発売直前!「タイムトラベラーズ」体験レポート&インタビュー

イシイジロウ氏が語る企画の原点「ゲームは元々タイムトラベル」


7月12日 発売予定(PS Vita/3DS)
7月19日 発売予定(PSP)

価格:5,980円(PS Vita/3DS/PSP パッケージ版)
   4,980円(PS Vita/PSP ダウンロード版)

CEROレーティング:C(15歳以上対象)



 タイムトラベルを題材にしたアドベンチャーゲーム「タイムトラベラーズ」が、株式会社レベルファイブより、PlayStation Vitaとニンテンドー3DSでは7月12日、PSPでは7月19日に発売となる。

 レベルファイブのアドベンチャーゲームといえば、「レイトン教授」シリーズという大きなフランチャイズがあるわけだが、「タイムトラベラーズ」はそれとは全く別の新作だ。しかし、発売前からアドベンチャーゲームファンから注目を集めている。それは、株式会社チュンソフト(現スパイク・チュンソフト)で、「428 ~封鎖された渋谷で~」や「極限脱出 9時間9人9の扉」などを手がけたイシイジロウ氏がディレクターを務めているからだ。

 チュンソフトで数々のアドベンチャーゲームを手がけ、ヒット作を生み出してきたイシイ氏は、2010年にレベルファイブに移籍。その後、イシイ氏が最初に手がけたタイトルが、この「タイムトラベラーズ」だ。チュンソフト時代からのファンにとっては、レベルファイブでも今までのようなタイトルを出してくれるのか、それともまた違う驚きを見せてくれるのか、と期待と不安の入り混じる気持ちだろう。

 今回、その「タイムトラベラーズ」の発売に先駆けて、ゲームを実際にプレイした上、イシイ氏に作品についてのお話を聞く機会が得られた。イシイ氏が本作で何を見せようとしたのか、そしてどんなゲームに仕上がったのか。当然ながらネタバレになる話はできないが、導入部の紹介などを交えつつ、できる限り本作の魅力をお伝えしたいと思う。




■ 全編フル3Dアニメーションとフルボイス! 圧倒的物量と多数の謎で始まる物語

ゲーム開始直後、ある研究施設でトラブルが起こる

 まずはゲームの序盤を体験したインプレッションをお届けしたい。

 ゲームは2013年、ある研究施設の内部で、新道という博士に女性レポーターの伏見雛が取材をしているところから始まる。研究内容を聞く雛に対し、新道ははぐらかすようにして答えない。

 その問答の最中、施設内の設備に異常が発生する。新道らによると、直ちに装置を止めなければ、間もなく東京を吹き飛ばすほどの大爆発が発生するという。新道は装置を停止させようとするが、機器の停止操作を受け付けない。そこで研究者の1人、雛の彼氏だという男が、自らの手で装置を止めに向かうが、装置の手前で漏電のようなものを受けて倒れてしまう。

 雛は男に代わって装置を止めるべく、男の持っていた斧を持って装置へと向かう。止めるには装置のケーブルを切るしかないが、そうすれば雛は“分解”されてしまうという。雛はそれを聞いても意志を変えず斧を振りかざし、ケーブルを切断する。警告が止まるとともに、装置に取り込まれるように消えていく雛。新道らはそれをどうすることもできず、ただ見ているしかなかった。だがその直後、止めたはずの装置の暴走が始まる。雛の命をかけた行動も空しく、大爆発が発生してしまう。

 そして時は18年後の2031年へ。とてつもない被害を出したはずの東京は、元の東京をしのぐほどの大都市に発展していた。そして物語は、元より煌びやかに発展した渋谷が舞台となる。

 ……といったシナリオが、ゲーム開始からしばらくは自動で進んでいく。この間、3Dモデルのキャラクターがずっとアクションし、セリフはテキストだけでなくフルボイスで展開される。その後はプレーヤーが操作してシナリオを送っていくが、そこからもずっと3Dモデルのキャラクターが動くと同時にカメラ(視点)も動き、セリフを喋る。“ノベルを読む”というより、“ドラマを見る”感覚でゲームが進んでいく。


【スクリーンショット】
大爆発を止めるため、雛が命がけで装置を止めようとする。しかし結果的に大爆発は止められず、「ロストホール」と呼ばれる災害が発生する

 ゲームでは序盤、刑事の神谷壮馬と、アナウンサーの伏見雛がプレーヤーとして登場する。話を読み進めながら、途中に現われる選択肢を選ぶことで物語の展開が変化する、というのは伝統的なテキストアドベンチャーと同じ。しかし神谷がある場所で交通事故に遭ってしまった時、画面に「TIME STOP」と表示され、「タイムトラベルチャート」の画面に移行する。

 ここでもう1人の主人公である雛の物語を進めていく。雛はカメラマンの男が運転する車に乗っていたが、その時に携帯電話にある通知が届く。それに驚いた雛に、カメラマンの男の注意が向いてしまう。そこで雛が何も言わなければ、その車が神谷を轢いてしまう。だが雛がカメラマンに注意を促せば、車は神谷の直前で急停車し、事故は起こらなくなる。ある主人公の行動が、別のキャラクターの物語に影響するというのは、「428」などイシイ氏の過去の作品でも見られた手法だ。

 序盤はこの2人の主人公しか操作できないため、一方で物語が詰まれば、もう一方に何かあるとわかる。ただその先は5人の主人公が登場し、物語も複雑に絡み合っていくため、誰のいつの行動が影響していくのかを見抜くのは難しくなっていきそうだ。あるキャラクターで「TIME STOP」となる状況に陥ることで、新たな選択肢が増える場合もあるという。つまり序盤はそのチュートリアル的なものになっている。

 システム面でもう1つ見ておきたいのが、「プレイングシネマイベント」というもの。ゲームを進めていく途中で、プレーヤーに特定の操作を求めるシーンが現われる。序盤に見られたのは、神谷が爆弾らしきものを解体するため、ネジを回す操作をアナログスティックを回す動きで再現するというもの。別段難しいものではなく、焦らなくても問題ない簡単なものになっていた。これについてはイシイ氏へのインタビューの中で、実装の意図を聞くことにしたい。

 今回のプレイ時間は1時間ほどだったが、序盤を少し遊んだだけでも気がつくことがいくつもある。18年程度で壊滅的被害を受けたはずの東京が完全に復興しているのには違和感がある。そして主人公として登場する24歳の雛が、18年前に同じ姿で登場しているのは明らかにおかしい。序盤からいくつもの謎が見えている中、更なる事件が次々と起こっていく、先の読めない物語になっている。


【スクリーンショット】
18年後の世界にも関わらず、雛や新道が18年前と変わらない姿で主人公として登場する。いったいどうなっているのだろうか?
「タイムトラベルチャート」で各キャラクターのシナリオを行き来するプレーヤーの操作が要求される「プレイングシネマイベント」も挿入される




■ レベルファイブでも“イシイテイスト”のゲームに

「タイムトラベラーズ」ディレクターのイシイジロウ氏。映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」の主人公マーティーのデニムジャケットで登場

 続いて、イシイ氏へのインタビューをお届けする。

――イシイさんは最近、プロデューサーとしていくつか作品を手がけられていますが、ディレクターとして開発に関わられたのは久しぶりですよね?

イシイジロウ氏: 基本的にはディレクションの合間に他人を手伝っているプロデューサーだったんです。実際はプロデュースというより、ディレクターのサポートをする仕事に名前がなかったのでプロデューサーを名乗っていたという感じもありますね。監督作としては、「3年B組金八先生 伝説の教壇に立て!」、「428 ~封鎖された渋谷で~」、そして今回の「タイムトラベラーズ」と、4年に1作しか出せていないですよね……。4年は長いのでもっと早くしたいんですが。

――その4年ぶりの監督作の開発を振り返ってみて、どんな印象をお持ちですか?

イシイ氏: 今回は正直言いまして大変でした。やはりCGを使ったところが大きいですね。CGはゲームでは当たり前ですが、私自身がディレクションするのは初めてなんです。大抵のアドベンチャーゲームは、立ち絵があって喋る形ですよね。今回はフルモーション、フルボイスと言っていますが、CGだけで映画のような演出、一般にカットシーンと呼ばれるモノですね、これを、全部で10時間以上続けています。日本のゲームでは過去に例のないボリュームだと思います。こういうものを実現するのは、相当苦労しましたね。

――ボリューム的に今までのタイトルとは比較にならなかったと。

イシイ氏: 単純に作業量が多かったですね。「428」などの実写のゲームでは、撮影はとても大変だったんですが、撮影が済んでしまえば素材が完成してしまう訳です。2カ月間で12万枚撮影した写真をどう編集して、というところからゲームを作ります。ところがCGの場合は、ちょっと触ればちょっとずつよくなるので、最後の最後まで作り続けける事ができる。その終わらない感じの大変さがありました。

――イシイさんにとってはレベルファイブで初めての作品で、プロデューサーは日野晃博社長となったわけですが、そこでの仕事の感触はどうでしたか?

イシイ氏: 思ったより任せてもらえましたね。開発中に日野が直接口を出してきたところはほとんどないと思います。ただ最初のコンセプトや「タイムトラベラーズ」というタイトル、まだ作品が固まる前にPVを作るといったところでは、強く引っ張ってくれましたね。シナリオがまだできあがっていない状況で、「1度映像でまとめてみよう。お客様に見せてどういう反応をするか見てみよう」という提案をもらいました。2010年の「LEVEL5 VISION 2010」で地下鉄の映像を最初に出して、2011年の「LEVEL5 WORLD 2011」で色々なキャラクターが出てくるダイジェスト版のようなものを作りました。完成より先に見せるというのは大変でしたが、勉強になりました。

――ただゲーム内容については、それほど注文がなかったということですね。

イシイ氏: そうですね。いろいろとアイディアはもらいましたが、現場自体は比較的自由にやらせてもらいました。レベルファイブの作品はだいたい日野がシナリオを書いているんですが、今回は私とずっと組んでいて「428」のシナリオも担当している北島行徳さんにシナリオを書いていただいています。

――では“レベルファイブっぽいゲーム”を目指して作られたわけではなく、あくまでイシイさんのこれまでの作品のテイストを強く残したものになったわけですか。

イシイ氏: 結果的にそうなってしまいましたね。僕自身はもっと日野テイストが入っても新しい化学反応が起きて、面白いかなと思っていたんですが。

――タイムトラベルを題材にしようということになったきっかけは何だったのですか?

イシイ氏: 僕自身が日野と組んで何を作ろうかと話し合っていた時、超能力もの、魔法ものなどいろいろとアイディアを出していたのですが、日野が「イシイさん、タイムトラベルもの好き?」と言うので「それは好きです」と答えたら、「じゃあやってみない?」という話になりまして。タイムトラベルものは、ゲームだけではなく映画や小説にも傑作が多いじゃないですか。一生に1度は挑戦してみたいと思っていましたが、ハードルが高いんです。でも僕自身もいつかはやりたかったですし、そこで覚悟が決まったというのはありますね。ただこれはオチがあって、その後「イナズマイレブン」の映画や新シリーズでもタイムトラベルが題材になっていて、日野の方がタイムトラベルものが大好きなんじゃないかと(笑)。




■ スパイク・チュンソフトとのコラボが予想外に深い!

――ゲームの舞台が渋谷になっていますが、「428」と同じ場所を選んだのは何か理由があるのですか?

イシイ氏: 最初は六本木や赤坂など考えたんですが、全国の方々が、赤坂や六本木の交差点をぱっと見せられても、すぐにはわからないと思うんです。元々は六本木の交差点でシナリオを書いていたのですが、絵にする時に、これはやっぱり渋谷かな……ということになりました。全国の皆さんにわかるような交差点となると、渋谷のQフロント前か、新宿のアルタ前くらいしかないんですよね。

――ゲームに「428」のキャラクターが出てくるようなのですが、それは何か本作と関係があるのですか?

イシイ氏: アドベンチャーゲームの作り手で飲み会をしていて、そこに当時スパイクだった「ダンガンロンパ」のスタッフの方がいたんです。そこで、どうもお互いのゲームの発売時期が近いという話になって、喧嘩するよりみんなで盛り上げようということになったんです。じゃあ「モノクマ」を貸してもらって、ウチはこんなのを出せますと連絡したら、スパイクさんもノリノリでやってくれました。

 そのうちスパイクさんがスパイク・チュンソフトになるという事で、それなら「モノクマ」だけじゃ寂しいかもと思う様になったんです。元々予定にはなかったんですが、「428」のキャラクターも同じ渋谷なので、渋谷で過去に「428」の事件があったというような遊びを入れてもいいかと打診したら、気持ちよくOKをいただけて、さらに「タマ」の出演まで快諾いただき、至急「タマ」のCGを作ったんです。シナリオもイベントもほとんどできあがっている頃で、現場的には入れるのは大変だったんですが、「タマ」なら頑張ろうという事で現場も無理を聞いてくれました。

――ということは単なるモブキャラではなく、「タマ」のシナリオも用意されているんですか?

イシイ氏: とても重要なキャラクターとして出てきます。「タマ」ではなく、ネコの着ぐるみとして登場するので、誰も「タマ」とは呼びませんけど……。たまたま同じデザインのネコの着ぐるみが20年後にあったという設定です。逆に「スーパーダンガンロンパ2 さよなら絶望学園」にも「タイムトラベラーズ」のコラボネタがあるので楽しみにしていてください。




■ 「戻ってやり直すのはゲームでは当たり前」が発想の始まり

全編通して3Dキャラクターのフルモーション・フルボイスによるドラマ仕立てになっている

――今回は3Dグラフィックスのドラマ仕立てになっていますが、この表現を選んだのはなぜですか?

イシイ氏: やはり間口を広げたかったということですね。過去のサウンドノベル作品でも、「今時のゲームで文字を読むの?」という空気があったんです。ライトユーザーの方は特にそうで、女性ユーザーの方から、「金八先生」は声があってドラマみたいで楽しかった、「428」は文字を読むのが大変だったと言われたことがありました。その辺りでずっと悩んでいて、今回は読ませる部分もあるんですが、ドラマのようにどんな方にも楽しんでいただけるものを目指しました。

――喋るだけでなく、動くということも大事なわけですね。

イシイ氏: 見たらわかる、見ているだけで情報が入ってくる。能動的に読むのではなく、受動的に入ってくるものを作ろうという挑戦ですね。

――では読み物として作るつもりではなく、映像作品に近いものを作ろうということですか。

イシイ氏: そうですね。映画やテレビを見る感覚で遊んでもらえるものを目指しています。ただ読み物の方が作るのは楽な部分はあるんです。例えば地の文で、「神谷は走り出した」と書いて画面をブラックアウトさせれば、それで終わりじゃないですか。でも映像ではちゃんと走らせなければいけないので大変です。

――カメラワークもかなり凝っているように感じましたが、そこに何かこだわりはありますか?

イシイ氏: 「プレイングシネマ」と言っているので映画的なものとして見られがちなのですが、実は演出は映画的ではないんです。「428」にも参加した映画の演出のプロと手を組んで演出を行なっているんですが、あえて映画ではやらないような演出手法をあえて入れています。この手法をそのままインタラクティブではないテレビや映画にかけると、すごくギクシャクすると思います。それは何かというと、アップが多かったり、カメラ目線が多かったりするんです。これは、常に物語の中心にユーザーがいるような錯覚を起こさせるための演出なんです。

 僕自身がゲームを作る時、スタッフに演出で気をつけるようにと言っていることは、映画やテレビの演出をそのまま持ってきてはダメ、ゲームはアトラクションなんですよということです。ディズニーランドのシンデレラ城で、みんながツアーで参加して、魔王が登場した時、スタッフが「伝説の剣を引き抜いて倒してください! そこの坊や!」と言って連れてきて、剣を引き抜いて振らせると、バリバリと音がして魔王が倒れます。ゲームはそういうアトラクションなんです。そういう意識があって、そういう演出になっています。だから映画の演出に詳しい人が見ると、「何でこんなにアップが多いんだ?」とか「なぜこんなにカメラ目線になるんだ?」とか、不思議なところがたくさんあると思います。

――それは「プレイングシネマイベント」を入れた意図とも重なってきそうな話ですね。

イシイ氏: ここは自分がやっつけたいと思う時の一体感とか、1番美味しいところを登場人物みんなで作って、最後にプレーヤーの方にどうぞと差し出して参加してもらうということです。このアトラクションという考え方が、「プレイングシネマイベント」のコンセプトになっています。最近の海外のアクションアドベンチャーでよく使われる「QTE(Quick Time Event)」は生きるか死ぬかのドキドキ感を伝えるものです。でも小学生の子供を連れてきて、いきなり死んだら泣くじゃないですか。だからまったくコンセプトが違うんです。。

 日本で進化してきたアドベンチャーは、本を読むように、ユーザーのペースでいつ閉じても構わないというゲームだと思うんです。そこにアクションっぽいものを入れてみようという時に、海外のアドベンチャーゲームが取り入れたハリウッドのアクション映画的なスタイルではなく、ディズニーランドのアトラクションの世界感を入れてみたほうが親和性が高いんじゃないかという思いから入れたものなんです。失敗しても死ぬのではなくて、ギャグになるイベントとかも多いんです。わざと失敗してみて欲しいですね。ちょうちん分岐と言うんですが、死なないで、ただギャグがあって、次のシーンに進んでいったりします。

――うまいプレーヤーじゃないと進めないとか、覚えなければいけないということはないわけですね。

イシイ氏: そうですね。ただ、死んだら戻るということ自体が「タイムトラベラーズ」のテーマなので、失敗したら戻ってやり直す、というような仕掛けもあります。

――タイムトラベルで戻るというのがテーマなのですか。

イシイ氏: 戻ってやり直す、というのはゲームでは当たり前ですよね。失敗したら戻ってやり直すというのがゲームの基本です。それってタイムトラベルだよね、というのがこのゲームの発案の1つです。

――なるほど、ゲームで失敗して以前の場所に戻る、ということがタイムトラベルだという解釈なのですね。

イシイ氏: 1人でタイムトラベルするのではなく、群像劇でみんながタイムトラベルして色々やり直し、真実の道を探していくのが「タイムトラベラーズ」ということなのです。複数の人間がタイムトラベルで時間をやり直していくような設定の映画もありますが、わかり易く作るのはなかなか難しいと思います。ゲームは当たり前に、セーブしたポイントからやり直して、失敗したものを回避していきますが、これはタイムトラベラーが持っている能力そのままの世界です。それをゲームに落とし込んだ時、どんなドラマが生まれるかを楽しんでいただきたいです。

――そうすると、ゲームの中に出てくるキャラクターも、自らがタイムトラベルをしているという自覚を得ていくわけですか?

イシイ氏: さてどうでしょう? 実際にゲームで楽しんでいただければ。タイムトラベルとゲームを組み合わせた色々な仕掛けを用意しています。




■ 最初から謎だらけ、時間もののネタも満載の物語

復興の象徴である宇宙エレベーター
急激な復興に疑問を抱く「スケルトン」は、再び東京を消滅させようとする

――発売前だけにシナリオの話はツッコミづらいところではありますが、ゲームの舞台や背景、またその見所を教えていただけないでしょうか?

イシイ氏: 舞台は2031年で、18年前に「ロストホール」という巨大な災害が東京を襲い、そこから復興した東京です。宇宙エレベーターという復興の象徴となる巨大な建築物があり、そこから東京中に電力が供給されています。東京の電力はどうやら無料で賄えているらしいという、とても不思議な未来です。その中で、「ロストホール」の原因や、その時どんな被害があったかを忘れてしまった人たちが、飽食の時代を過ごしています。それはおかしくないかと考えているのが「スケルトン」という謎のテロリスト、という設定です。

――では5人の主人公が、何かしらの形で「スケルトン」を追いかけていくわけですね。

イシイ氏: 「スケルトン」は、この世界は偽りにあふれているから東京を消滅させようというテロを宣言するのですが、家族、恋人、友達を守るといった想いから、主人公達が動きます。あと「みこと」という少女が「スケルトン」を止めるために、5人の主人公達を集めて対抗していくという物語です。

――序盤、長いデモがあってプレイできるようになってから、時代が移っているにも関わらず同じキャラクターが出てきたりしますよね。この辺りはどういう意味があるんですか?

イシイ氏: それこそが最初の謎ですね。なぜだろうと考えてください。ちゃんと作ってありますので。

――そこはもう、何でだろうと思いながらスタートするしかないんですね。

イシイ氏: 思いっきり、何でだろうと思ってもらえるように作っていますから。あそこを、ふーんと思って流されるとちょっと悲しいですね(笑)。なぜ? と思ったものはちゃんと答えが提示されるように作ってあります。同姓同名のそっくりさんだったみたいなオチではありませんので安心してください。

――そこでオチをつけようと思うと、タイムトラベルは必須ですね。

イシイ氏: 今回は時間ものですから、時間もののSF映画や小説のいろんな要素を組み合わせていて、納得できるオチにはなっていると思います。科学的根拠と言われたら、そもそもタイムトラベルはできない可能性が高いですが(笑)。もしタイムトラベルができたとしたら、世界はどのようになってしまうのか、人々はどう行動すればいいのか。そういうところを突き詰めて、いろいろなアイディアを入れています。

――ちなみに5人の主人公がいますが、イシイさんはどのキャラクターがお気に入りですか?

イシイ氏: それは僕だけでなく、実は今のところ遊んだ全ての方がルサンチマンを気に入っています。リア充の人達は違うキャラがいいと言うかもしれませんが、僕たちははみんな「ルサンチマンが僕らのヒーローだよね」と言っています(笑)。


【スクリーンショット】
5人の主人公と5人のみことが、タイムトラベルを使って東京の危機を救うために奮闘する




■ 「これでスキップされたら僕らは負け」

セリフやボイスのスキップについて、強いこだわりを語るイシイ氏

――映像的な見せ方が違うとなると、サウンドの方でも違う出し方など考えられているのでしょうか?

イシイ氏: 今回は「428」でも音楽を担当した坂本英城さんにお願いしたんですが、とにかく曲数が多くて、最終的に70曲近く作っていただいたんじゃないかな。個性的な部分では、各キャラクターごとに主題歌を用意していて、セリフを邪魔しないように英語の詞で作っています。日本語だとセリフとかぶってしまって、日本語の意味に意識が引っ張られてしまいますので。ちなみに主題歌に歌詞がないキャラクターもいますが。

――テーマソングを用意したのは何か狙いがあるのですか?

イシイ氏: 坂本さんが、「自分の全てをつぎ込みたい」と言ってくれたためです。自分のあらゆる引き出しを出したいので、歌がある曲も作りたいし、オーケストラ曲も作りたいという話をいただいて。僕もそれはありがたいし、面白いなと思ってお願いしました。

――雛の曲なんかは序盤から積極的に使われていますよね。

イシイ氏: 雛の曲は僕も大好きで、聞いていると楽しくなるんです。雛がミスした時によくかかるのですが、妙にテンションが上がります。ルサンチ☆マンの昭和ヒーローモノ風の曲も格好いいですし、新道のジャズ調の曲もよくかかります。歌詞は僕が全部日本語で書いて、それを専門家の方に英訳してもらっています。

――元の日本語の歌詞はどこかで見られますか?

イシイ氏: 英語版の歌詞はサントラに付いています。日本語の歌詞は坂本さんの事務所ノイジークロークさんのホームページにアップされる予定です。タイムトラベルSFの映画や小説をモチーフに作詞をしているので、SFファンが聞くと楽しいと思います。雛の歌もタイトルは「The Door into Summer(夏への扉)」で、「あなたと一緒に夏への扉を探しましょう」みたいなサビになっています。今回は、SFやタイムトラベルものが好きな人には、引っかかる小ネタがたくさんあると思います。シナリオもそうですし、グラフィックス、音楽も歌詞がそんな感じになっているという具合です。マニアがニヤリとできるものを山ほど用意しています。みことがオレンジのダウンジャケットを着ているのは言わずもがな、タイムトラベル映画の大傑作「バック・トゥ・ザ・フューチャー」へのオマージュです。

――あとサウンドでは、声優さんが豪華ですし、スキップせず聞きたくなる不思議な感覚がありました。

イシイ氏: 実はそこはとても工夫しています。ゲームのボイスは、声優さんを1人ずつ呼んで個別に収録する場合が多いんですが、今回は全員を呼んで掛け合いで収録しています。芝居のテンションがドラマやアニメ、映画と同じように、アクションとリアクションがちゃんと掛け合いになっていて、ギャグでも感動シーンでも役者さんのテンションがかみ合って上がっていく芝居作りになっています。

 それと今回、セリフをスキップすると、カメラのシーンごとセリフが飛びます。カメラがパンしている場面でスキップすると、セリフとリンクしてカメラの位置もスキップします。これはすごく頑張って作りました。

 ゲームはセリフがスキップできますが、映画はスキップできません。映画的な演出をしながら、セリフをスキップできるのがゲームです。そのスキップをできるのにさせない演出は何だろうと考えると、それは聞くべきセリフの価値とスピードです。そこを突き詰めて、芝居はいいものでなければならないので、掛け合いで録りました。セリフは普段の1.5倍くらいのスピードで、音響監督さんがこれ以上早く喋ると芝居が成立しないというギリギリの早さで喋っています。普通の日常の会話のスピード感、リアリティを出したつもりです。普通は早く喋ってもらうとニュアンスが消えてしまって、ただ早いだけのセリフになりやすいのですが、声優さんがうまい方ばかりで、ニュアンスが消えないんです。新道役の平田さんは本当にすごくて、「今の倍くらいのスピードで喋ってください」とお願いしても、最初のテイクと同じように格好よかったり、泣きそうだったり、苦しそうだったりするお芝居が成立していて、感動しました。

――早く喋ってもらうことで、スキップしないようにと考えているんですね。

イシイ氏: 次に、セリフのだいたい15から30フレームほど先に字幕が出るようにしています。つまり字幕を見て頭の中にセリフが入ってきて、そのちょっと後に芝居が入ってきます。頭の中で芝居が二重化していって、気持ちいい感じで情報が入ってくるんです。これでスキップされたら僕らの演出は負けだなと思うくらい、頑張ってチューニングしています。自分達の限界に挑戦した感じです。ゲーム屋は自分達をそこまで追い詰めないと、映画などの先行メディアに対抗できないと思っています。自分達の新しい演出手法を考えていかないと、という思いから無理してでも頑張りました。カメラがセリフ単位でスキップするとか、あまり意味がないですからね。普通は早送りとかシーンスキップで作りますから。




■ 3機種それぞれにハードの特性に合わせたチューニング

――今回、プラットフォームが3DS、PS Vita、PSPの3つになっています。PS Vitaや3DSのハードの特性によって、表現に違いはあるのでしょうか?

イシイ氏: まず3DSについては、立体視が使えるので演出を効果的に見せるために上手く利用しました。映画なんかでは、空気感、奥行き感をつけるために、被写界深度で後ろをぼかしたりスモークを焚いて層を作ったりという努力をするわけです。3DSは立体視なので、複数のキャラクターがごちゃごちゃと出てきても立体視で配置されるので、あまり気にしなくても済むんです。そこに助けられて、3DSはあまりエフェクト等には力を入れず、キャラクターを出せる表示限界まで頑張っています。

 また立体視については2種類の使い方をしています。「GUILD01」に収録した体験版は個別のチューニングをまだしていないバージョンで、通常の立体視だけで作っています。その後、カット毎に立体視を強化するチューニングをしていて、製品版ではより立体視を楽しんでいただけるシーンやカットも用意してあります。実は映画的な演出をしている部分は、ただ立体視を強くすればいいというわけではないんです。カメラに広角レンズを使った場合、立体視を使うと目が辛くなりますが、「タイムトラベラーズ」では映画的な演出を多用していて、10時間にも及ぶプレイでも快適に遊んでいただく為、カットごとにの演出に合わせた立体視のチューニングを心掛けています。見やすく、ドラマに没頭しやすい。でも立体視をオフにしてしまうとすごく物足りないような、いいバランスの立体視が実現できたと思ってます。

 あとはもちろん2画面というのもあります。3DSは下の画面に文章を表示することによって、文章を塊で表示できるので、ノベルゲームのような雰囲気が強く出ています。

――表示できる文章の量も違うわけですか。

イシイ氏: PS Vitaでは上画面に2行表示ですが、3DSでは2行が3ブロック分くらい表示されます。PS Vitaの方は映画に近い、文章がたくさん表示されないので、映画っぽいイメージになっていると思います。また立体視がないので、その分マシンパワーを空気感に使っています。被写界深度で後ろをぼかしてみたり、全体の奥行き間を出すために光を回したり、照明を工夫することによって、立体視がなくても全体の奥行き間が出るように調整しています。また映画的なエフェクトを使っていて、“銀残し”風なのですが、彩度を下げてコントラストを上げるという映画的な絵作りに挑戦しています。その辺りがハードごとのチューニングですね。

――ゲーム内容そのものはプラットフォームによる違いはないのですか?

イシイ氏: ほぼないですね。立体視があるかないかと、ジャイロがあるかないかというところが一部あるくらいです。ジャイロはオマケで出てくる「タイムトラベラーズフォン」で使います。どのハードで遊んでもらってもいいです。映画を14インチのモノラルテレビで見ても、面白い映画は面白いだろう、という意味では変わらない様な気がします。映画のスクリーンで、3D眼鏡で見た方が迫力はあるけれど、でも本質的な感動は変わらないというのはありますよね。なのでどのハードで遊んでもらっても、根本の面白さは変わらないと思います。

――3機種とも携帯機ですが、3Dキャラクターを動かすなら据え置き機の方がいいのでは、とも思います。携帯機に限ったのはどういう理由からですか?

イシイ氏: キャラクターを動かしまくるようなゲームなら大画面がいいと思いますが、日本のアドベンチャーゲームはどこでもいつでもパッと遊べるのが合っているかなと思います。ですから今回は携帯機のほうが合っていると思いますね。実際、アドベンチャーゲームが売れているのは携帯機ですし。評判がよく、据え置き機でやりたいという声が多ければ、据え置き機用にチューニングしたバージョンとかも考えてみたいと思います。


3プラットフォームで演出は異なるが、ゲーム内容はほぼ同じものになっている



■ クリア後のオマケは2002年の少女とのテレビ電話

――先ほど話に挙がった「タイムトラベラーズフォン」というのはどういうものですか?

イシイ氏: クリア後にオマケとして遊べるようになるリアルタイム型のゲームで、2002年のみことと名乗る少女とテレビ電話ができます。リアルタイム型なので、朝かければ向こうも朝です。ただし向こうは2002年です。「いま『真珠夫人』が流行っているよ」とか、「宇多田ヒカルさんが結婚したよ」という会話ができます。「で、未来ではどうなるの?」と聞かれて答えて良いかどうかみたいな選択肢が出てきたりもします。タイムトラベルものの1つのテーマに、時間間通信ものというのがありますよね。代表的な作品は「オーロラの彼方へ」や「イルマーレ」等でしょうか。本編のドラマとしては入れられなかったのですが、それを実体験してもらうのもゲームでしかできないなと思って、オマケで作ってみました。

――ゲームの中のキャラクターとコミュニケーションを取るゲームはいくつか存在しますが、それをタイムトラベルというネタと合わせたわけですね。

イシイ氏: ただのリアルタイムシミュレーションものはいくつかありますが、それにタイムトラベルを組み合わせたらどうなるかということです。僕らの世代だと、テレビ電話ゲームで「NOeL」というのがありましたよね。大変アイディアが斬新なゲーム、僕は「2」も「3」も良く覚えているのですが。そういうリアルタイム電話ゲームとタイムトラベルを組み合わせるとどうだろうと思って。でもあくまでもオマケなので気楽に楽しんでください。

――全部クリアした後で出てくるわけですね。

イシイ氏: 本編がエンディングを迎えた後に出てきます。

――おまけシナリオではなく、別のコンテンツが用意されると。

イシイ氏: そうです。主人公のみことが出てきて、テレビ電話ができて、しかもみことに服装をこんな風にしたほうがいいんじゃないか、髪形をこうしたらいいんじゃないかと言うと、服装や髪型が変わったりします。そういうリアルタイムコミュニケーションっぽい面白さも入っています。

――2002年ということは、1年くらい遊ぶとどうなるのかが気になりますね。

イシイ氏: そう、いったいどうなるのか。そこもちゃんとできているはずなので、疑問に思ったらぜひ挑戦してください(笑)。

――それでは最後の質問です。今までのお話をあえてリセットしていただいて、まだ遊んでいない方から「このゲームはどこが面白いの?」と聞かれたらどう答えられますか?

イシイ氏: ゲームでしかできない体験ができます、ということです。映画や小説では絶対に体験できない、驚きと衝撃、感動を用意したつもりですので、そこを楽しんでいただきたいです。

――ありがとうございます。ではこのゲームの発売を待っている方々に、一言メッセージをお願いします。

イシイ氏: 今回は3プラットフォームなので、ハードを持っている方も多いと思います。本当に、だまされたと思って買ってください(笑)。買っていただいて損はさせません。お値段も5,980円、ダウンロード版は4,980円とお買い得だと思います。これだけのCGイベントを使ったリッチなゲームで、この値段で、全てのプラットフォームで同じ値段で出るというのは、開発としては頑張ったかな……と思っています。

 個人的にはタイムトラベルものが好きとか、時間ものが好きな人にぜひやっていただきたいです。遊んでみて「これはどうなってるの?」、「ここはこう解釈できるのでは?」みたいな質問や議論は、全部聞きたいです。僕も時間ものが大好きなので、その方々と楽しみを分かち合いたいです。ゲームでこんなタイムトラベルものができるんだという可能性を分かち合いたいと思って作ったので、タイムトラベル好きな人はぜひプレイして欲しいと思います。

――ありがとうございました。


【スクリーンショット】
序盤から急展開かつ謎だらけで展開されるタイムトラベルストーリー。いったいどんな結末を迎えるのだろうか

(C)LEVEL-5 Inc.
※本稿で使用しているゲーム画像は、すべてPS Vita版のものとなっている。

(2012年 7月 11日)

[Reported by 石田賀津男]