インタビュー
【ChinaJoy 2014】スクウェア・エニックス取締役 本多圭司氏インタビュー
中国でのコンソールゲームの展望と、「ドラクエ」、「鋼の錬金術師」などIPビジネスの可能性について
(2014/8/14 12:00)
中国でのコンソールゲームの展望と、「ドラクエ」、「鋼の錬金術師」などIPビジネスの可能性について
――中国は今年コンソールゲームが解禁になります。その決定を受けて、SCE(ソニー・コンピュータエンタテイメント)さんもMS(Microsoft)さんも今年ChinaJoyに出展されていますが、スクウェア・エニックスさんとしてはこうした動きにどのように対応しようと考えていますか?
本多氏: 基本的には我々は、先ほど言いましたように、特にデバイスを限定せずに中国の皆さんにできるだけ広く遊んでもらいたいと思っていますので、当然コンソールもやりたいと思います。
――中国で無事コンソールゲームが解禁されたら、中国でもスクエニさんのタイトルがどんどん遊べるようになる?
本多氏: ここは実はとても難しくて、当然中国市場にはコンテンツの審査がありますので、出せるものと出せないものがあるでしょう。出せる物に関してはやっていきたいなと思っています。
――「新生FFXIV」にはPC版以外にPS4版もありますが、こういう場合は審査は同じですよね?
本多氏: 同じですね。「新生FFXIV」はすでにコンテンツとして運営許可を取ってありますので、おそらく環境が広がっても同一コンテンツということで審査はいらないかもしれません。
――そういう意味で、スクエニさんの中国でのコンソール第1弾はPS4の「新生FFXIV」になる可能性が高い?
本多氏: これはわからないです。1つはPC版に関してはShandaさんが運営されていますので、本当はShandaさんがまとめて1つのコミュニティとしてPS4版もPC版も運営されるのが形としてはいいと思いますけれども、SCEさんの中国でのビジネスの中身というのがまだ具体的に見えてきているわけでは必ずしもないので、そこのところが実際にどういう組み合わせでできるのかということがもう少し詰まっていかないとわからないです。もう一方で、我々は「FFXIII」の時に、繁体字版を台湾・香港向けに作っているのですね。その繁体字版が台湾とか香港だけではなくて、本土にもどうも流れたようなのですが、これが結構な数売れたのですね。数十万の単位で。
――数十万の規模になると、これはもう無視できない数字ですよね?
本多氏: 無視できないです。そういったこともあるので、オフラインのタイトルだからだめだとも思っていないです。コンソールを出して中国本土でどのくらいのインストールベースを作れるか。それによって中国市場のサイズが決まるので。これは、どういうマーケティングをして、どういうタイトルを入れて、どういう市場形成をするかということをSCEさんやMSさんから具体的に聞きたいと思っています。その上で、それぞれのタイミングの中で我々が出せるものは何か、許諾を得られるか、ということを、これから検討していきたいです。
――私はアジアをずっと見てきていていますが、SCEさんはそれこそもう15年近くプレイステーションをアジアで売っています。しかし、スクエニさんが繁体字版をアジアに提供し始めたのは、本当にここ5年くらいで、動き出すまでにかなり慎重に検討された上で、ようやくやっと今動き出したというイメージですよね。
本多氏: そうですね。もともとコンソールは中国政府がハードウェアの輸入を禁止していました。やっと今回自由貿易区のようなところではやってもいいよという話になって、ただこれが市場としてどのくらい広がるかはわからないわけです。中国はやはりPCの市場なのです。しかもコンソールはテレビに繋ぐじゃないですか、僕が見知っている限りだと家庭テレビのチャンネル権は子どもにないのです。ほぼ親が持っています。子どもが何をしているかというと、中高生くらいまではひたすら勉強です。
そういう環境なのでコンソールがどの程度受け入れられるか、もちろん受け入れられるためのプライシングなどもあるでしょうし、当然ハードウェアの上で、どういうコンテンツを中国政府の許諾を受けて展開できるか、それがセットだと思っているのです。SCEさんやMSさんがどういう風に展開しようと思われているのかが、我々にとって1番の関心で、この辺りを今後詰めていって、これは面白いねということになれば、我々としては当然やっていきたいと思っています。
――吉田さんがおっしゃっていたのは「FF」って1度も中国に出したことがないのに、すごく歓迎されると。答えは分かっているのですが(笑)、どうなっているんだと。中国は面白い市場ですよね。
本多氏: まあ、海賊版が色んな形で海外から流通していたので、すごいですよね。その海賊版ができるスピードたるや、本当にあっという間で、しかも現地語化された海賊版が出ますからね。ビジネス的には多大な機会損失になったわけですけども、こうして正式に進出しようというときには、ある程度プレマーケティング終わっている状態なので、あれもある程度は割り切らなければいけないのかなと。
――広い意味のIPビジネスにとっては、悪い風ではないという言い方もできますか?
本多氏: まあ、基礎プロモーションは終わってるかなと言う所はありますね(笑)。
――今回中国のメーカーさんに色々と話をうかがっていると、とにかく日本のIPが欲しいという話でした。ただ、日本で作ったものを展開してもあまり上手くいかないけれど、我々中国のメーカーが作ればヒットするのだと。この考え方が正しいかどうかはともかくとして、そう言った引き合いはスクエニさんにもかなり来ているのでしょうか?
本多氏: いくつかのIPに関しては関心を示されたことがあります。ただ先ほど言ったように、Shandaさんとは「新生FFXIV」に関してはかなり長い時間、先方と中国市場における「FF」はどのようにPRすべきか、どのような印象を持たれているか、などを議論してきました。パーフェクトワールドさんとも今回「クロスゲート」をやるにあたって、SECとの間で「クロスゲート」はこういうゲームでありたいねということはかなり議論をしたうえで、パーフェクトワールドさんが作っています。ですので、必ずしもIPをライセンスして、先方任せで全部やってくださいねというわけではなくて、それぞれのIPが持っている独自の世界感とか独自のゲーム性のようなものをちゃんと尊重した上で中国市場に対してどうカルチャライズするかということはやはり共同作業で行なっていきます。ですからそういったことができるようなパートナーとの関係作りが大事ではないかと思っています。
――スクウェア・エニックスさんは総合的なエンターテイメントカンパニーで、ゲームだけではなく、例えばアニメーションですとか出版など色々なものを持っていますが、こちらの中国展開についてはいかがですか?
本多氏: 紙の出版物に関しては厳しいですね。相当厳しいです。許可を取るのが極めて難しい。
――たとえば「ガンガン」を中文化して出すのは難しいわけですか?
本多氏: ええ。そこの許認可が紙メディアは特に厳しいです。というのが1つと、もう1つは紙メディアで出てきたものは、オンライン上であっという間に配信されてしまうというのがあって、多分今漫画を読むためにお金をだしている人はあまりいないのではないかと思います。
――確かに新聞スタンドで売ってるようなコミックは、海賊版っぽいものが多いですね。
本多氏: ですからここはすごく難しいですね。多分コンテンツとして提供できるかと言われればできます。できますし、それなりたくさんの方に読んでいただけると確信しています。ただそれがビジネスとして成立するかどうかというのは別の問題です。
――そうしてみると、中国で有望な分野はやはりスマートフォンゲームとオンラインゲーム、この2軸になってくるわけですか?
本多氏: これはあくまでも私見なので、本当にそういう風にできるかどうかわかりませんが、例えばあるコンテンツが出版物として中国ですごく人気があるときに、それをベースにゲームを作るということはあるかもしれません。要するに海賊版によって「FF」のプレマーケティングができていたのと同じで、中国の市場に浸透した漫画あるいはアニメーションをベースに、例えばスマートフォンなりPCのゲーム、ブラウザゲームなどを作って、それがF2Pでアイテム課金される、というような考え方はなくはないです。
――それは例えば「鋼の錬金術師」のスマホアプリをいきなり中国で出すというアプローチですか?
本多氏: 「鋼の錬金術師」の場合は、我々が原著作物として権利を持っていて、作家さんとの話し合いの中で我々が出版していいですよという許諾をもらっていますが、実際アニメをベースにするとなるとアニメ製作委員会で動いています。ですから我々だけの権利ではないので、そういった製作委員会の方々との協議が必要になりますし、通常のベースとはかなり違いますね。アニメそのものを基礎コンテンツとして別の商品を作って、そこからのロイヤリティとなると全く違うビジネスとなりますので、これがどういう風に組み立てられるかというのは、全然別の次元の話になります。これはもう少し時間がかかるのではないかと思います。ただそういう可能性はあると考えています。
将来の目標は売上全体の中国比率を4割まで引き上げること。今後は「ドラクエ」など更なるIP展開も視野に
――今後スクエニさんは、中国市場に関して、スマホゲームとMMORPG、「クロスゲート」のようなIPを活用した展開がメインになるという理解でいいですか?
本多氏: はい。それらに加えて、コンソールの可能性を探るということ、これは全部同時並行ですね。IP展開に関しては、まだその機会がありませんが、「ドラゴンクエスト」のような既存IPを使ったり、「ミリオンアーサー」のような新規IPを持っていったり、これも多面展開をしていきたいですね。「多様性と最適化」というのがキーワードです。
――具体的の数字は出しにくいと思いますが、可能であればタイトル数など何かボリューム感が伝わるような形で、中国市場を今後どれだけ成長させていきたいかということを教えていただけますか?
本多氏: 松田がこの前別の取材で、4割くらいを中国市場で取るような目標を掲げたいと、とても大きな数字を出していいました(笑)。
――それは大きいですね(笑)。
本多氏: めちゃくちゃ大きいですね。
――今って10%もないですよね?
本多氏: ないですね。エンドユーザーベースの売上高で見た場合、市場規模は非常に大きいものがあるので、3、4割くらいは取りたいなと。当然ライセンスモデルが中心になるので、我々の手取りになるのはある割合になりますから、松田が言った4割というのは、スクウェア・エニックス・グループ全体の売上の割合では無く、エンドユーザーベースの売上高のことです。最終的にはそこを目標にやっていきたいですが、そこまでにどのくらいの時間がかかるかですね。
ただ市場規模を考えると、それは決して非現実的な話ではないのですよ。先程もお話したように、日本の市場規模と中国の市場規模を考えたら、市場ベースの売上規模で言えばそのくらいの目標を持っていいとは思っていますね。本当に高いハードルではあると思いますが、そのくらいのことをやってみたいし、そのくらいのことを念頭に動いていきたいなと思っています。今後、具体的にいくつのコンテンツがいつの時期に出る、ということまでは今は明言できませんが、そういった数字が目標になっていて、それに向かってコンテンツを動かしますというのは明言できると思いますね。
――3、4割ですと数百億円の単位になるわけですが、その内訳はどういうイメージで捉えればいいのでしょうか。やはり「新生FFXIV」が半分くらいを占めるような?
本多氏: そこはわからないです。プロダクトミックスなので。ただ我々が想定しているよりも、「新生FFXIV」に関しては、Shandaさんなんかは強い数字を目標に持たれていますし、もしその数字が実現するようであれば相当な規模になります。「クロスゲート」もこれは我々としてはまだ実感してないのですが、中国では、上代の売上規模で、初月で15億円くらいを目指せるのではないかという報道もされています。
――それが事実なら大きな成功ですね。
本多氏: そうですね。上代売り上げベースで、われわれが持っている売上4割といっているのは500~600億円くらいの規模だと思うのですね。そういうことがある程度の確度でできていけば、今すぐにとはもちろん言いませんが、ここ2、3年後にはそういう数字というものを目標に動いていけるのではないかと思っています。高い目標ですけれども、非現実かというと決してそうではないと思っています。
――本多さんは今後も中国市場へのコミットメントを強めていくと?
本多氏: もちろんです。我々にとって中国市場というのは、これからの最大の有望市場なので当然やります。
――15年やってきて、これからまた15年くらいやろうかなという?
本多氏: いやいや、年齢の問題がありますので(笑)。ちょっとわかりませんけど、スクウェア・エニックス・グループとして中国にチャレンジする限りはずっと付き合いたいと思っています。
――「クロスゲート」の時代から中国事業は本多さんの中で1つのライフワークになりつつありますね。
本多氏: そうですね。
――引退までずっと中国でやろうかなという感じですか?
本多氏: やはりやりたいと思いますよ。
――それは中国が好きと言うことがあるのですか?
本多氏: 中国料理は好きですね(笑)。中国の方は、色々な方とお付き合いして面白い方が多いですね。すごくアグレッシブな方も多いですし、そういう方たちと仕事をしたり時にはケンカにもなりますけれど、そういう環境は面白いです。だからやっていて楽しいですね。
――最後に、中国のビジネスについて、最終的にどういった風景を描きたいか教えて下さい。
本多氏: 我々としてはとにかく特定のエリアにかたよらないというのがひとつです。今のユーザーの方ってものすごく幅が広いのですね。スマホ向けのカジュアルなゲームから、PCのMMORPGのようなものすごく深い世界感を保って、しかもライフタイムも長いようなゲームまで、ものすごくコンテンツの幅がありますし、その幅の分だけユーザーの方もいらっしゃいます。中国の市場は極めて大きい。まだ我々がリーチできていない市場というものが凄くあるはずなのです。
我々自身の課題というのは、中国の人たちが本当にどういうものが好きか。彼らの嗜好の中には、我々の中にも取り入れて、グローバルにもっていけるような要素もたくさんあるはずなので、そういったコンテンツを日本なり欧州で開発できるか。それをどうやって中国に最適化した形で持っていけるか、そういった点で、できるだけ確度の高い絵を描き続けることなのです。
我々が今まで5年から10年かけて描いてきた絵がやっと現実に定着して、結果として出始めています。当面はこの勢いを殺さずにやっていくことに集中しますけれども、そこに安住しているとまた落ちてしまいます。次のステップで何ができるかということを、色々なパートナーとの経験を通じてもう1度取り組まなければならないし、さらにひとつ上の絵を書かなければならない。それの繰り返しでどのくらい大きな市場の中のプレゼンスとっていけるかということだと思います。
――これからも注目しています。ありがとうございました。