コーエーテクモゲームス専務取締役小林伸太郎氏インタビュー
多様化したオンラインゲーム事業の未来と、謎のSNS「my GAMECITY」の全容について聞く


8月30日収録

会場:コーエーテクモゲームス本社



 コーエーテクモゲームスは、去る8月30日に「ネットワーク事業戦略発表会」を開催した。2003年の「信長の野望 Online」のリリース以来、日本のオンラインゲーム事業を牽引してきた同社としては定例的な風景に思えるかも知れないが、実はタイトル横断的な事業発表会をオンラインゲームに特化して開催したのは今回が初めてだ。

 そのきっかけとなっているのは、同社オンライン事業の多様化と、多角化路線のひとつであるソーシャルゲームが昨年大きな成功を収めていることだ。発表会の内容もあらかたの予想通り、新作ソーシャルゲームの発表と、ソーシャルゲームのマルチプラットフォーム/マルチリージョン展開と、その受け皿となるSNS「my GAMECITY」の全面リニューアルだった。

 オンラインゲームファンである筆者としては少々物足りない内容ではあったが、その一方で同社の変化を肌で感じる良い機会にもなった。今回はオンラインゲーム事業を束ねる コーエーテクモゲームス専務取締役兼ネットワーク事業部部長の小林伸太郎氏に、オンラインゲームビジネスの事業戦略について話を伺った。


■ 様々な発表が相次いだネットワーク事業戦略発表会について

「ネットワーク事業戦略発表会」での記念撮影。中央にいるのは「my GAMECITY」の市長となるニャブラハム・リンニャーン
コーエーテクモゲームス専務取締役兼ネットワーク事業部部長の小林伸太郎氏。小林氏にインタビューするのはE3に続いて2度目となる
同社の2011年度の売上予測について。オンラインゲーム部門だけで73億円の売上、20億円の営業利益を見込む
今回の発表会では脇役に回ったクライアント型のオンラインゲームだが、堅調な数字を報告した

編: 「ネットワーク事業戦略発表会では、実に色々な発表がありました。ソーシャルゲーム、オンラインゲーム、海外展開、「my GAMECITY」などですが、まずは発表の感想を聞かせてください。

小林氏: これまで、このような発表会の形でネットワーク事業の事業展開をお話しする事はありませんでしたので、これからの展開を、インパクトを持ってまとめてお話しようと思いました。

編: 色々発表があった中で、クライアント型のオンラインゲームの新作発表はありませんでした。これは時代と捉えた方が良いのか、それとも御社固有の戦略だと考えていいのでしょうか。

小林氏: オンラインゲームはアジア地区ではまだまだニーズもありますし、海外のパートナーからも求められています。ですが、短期的には事業としてラインをソーシャルゲームに優先していますので、オンラインゲームがその次となっているのは事実です。ただ会社として次世代の大規模オンラインゲームを作っていきたいという意思はあり、現在、討議しています。

編: まずは現在最もホットなソーシャルゲームを拡大できるところまで拡大して、落ち着いたところで改めてクライアント型のオンラインゲームに取り組みたいと?

小林氏: というより、一緒に走っていきたいです。リソースをシフトしたり拡大したりしているので、ラインの余裕が出来次第、再び走り出したいです。

編: また、オンラインゲーム関連の人員が200人から300人に増えるとのことですが、これほどまでに大規模な拡大はあまり聞いた事がありませんが、割り振られる人材はソーシャルゲーム系がメインということなのでしょうか。

小林氏: ソーシャルゲームもありますし、ブラウザ系のゲームもありますし、「my GAMECITY」もかなり大規模なプロジェクトになるので、こちらのリソースもあります。ソーシャルゲームの場合は、開発はともかく1タイトルサービスを始めると開発スタッフが運営として残ります。なので、タイトルを出していくと人員を増やさざるを得ないのです。

編: 御社ではソーシャルゲームとブラウザゲームは呼び分けてますが、あくまで異なるビジネスとして捉えているのでしょうか。

小林氏: ブラウザゲームはブラウザベースのネットワークゲームという考え方です。ブラウザゲーム=ソーシャルゲームということになりつつありますが、PCの場合にブラウザという表現を使っている場合がありますね。広い意味でいくとブラウザゲームはソーシャルゲームの中です。ただし、デバイスがPC寄りという考え方です。

編: これにさらに別にモバイル事業もありますね。会員も40万人いるという話でしたが、この事業部の主なタスクは何でしょうか。

小林氏: フィーチャーフォン向けのゲームを手がける事業部です。今後はタイトルバイタイトルでスマートフォンに置き換えを考えていきます。ものによってはそこからソーシャルゲーム化してリニューアルしてサービスしたいです。

編: 売上見込みについて46億円から76億円と大幅な嵩上げを改めて発表しましたが、その内訳はいかがですか。

小林氏: 下支えしているのはオンラインゲームで、成長して上乗せしているのはほとんどソーシャルゲームとお考えいただければと思います。73億という目標数字からすると7割はソーシャルゲームです。

編: 7割ですか! 逆に言うと、既存のオンラインゲームはそれほどの成長は見込んでいないということですか。

小林氏: もちろん、数字の中にはオンラインゲーム事業の成長も含まれていますが、それ以上にソーシャルゲームは20タイトルというボリュームがあります。現在展開しているオンラインゲーム3タイトルの中での会員数の増や売り上げ増についてはアップ率で考えれば小さいです。

編: ソーシャルゲームで400万人会員がいるとのことですが、MAUはどのくらいなのでしょうか。

小林氏: それはお話しできません(笑)。ただ、当社のタイトルは課金率が高いのですよね。DeNAさんやGREEさんに数字を聞きますと大体3%~4%が課金ユーザーということですので、そこから見るとかなり高い率だと思います。

編: というと10%くらいでしょうか。

小林氏: はっきりとは申し上げられませんが、それに近い数字は出ています。

編: 御社のユーザーの課金転換率が高い理由は何でしょうか?

小林氏: 諸刃の剣かもしれませんが、弊社は元々パッケージソフトを作っていますので、ソーシャルゲームに関してもかなりゲーム性も高度に、真面目に作っています。ですからハマる方からするとかなりハマりやすい。さらっとプレイすることを重視するよりはやりこみ度を重視している作り方です。ですから課金率やアクティブ率が上がっているのかなとおもいます。また、当社のIPを中心に展開していますので、それぞれのIPに付いているコアなユーザーも多いのだと思います。


■ ソーシャルゲームについて。「新規タイトルは速やかに100万人、『JollyWood』は非常に不満足」

ソーシャルゲームについては語り口は非常に滑らかだった小林氏だが、自らが社長を務めるシンガポールオフィスの「JollyWood」については強い口調で不満をあらわにした
ソーシャルゲームは8タイトルの累計会員数が400万人
白い☆が今後の予定。新規タイトルは今回発表されたタイトルとなる

編: ソーシャルゲームについて伺いますが、発表会ではスマートフォン展開が重視されていました。現行のフューチャーフォンとスマートフォンは似て非なる存在だと私は思うのですが、実際スマートフォンに展開するにあたって、どのような改良や工夫を盛り込むつもりですか?

小林氏: 私はスマートフォンは限りなくPCに近いと思っていますので、かえってスマートフォンの方が親和性を持って取り組みやすいですね。当社は長年PCゲームを開発してきたノウハウがありますし。市場全体として、今のフューチャーフォンユーザー様が乗り替えることによってスマートフォンの普及度が上がっているということは間違いありません。そういう意味でスマートフォン展開は自然な流れであると思いまし、我々にとっては良い流れといえます。

編: 基本的な内容はフューチャーフォンのそのままの移植というイメージですか?

小林氏: 当然ユーザーから見ればインターフェイスが違いますし、スマートフォンは端末も豊富にありますし、どちらかというとブラウザベースで動くようなタイプということになります。また容量も違います。内容については明かせませんが、ゲームとしては別物になると思います。

編: 今回3タイトルが新規タイトルとして発表されました。どのような点に期待されていますか。

小林氏: 「100万人のWinning Post」はソーシャルゲームとしてはなじみやすいタイトルなのかなと思っています。ソーシャルゲームはとりわけ継続性が重視されていますので、競馬をテーマにする上ではたとえば毎年の馬のデータを更新していくことで、継続性を高められるのではないかと考えています。その点で安定して収益が期待できると考えています。競馬ファンにはコアなユーザー層がいらっしゃいますし、期待しています。

 「100万人の超ワールドサッカー!」については関連会社の携帯コンテンツにたくさん会員がいらっしゃいますので、ここをベースとしたSNSという意味で期待しています。サッカーというテーマはワールドワイドで人気がありますので、この先のグローバルな展開という面でもサッカーコンテンツは期待できます。

 「100万人の大航海時代」に関してはオンラインゲームで既にグローバルで展開しているタイトルですし、テーマが非常に普遍性を持っているので、世界のどの地域でもいけるタイトルです。いずれもワールドワイドで通用するタイトルとして期待しています。

編: それぞれのサービススケジュールは?

小林氏: 「100万人のWinning Post」に関しては9月からで、「100万人の超WORLDサッカー!」に関しては秋から冬にかけてのタイミングでリリースです。「100万人の大航海時代」も同じくらいです。

編: 海外展開についてはどの地域を狙っていきますか。

小林氏: 北米市場ですね。アメリカでは日本のローンチに合わせてサービスしていきたいと思っています。

編: これらの新規タイトルについて期待しているユーザー数は?

小林氏: 国内ではすみやかに100万人を突破したいと思っています。アメリカでも300万人は取りたいと思います。「100万人の大航海時代」についてはDeNA USAでの展開を考えています。聞いている限りの情報では秋にかけて販促活動をかけるとのことですので、それに合わせたタイミングでローンチタイトルをご提供できればと考えています。

編: スマートフォンについては今後オリジナルIPを考えていきたいというお話でしたが、これに関して具体的なお話があれば教えてください。

小林氏: 開発部隊としてはパッケージで培ったIPを移植という形で動かしているところですが、新たなモチベーションとしてはオリジナルで作ったものを世に出したいという意識を持っています。常日頃企画コンペはやっていますので、そこから適切なタイトルがあれば、順次新しいタイトルとしてIPを作っていきたいです。ソフトパッケージのアイテムを移植していますので、SNS化するところで違和感が出ないことも無いので、SNSを意識したオリジナルタイトルを作っても良いのかなと考えています。

編: 姿かたちが見れるのはいつごろですか。

小林氏: 来年だと思います。

編: 早い! スピード感がありますね。ソーシャルゲームに関してはシンガポールでFacebook向けに「JollyWood」を展開していますが、こちらは今どのような状況でしょうか。

小林氏: 数字としては非常に不満足です。ゲームシステムも含めてテコ入れをしようと考えています。

編: 昨日、MAUを調べたところ15,000人位の方が遊んでいましたが、この数字では足りないということでしょうか。

小林氏: まったくダメです。我々の期待からすると、2桁くらい足りません。この作品は今のところFacebookオンリーですが、もともとマルチプラットフォーム展開も考えていましたので、他のプラットフォームでの展開を考えています。

編: 他のプラットフォームというと、my GAMECITY、つまり自社展開とか?

小林氏: それも候補の1つですし、アジアを見ればmig33ですとか、色々なソーシャルゲームプラットフォームがありますし、Yahoo!がゲームプラットフォームのようになっているような所もあります。海外ではそういったところも活用していきたいです。

編: 「JollyWood」は日本展開も発表していますが、展開先はFacebookやmy GAMECITYだけではないということも考えられるのでしょうか。

小林氏: 考えられます。

編: 日本展開の開始時期はいつ頃を予定していますか?

小林氏: 年内から来年年明けくらいにはやりたいなと思っています。あまり時間をかけるつもりはないです。

編: 「JollyWood」は今後てこ入れを図るということですが、今後どのような改良を施していくつもりですか?

小林氏: 基本はソーシャル性の部分やマネタイズのところで弱いところがあるので、根本的なところのやり直しをかけています。ソーシャルゲームはサービスしながら変化していますので、可能性はまだまだあると思います。

編: 今回の発表会ではかつてないほど証券系の方が出席していて、質疑応答の時に売り上げの見込みについて質問が相次いでいましたが、市場からの注目度の高さについてどのようにお考えですか。

小林氏: これは弊社だけでなく、ご存知のようにKONAMIさんがソーシャルゲームの売り上げがパッケージのそれを越えたという発表をされるなど、現在ソーシャルゲームが証券系の方が注目される分野であるというのは確かですね。我々も意識して証券系の方をたくさん呼んだわけではないのです。ゲーム会社としてこの事業に力を入れているかということについて彼らが注目して見ている、世間の投資家が注目しているということを改めて感じました。

編: ソーシャルゲームは、現状、選択肢となるプラットフォームがGREEかDeNAの2択ですが、この選択肢が2つだけという状況は今後も続いていくと考えていますか?

小林氏: 日本国内は今後も続くと思います。彼らを抜くような規模のプラットフォームをゼロから作っていくのは至難の業だと思います。海外においては彼らもゼロベースですから他のプラットフォームの可能性もあると思います。

編: コンシューマゲームのようにPS3とXbox 360に出すというような認識でGREEとDeNAに出すというのは難しいのでしょうか。

小林氏: 可能だと思いますし、そのようなポリシーでやっているつもりです。私たちはプラットフォームごとに色分けしていないようにプラットフォームに偏る戦略を取るつもりはないです。

編: しかし、今回の発表会では3タイトルともGREEかDeNAのいずれかでした。最終的には両方に対応するわけですか?

小林氏: タイトルによっては片方にリリースしたあともう片方にリリースしなおすことは十分ありえることですし、そういった戦略をとっていくつもりです。

左から順に「100万人のWinning Post」、「100万人の大航海時代」、「100万人の超ワールドサッカー!」。いずれも年内のサービスインを見込む



■ 謎めいた次世代SNS「my GAMECITY」について

「my GAMECITY」については、小林氏自身も言葉だけでの説明では伝わらないと思ったと苦笑い
「my GAMECITY」についてはそれそのものがゲームであり、ゲームポータルとしての機能を持つSNSということしかわからない。続報に期待したい
小林氏の話を聞く限りでは、「my GAMECITY」は日本サービスを断念した「DOA ONLINE」が実現していた仮想世界に近いのではないかという印象を持った

編: 「my GAMECITY」については、質疑応答でも質問がありましたが、GREEやDeNAに続く新たなソーシャルゲームプラットフォームではないのですか? 私もそのように見ていますが、本当に考えていないのですか?

小林氏: 考えていないことはないです。「my GAMECITY」が1つ革新的なのはSNSサイトでありながら1つのゲームになっていることなのです。そこで集客ができれば、もっと他のコンテンツが欲しいというニーズが出てくるでしょうし、そこにゲームを出させてほしいというところが出てくるかもしれない。そういう情況になってくれば門戸を閉ざすつもりはありません。

編: 1,000万人という目標は驚きました。

小林氏: 1,000万人です。それも早ければ早いうちに達成したいです。端的にいえば、「無双」シリーズはそれぞれ100万人近い固定ユーザーを抱えています。我々がもっているIPの総係数で考えても1,000万人はゆうに超えています。それを的確に取り込み、一般のコミュニティユーザーを取り込めれば達成不可能な数字ではないのと思っています。当初はそれらのコーエーテクモのロイヤルユーザーが集うゲームサイトを構築するのが第一段階です。

編: 正直なところ、「my GAMECITY」そのものがゲームというのは、意味がよくわかりませんでした。

小林氏: わかりにくいだろうなと思って説明していました(笑)。開発が間に合えばもう少しビジュアル的なイメージをお渡ししようとおもったのですが、そこまで間に合いませんでした。

編: 今の「my GAMECITY」は、ベーシックなSNSの機能に加えて、他社のゲームポータルさんのようにWebサイトから直接起動できるランチャーの機能を有しています。そこから起動するとクライアントを起動した後にIDとパスワードを入力する手間が省けていきなりゲームを始めることができる。利用価値はそれなりにあるわけだけど、別にクライアントから起動しても問題ない。しかし、今後の「my GAMECITY」は、ポータルの部分やランチャーの部分が遊べるということなのですか。

小林氏: そうです。今のGAMECITYは企業の情報サイトとしての色合いが強い。そこを打破するという意味での「my GAMECITY」というのを作ったのです。ゲートウェイそのものがゲームになっているイメージで作り上げています。これをなんとか言葉ではなくビジュアルでご紹介したかったのですが、間に合いませんでした。

編: 「my GAMECITY」が実現するゲーム性についてもう少し噛み砕いて説明していただけますか?

小林氏: そこには街があり、「無双」の館があり、「NINJA GAIDEN」の館があり、「遥かなる時空の中で」の館があるという街の中に色々なコンテンツの館があるイメージです。情報サイトの役割も果たしながら、館にあるコンテンツを集めたり、情報を見る事がゲームのポイントになります。それを見つけていくのもゲームだし、その情報を見る事もポイントに繋がるということです。

編: WEBベースのサービスで、ビジュアルロビー化した街では、FlashやJAVAを使ったエンターテインメントコンテンツがあり、ユーザーさんはそこでアバターを介して遊べるし、有料サービスも受けられると?

小林氏: そうです。マネタイズもしますし、情報サイト、公式サイトとしての見方もできるわけです。

編: GAMECITYそのものがビジュアルロビー化するという感じですね。

小林氏: 今お使いいただいた言葉がわかりやすいと思いますね。

編: 「my GAMECITY」の提供プラットフォームはどうなりますか?

小林氏: 今の展開としてはPCベースとスマートフォンで考えています。

編: スマートフォン対応はいつごろになりますか。

小林氏: 並行して走っていますのでそんなに大きくはずれないと思います。

編: iOSとAndroidの両方に対応するのですか?

小林氏: 展開するからには当然課金という部分がございますので、iOSにはAppStoreの存在をクリアしなければならない。なので、Androidが先かなと思っています。またFlashの問題もありますので。

編: 新しい「my GAMECITY」について、WEBとの親和性が高い「100万人」シリーズの展開は発表されませんでしたが、投入する予定はないのですか?

小林氏: Yahoo! Mobageなどで展開している「100万人の信長の野望」などは時期がくれば投入しても良いと思います。例えば「JollyWood」はゲームのカテゴリの中のゲームコンテンツとして置こうかとも思っています。

編: お話を伺っていると、やはり最終的にはソーシャルゲームのオープンプラットフォームになりそうですよね?(笑)

小林氏: 言いにくい話ですが、仮に「my GAMECITY」がコンセプト通り大きく育っていくと、GREEさんやDeNAさんのコンペティターになるかも知れません。しかし、ビジネス的に今の段階からそれを目指すのは得策ではないと考えています。また、当社はプラットフォーマーではなくメーカーですから、自社IPだけでやってきた「my GAMECITY」の中に他社のIPが入ってくることに関してはアレルギー的な部分があると思います。まずは内部的にも工夫していかないとオープン化していくのは難しいでしょう。ハードルは色々あると思います。まずは我々の中でのオープン化が先でしょうね。

編: 最終的にはZyngaさんみたいに、自社でもやるし、Facebookもやるし、DeNAやGREEでもやるという形になりそうですね。新生「my GAMECITY」について現在想定している機能が一通り実装されるタイミングはいつごろになりますか。

小林氏: 2012年の2月3月に本格的に遊べるようになると思います。サービス自体は年内からベータテストを始めていきたいです。あるタイミングで申し上げた「my GAMECITY」がゲームポータルサイトに突然変わるとお考えください。

編: 「my GAMECITY」内で御社のもうひとつの柱であるコンシューマーゲームの扱いはどのようになるのでしょうか。

小林氏: 公式サイトに飛んで、その中の例えばアイテムをとることによってポイントに繋がったりする仕掛けを考えています。

編: 直接繋がることはありますか。

小林氏: タイトルによってはあり得ると思っています。パッケージの中でも通信機能を備えたゲームもありますので、リンクされることはこれからあると思います。プラットフォームがPCとPS3などということになりますので、ある程度先の話だと思います。例えば「信長の野望」シリーズや「三國志」シリーズはPCで出していますので、PC上でのリンクは十分あり得ると思っています。

編: オンラインゲームの連携や連動はあるのですか?

小林氏: オンラインゲームとの親和性は高いと思っています。「大航海時代 Online」などについても「my GAMECITY」を通じてプレイすれば、オリジナルの特典アイテムが獲得できるようなイメージを想定しています。

編: なるほど、おもしろいですね。「信長の野望 Online」では、持ち物を覗けたり、ログインしている人と直にコミュニケーションがとれるようなこともできるのですか?

小林氏: そういったこともできるといいですね。

編: 最終的にはWebを通じてすべてのコンテンツが融合すると。

小林氏: Webを通じてすべてのコンテンツがWeb上でリンクするイメージです。情報という意味でもゲームという流れも兼ね備えているイメージです。

編: 「my GAMECITY」上で楽しめるエンターテインメントとはどういったものになるのですか?

小林氏: 基本的には街づくりです。「my GAMECITY」というCity作りのゲームなのです。ブラウザベースでの表現です。

編: これが完成すると、またコーエーテクモのイメージが変わりそうですね。

小林氏: コーエーテクモのイメージって何ですか?

編: 「信長の野望」、「三國志」を柱としたまだお堅いイメージが強いですよね。

小林氏: そこは変えたいですね(笑)。「のぶニャがの野望」というのはある意味で当社としては思い切った事をやったと思っているのです。あのようなテイストは今後も出していきたいです。



■ 海外展開について。PC市場が伸びるアジア市場に再注目

海外展開については、オンラインゲームはアジアを、ソーシャルゲームは北米を指向しているようだ

編: 発表会については、改めて海外展開に注力していくことをアピールしていましたが、具体的な戦略について教えてください。

小林氏: 東南アジア地区でのサービス開始を検討中です。1カ国ということではなくて、インドネシアやフィリピンといったエリアを対象にすると思います。

編: Asiasoftさんなどの現地のパブリッシャーと組んでやっていくということですか。これが決まればアジアでは久々の新規ビジネスですよね。

小林氏: そのために私は今年だけで13回出張に出ています。

編: 欧米ではなくアジアというのはなぜですか?

小林氏: PCのプラットフォームが伸びているからです。ネットカフェが盛んで、フィリピンだけでも14,000軒のネットカフェがありますし、インドネシアも10,000軒のカフェができている。ベトナムも4,000軒くらいのネットカフェができて来ている。家庭内のインフラとしてはPCという環境はまだまだですが、ネットカフェを中心にオンラインゲームの需要は非常に旺盛なところがありますので、向こうからのコンテンツの需要のオファーが多数来ています。それにお応えする時期にさしかかっていると思います。手ごたえを感じています。

編: 所得の部分ではまだまだ日本に追いついていませんが、その辺はどのように考えていますか?

小林氏: その点については、うちのオンラインゲームは既に日本、中国、北米とサービスしていますので、開発ベース自体として収益構造ができていますので、海外でパートナーを通じたプラスアルファの部分で売り上げを考えていくことができます。言語のローカライズをパートナーさんにお任せすれば追加コストは発生しないので、リスク無く売り上げが上積みできることになります。

編: 現地に受け入れられるためのカルチャライズに手間隙がかかり、なかなか採算ベースに乗らないという話も伺いますが。

小林氏: そこについてはパートナーと詰めていますが、オンラインゲームは、各国でサービスされてリニューアルとバージョンアップが繰り返されている中でゲーム性が練り込まれていきます。ですから大幅なカルチャライズの必要性はそれほどないと考えています。

編: 中国市場については、多くの日本企業の例に漏れず、御社も何度も痛い目を見ていますよね。勝算はどのあたりにあるとお考えですか?

小林氏: ソーシャルゲームに関しては、GREEさんを介して中国のTencentでサービスをしてみてまずは数字を見てみたいというところがあります。確かに中国のサービスは「真・三國無双 Online」1本だけになっていますが、サービスを中止した、「信長の野望 Online」と「大航海時代 Online」はパートナーとの契約の問題で中止をしただけで、違うパートナーからオファーは来ています。可能性があれば新たにサービスをしたいと考えています。

編: 御社の場合、月額制のタイトルが多いわけですが、月額制というビジネスモデルが展開の障害になっているとは思いませんか。

小林氏: 障害になっているとは思いません。ソーシャルゲームはすべてアイテム制ですが、ハイブリッドで月額を導入するケースも出てきていますし、必ずしも月額制がそのゲーム性を阻害するとは思っていません。1つの課金手段としては有効な手段だと思っています。ゲーム性と国のニーズによって考えるべきだと思っています。



■ オンラインゲームについて。「信長の野望 Online 2」も視野に!?

「ワールドワイドで通用するような大型タイトルを1発作ってみたい」と熱っぽく語ってくれた小林氏。ぜひ実現を期待したい
オンラインゲームに関しては、東京ゲームショウで大きな発表が予定されている。ぜひ注目しよう

編: 既存のオンラインゲーム事業についてはどのように考えていますか。

小林氏: 本日の発表の内容が私たちの考え方です。これまではどちらかというと国内を重視してきたということで、今後はグローバル展開の遅れを取り戻していこうとしています。

編: なるほど、対応言語については?

小林氏: 大きな市場という点では簡体字と繁体字の中国語の両言語、次にフィリピンやシンガポール、香港という点では英語圏に相当します。パッケージでローカライズの実績がありますので、言語はそれほど大きな壁とは思っていません。ソーシャルゲームに関してはパートナーシップを組んで進出するということが多々あると思いますので、その際はパートナーにローカライズをお願いするということになります。

編: オンラインゲームに関して今回コンテンツ周りの発表はありませんでした。東京ゲームショウの「ネットエンターテインメント フェスタ」では何か発表予定はありますか?

小林氏: 今日発表した内容に加えて、2~3ずつ新しいネタを用意しています。

編: 冒頭の繰り返しになりますが、完全新規のオンラインゲームのタイトルについて聞かせてください。

小林氏: 新規タイトルを作りたいと思っています。企画も社内的には進めています。今の3つのオンラインゲームのようなタイトルを作ろうとすると、開発期間は3年~4年かかりますので、そこまでの大型のものにするのか、もっと開発期間の短いものにするのか、ブラウザゲームを進化させたようなタイトルにするのかということは方向性として決めかねています。

編: 小林さんとしてはどのように考えていますか。

小林氏: ワールドワイドで通用するような大型タイトルを1発作ってみたいです。

編: 「信長の野望 Online」クラスの大型タイトルということですか。

小林氏: そうですね。

編: それは「信長の野望 Online 2」ではないのですか?

小林氏: そうではないですね(笑)。「信長の野望」は世界観の問題からいきまして、通用する世界や地域は限られてくると思います。欧州や米国では抵抗感がありますし、ワールドワイドで通用するファンタジー系のもので一発大きなものを作ってみたいです。

編: E3では「三國志 Online」をまたやってみたいとおっしゃっていました。その考えはまだ変わっていませんか。

小林氏: やってみたいと思っていますよ。ただ、会社としてやろうと決まっているものではないです。オンラインゲームを担当している者としてせっかくコストをかけてサービスしたものをあのままお蔵入りにさせるのはもったいないと考えているというレベルです。あのまま手を入れずにサービス再開できるかといえばそうは思えない。課金モデルを変えるのか、ゲーム性を少し変えるのかというところで手をいれなければならない。開発サイドの意識としてもっている夢みたいなものです。

編: 今回オンラインゲーム系の発表はパッケージの発売が目立っていましたが、施策としては有効と考えてよろしいのでしょうか。

小林氏: 短期的な売り上げという点では有効です。

編: 厳しい見方をすると、新規パッケージの発売は、ARPUを上げる施策の1つで、そのものはコンテンツではないので、ユーザーさんが喜んだり、新規ユーザーが増えるという性質のものではないと思います。

小林氏: ご指摘の通りです。

編: 新規の獲得について何か考えはありますか。

小林氏: アップデートのたびに新規顧客の獲得がテーマになってきます。出すたびに問題になるのが既存プレーヤーはより深いところ、より高いところを求めます。新規ユーザーは簡単なところを求めます。たとえば、新規ユーザー向けの新たなワールドを作るといった様々な工夫は入れていく必要がありますし、実際にそういった指示をしています。新規ユーザーがゲームに入っていくと古参ユーザーにはついていけないといった流れになりがちですから。

編: そのジレンマをどのように解決していきたいですか。

小林氏: 難しいですね。既存ユーザーを守りながら新規ユーザーを獲得していくのは非常に高いハードルだと思っています。新規ユーザーのワールドを作るというのは小手先かもしれませんが、そういう対応をせざるを得ないのかなと。現時点では全然視野には入れていませんが、「信長の野望 Online 2」のような形でまるっきりバージョンを変えた形でやっていくかということになるのかなと。そして1と2がリンクしていくような対応をせざるを得ないのかなと思います。

編: ソーシャルゲームは非常にあわただしい動きですが、オンラインゲームに関しては今年1年どのような動きを期待していますか。

小林氏: サービス中の3タイトルについては大きな山はないと思っています。既存ユーザーが着実に満足するような細かいアップデートを入れながら、その中にどのように新規ユーザーを入れていくかがメインかと思っています。最近注目しているのはPS3です。3タイトルで割合は別々ですが、PS3のユーザーの方がARPUが高いという傾向も出ています。ゲームのパッケージからオンラインゲームに入ってくる。パッケージソフトの方も通信対戦が不可欠な形になってきていますので、あちらのユーザーの方もオンラインゲームに馴染みつつある。それが新たなユーザー層として期待できるのではないかと考えています。アップデートのときにはPS3版もしっかり出していきたいと思っています。

編: SCEさんのプラットフォームという点では、今年はなんといってもPlayStation Vitaですね。PS Vitaにオンラインコンテンツを提供することはあり得るのでしょうか?

小林氏: あり得ると思います。Vitaは3G通信に対応していますし、端的に言えばモバイル端末と変らないわけです。スマートフォンと一緒ですから、ソーシャルゲームをVitaに入れるということも考えられます。課金システムがユーザーから見てどうなのか、ビジネスサイドから見てどうなのかということはありますが、端末としてはマルチデバイスの1つとして大きな可能性を持っています。

編: Vitaはスペック的にはPS2以上のポテンシャルを持っていますが、例えば「信長の野望 Online」のVita版が出る可能性はありますか。

小林氏: 無いことは無いと思います。どちらかといえば「100万人」シリーズが先ではないでしょうか。もちろん、タブレットPCなどへの展開もありますが、Vitaはサイズ感から見てスマートフォンに近いと思いますので、ソーシャルゲームの方が優先するかなと思いました。残る壁はビジネスモデルということになると思います。我々とSCEさんの話にもよりますが、加えてVitaそのものがユーザーに合うかということも大事です。3G対応ということは当然どこかのキャリアとやられてユーザーは定額の料金をお支払いされるはずです。通話もできないのにVitaも買ってさらに通信料を払わないと遊べないの?という話もあります。そこらへんがクリアにならないとユーザーからは受け容れられないのではないでしょうか。

編: 色々なプラットフォームや色々なサービスがありますね。1年後のオンラインプラットフォームをどのように見ていますか。

小林氏: 我々が作っているものはコンテンツやIPであり、デバイスにどう対応していくかというだけの話です。我々としては良質なソーシャルゲームなりブラウザゲームなりを作ることに尽きると思います。後は様々なデバイスやタイトルが出てくる中にどのように提供していくかだけの話なのです。

編: ユーザーさんにメッセージをお願いします。

小林氏: 今回のコーエーテクモのネットワーク事業の広がりをご説明しましたが、是非これからのコーエーテクモにご期待ください。

編: ありがとうございました。


オンラインゲーム3タイトルについては、そろそろ拡張パックの発表があっても良さそうな時期のタイトルもあるが、どのような発表があるだろうか?

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(2011年 9月 14日)

[Reported by 中村聖司]