インタビュー
【ChinaJoy 2014】Qihoo 360 モバイルゲーム事業部 副総経理 姜祖望氏インタビュー
中国Androidゲームマーケット最大手にタイトー「パズルボブル」獲得の経緯を聞く
(2014/8/4 00:00)
中国のAndroidゲームマーケットで過半数のシェアを誇るQihoo 360。ChinaJoyでは、昨年まではBtoBブースのみの出展だったが、今年は満を持してBtoCにブースを構え、中国のゲームファンに対してゲームプラットフォーマーとしての存在感をアピールしていた。
Qihoo 360のプラットフォーム「360 Mobile Assistant」のユーザー数は、公式発表で昨年より1億人以上多い、4億人にも達し、その勢いは留まることを知らない。Google Playが機能していない中国ならではサクセスストーリーではあるが、もともとセキュリティソリューションで強い地盤を築いてきただけに、プラットフォーマーとしての信頼感は高い。飽和状態といわれる中国モバイルゲーム市場だが、今後も安定して成長を続けそうなメーカーの1社だ。
360は純粋なプラットフォーマーで自社開発部隊を持たない点も特徴となっている。そこで彼らはタイトル不足を補うために、積極的に世界中のメーカーと提携し、世界のタイトルを360に引っ張ってきている。直近で大きな話題となったのは、タイトーとの「パズルボブル」における基本合意の締結だ。今回は、この発表に合わせてQihoo 360 モバイルゲーム事業部 副総経理 姜祖望氏とに360の最新動向と、「パズルボブル」獲得の経緯について話を伺った。また、インタビューにはタイトーデジタルコンテンツ事業本部プロモーション部部長 チャン・デューク氏にも同席いただき、360との基本合意について語っていただいた。
ユーザー数4億人、マーケットシェア47%の「360 Mobile Assistant」
――昨年のChinaJoyでインタビューしてから1年が経過しましたが、この1年間でどのような変化がありましたか?
姜祖望氏: モバイルゲーム事業に関して、まず売上の面では、1カ月単位の売上が7.7倍に増え、急激な成長を見せています。Android向けのゲームプラットフォームである「360 Mobile Assistant」はユーザー数は4億人(昨年2億5,000万人)を超え、中国のマーケットシェアでいうと47%になります。そして360は日本市場を重視しており、1年間で3回ほど来日して、大手メーカーと商談をしています。その結果、Klabさんの「Age of Empires」、カプコンさんの「モンスターハンター」、タイトーさんの「パズルボブル」などを獲得し、順次中国市場に投入する予定です。それ以外にも提携する計画があります。
これまで中国市場では、海外のゲームが進出してもなかなか成功事例がなかったのですが、今年1年を振り返ってゲームロフトの「ミニオンラッシュ」やディズニーの「アナと雪の女王 Free Fall」は360で独占代理で展開して、彼らが初めて中国市場で成功したタイトルになりました。この点、日本のメーカーは、進出の決断に時間が掛かっているので今年は日本市場により注力してビッグタイトルを集めたいと思っています。
――この1年で収益は7.7倍、ユーザーは4億人まで増えたということですが、これは何が要因だと考えていますか?
姜氏: 2つ理由があります。1つは360は、PCのセキュリティソリューションのシェアがナンバーワンで、そこからモバイルにユーザーを取り込めたこと。もう1つは「360 Mobile Assistant」がAndroidマーケットで1位を獲得しているので、そのブランド力を活かしたプロモーションの結果です。1位というのはAndroidマーケットの順位で、2位以下のBaiduや91との差も昨年と比較して大きく開きました。
――iOSに関してはどういう状況ですか?
姜氏: 360はiOS向けのサービスをやっていません。Androidに関してはGooglePlayがないので自由競争のマーケットが確立されていますが、iOSはサードパーティーがプラットフォームとして参入できないので事業を行なっていません。
――現在の中国での端末のシェアを教えて下さい。
姜氏: 70%がAndroidで、30%iOSです。Androidは1,000元ぐらいで買える格安の端末もあり、買いやすい環境があるのでシェアが拡大しています。
――端末のメーカーシェアについてはいかがですか? 昨年はサムスンやhtcのシェアが高いというお話でしたが、日本からニュースを見ている限りでは小米(シャオミー)が大きく躍進しているようですが。
姜氏: ゲームのユーザーはサムスンの利用者が非常に多く、主流になっています。私自身も使っていますが、理由は他のメーカーと比較して、端末のクオリティの高さや、更新頻度の高さです。シャオミーはまだ使ったことがないからよくわかりません(笑)。サムスンは高スペックな代わりに価格も高めです。小米は699元程度などでも買えますが、スペックはその分低くなります。
――中国のモバイルゲームユーザーは、ハイスペックなスマートフォンを好む傾向がありますか?
姜氏: そうだと思います。弊社の売上もハイスペック端末のユーザーが5割まで来ました。中国では18カ月周期で端末を買い換えることが一般的なので、ハイスペックのユーザーの割合はどんどん増えていっています。中国では、所得に応じてハイスペックの端末を持つゲームユーザーと、ロースペックの端末を持つユーザーにハッキリ分かれていてそれぞれ遊ぶゲームも異なります。ハイスペックのユーザーは、MMORPGに近いオンラインゲームを遊ぶ傾向が強いので、ARPUが高くて200元(約3200円)を超えます。一方、ロースペックのユーザーは通信環境も限られるのでスタンドアロンに近いあまり通信をしないカジュアルゲームが好まれます。学生向け、低所得層がメインになります。360ではハイスペックとロースペックのユーザーはだいたい50%ずつという感じです。
「タイトーのことは小さい頃から知っている。『パズルボブル』は中国でも絶対成功する!」
――今回発表されたタイトーとの「パズルボブル」の基本合意の経緯について教えて下さい。
姜氏: タイトーのことは小さい頃から知っていて、中国でも著名なゲーム会社です。今回は「パズルボブル」を含め、大きなタイトルに関するお話をいただいています。日本で商談した中で、日本の会社は決定が遅い中で、タイトーさんは非常にスピード感があって、スムーズに商談ができて、中国で一緒にやりたいと思いました。また、ゲームに関して中国と日本のユーザーはまったく好みが違います。日本の会社は、中国向けに積極的に改修することをあまり好まれないことが多いのですが、タイトーさんとはお互いのコミュニケーションでベストなところを選んでやっていけるのではないかと考えています。特に「パズルボブル」は日本と韓国で成功しているので、ということは中国でも絶対成功すると考えています。
――「パズルボブル」ではどういうカルチャライズを予定していますか?
姜氏: 中国に最適化します。「LINE パズルボブル」では絶えず通信する形ですが、中国版は通信をほぼ取らないスタンドアロン版になっています。課金ポイントを変えていたり、SNSはLINEではなく、中国向けのSNSにを入れ替えるなど、細かいところを挙げるとキリが無いほど改修を加えます。
――かなり広範にわたるカルチャライズが実施されるようですが、その交渉はスムーズに行ったのですか?
姜氏: そこは直接タイトーさんに聞くのがいいと思います(笑)。
チャン・デューク氏: 川島(ON AIR!事業部事業部長)がスピードを重視して、カルチャライズ含めて、その場で決まったという感じです。それぞれのマーケットにそれぞれのニーズがあって、その嗜好を考えずに展開するのは間違っているというのが川島の考え方です。
――タイトーとして360と組もうと思った理由は?
チャン氏: 私はその交渉の場にいなかったのですけど、川島によれば、お互いスピード重視の中で決まったということと、最近積極的にブランディングを行なっていなかったタイトーに真っ先に来ていただいたことに対する敬意と誠意を持って答えたいと考えたということです。
――今後両社の間では「パズルボブル」だけでなく、その後のリレーションも注目されますが、両社の間でどういった関係性を作って行きたいと考えていますか?
姜氏: 360はプラットフォームなので、メーカーの順位を付けることはできませんが、タイトーさんは提携した日本企業の中で初期のメーカーになりますし、重要なパートナーとしてより多くのプロモーションリソースを割いて、親密にパートナーシップを築いていきたい。繰り返しになりますが、日本のメーカーは、商談に細かい条件を付けて非常に時間が掛かるのですが、タイトーさんは重要なポイントを10分で決断してくれるようなところがあります。そういう会社とはしっかりお付き合いしていきたい。
――360としてタイトーに期待していることは?
姜氏: タイトーさんが開発しているすべてのスマートフォンタイトルをリリースさせてほしいです(笑)。オンラインゲームはリリースして終了では無く、運営していく必要があるわけですが、その都度最適化を行なっていって、ひとつの成功モデルを作ることが大事だと考えていますが、日本のタイトルに関してはまだ中国で成功モデルを持てていないので、「パズルボブル」でのそのモデルでの成功を目指しています。また、一般論として、今年の重要なポイントは、日本のアニメIPです。中国のユーザーは幼い頃から日本のアニメが好きなのですが、モバイルゲームに関してはまだ正式進出がないので、今年、来年でアニメの分野が大きく伸びるのではないかと考えています。
――海外のメーカーが中国に展開する場合、360のような大手プラットフォーマーに独占的にタイトルを提供する形と、代理店を通じて数百のマーケットに同時に配信する方式がありますが、そのどちらが良いかについてはまだ正解がないように思います。360の立場としてはどのように考えていますか?
姜氏: パブリッシャーの場合、プロモーションのリソースが限定されるので、スムーズなマーケティングプランを組み立てるのが難しいところがあります。これが我々のようなプラットフォーマーなら、プロモーションを自社でやっていて、有効なマーケティング手法を持っているので、複数同時展開などでもたくさんのリソースを使ってスピードを持って展開できると思っています。「ミニオンラッシュ」もそうですが、「ミニオンラッシュ」は360以外のプラットフォームでも展開しています。我々としては独占するより、成功することのほうが大事。それを踏まえて開発会社や配信会社などのパートナーと決めて行ければと考えています。
――「パズルボブル」はサービス開始時期はいつ頃を予定していますか?
姜氏: 年内にサービスを開始したいと考えています。
――ビジネスモデルは課金ポイントを変えるという話ですが、どのような違いがありますか?
姜氏: 課金ポイントについてはキャリア決済を実装します。アイテム、消費回数、消費箇所など、一連の課金の流れを、中国で人気のある似たようなタイトルを参考にしながら中国に最適化していこうと考えています。
――似たようなタイトルということは、ライバルに相当するタイトルということになると思いますが、「パズルボブル」のライバルは何になると考えていますか?
姜氏: ライバルがどうという話では無くて、あらゆるゲームと比較することは必要だと思っていますし、その上でまったく同じ事を当てはめてもダメで、ゲーム毎に適した課金モデルを考えることが大事だと考えています。
――日本のメーカーは、決断が遅いというのが難点というお話がありましたが、そのほかに日本のメーカーに足りないことは何だと考えていますか?
姜氏: タイトーとのパートナーシップを決めた理由は確かにスピードでしたが、もちろんそれがすべてではありません。ただ、360は中国にあるので何回も日本に行って商談するのは難しいですし、数回の商談で交渉が妥結できて、開発に着手できてリリースできないとビジネスとしてのタイミングを外してしまうので、決断スピードの速さは重要だと思っています。
――360は日本に実質的な子会社であるアクセスポートという会社が存在しますが、360の日本展開というシナリオはないのですか?
姜氏: 中国のパートナーのタイトルを日本に持っていきたいとは考えはあります。360として今現在具体的な予定はありませんが、360は現在中国のゲーム会社に投資している部分もありますので、開発会社が希望すればその機会はあるかもしれません。今年は日本でもKlabに投資をして、そういう要望があれば今後も増やして行きたいです。360も大きな会社になっているので、引き続き投資をしてよりよい結果を生み出していきたいと考えています。
――日本のゲーム業界に対してメッセージをお願いします。
姜氏: 商談の中で時間を費やすのでは無く、パートナーを早く決めて中国市場でゲームを出して欲しいと思っています。日本で優秀なゲームは中国でも成功する可能性があると思っていますし、運営しながら改修してゲームの完成度を上げて成功させていくということもできますので、条件を話すことに時間を費やすのでは無くて、一刻も早くゲームを出していただきたいと考えています。
――ありがとうございました。