インタビュー
SCE EVP伊藤雅康氏インタビュー
PSVRの設計思想から“PSVR2”のビジョンまで、SCEが目指すVRエンタメ像を聞いた
(2016/3/18 00:00)
SCEWWSプレジデント吉田修平氏のインタビューに続いては、SCE EVPで、プレイステーションフォーマットビジネス全体を統括するPSプロダクト事業部事業部長兼ソフトウェア設計部門部門長の伊藤雅康氏のインタビューをお届けしたい。
伊藤氏に対してはPSVRのハードウェアの開発責任者として、PSVRの設計思想をはじめ、主にハードウェア面について質問を重ねてみた。インタビュー後半では、SCEのVRビジネスに対するビジョンとして、将来的に無線化を目指す方針も確認できた。技術屋として様々な想いが語られているため、ぜひ最後まで一読いただきたい。
価格ありきで進められたハードウェア設計
――ハードウェアの担当者として、今回の発売時期と価格設定についてどのように考えていますか?
伊藤雅康氏:私が開発に携わった当初から、あの価格で行こうと思っていました。各部の設計、生産もそうですが、価格から逆算して設計していました。時期についてですが、実際に開発自体は順調に進んでいたのですが、露出が多くなるにつれて、我々に対して、数がもっと欲しいという話が来たので、数をキチッと揃えてから出した方が良いのではないかということで、当初の発表より少し遅らせた形にはなりました。
――2016年、VRハードが出そろい、VRの年になりますが、その中でPSVRはどういった特徴のあるハードだと考えていますか?
伊藤氏:やはり、PS4に繋がり、PS4のエコシステムの中でVRが語れるということが一番大きな特徴だと考えています。他のVRシステムは、ハイスペックなPCに繋がなければいけません。PCのスペックは多種多様で様々なタイプのものが存在しますが、PS4は均一の性能で提供できるので、まったく同じ性能のPV体験を提供できるというのが一番大きな特徴だと考えています。
――もうひとつ、プロセッサーユニットの存在も、他のVRとの大きな差別化要因だと思います。この黒い箱の中には何が入っているのでしょう?
伊藤氏:中身ですか? 中身はあまり公表してないんですよ(笑)。
――謎に包まれている割には、今回発表されたシネマティックモードや3Dオーディオ、ゲームでもソーシャルスクリーンで使っていて、まさに大活躍してますよね。
伊藤氏:想像していただけると思うんですけど、VRのHMDと外部のTVを違った画面を出したりするための処理を中でやっています。CPUを入れていますし、コスト的にもそれなりに掛かっています。
――接続ケーブルの長さはどれぐらいですか?
伊藤氏:全体で4.4メートルですね。結構長くは設定しています。特に海外の家庭だと広い部屋もありますので、PS4からある程度離れていても遊べるようにはしています。
――実際にPSVRを遊ぶまでのプロセスはどのような感じですか?
伊藤氏:PS4の初期画面がそのまま出て来る感じで、PS4と同じです。もちろん最初は初期設定の画面が色々走りますが、設定後はホーム画面からPS4そのままの操作感で遊べます。
――ということは、PSVR専用の、VR画面で見ることを前提としたUIは用意しないのでしょうか?
伊藤氏:ありません。PS4とまったく同じ画面を操作していただく形になります。今後用意する予定も今のところありません。
――VRデバイスとしては最安値の399ドルとなりましたが、どのようにしてコストを抑えていったのか教えて下さい。
伊藤氏:それは難しい問題で、普通にやったらあの値段になりましたというだけなんですが(笑)。
――それは意外ですね。すぐ500ドル、1,000ドルに達してしまいそうな印象がありますが。
伊藤氏:先ほども申し上げましたが、最初から399ドルを目標にするぞとやっていたので、あの価格の中で最高の体験、性能を持たせるには、これぐらいのデバイスを使おうとやっていったので、「どうやってできたんですか?」と言われても「普通にやりました」としかお答えしようがないです(笑)
――カメラを同梱しなかった理由はなんですか?
伊藤氏:地域によってはカメラ同梱で売っている地域もありますし、カメラを持っているお客様が2つになってしまってももったいないので、そこは地域別にカメラバンドルモデルを作ったりしていくつもりですが、スタンダードモデルはなしとしました。
――ハードウェアとしては完全に完成しており、今は量産体制に入っているという理解でいいのでしょうか?
伊藤氏:はい、すでに生産に入っています。
PSVRのキラーコンテンツは、「皆さんが慣れ親しんだゲームのVR版」
――PSVR普及のためのキラーコンテンツは何だと考えていますか? それはゲームなのか、ゲーム以外の何かなのか。
伊藤氏:やっぱり、ゲーム、特にAAAといいますか、ユーザーの皆さんが慣れ親しんでいただいたようなゲームが、VRでどう遊べるんだというところが、ユーザーさんにとっても親しみやすいし、そこかなと思いますね。
――それはPS4でプレイしていたようなAAAタイトルが、今後で発売されていくという理解でいいですか?
伊藤氏:そうです。だから発表会で発表させていただいた「Star Wars バトルフロント」などはまさにその好例ですね。
――今後、今後、PS4ではVRとノンVRの両方に対応したゲームが出てくるという理解でいいのですか?
伊藤氏:そこについてはデベロッパーさんの考え方によりますので、色々な形が出てくるとは思います。
――シネマティックモードでは、全天球カメラによる360度の静止画や動画が楽しめますが、視聴できるとなると、自分で撮りたくなりますよね。そのソリューションはソニーグループとして今後用意していく考えはありますか?
伊藤氏:ソニーとしてはまだ出していないので、ソニーグループとして今後何か考えていかないといけないですよね。
――それは今後SCE印、いや4月以降だとSIE印になりますが、そういうものが出るのか、それともソニーから出るのですか?
伊藤氏:SIE印は今のところ考えていないので、ソニーから出して貰えるとありがたいですね(笑)。
――顔を完全に覆うということで、安全対策についてどのように考えているのか教えて下さい。
伊藤氏:まず、まったく視野がなくなるということに関して、バイザーをスライドする仕組みを持ってまして、手元を見たいときはバイザーをずらすと、下が見えるようになっています。あと、カメラの画角から外れると警告が出るようになっています。その2つですね。
――対象年齢は?
伊藤氏:12歳以上推奨です。
――PSVRでは、標準のVRコントローラーとして、DUALSHOCK4とPS Moveの2種類を用意していますが、両者にトラッキングの精度に違いはありますか?
伊藤氏:センサーの精度は基本的に変わりません。
――「Job Simulator」をはじめ、VRタイトルの多くはマルチプラットフォーム展開が予定されていますが、PC版と比較してトラッキングの精度に違いはないのですか?
伊藤氏:PCと比較してというより、トラッキングの方法が違います。PSVRならカメラですが、HTC Viveならルームスケールですよね。そこの性能の差は出てしまうと思います。でもほとんど変わらないとは思います。
――個人的な印象ですが、「Job Simulator」についてはSteam VR版と比較して、ややもっさりしているというかラグを感じて、若干精度が劣るような印象を受けたのですが?
伊藤氏:その問題については認識しています。10月の発売までに改善していかなければならないポイントです。
――PS Moveのトラッキング精度についてはまだ発展途上という理解でいいのでしょうか?
伊藤氏:はい、そうですね。そこはまだ最終ではありません。
――今後、PS Move専用タイトルというものも出てきますか?
伊藤氏:それはありません。必ずDUALSHOCK4でも遊べるようになっています。
PSVRの今後の展開について。まずは値下げ、次は無線化!?
――VRデバイスとして今後PCへの接続は可能になりますか?
伊藤氏:PS4はPCアーキテクチャなので、PCへの接続はできると思います。ただ、現時点ではそれはできません。ドライバも何も入ってないので、まったく動きませんけど、今後、PCでの動作をサポートする可能性はあります。今はまずPS4に繋いでというところを押し出していきますので、具体的には何も動いていません。
――今後、PSVRの事業計画はどうなるのでしょうか? ハードウェア的なアップデートはあるのでしょうか?
伊藤氏:アップデートというか、PSは最初からずっとそうですが、出した後はコストダウンを目指していきますので……
――なるほど、299ドルモデルの開発に着手しているということですか?
伊藤氏:いやいや、値段はわかりませんけど(笑)、そういう形でコストダウンを目指していくのはPSフランチャイズの定めですね。
――PSVR事業は内部的には次のフェイズに入っているということですね。
伊藤氏:はい、ハードとしては次のフェイズに入りつつありますね。
――性能強化というアプローチはないのでしょうか?
伊藤氏:今は性能強化というより、性能強化ももちろん考えていますけど、(低価格化と)まあ一緒にやっていますね。
――少し気が早いですが、PSVR2が将来リリースされるとすれば、どのようなVRデバイスにしたいと考えていますか?
伊藤氏:まだPSVRを発売すらしていないのに(笑)。次のことを考えるにはまだ早いですね。
――では質問を変えますが、今回のPSVRでやり残したことは何でしょうか?
伊藤氏:やり残したというより、技術的にまだ世に出ていないものですから、こういう風にしたいんだけど技術的にまだ追いついていないということが結構ありますから、そこは技術の進歩がいつ行なわれるかによりますよね。
――技術屋として今回ちょっと悔しいなというのはどのあたりでしょう?
伊藤氏:それはもう“線”ですよ。将来的には無線にしたいですよ、絶対に。
――その無線化というのはPSフォーマットで果たせるのでしょうか?
伊藤氏:できると思いますが、今はまだ無線であれだけハイスペックの映像を無線で通す技術はありませんから、それが出てきた頃にまた考えるという感じでしょうか。
――それはPS4になるのか、PS5になるのか。
伊藤氏:それはわかりませんね、いつになるかわかりませんから。でもあの“ヒモ”は邪魔ですから。
――GDCで、2025年までにVRが無線になるということを予言をする講演がありましたが、伊藤さんの目処はもう付いているのでしょうか。
伊藤氏:それはまだ見えていません。現在、業界で企画化を進めている段階ですが、まだfixしていませんし、技術が追いついていない領域ですね。
――今後、PSVRに特化した専用コントローラーが登場することはありますか?
伊藤氏:正直、研究開発では色んな事をやっていますが、商品化しましょうというのは、全然決めていません。今のところは何かを世の中に出すという形ではまだ動いていませんね。
――それではPSVRの世代では、DUALSHOCK4とPS Moveで遊んで下さいという形になりそうでしょうか?
伊藤氏:そうですね。
――BtoBに関してはすでに特定の企業と話を進めていたりはしますか?
伊藤氏:正直、そういうお話は頂いていますけど、まず10月の発売まではコンソールとしてBtoCからやらせてくださいと、今はそちらに集中していますね。
――今回PS Cameraが別売ですが、PS Camera自体はPS4に合わせて設計されたものですが、今後より精度の高いCameraをPSVR向けに発売する計画はありますか?
伊藤氏:今のところはありません。今回はPS Move、PS Cameraもそうですが、今まであるハードウェアが使えるようにするというコンセプトで設計されていますので、性能が良いものが作れるからといって新たに発売してまた買って下さいとしてしまうと、実質的な値段がどんどん上がっていってしまうので、今あるものを使って、最高のVR体験ができないかという設計になっています。
――最後に日本のゲームファンに向けてメッセージをお願いします。
伊藤氏:本当にVRというのは、これまでTVだけで見ていたゲームの体験そのものを変えていけるものだと考えていて、もっと大げさな事を言うと、ゲームそのものを変えてしまうものだと考えていますので、ぜひ期待して購入していただければと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。
――しつこいようですが、今回のPSVRは初期出荷数はたっぷり用意されて、即予約完売というような自体にはならないと期待していいのでしょうか?
伊藤氏:はい、たっぷりあると思います(笑)。それこそ、凄い数の予約が来られるとわかりませんけど、それだと嬉しい悲鳴ですね。
――期待しています。ありがとうございました。