瀬をサポートするために生まれたという感じです。七瀬ありきで、彼のパートナーはどういうタイプの人が面白いだろうと考えて作っていきました。

――この雨倉さんは、ちょっと新しいアプローチに思えます。CINGでの作品に出てきた女性はもっとアダルトでアンニュイな雰囲気だったと思うのですが、この雨倉さんはショートカットで、元気な頑張り屋な感じがありますね。

金崎氏:確かに、「ウィッシュルーム」や「ラストウィンドウ」に登場したレイチェルとかミラは、アンニュイな雰囲気の漂うキャラでしたね。この雨倉さんはよりとっつきやすく、入りやすいキャラクターになっています。

咲良氏:最初は雨倉も、金崎さんの描く女性らしいキャラだったんですよね(ラフ画の資料を見つつ)。

金崎氏:一番最初に描いた雨倉はこんな感じで、髪が長くてしっとりとしていました。そこから日本の刑事ドラマに出てきそうな、ステレオタイプのキャラクターに変えていきましたね。

――ボーイッシュで元気で。

金崎氏:えぇ。

――七瀬みたいな厄介な人につかされちゃって、嫌々なんだけど引っ張っていく……みたいな。

金崎氏:まさにそういう感じです(笑)。

七瀬のパートナーである雨倉 香都[あめくら こと]。こちらも左と中央はラフ、右はゲーム内のものになる。まるで姉妹のように思えるほど別人になっている。インタビュー陣、というか筆者は、ラフの髪の長い雨倉の方に、往年のアドベンチャーの魅力を感じたところも。あなたはどちらが好みだろう?

 インタビュー前編はここまで。新作の見所、そしてアドベンチャーゲームというジャンルへの考えを伺った後編を後日掲載予定。お楽しみに!

©ARC SYSTEM WORKS

(山村智美)