佐藤カフジのVR GAMING TODAY!

Valve「Lighthouse」とOculus CV1のトラッキングはどっちが凄い?

ポジショナルトラッキング天下分け目の戦い、第1ラウンド開幕!

【著者:佐藤カフジ】

 3月のGDCで発表され、6月には開発者向けの出荷も始まったValve謹製のVRシステムSteam VR。その初号機である「HTC Vive」はOculus Rift CV1と同等の表示系のスペック(2,160×1,200@90Hz)を持つ。その他にもハード的な共通点の多いSteamVRとOculusは、コンシューマーVRの立ち上がりにおいて明白なライバル関係となる。

 人類最大のゲームマーケットハブSteamと連動するSteamVR、かたや人類最大のソーシャルネットワークシステムFacebook傘下のOculus。

 両者が雌雄を決する上でポイントのひとつとなるのは、VRの没入感を生み出すトラッキング技術の違いだ。なにしろ、トラッキング用のカメラは、1つの部屋に2セットも置きたくないし、物理的に置けない場合も多い。その上で、様々なVRデバイスが登場してくるさい、どちらのトラッキングシステムに対応するかはユーザーにとっても大問題となる。現在のところ、FOVEやStarVR、ManusといったVRスタートアップ系ではLighthouse対応を表明あるいは検討している企業が多いが、Oculusも最近、トラッキングシステムを自由に使えるSDKを公開、対応デバイスの開発を後押ししている。勝つのはどっちだ?

Valve入魂のVR用トラッキング技術「Lighthouse」

HTC Viveを取り出す板人間たち
HMDにたくさんの光センサーがついている

 SteamVRの基盤となるトラッキング方式はとてもユニークだ。その能力的な詳細はValveが公開しているHTC ViveのセットアップガイドPDFで確認することができる。余談だが、イラストに使われている「Portal」チックな板人間がとてもかわいいので、皆さんも目を通してみよう。

 「Lighthouse」と名付けられたこの方式では、放射状にレーザー(指向性の高い光。波長は不明)を発する2つのベースステーションと、HMD側でレーサーの入射を検知するたくさんの光センサーを用いる。ベースステーションは部屋の2カ所に設置し、部屋全体にレーザーを照射。それがHMD側のセンサーに捉えられることで、「HMD側が現在位置を検出する」(PC側には、各光センサーの座標情報が伝わる)という仕組みだ。

 これに対して、Oculus Rift CV1で採用されているのは、HMDが発する赤外線LEDを据え置きのカメラで映像的に捉える方式。「カメラ(PC)側がHMDの位置を検出する」(PC側には、カメラの映像が伝わる)という方法だ。アプローチとしては真逆ということになる。

Lighthouseのトラッキング基盤となる2つのベースステーション

設置の方法各種
開発版では有線で同期するようだ。製品版では無線に?

 Lighthouseが採っている方式は、Oculusが採用している方式に対して明らかなメリットがある。ひとつは、トラッキング範囲を非常に広くとれることだ。現時点で明らかにされている仕様では、およそ4.5×4.5mの空間全体でトラッキング対象を検出可能となっている。

 さらに、高い精度を維持できるのもメリットだ。Lighthouseではレーザーが複数のセンサーに感知される際の時間差に基いて測距を行なうとされているため、ベースステーションがどれだけ広い範囲にレーザーを照射しようと、トラッキング精度には影響しない。実際、Valveではこの方式のウリとして0.1ミリ単位の精度を謳っている。

 また、PC側には各光センサーの座標情報がダイレクトに伝わるので、そこからHMDやVRコントローラーの位置・姿勢を導き出すための処理は、原理的に非常に軽量で、PCに大きな負荷をかけることがない。このため、トラッキング対象デバイスの数を増やすことも容易なはずだ。VRコントローラー、VRハンコン、VRジョイスティック、あるいはフルボディトラッカー。いろんな可能性が拓ける。

 一方、同じことをOculusの方式でやろうとすると、かなりハードルが高い。カメラ側でHMDやVRコントローラーのLEDを検出する際、精度や範囲を広げるには撮影解像度やフレームレートを高める必要があるためだ。撮影された映像を解析して対象物の位置・姿勢を検出するというのは処理的にかなりヘビーでもあるため、精度・範囲・対象の数を高めれば高めるほどPC側の負担も大きく増える。

 というわけでLighthouse技術のウリは、広いトラッキング範囲・高い精度を両立しつつ、トラッキング対象物の増加にも対応できるところにある。実際、ValveではLighthouseのトラッキング範囲をして「ルームスケールのVR」をアピール中。部屋全体を歩きまわったり、床に寝そべったり、逆立ちしてもしっかりトラッキングしてくれるというのは、VRの使い道を広げる上で非常に強力に働くだろう。

そして実現するルームスケールのVR体験空間

【Juggling in the Vive - Alex at Owlchemy】
各デベロッパーの検証映像も出始めた。Steam VRコントローラーでお手玉。高い精度と低い遅延が実現されていそうだ

Oculus Riftも「ルームスケールVR」が可能に

CV1とそのトラッキング用カメラ
この形に秘密がないわけがない。もしかしてユーザーを追尾する……?

 という、Lighthouseのスゴサに大興奮していたのもつかの間、E3 2015においてOculus Rift CV1でも“ルームスケールのトラッキング”が可能になることが明らかになっている。

 海外VR専門メディアRoadToVRによれば、およそ3.6×3.6メートルの広さがあるデモルーム内のほとんどの範囲で、CV1のトラッキングが有効に機能していたと報告している。どのような方法でこれを実現しているのかは不明だが、本当ならば、CV1付属カメラでLighthouseと同等の自由度の高いVR体験が可能となるという意味だ。これはすごいことだ。

 すごいことなのに、Oculusがこの事実をあまりアピールしていないのは不自然に見えるかもしれないが、その理由も明白だ。部屋全体を使ってVRゲームを遊ぶというような超ヘビーなプレイスタイルを、一般的な使い方とは想定していないからだ。そこを真っ先に打ち出してしまうと、「いや、ウチでは無理だわ」という感じでユーザー側が拒否反応を示すおそれがある。もっともなことだ。まずコアゲーマーを掴みたいであろうValveと違い、ノンゲーマーにも広く普及を目指すOculusの姿勢としては非常に妥当である。

 なお、上記の記事中では、まともなパフォーマンスを得るためにはカメラを2つ使う必要がありそうだとしているが、この辺りの検証にはOculus CV1に付属するカメラの仕様をより深堀りしていく必要があるのは間違いない。例えば、このカメラの独特の形状である。妄想レベルだが、視野角を補うために、自動的にユーザーを追尾する機構がついていてもおかしくないような形だ。

 とにかく、筆者自身がまだ体験できていないので、このあたりについては断言できる部分が少ない。いずれは国内でもCV1を試せる機会が来ると思う。そのときにまた、深く掘り下げていこう。Lighthouseとの決着は、そのときまでおあずけだ。