インタビュー

「-CHASE- 未解決事件捜査課 ~遠い記憶~」インタビュー【後編】

“また遊びたくなる”を目指す、ハードボイルドADVのこだわりを聞く

5月11日 配信予定

価格:800円

 アークシステムワークスより5月11日より配信される、ニンテンドー3DS用のダウンロード専用タイトル「-CHASE- 未解決事件捜査課 ~遠い記憶~(以下、『-CHASE-』)」のインタビュー後編をお届けしよう。

 インタビューをお受け頂いたのは前編同様に、ゲームデザイン・キャラクターデザインの金崎泰輔氏(現在はILCAAPPS所属)、アークシステムワークス所属で本作のディレクターである庄司哲朗氏、本作のシナリオを手がけたライターの咲良まゆ氏。

 後編では、「-CHASE-」がどのようなアドベンチャーゲームになっているのか、そして金崎氏のアドベンチャーゲームというジャンルへのこだわりや考えについても伺っていった。

“映画1本分の感覚で楽しむハードボイルドアドベンチャー”

――「-CHASE-」はダウンロード配信専用ソフトで800円という低価格のタイトルと、かなりコンパクトな規模になっています。これも企画当初から決めていたのでしょうか?

庄司氏:そうですね、これもコンセプトのひとつで“映画を1本観るような感覚で”というものがありました。プレイの長さもそうなのですが、価格においても。映画館で1本観ると1,000円ちょっとですよね。コンパクトに凝縮したゲームを、価格も映画より少し安いぐらいに 、という考えがありました。

 もちろんゲームならではなインタラクティブさとして、選択肢によって相手の受け答えが変わっていったりというものもあります。

――映画1本、エピソード1つ分ということですね。ここからスタートして第2弾など新しいエピソードを配信していきたいというお考えはありますか?

庄司氏:それは、ぜひやっていきたいと思っています。

――定期的にコンパクトな規模の物語が配信されて、楽しめる。それこそ映画や海外ドラマのようなものですね。

金崎氏:そうしていきたいですね。

――プラットフォームはニンテンドー3DSでのDLソフトということですが、これもコンセプトからすれば当初から決めていたものですか? DL専用タイトルを購入するユーザーさんや売れ行きというのは、なかなか伺い知れないところです。

庄司氏:弊社では結構3DS向けのDLソフトを出しているのですが、やはり小学生や中学生といった低年齢層向けのカジュアルゲームが多いんです。今作はあえて、そこにあまりないジャンルのゲームを出してみようという試みでもありますね。

――なるほど。DLソフトというと、購入方法やネット接続の環境を考えると、実は大人の方が手を出しやすいのかなとも思えますね。

庄司氏:小さいお子さんの場合は3DSをインターネットに繋げられなかったり、そもそもDLソフトというものがあること自体を知らないかもしれません。その意味でもその辺りのことをよく知っている大人のユーザーに「-CHASE-」を遊んでいただければと考えております。

――「-CHASE-」は取調室の物語ということで、七瀬たち刑事と取り調べを行なう相手がいる。室内での会話のシーンが中心になっていくのかなと思えるのですが。そのコンセプトを当初から決めていたのには、何か理由があったのですか?

金崎氏:“他にない設定”というのが大きかったですね。取調室というシチュエーションだけで進めていくアドベンチャーゲームって思い当たらないなぁと。

庄司氏:“未解決事件を扱う捜査課の物語にしよう”というのもあったんです。なので、あまりアクティブに外に行ったりはしない、取調室が中心になるというのもありますね。

――未解決の事件なので、一通りの捜査は終わっているという状況なわけですね。

庄司氏:そうなんです。何か新しい疑問があればその都度、参考人呼び出して話を聞いていく。再捜査なんですよね。なので物語は取調室を中心に進んでいくんです。

開発資料の絵コンテ。Live2Dでキャラクターの表情をつけつつ、カット割りや構図にもこだわっている

――なるほど、「-CHASE-」では2Dグラフィックスに動きをつけられるLive2Dでキャラクターアニメーションをつけているということで。先に見せて頂いた資料には絵コンテもありますね(「Live2D」は2Dモーフィングによるシームレスアニメーションを可能にするソフトウェア)。

金崎氏:カット割りや構図は、やはり海外ドラマ的なものを意識しましたね。CINGの時の作品なら、手書きで全部を描いて、モノクロなんだけどざわざわ動いているようなエフェクトをつけて見せたりもしたのですが。今回は“絵がそのまま動く”という1番効果の高い見せ方をLive2Dで行ないました。

――この、取調室での会話というシチュエーションだと、やっぱり表情の変化がポイントになるのでしょうか?

金崎氏:そうですね、本当はもっといっぱいアングルを作って見せたかったところもあるんですけど、そこはできる限りがんばって。表情の見せ方はだいぶ重視しています。

庄司氏:眉や口がリアルに動きますので。その表情の変化から心理の変化を感じ取ってもらいたいですね。

金崎氏:そういうエモーションな部分を全部作り込んで見せていこうすると、やはり量的にも厳しくなるのですが、今回は結構そこをがんばってます。

 Live2Dを使って表情を作ってくれたスタッフがいるんですけど、その人に「こういう風に動かして」と基本的なお願いをするところから、「咲良さんのテキストがこうなのに、なんでこんな表情にしたの!? 違うよ!!」なんてこだわった時もあったりして。スタッフにはかなりがんばってもらいました。

――Live2Dを表情などの感情表現に使っているのは珍しいように思えますね。

庄司氏:確かにLive2Dを使っているというと、美少女キャラにちょっとした動きをつけたり、揺れたりという使われ方が多いかもしれないです。こういう使い方をしているものは他にあんまりないかもしれません。

金崎氏:僕も、最初に「Live2Dでキャラ絵に動きをつけましょう」となったとき、スマホアプリ的なものに使われているものしか思い浮かばなかったんです。でも思ったよりもいろいろできて。もっと絵の密度を高めたものをLive2Dで動かしたら、さらに効果的になるかもしれないですね。

――うーん、金崎さんとしてはもう少し絵にディテールがあっても良かったかな、というお気持ちがありますか?

金崎氏:そこは難しいところなんですけどね。僕個人としては「-CHASE-」ではディテールを細かくするよりも、もっと表現を豊かにつけていけたらという気持ちがありますね。

表現を豊かに、フォトリアルよりも親しみを持てる画作りを。金崎氏はそうしたバランス感覚でゲームをデザインされている

――なるほど。金崎さんはそれこそドット絵時代からゲーム制作をされているわけですが。今の、表情までくっきりと見せていけるのと、ドット画の頃の“ユーザーが想像力でカバーしていたもの”と、どちらがお好みですか?

金崎氏:あぁー、はい。それはね、うーん……。でも昔はそもそもそういう考え自体がなかったですからね。ドット画の頃はあれはあれで楽しくはあったんですけど……、うーん。

――例えば、チュンソフトさんの「弟切草」や「かまいたちの夜」はシルエットにしましたよね。あの表現って強いなと思うんです。自分の想像がシルエットに当てはめられていくという。

金崎氏:あの表現なら自分の想像を入れられる余地がありますものね。

――アドベンチャーゲームというものがフォトリアル路線に突き進むのはもちろんあると思うのですが、逆にアーティスティックな表現を新旧問わず使っていく方向というのも、ありなのかなと。

金崎氏:なるほど、先ほどのディテールをもう少し出せたらという話は……、僕個人が思っていることでもあるのですが、フォトリアルになりすぎるとユーザーさんって引いちゃいますよね。そこのバランスを取らないといけないよな、とも思うんです。

 特に日本のユーザーさんってフォトリアルなもの、“不気味の谷”が出るようなものには特に引いちゃいますよね。落としどころとしては、今回の「-CHASE-」ぐらいのバランスが良いのかな、と思いますね。

ハードボイルドにキャラクターボイスはあり、なし?自分が想像するこのキャラの声は最強?

今にも渋くて機嫌の悪そうな声が聞こえてきそうなワンシーン。自分の想像で声を当てはめる方が楽しいのか、それとも有名声優によるボイスがあった方がいいのか

――「-CHASE-」ではキャラクターボイスはつけていないですよね。それは、コスト的な都合もあったかもしれませんが「ボイスはなくてもいい」というお考えがあったりもしましたか?

金崎氏:基本的には、僕はそうなんです。なくていい派で。実はこれまでの作品にもボイスをつけたことがないんです。Wiiの「アナザーコード:R」発売後には「なんでボイスがないの?」という反応もあったりはしたのですが……、想像の余地を残したいというのが、やはりあるんですよね。

咲良氏:声のイメージが完全についちゃいますからね。

――……ディレクターの庄司さんは、かなり悩ましい表情をされていますが(笑)。

庄司氏:たくさん売れて欲しいというところでは、ボイスの魅力は捨てがたいですよね(苦笑)。

金崎氏:声優さんの存在がユーザーさんにとって大きなフックになっていますよね、今は。

庄司氏:でも、このハードボイルドなアドベンチャーなら、ボイスの有無はそれほど重要ではないとも思えるんです。とはいえ、今どきのアドベンチャーはボイスありますよね。

咲良氏:すごい悩んでる(笑)。庄司さんとしてはボイスを入れたかったですか?

庄司氏:入れてもいい……、かな?とは思います。それこそお気に入りの声優さんのボイスがついていたら嬉しいという人もいると思うので。そういう入口からでもこの作品のことを少しでも多くの人に知ってもらえたら……。DLCでボイス追加とかも検討してみましょうか?

金崎氏:うーん、それは……。

――それは辛いパターンですよね。最初はボイスなしで、自分なりに声の想像ができあがってから公式にボイスをつけられるという。たいがい、想像とは離れていてギャップに苦しむという(笑)。

庄司氏:確かにそうですね。 マンガのアニメ化、映画化などでよくある現象ですね。

金崎氏:ボイスを全否定するのではないんですけどね。海外ドラマや洋画などで声を当てている人なら、お願いしたいんですけど。すいませんわがままで(笑)。「-CHASE-」では自分好みの「この人はきっとこういう声!」というのを想像して、楽しんでもらいたいです。

目指すのは、“ふとした時に思い出して、またプレイしたくなるゲーム”

――CINGでのかつてのアドベンチャーゲームはハードがニンテンドーDSだったということで、本体を縦持ちで持って、その特性を活かしたトリックなどもありました。今回は3DSなのでそのスタイルではなく。

金崎氏:ストーリーの魅力に特化することにして、あまり奇をてらわずに。ストレートにやっていこうという考えでしたね。

庄司氏:ハードボイルドのアドベンチャーには斬新なゲームシステムとかは、そんなに求められていないのかなとも思って。普通に物語を楽しめることが一番かと。

金崎氏:何か面白いトリック的なものを入れたいと思ったとしても、うまく消化できないというか。ストーリー中にいきなりパズルゲームが始まっちゃったりとかになっちゃうと、ダメですよね(笑)。

――たまにありますよね「どうして入れた!?」というものが唐突に始まるという。上手くないパターンの。

庄司氏:雰囲気を損なわないよう、冷めちゃわないように、映画のようなテイストをちゃんと楽しめるように、というところですね。いかにもゲームっ要素はあえて最低限に抑えています。

――なるほどー。でも、あえて裏切っちゃいますけど、マッチを触るとカイル・ハイドが「こんなの知っているか?」って話し出して始まるミニゲームとか、結構好きでした(笑)。

金崎氏:(笑)。そういってもらえると、それはそれでありがたいです。あの作品世界が壊れない程度のミニゲームを上手い流れで入れられるなら、いいなとも思うんですよ。

 あとCINGの時の3作では、任天堂さんから「何度も繰り返し遊べるようなものにしてもらいたい、ボリュームを持たせて欲しい」というリクエストがありましたね。そこでゲーム的な謎解きのアイデアをいっぱい盛り込んでいった、という経緯があります。

――小説なんかでも、ちょっとした小話というか、日常の描写として一見本筋と関係のないやり取りを入れるというのは、よくありますよね。そういう何気ないところが作品に味を足すというか。

金崎氏:あぁ、なるほど、ありますね。そういう上手い流れでゲームっぽいものを入れられたら……。次回は入れたい(笑)。

――今作はあくまで人間ドラマで見せていく、物語の面白さをビジュアルとテキスト、さらに音楽とで創っていくということですね。正統派なアドベンチャー。

金崎氏の目指すのは、心の琴線に触れる物語。ふと思い出してまた遊びたくなるようなアドベンチャーゲーム

金崎氏:そうですね。CING時代によく宮川と話していたのが……“ゲームを遊ぶ”ということで何度も楽しめるものにしたいというのが、任天堂さんからの意向にあったわけですけど、それとは別に、何度も何度も観た映画や小説なんだけど、ふとした時に「あれをまた観ようかな、読もうかな」となるような。そういうものに自分たちのゲームがなって欲しいと話していました。

――いわゆる“本に呼ばれる”というものですね。「今のあなたが思い出すと良いものがこの本にあるよ、だから今もう一度読んでみて。」と本に呼ばれたような感覚で、ふと思い出して読み返すという。

金崎氏:そうです、僕なんかはそういうことがよくあって。「ウィッシュルーム」を作っていたときは、「バグダットカフェ」という映画を見なおして。アメリカのハイウェイ沿いにある、古びたモーテルの話ですが、そういう映画のように“何度も楽しみたくなる物語”を目指したんです。

 今回のコンセプトでもそこは変わっていなくて、咲良さんにも“心の琴線に触れる”ようなお話にしてもらいたい、という事を伝えましたね。

――キャラクターとストーリーのドラマ性で魅せるということであれば、繰り返し遊びこむというゲームの原初的な手触りとは……ちょっと違ってきますよね。1回のプレイでどれだけ深く刺さるのか、というところが大事というか。それをふと思い出す。

金崎氏:ツイッターなんかでも、「何回もやったけど『ウィッシュルーム』をまたプレイし始めた」みたいに書いてくれている人もいて。自分がやりたかったことって結構伝わっていたのかなと思えたりするんです。今回の「-CHASE-」も、何度も反芻してもらえたら嬉しいです。

プレッシャーを感じつつも、ハードボイルドなテイストのシナリオに挑んだ咲良氏

――こうしてお話を伺っていくと、いかに物語の魅力を大切にされているのか伝わってきました。ゲーム的なギミックや刺激で魅せるのではなく、味わいで魅せるという。今回シナリオを担当されている咲良さんは……なかなか苦労されたのでは?

咲良氏:こんなお仕事をさせてもらえるっていう嬉しい気持ちと同時に、プレッシャーもありましたね。今までにやらせて頂いたお仕事もアドベンチャーが多かったので、シナリオの大事さはいつも感じているのですが。それでも今回は良い意味でのプレッシャーを感じましたね。

 ひとつ気にしていることとして、ミステリーというジャンルだから“犯人当て”をするんだろうなと期待されているかもしれない、ということで。そういう期待をされている人が「-CHASE-」をプレイするとちょっと違っているので。

――なるほど、そこはCINGでのタイトルをプレイした人だと「物語を追うんだろうな!」と想像できるところですね。いかにもゲーム的な犯人が誰かを選んだり、入力したりとかっていうことではなさそうですね。

金崎氏:最近のユーザーさんの傾向にあると思うんでけど、求められてるのってあんまり複雑な感じではないのかなと。それこそ「ポートピア連続殺人事件」の頃のアドベンチャーゲームみたいな、フラグを立てて追っていって……というスタイルはあまり求められていないように思いますね。

 それと、プレイ時間のボリュームをすごく求める人もいるんですけど、「そんな長いのめんどくさい、でもちょっと良いものを楽しみたい」ぐらいのスタンスの人も、今のユーザーさんにはたくさんいると思うんです。

――アドベンチャーゲームというジャンルでは、プレーヤーが考えて操作してフラグを立てるという要素がどんどん減っていったように思えます。昔はそれだけでゲームが構成されていたぐらいだと思うのですが。求めるプレイ時間のボリュームは……世代にもよるでしょうか。大人になればなるほどゲームに費やせる時間が減るぶん、短時間の密度を求めるようになりますね。

金崎氏:そうなんですよね、あんまり複雑でしんどいものとか、それこそがっつり20時間以上もひとつのゲームはできないという人も増えたんだと思います。そういう感覚になってきた大人のゲーム好きな人に、映画1本分楽しむ感覚でアドベンチャーを楽しんでもらえればと思います。

――目指されているものがとてもよくわかりました。それでは最後に、硬派なアドベンチャーゲームの復活を待っていたユーザーの皆様に向けて、一言ずつ頂けますでしょうか。

庄司氏:ダウンロード専用タイトルというところでは珍しいジャンルだと思います。大人のユーザーさん、古き良きアドベンチャーが好きな、ハードボイルドなアドベンチャーの好きなユーザーさんに、1人でも多く楽しんで頂ければと思います。そして、次回作にもご期待頂ければと思います。

咲良氏:犯人を追うお話ではないながら、続きが気になるような。「これってどういう事なんだろう!?」というものが進めることで解決していくような、先の気になる話になっていると思います。「途中まで遊んだけど最後まではやっていない」となってしまうと、こういうものは意味がなくなってしまうので。ぜひクリアして、気になったところはもう一回プレイしてみるとか、そうして何度も楽しんでもらえたら嬉しいです。

金崎氏:アークシステムワークスさんと組ませて頂いて、新しいアドベンチャーゲームのシリーズを立ち上げることができました。ぜひお楽しみ頂いて、次に繋がるように、また、このハードボイルドなアドベンチャーというジャンルを訴求できたらいいなと思います。みなさま、よろしくお願い致します。

――ありがとうございました。

©ARC SYSTEM WORKS

(山村智美)