インタビュー

【ChinaJoy 2014】スクウェア・エニックス取締役 本多圭司氏インタビュー

スクエニグループの中国ビジネスの現状について。スマホ版「クロスゲート」が早くもヒット

スクエニグループの中国ビジネスの現状について。スマホ版「クロスゲート」が早くもヒット

SECのホームページ
中国版「パズルボブル」。すでに中文化されている
2003年のTaipei Game ShowのSoftstarブースの模様
この当時、「Lineage」を展開するGamania、「ラグナロクオンライン」を展開するSoftworld、そして「クロスゲート」を擁するSoftstarが台湾3大メーカーだった
PC版「クロスゲート」のスクリーンショット
こちらは中国でサービスが開始されたばかりのスマートフォン版「クロスゲート」

――今回のChinaJoyでは、スクウェア・エニックスの兄弟会社であるタイトーさんもかなり力を入れていますが、タイトーさんとはスクエニさんのノウハウを活かしながら一緒になってやっていくような感じになるのですか?

本多氏: もちろん事業開発部門に関しては常に連携を取ってやっていますので、そこに関してはほとんどの情報がタイトーにも渡っていますし、その中での展開になると思っています。

――スクウェア・エニックス・グループとして、中国市場の最終的なデシジョンは、中国担当の本多さんが下す形になるのですか?

本多氏: そんなことはないです。モバイルのコンテンツは誰、「FF」に関しては誰、それからもっと大きな全体のパートナーシップに関しては誰という風にそれぞれ分担がありますのでその中でやっています。

――それでは本多さんの役割というのは?

本多氏: 「新生FFXIV」の中国本土展開のとっかかりが私でしたので、これは私が直接見ていますし、ほかにも今いくつか動いている、まだ表に出ていないものがありますがそれがいくつか。それから中国にスクウェア・エニックス・チャイナ(SEC)という子会社があるのですが、その会社の代表を務めていますので、このオペレーションに関しては責任をもっています。

 それぞれのパートナー情報は、私が持っている部分もありますし、成長市場事業開発部門を統括している和田が持っているものもあります。タイトーが独自に付き合っているものもありますし。それを全部寄せ集めて、それぞれの担当しているコンテンツの中でいいと思えるものを展開するという形になっています。

――中国ではSECを通じて、本多さんの直下ですべての中国事業が動いているというふうに私は思っていたのですが、そうではないのですか?

本多氏: 違います。中国事業開発はSECと日本にある事業開発部門が情報交換しながら同時並行で動いています。1つの部門でやると、どうしても視野が一定の範囲に狭まる可能性があるので、色んな部分が独自に動くというやり方をしています。ただ独自に動いた時に何が問題かというと、情報のシェアがうまくいかないのです。それをどうするかが我々にとって1番難しいところです。今それがかみ合いはじめて、初めてこういう風に色々なコンテンツがパートナーさんとの間でうまくいきはじめているということだと思います。

――ちなみにSECという会社は我々日本のメディアからすると、ちょっと謎に包まれているのですが、どういった組織でどういったことをやられているのでしょうか?

本多氏: もともとはパブリッシャーとして機能させようとして作りました。

――が、それはうまくいかなかったということですか?

本多氏: そうです。当初はPC向けの「クロスゲート」を作ったのが、ちょうど中国市場がMMORPGの市場が立ち上がる時期ですね。最初は上手くいきました。ただその時期は、今のSECではなく、ソフトスターさんという台湾の会社との合弁でした。その後、ある程度経験が蓄積されたので、じゃあ独自にやりましょうということで、私自身も中国に渡って2005年にSECという形で100%単独資本の会社にしました。

――今だとそういった外資単独での会社設立は考えられませんね。

本多氏: そうですね。実際そこで3年ほどやってみたのですが、正直難しかったです。当時「クロスゲート」は、時間課金と並行してF2P化したバージョンを同時に運営し始めました。当初3カ月ぐらいはすごく上手くいったのですが、その後F2P化したことで運営面などで問題が出てきてしまいました。

 この時点で、大きな展開を中国でするのは相当難しいなということになって、当面は色々な技術や、オンライン市場のノウハウを蓄積することに集中すると決めて、かなり会社の規模を小さくしました。そして残ったコアメンバーを中心に、こじんまりとでもいいからきちんとした運営ができる体制にしていくという大きな変革をして、それでここ7、8年やってきて、その状態で常時利益が出る体制にはなっています。

――その利益はやはりPC版「クロスゲート」からですか?

本多氏: そうです。「クロスゲート」を中心にして、利益が出るようになっています。ただ、次の議論としては、この先にどこまで大きな展開ができるのだろうと。自前で全部展開しようとすると、やはり少し難しい。先程も言いましたが、大手が寡占している状況、国が管理している状況、両方を考えても外資としてあまり飛び抜けたことをやっていくのは難しい。そういったことを去年ぐらいから議論をしてきて、その結果の1つとして今SECがやっているのは、日本にとってオフショアの開発と、事業開発の出先機関という位置づけです。

――オフショアというのは?

本多氏: 日本のコンテンツの一部を中国側で開発してもらっています。中国はかなりコストが上がったと言われていますが、それでも日本の開発コストよりは幾分安い訳です。今までSECはずっと日本のコンテンツを使ってこちらで運営していましたから、日本とのやりとりもかなり慣れていますし、色々な外注先も含めてそれぞれのネットワークもできていますから、我々としてはSEC、もしくはSECを通して外部の開発会社の方たちに中国でコンテンツをオフショア化してもらうことはアリだなと考えています。これが1つです。

 それから当然、今やっているように、中国の提携パートナーを見つけて日本のコンテンツを展開していくことになります。このパートナーとの交渉、それからパートナー探しもしようと動き始めたのが去年からです。その第1弾の事例が今回のパーフェクトワールドさんへの「クロスゲート」のライセンスです。

――「クロスゲート」というと、私はどちらかというと懐かしい思いがするタイトルですね。台湾、中国での大ヒットは私も今でも鮮明に記憶しています。

本多氏: はい。今「ドラゴンクエストX」のプロデューサーを担当している齋藤くん、彼が最初に作ったオンラインゲームですね。

――その「クロスゲート」がスマートフォンになったということですが、PC版の移植なのですか?

本多氏: 違います。基本的な世界観やキャラクターはほぼそのまま持っていっているのですが、MMORPGをスマホで遊びやすくしたような形のゲームになっています。

――パーティを組んでプレイするオンラインRPGですか?

本多氏: はい。パーフェクトワールドさんには、当時「クロスゲート」を遊んだ方がたくさん社内にいるわけですよ。その開発陣が自分たちにとっての「クロスゲート」ってこういうものだ、というものをベースに彼らが開発し、ずっと「クロスゲート」を中国市場で運営してきたSECから見た「クロスゲート」ってこうあるべきという意見を組み合わせて作ったのが、今回のパーフェクトワールドさんの「クロスゲート」です。

――開発はパーフェクトワールドが単独で行なっているのですか?

本多氏: そうです。基本的にはパーフェクトワールドさんが開発をして、我々は監修をしています。

――成功したIPの開発を他社に委ねるのは怖いところもあったのではないですか?

本多氏: やってみなければわからないところはありましたね。我々が今PCでやっているMMORPGの「クロスゲート」に対して、どういう影響があるかちょっと予測はできなかったですね。ただ先ほど言ったように、ソース流出にまつわって、プライベートサーバーが立ったりという環境の中でも時間課金の運営はずっと続けていましたし、実は「クロスゲート」は、ここ数年間ずっと面白い展開をしているのです。

 いわゆるアイテム課金制の「クロスゲート」と、時間課金制の「クロスゲート」を併存して動かしているのです。時間課金制の「クロスゲート」も、実はあるタイミングで1回全部リセットをかけてゼロの状態でスタートしているのです。我々はこれを「回顧版」と呼んでいます。要するに過去からのユーザーがいる、新しく入ってくるユーザーもいる。みんなスタート地点が違いますから、プレーヤーとしてのステータスにものすごく差が出てしまうのです。それをある時点で全部リセットをかけて、ゼロスタートにしたのです。それを「回顧版」として組み始めたのですね。それが実は今のSECの収益の1番大きいところです。昔からのユーザーと新しいユーザーが同じ所からスクラッチでスタート出来る環境を、6年ほど前に始めてそれをずっと今まで続けています。

――「クロスゲート」は回顧版が1番人気が高いのですか?

本多氏: そうです。アイテム課金の「クロスゲート」があり、ゼロリセットした「クロスゲート」があり、それぞれをずっと続けてくれているユーザーがいるので、ユーザー基盤は相当大きいですし、色々なタイプの「クロスゲート」が併存していても遊んでくれるユーザーはいるだろうと思っていたので、仮にパーフェクトワールドさんの方で違う「クロスゲート」が出てきたとしても、それは共存するだろうと。

 成功するにつけ失敗するにつけ、そこに対しては確かに不安はありました、しかしなんとかなるだろうと思っていました。だからバクチを張っているわけではありません。こちらが上手くいったらいったで、我々がやっているPCの「クロスゲート」にいい影響を及ぼすだろうし、上手くいかなかったとしてもそういった形でいくつかの「クロスゲート」が併存して走っていますから、そこに対してそれほど悪影響はもたらさないだろうと。

(中村聖司)