インタビュー
Alienware共同創業者兼ジェネラルマネージャー フランク・エイゾール氏インタビュー
「国境もなく遊べるPCゲームをもっと楽しんでほしい」
2016年7月29日 00:00
デルにおいてゲーミングPCを取り扱うブランド「Alienware」において共同創業者兼ジェネラルマネージャーを務めるフランク・エイゾール氏が、7月27日に都内で開催された
記者会見に出席するため来日した。記者会見ではプレゼンテーションを行ない、Alienwareの過去から現在、そしてVRやe-Sportsといったゲーム関連のホットトピックについて語っている。
その、エイゾール氏がGAME Watchの個別インタビューに応じてくれたので、お伝えする。
「Alienware」と言えば“宇宙最強のゲーミングPC”としてハイスペックなゲーミングPCとして最先端を走り続けている。その秘密はどこにあるのか? 今後日本市場ではどのように展開していこうとかが得ているのか? 気になるところを聞いてみた。
「ALIENWARE Area-51」のデザインの秘密
――どういう経緯でAlienwareに入られたのですか
エイゾール氏:当時は高校生だったのですが、PCもゲームも好きで、何か仕事がないかなと探していたんです。そのときに家族や友人のつてで、Alienwareを起こした人がいるということで、仕事も欲しいし興味もあるので、面接をしてもらったという感じです。
――運命的な出会いですね
エイゾール氏:そうですね。妻と最初に出会ったのもAlienwareですし、今でも続く友達がAlienwareにはたくさんいます。明日(2016年7月28日)は私の35歳になる誕生日ですが、入社したあとの方が長い人生となっています。
――Alienwareのネーミングの由来を教えていただけますか
エイゾール氏:ネーミングは起業した時のCEOが考えたんですが、元々「X-ファイル」や「エイリアン」といったSFが好きだったんです。ゲームをうまく動かしていくにはハードウェアが重要です。いかにそれが強力かということを伝えるためには、宇宙人の持つ先進性や地球人を超えるテクノロジー、そういったイメージを活用すればうまくいくと思ったんですね。宇宙船を作って地球を攻めてくるだけのテクノロジーを持っているということは、イメージとしてもクールです。それを活用すれば、Alienwareが目指すところが伝わると思ったのです。
――そういう意味もあって、近未来的な筐体デザインになってるのでしょうか?
エイゾール氏:実は創業当初と今とは様変わりしていまして。当初はもっとレトロな感じ、宇宙船のような曲線を描いた形だったんです。1950年代のロズウェル事件のようなものから着想を得ていまして、円盤形のレトロなものを想起させるようなデザインでした。今は時代を超えた先進性を打ち出していて、そういったものを製品に取り込んでいこうとしていますので、未来的で、時代を超えたものをあらわしています。
――発表された「ALIENWARE Area-51」も独特な形をしていますが、あのような形になったのには理由があるのでしょうか?
エイゾール氏:私たちのデザインチームが検討を重ねた結果、あのような形になったのですが、その前段階として、お客様にアンケートを採ったんですね。どこに設置して、どういう使い方をしているか。その結果、デスクトップPCはだいたいデスクの下に置いている。USBやCD-ROM、DVDなどを使うときにはわざわざかがんで、懐中電灯を照らしながら作業をしている。背面の場合は筐体を引き出してつないだりしている。それを元に戻そうとすると、ケーブルが絡まったり、コネクタが外れてしまったりする。これはお客様からの声をいただくまではまったく意識していませんでした。
そこでこれを解決するために、100くらいのコンセプトを作り上げたんですが、三角形がデザイン的にはニーズを1番満たしている、ということになりました。どこからもアクセスしやすいという機能的な面と、「Area-51」という象徴的な意味を持つ筐体。Alienwareを代表するような、中心的な位置を占める製品ですので、Alienwareといえばこの形がすぐに出てくるようにしようと考えたわけです。
「Alienwareは、どのようにしたら快適にゲームをプレイできるか考えるところから始まっている」
――日本ではゲーミングPCはホワイトボックス、ショップブランドが主流になっていますが、こうしたメーカーとの差別化については考えていらっしゃいますか?
エイゾール氏:ホワイトボックスで各種のPCが出ていることは認識していますが、それを駆逐したり、対抗したりといった考えはありません。どう戦っていくかという明確な戦略があるわけではないのですが、ベストな製品を出していけば、ゲーマーの方から支持をもらえるという信念の元にやってきましたし、そのおかげで20年間、ゲーマーの方から好評をいただいているという状況です。
差別化というか、Alienwareが優れている点をあえて言いますと、品質を第一に考えているという所ですね。品質を管理するためのエンジニアが何百人もいますし、研究開発にも何千万ドルもの予算を投じています。それだけしっかりと作り込んだ、品質の高いものをお届けするといったことをしています。
ちまたに出回っているゲーム用のPCというものも、ふたを開けてみると普通のPCにCPU、GPUを搭載しているだけのものが多いですよね。それは“ゲームができるPC”であって、ゲーマーのことを考えた製品とは言えません。Alienwareはその対極で、お客様がゲームをどのような形でプレイするのか、どのようにしたら快適にプレイしてもらえるかを考えるところから始まっているブランドですので、バッテリーであったり、キーボードのデザイン、タッチパネル、ディスプレイに加えて、ソフトウェアやメモリ、使っている素材に至るまですべて、ユーザーや、ゲームをするという用途を考えて最適なものを選んでいますので、そこはちまたでゲーミングPCを名乗るものとは違うと考えています。
ほかにもいろいろ異なる点はありますが、今あげた2つの事柄が、他社とは違うところと言えるでしょう。それに加えてゲーミングPCをずっと作ってきたという誇り、矜持があります。また私たちのカルチャーに加えて、これだけブランドとして浸透して愛されているという実績が、ホワイトボックスにはない点だと思っています。
ただしAlienwareというのは万人向けのPCではありません。ブランドとして何を象徴しているか、そこに共鳴していただいている人であれば、使いこなして、そして愛していただける。Alienwareを体現するものに共感してもらえる人であれば、ユーザーとしてメリットを享受できると思っています。
この業界には我々のほかにもメーカーさんがいますし、価格に合ったパフォーマンスを出していくことで、スペックや機能面でAlienwareにぶつかってくる製品があれば、それはそれでいいことだと思います。健全な競争がこの市場には必要だと思いますし、その競争によってよりよい製品が出てくるのであれば、それはゲーマーの皆さんにとってもメリットになります。ゲーム業界、ゲーミングPCの発展のためにもホワイトボックスを含めた他社からの挑戦は喜んで受けたいと思いますし、こういった人を駆逐するのではなく、競合することによって、レベルを引き上げていきたいと思いますね。
――Alienwareは確かにあこがれのマシンですが、価格も高いです。低価格でマシンを出すという発想はあるのでしょうか
エイゾール氏:はい。価格的に押さえた製品としては「Alienware Alpha」(以下、Alpha)があります。近日中に日本で発売できればと考えています。あとは13インチのノートPCですね。こちらもほかのフォームファクターよりは価格が抑えられています。
ただやはり、Alienwareというブランドが何を示しているかというと、まずはクオリティですね。パフォーマンスが出るということや、しっかりとした機能が備わっていること。さらに高級感のあるデザイン、そして快適なゲーム体験。これを全部体現しているのがAlienwareです。このため、価格を下げるとしても、どの要素も損なわれてはいけないと考えています。価格を無理に下げるのではなく、ある程度値段が張る製品になったときに、絶対的なお客様の数は減るかもしれませんが、その限られたお客様に満足していただく。これが大事だと思っています。
――「Alpha」についてお聞きしたいのですが、日本市場に展開するにあたっての障害はどこにあるのでしょうか?
エイゾール氏:製品をいろいろな国に展開しようとするときには、さまざまな障害があるのはこれまで経験していますが。「Alpha」はいま最新の「R2」がアメリカとヨーロッパで供給されていますが、市場規模としてはアメリカとヨーロッパ、そして中国が大きいと考えていますので、どうしてもそこへ優先的に製品を回さなければいけない。このため他の国に供給するものが少なくなっているわけですが、これらの市場が落ち着いてきたら、日本を含めて他の国に展開していければと思っています。供給上の理由から、日本はワンテンポ遅れてしまうといったところです。
――日本におけるゲーミングPCの市場についてはどのように考えていますか?
エイゾール氏:2009年以降、Alienwareは日本で展開してきました。その間に日本市場を見てきた知見になりますが、他の国と比べるとコンソールゲームが中心ですね。中国ではコンソールの比率が低くてほとんどがPCです。アメリカはコンソールの比率が減ってきて、PCが増えてきている状況です。ヨーロッパはさまざまです。
このように地域特性がある中、日本については、PCゲームについては他の国よりも遅れているといった印象です。ただし任天堂やソニーといった偉大なコンソールメーカー、ゲームメーカーがありますので、それも無理がないところでしょう。コンソールゲームからイノベーションが出てきたという背景もあるかと思います。ソニー・インタラクティブエンタテインメントさんもVRに取り組んでいますし。
そういう意味ではコンソールのメーカーさんはいい仕事をしていますし、そこからイノベーションも出てきていますが、やはり今後のことを考えると、PCでできることはもっとたくさんあるのに、それを享受できていない日本の方々はもったいないと思います。ですからそこにチャンスがありますし、もっとたくさん楽しんでいただくためには、PCに目を向けていただく必要があると考えています。
――何か具体的な戦略をお持ちなのでしょうか?
エイゾール氏:まずは東京ゲームショウですね。ここに出展します。東京ゲームショウというとまだコンソールが主流ですが、ゲーム用のPCもあるということを認知してもらうために出展しています。これまでは2009年と2014年に出しましたが、今年も出展しますし、そのときは私も来日する予定です。先ほどの発表会でも過去、現在、未来について話しましたが、未来を見据えていろいろなアクションを取っていくべきだと考えています。
例えば量販店にAlienwareを置いていただくこともその一環ですが、こういったタイプの製品は、Webで見てもなかなか良さが伝わらない。店頭で見ていただいて始めて実感していただけるものだと思うんですね。ですので量販店における露出を増やすといったこともやっています。
また、Alienware専任の人を増やす施策も行なっています。日本における露出も高めていかなければならないですし、また、ハードウェア本体だけでなく、日本であまり知られていないゲームがたくさんあると思います。なのでゲームを作っているパートナー各社と組んで、日本のユーザーさんに紹介していくことも合わせて行なっていきたいですね。日本市場は世界的に見てもトップ10に入る重要な市場だと位置づけています。そのため東京ゲームショウにもまた出展しますし、私が年に2回来日するといったこと1つを取っても、どれだけ日本を重要視しているかということが、おわかりいただけると思います。
確かにPCゲームが占める比率は市場の中では小さいかもしれませんが、逆に伸びしろが大きいとも言えます。PCというプラットフォーム自体は伸びていくと思いますし、より快適にゲームをプレイしたいというニーズに1番応えられるものだと思っています。ですから、市場に対してPCゲームの面白さ、素晴らしさをもっと訴求していきたい。そして一緒にこの市場を大きくしていきたいと考えています。
「もっといいVRが欲しい時、OculusやHTC ViveとAlienwareをまとめてご利用いただければと!」
――そのキーになるデバイスの1つはVRだと思いますが、デル自身でVRシステムを開発しようと思ったことはないのでしょうか
エイゾール氏:自社で開発することを検討したこともありますが、いろいろなところからシステムが出ていますし、現時点では自社で開発する余地はないと考えています。1番大事なのは、しっかりとクオリティを担保して、パフォーマンスを出して、ユーザーが必要な機能にお応えするということですので、もし現行の市場に出回っているVRシステムがそれに応えられなければ開発をする予知はあるかもしれませんが、現在の所ではそういうことはないと思います。
――ちなみにPlayStation VRについてはどのような感想をお持ちですか
エイゾール氏:「PlayStation VR」は素晴らしいと思います。これはVRの世界を広げるということにおいては画期的ですね。ただそれ自体のテクノロジーは、OculusやHTC Viveに匹敵するとは言えません。ただ、一歩劣るとはいっても、そこでVRを体験していただいたあと、もっといいものが欲しいとユーザーは考えると思うんです。そこではOculusやHTC ViveにAlienwareをまとめてご利用いただければと思います。VRの入り口としては非常に素晴らしい。VRの魅力を多くの人にわかっていただく第一歩として非常にいいと思いますし、VRのコンテンツもこれで飛躍的に増えますので、非常にいいことだと思います。
――VRはどのくらいのスピードで普及していくと思いますか
エイゾール氏:とても大層な話ですが……。何をもって普及したのかということも非常に難しい。PCだってまだ限られた人しか使っていません。インターネットすらない国もありますので線引きは難しいですが。VRが当たり前になっていく、普通になってくるのはどのあたりかという点でお話ししたいと思います。
PCの事例を挙げると、1980年代では非常に高かったわけです。3,000ドルもして、今のVRのように手が出るものではなかった。1990年代になって1,000ドルを下回ってきて、ようやく普及が始まったかなというところです。それでも10年かかったわけですので、それを踏まえると、VRがある程度あちこちに見られるようになって、それほど特別感がなくなるのは、やはり10年先くらいなのではと思いますね。
ただアップルのような会社が、これからVRに投資しますと明言していて、そうすると先ほど10年と申し上げましたが、もっと早くVRが当たり前になる時代が来るかもしれないですね。アップルがiPhoneを投入したことで、スマートフォンが爆発的に普及しました。同じようなことがVRでも起きるかもしれない。Googleも同じですね。こういった会社がたくさん投資をして、VRの質を高めて、より多くの人に使ってもらえるような価格帯に下げることができれば、VRはもっと進むかと思います。サムスンもまだ改良の余地があると言っていますし、多くの人に使いこなすところまでは至っていないと思いますね。
――最後に読者に向けてメッセージをお願いします
エイゾール氏:PCはオープンであり、何の縛りがないというのはコンソールとは違うところです。コンソールはそのメーカーの縛りがありますが、PCゲームであればオープンです。そのオープン性がPCゲームの魅力であると考えています。日本のゲーマーの方は、PCゲームの魅力を十分に享受できていないのはもったいないことだと思います。PCゲームは国内、国外にいくつもありますが、PC上でゲームをする以上、国境がありません。
海外で魅力的なゲームがあるとしても、日本にいるだけでは知ることができない。皆さんも是非アンテナを張って、国外にどんなおもしろいゲームがあるのか、注目していただきたいですね。おもしろいゲームをプレイするという可能性を閉ざしてしまうのはもったいない。ほかにも魅力的なゲームがあるんだということを、貪欲に、自分から探していっていただきたい。PCゲームであればそういうことができます。
また日本では、競技としてのゲーム、e-Sportsが、先進国の中で唯一遅れていると思っています。これも非常にもったいないことで、ゲームPCをもっと普及させることでe-Sportsを日本においても発展させられると考えています。日本のゲーマーは大企業から勧められるものをプレイしているだけという印象があって、もったいないですね。
ゲーマーの知らない国外のメーカーはたくさんあります。ただ、予算があまりにも少なくて広告を出せていない。だから認知されていないかもしれない。ただ探しに行けば、そういったメーカーはたくさんあるわけです。
PC上では国境もなく、メーカーの広告予算の多寡に関係なく、いろいろなゲームをプレイできる。より可能性が広がるわけですので、誰でも国内外のゲームをプレイできるというメリットを最大限に享受していただきたいと思いますし、こうした媒体の方にも、そういうメッセージを発信していただきたいと思っています。