インタビュー
SCEWWSプレジデント吉田修平氏単独インタビュー
ソフトの価格やビジネスモデル、専用コントローラーなど気になる話を聞いた
(2016/3/17 17:08)
SCEが放つVRヘッドセットPSVRの発売が無事10月に決まった。発表会終了後にPSVRの生みの親であり、SCEWWSプレジデント吉田修平氏へ単独インタビューする機会を得られた。今回は発表会の内容を踏まえ、発表会では明らかにされなかったソフトウェアの話を中心に質問してみた。
コンペティターに対して「発売が遅れて申し訳ない」。夏も含めて体験機会を提供
――今回GDCで、PSVRの発売時期と価格がついに発表されましたが、それぞれの設定の理由について教えて下さい。
吉田修平氏: 今年の上半期ということで6月までに発売する計画で進んでいたのですが、ハードの開発は完了していて、予定通り、想定通りに計画を進めることができました。しかし、色々なところでデモを行なって、反響などをいただくうちに、ありがたいことに我々の想像以上に期待感が高まっていまして、製造面で発売時にそれぞれの地域で、これだけの数を揃えたいという数字など様々な要素を勘案した結果、製造期間を長くとろうという決断を致しました。
発売を10月まで遅らせて製造期間を長く取ることで、皆さんにとってVRの初体験がPSVRになるという方も多くいらっしゃると思うので、ゲームのポリッシュ(クオリティアップのための磨き込み)に当てられる時間が増えたという意味でも良いですし、VRは体験しないとわからないので、夏期に体験するという機会を数多く作ることができるという意味、様々な意味で10月に設定したことは良かったと思います。
――今回発売日が出るかなと思いましたが出ませんでしたね。10月とぼかした理由を教えて下さい。
吉田氏:できるだけ多くの国で同時に発売したいと考えているんですけど、同日、同週に、製造状況、予約状況など、様々な状況を見ながら、最終的に地域毎に、細かい日付を決めていく必要があると思いましたので、まずは10月発売と発表して、できるだけ多くの国と地域で同時期に提供したいという思いをまず皆さんにお伝えしたいと考えました。
――今回、アジア地域の発表は見送られましたが、どのような計画を考えていますか?
吉田氏:基本的にはアジアも同時期です。ただし、アジアはたくさんの国と地域がありますので、どこでいつというのはもう少し時間を掛けて決めたいです。
――台湾、香港は10月上旬だけど、韓国、中国は10月下旬になるかもしれないという、そういう感じですか?
吉田氏:PS4でも地域毎に発売時期は少しずつ違いましたので、そういうことは今回もあると思っています。
――OculusやHTC Viveが3月、4月より順次発売されていきますが、PSVRの発売がコンペティターより半年遅れてしまうことで焦りのようなものはありませんか?
吉田氏:ないですね。逆に申し訳ないなというのはあります。いつも言ってるんですが、我々はハイエンドの新しい体験であるVRを作っていて、3社間はお互いに良い仕事をして、お互いにリスペクトしていて、VRを体験して貰うというのはお金も時間も掛かる大変な行為で、たとえばGAME ONで展示するとか、HTCさんが台湾で体験イベントを行なうとかですが、それはどのメーカーのものを体験していただいてもいいと思っています。
最初に体験したものが、良い体験であれば、それはお互いにとって凄く良いことだと思っています。3月にOculusさん、4月にHTCさんが一足先に発売されてVRをできるだけ多くの人が体験していただくというのはとても良いことだと思います。我々も発売は遅れましたけど、夏期を通じて全世界で体験会を実施し、ユーザーさんにできるだけ多くの体験の機会を提供するつもりです。
ついに明らかにされたシネマティックモード。その魅力とは?
――先日の発表会後に体験させていただきましたが、シネマティックモードが素晴らしいですね。何故この存在を今の今まで隠していたんですか?
吉田氏:それはね、私も言いたくてしょうがなかったんですけど(笑)。実装は最初から決まっていました。ただ、やっぱり何でもできますというより、PS4のユーザーさんに対して、こういう素晴らしいVRゲームというお話からさせていただきたかったので、ゲームがひととおり紹介できた時点で、実はゲーム以外のこともできるんですよということを伝えていこうかなと、その段階がようやく今回来たということです。
基本的にPS4でできることは何でもVRヘッドセットのバーチャルスクリーン上でできるということになりますが、私自身も使っていて、特に映画とかは楽しいです。真っ暗な空間に大きなスクリーンが浮かんでいるので映像に集中できますよね。それは皆さん使われるのではないかなと期待しています。
――VRでは解像度が半分になってしまうので、ザラザラしてとても無理ではないかと思いましたが、まったく問題ありませんでした。なぜあんなに映像が綺麗に見えるのでしょう?
吉田氏:あれはですね、ひとつは120HzのOLEDであるということ。黒は真っ黒だし、色の表現性も高いですし、そのほかにも色々な工夫をしていて、解像感が落ちていてもスムースに見える工夫をしています。特に真ん中へんは密度を高く描写していますのでスペックほど落ちた感じはしないと思います。
――PSVRを買うと、OLEDの大型スクリーンが付いてくるみたいな感じがして嬉しいですね。
吉田氏:そうですね、パーソナルなスクリーンが手に入りますね。私自身も楽しませて貰っていますが、ただ、PS4のゲームだと、動きの激しいものはちょっとウッと来るものも中にはありますね。動きのそれほど激しくないものや色が鮮やかなものはめちゃめちゃ綺麗です。私も最近、「Firewatch」をシネマティックモードでずっと遊んでいるんですけど楽しいですよ。
――シネマティックモードですが、長時間遊んでも疲れませんか?
吉田氏:大丈夫ですね。もちろん、ゲームにもよります。臨場感がありすぎますから、カットシーン等でカメラが急に動きまくるものはちょっと来ますね。VRではないんだけど、VR的な臨場感を体が感じてしまうんですね。
――このシネマティックモードもプロセッサーユニットの産物ということですが、プロセッサーユニットはPSVRにまさに欠かせない存在ですね。
吉田氏:そうですね(笑)。VRコンテンツの時には、VRの映像を普通の映像に直してTVに出力して、シネマティックモードの時は普通の映像をVRに直すという1台で1人2役ですね。あと3Dオーディオでも使っていますね。
――プロセッサーユニットは結構コストが掛かっていますか?
吉田氏:はい、掛かっていますね。
――ということは今回の399ドルという価格設定はかなり頑張ったと言えそうですね。
吉田氏:はい、そう言い切れると思います。ただ、我々は値段ありきでプロジェクトがスタートしたわけではないんですけど、あくまでも良い体験を届けるために、たとえば120HzのOLEDを新しくPSVRのために起こして採用するとか、プロセッサーユニットも、周りで見ている人が何も見えないと、「こいつ何やっているんだ」ということで楽しめません。ですから、家族や友達と一緒に集まって楽しめるように、普通の映像に戻してTVに出力したり、シネマティックモードとかもそうですが、我々が届けたいシステムというものがあって、それを実現するためにはお金を惜しまずに使ってきましたが、最終的な価格設定は、家庭用ゲーム機ぐらいに抑えたいよねということで、ドルベースにはなってしまいますが、PS4と同じ399ドルにできました。日本の価格については色々な事情がありまして少し違ったものになってしまいましたが、我々が想定したレンジには抑えることができたと思っています。
――今回、基本パッケージの中に、PS CameraとPS Moveを含めませんでしたが、その理由を教えて下さい。
吉田氏:多くの人がすでにカメラを持っているからです。PS MoveにしてもPS3の時代に相当たくさんのPS Moveが売れましたので、それを持っている人が2つ目を貰ってもしょうがないですし、カメラが2つあっても使い道ありませんから、ユーザーさんは怒っちゃいますよね。「そんなのいらないから値段下げろ」ということになりますので、基本パッケージはなしにしました。地域毎にカメラが同梱されたり、Moveが同梱されたりということはあると思います。
――日本市場についてはその点いかがですか?
吉田氏:現在検討中です。予約のタイミングまでに後日発表させていただきます。
「THE PLAYROOM VR」無料の理由、ローンチタイトルの計画は?
――発表会では嬉しいニュースとして「THE PLAYROOM VR」の無料公開が発表されました、これはいつから決まっていたことなんですか?
吉田氏:実は最初からです(笑)。「THE PLAYROOM VR」はPSVRにとって特に重要な意味を持っているタイトルだと考えています。なぜかというと、PSVRにしかないソーシャルスクリーンのセパレートモード、これはPSVRを被っている人と、TVを見ている人がそれぞれ違う映像を見て、一緒にマルチプレーヤーで遊べるというものですが、これはPCベースのVRシステムにはないシステムですし、PC向けのVRコンテンツの開発を行なってもこれはなかなか出てこない発想だと思うんですよね。我々が作ってすべてのPSVRユーザーに伝えることで、ほかのデベロッパーさんに対しても、こういう使い方ができるんですよというメッセージを届けられると考えました。
――「THE PLAYROOM VR」の提供方法はPSVRをPS4に接続すると、自動的にダウンロードが開始されるようなイメージですか?
吉田氏:自動かどうかはわかりませんが、接続するとシステムソフト上に、ダウンロードできますよという案内が出る形になると思います。
――「THE PLAYROOM VR」のコンテンツは6つとありましたが、今回公開された「Wanted!」を含めてもまだ5つしかありませんね。もう1つは何ですか?
吉田氏:その1つはまだ未発表で、「Bedroom Robot」といって、色んなロボットが色んな活動をしているのを見て、ロボットたちとインタラクションできるというものです。
――それはメニューのロボットたちが遊んでる子供部屋みたいな空間と同じようなイメージですか?
吉田氏:はい、あそこもひとつのゲームですが、さらにもう1つということですね。ローンチの段階では6種類すべて揃えて楽しんでいただけます。
――無料配信される「THE PLAYROOM VR」ですが、アップデートやDLCなどで追加コンテンツの配信もありますか?
吉田氏:可能性はあります。PS4でプリインストールしていた「THE PLAYROOM」もあとでコンテンツを追加しましたよね。そういうことをやる可能性はあります。まだ決まっていません。
――発表会ではローンチイヤーに50タイトルという野心的な発表をされましたが、この内訳、たとえばファーストパーティーとサードパーティーの割合などはどのような感じになりますか?
吉田氏:そこはまだ公表していません。ただ、ウチのファーストパーティータイトルと、サードパーティーさんのタイトルを全部足したら、年末までに50タイトルあったと。私は個人的には少し多すぎるかなと(笑)。一番大事なのは、いままったく市場がない段階で投資をして、良いゲームを作っている開発会社がちゃんとリクープして、次に繋いでもらうことです。そうしないと業界全体として非常にマズいと思います。
――今回ローンチタイトルについて明言しませんでしたが、10月の時点で何タイトル遊べるのでしょうか?
吉田氏:それはまだわかりません。社内ではほぼ固まりつつありますが、サードパーティーさんに対しては、まだ発売日を言ってないのに「発売日に出せますか?」とは聞けないですよね(笑)。ですので、そのあたりについてはもう少ししたら情報が出せると思います。
――でも、本来は第2四半期に発売するはずでしたから、10月に間に合わないということはないと思うのですが(笑)
吉田氏:なるほどね、確かに「6月末までに出せますか?」という質問は可能でしたね。その質問はしてませんでした(笑)
――VRタイトルのビジネスモデルについては明らかになっていませんが、そのあたりはいつ発表になりますか?
吉田氏:それは各社さんが決められることなので、バラバラにわかってくることになると思います。我々が想定しているのはデジタル専用の小さいタイトルから、ディスクベースのフルプライスまでありえますから、色んなものが出てくると思います。
――ファーストパーティーはいかがですか? 「London Heist」などはお気に入りで私も発売を楽しみにしていますが。
吉田氏:「London Heist」に関しては、今回「PlayStation VR WORLDS」という形でその中のひとつのアトラクションという位置づけになりました。全体ではかなりのボリュームになりましたので、ディスクで発売する可能性はあると思います。
――ビジネスモデルにFree to Playは選択可能ですか?
吉田氏:もちろん可能です。実際、今後出てくると思います。ビジネスモデルについては、PS4でゲームを販売するのとまったく同じですから、それはパブリッシャーさんが自由に決めていただく形になります。
気になる日本発のVRタイトルやファーストパーティーのVR化の計画について
――日本のゲームファンとしては、「サマーレッスン」や「初音ミク」など日本発のVRコンテンツについて具体的な発表が行なわれなかったのが残念かなというところですが、何かお話しできることはありますか?
吉田氏:えーと、ないです(笑)。私自身も早く遊びたいと思っている人ですし、10月に発売されたらいいなと願っています(笑)。ただ、それはバンダイナムコさんやセガさんが決められることだと思います。
――サプライズとしては「Star Wars バトルフロント」のPSVR版の発表がありましたが、こう来るかという感じでした。いつ頃から話を進めていたのですか?
吉田氏:かなり前だと聞いています。私はサードパーティーさんとの話には関わりませんので、サードパーティーとリレーションを行なうチームが各地域にあって、それはもちろんVRに限らず年中様々なお話をサードパーティーさんとさせていただいていて、その中でVRでいかがでしょうというお話が出てきたのだと思います。
――PS4ファンが期待しているのは、ファーストパーティータイトルのIPを使ったVR作品だと思いますが、こちらの計画についてはいかがでしょうか?
吉田氏:すでに発表しているところでは「グランツーリスモ SPORT」はVRでも遊べるということで、タイミング的にはそれが一番近いものになると思います。AAAの既存タイトルをそのままVR化するのは良くないと思っています。それは十中八九失敗すると思っていて、それは誰のためにも良くないと思います。
VRタイトルは最初からVRのために作るというのが一番良いやり方だと思います。ジャンルによってはレースゲームなどはVRにしたほうがよりよく遊べるというものもありますので、すべてがダメというわけではありませんが、今のPS4タイトルをVR化するというアプローチは、楽しいものにはならないと思いますね。ですから、今後、VR専用で作っているタイトルの規模が徐々に大きくなっていくんだろうなと思っています。
――PSVR用のコントローラー、DUALSHOCK4とPS Moveを用意していますが、今後、PSVR向けに特化した専用コントローラーが登場することはありますか?
吉田氏:出ると思います。まだ技術発表ということで技術デモをしているものがあります。去年のE3で「Refuge」というFPSタイトルで、PS Moveとナビゲーションコントローラーを使うシャープシューターというペリフェラルがPS3であったんですけど、それを改良して両手で抱えて持つガンなんですけど、それをFPSで遊ぶとめちゃめちゃおもしろいんですよ。ゲーム内では大きなスペースガンを抱えているわけです。VRですので、自分が見ている方向とは別方向に動かしてガンガン撃てるという、凄く楽しいです。そういったゲームに特化したデバイスは今後出てくると思います。
ハンドコントローラーについてはPS Moveは非常に良く出来たデバイスだと考えています。PS3の頃は機能を使い切れませんでした。3Dのポジショントラッキングといくつかのボタンがハンドコントローラーに求められている機能で、それはPS Moveですでに出来ています。ただ、3D空間のインプットを普通のTV向けのゲームで使うのは非常に苦労したんですね。ところがVRではすべてが自然なんです。その意味ではPS Moveはバーチャルリアリティー用コントローラーとして非常に性能の良いものだと思っています。
――一時期ネットでも話題に上がっていたグローブ型のコントローラーの実用化はありますか?
吉田氏:ああ、あれはパテントですよね。あれは世界のどこかで、ソニーの誰かが出すと言うことはありえますので、普段から行なっている活動のひとつです。存在するから商品化が予定されているということではないですね。
――PSVRの話から離れますが、Microsoftがオンラインプレイのポリシーを変更し、クロスプラットフォームでの接続を可能にすることを表明していて、PS4との接続も可能にしたい旨のアナウンスを行なっていますが、その呼びかけにSCEとして応じる考えはありますか?
吉田氏:記事は見ました。基本的な内容は、今後はPCとのクロスプラットフォームを行なっていくという発表だったと理解していますが、我々はそれはもうずっと前からPS3の時代からやっている話です。最近だと「ストリートファイターV」がありますよね。そこはサードパーティーさんとの話し合いの中でどうするか決めていくだけの話です。これまでXboxと繋げるということはやっていませんが、サードパーティーさんから提案があればご相談に乗っていく形になります。
――SCEさんとしては前からオープンであり、否やはないということですか。
吉田氏:というより、クロスプラットフォームに関しては、タイトル毎に個別にサードパーティーさんと話し合って決めていく話です。ただ、そこの話は複雑なんです。PCはオープンなので、PCとのクロスプラットフォームはやりやすいのですが、ほかのクローズドなシステムとの繋ぎ込みということに関しては、技術的にはできますけど、ポリシーの面、ビジネスの面、色々検討すべきことがありますから。
――それでは最後にPSVRの発売を待ち望んでいるゲームファンに対してメッセージをお願いします。
吉田氏:これまで発売を上半期といっていましたが、10月になりました。ただ、PSVRでは日本だけ遅いとかないように、世界ほぼ同時発売を目指して努力しています。ちょっと遅くなりましたけどもう少しだけお待ちいただければと思います。ゲーム制作については非常にたくさんのゲームが作られていて、バラエティに富んだゲームがたくさん出てくると思いますので期待して下さい。
――ありがとうございました。