【連載第85回】韓国最新オンラインゲームレポート

「サドンアタック」の韓国サービスで今何が起こっているのか?
GameHIとCJ E&Mとの間で巻き起こった前代未聞の醜聞騒動






 この春、韓国オンラインゲーム業界でとんでもない醜聞劇が巻き起こった。「サドンアタック」の運営権を巡って、開発元のGameHI、運営元のCJ E&M(旧CJ Internet)2社が、ユーザーを巻き込む形で醜い争いを1カ月に渡って繰り広げたのである。

 「サドンアタック」の開発元GameHIは、6月10日、韓国Nexonと「サドンアタック」のパブリッシング契約を交わし、CJ E&Mとの契約が終了する7月11日から、韓国Nexonを通じて「サドンアタック」がサービスされることを発表した。

 しかし、このサービス移転が決定するまでには実に長い紆余曲折があった。GameHIと前サービス元であるCJ E&Mの間に起きたパブリッシングの再契約に巡る争いだ。その内幕は実に醜悪なもので、社長の首が飛んだだけでなく、両社に対するユーザーたちの評判を落とすだけの結果となった。

 「サドンアタック」のパブリッシング契約の終了日が近づいた両社は強硬な手法を使い、交渉を続けていた。GameHIは独断でアップデートを行ない、ユーザーを守る手段に出たのに対し、CJ E&Mはその報復措置として再契約に提案した内容を公開し、GameHIのサーバー接続権限を制限した。また、自社の立場についての声明をネット上に繰り返し公開した。なぜこんな醜い争いにまで発展してしまったのか。本稿ではこれらの一部始終をお伝えしたい。

【今なお対立する両社】
左は旧運営元であるCJ E&Mの「サドンアタック」のサイト。右は新運営元であるNexonの「サドンアタック」のサイト。CJ E&Mは、GameHIが実装した「認識票システム」を使わないように促し、Nexonは積極的に使うことを呼びかけている。なぜこういうことになってしまったのだろうか?



■ 両社の意見の食い違いで再契約は困難に……

CJ E&Mは5月30日、「サドンアタック」のホームページで再契約に関する内容を説明した。再契約において、利益配分はGameHIの7に対してCJ E&Mの3、共同パブリッシングを可能と、CJ E&Mとしてはかなり譲歩した契約内容となっている。しかしGameHIはこれを蹴る

 「サドンアタック」の韓国サービスを巡る争いは、GameHIが2010年5月に韓国NEXONに買収されたことから始まる。GameHIがCJ E&Mとの間で交わした「サドンアタック」のパブリッシング契約は2011年7月10日までで終了することになっていたが、両社は水面下で契約延長に関する交渉を続けていた。

 CJ E&Mの話によると、再契約の初期契約金は160億ウォン(約12億円)で、利益配分割合は7(GameHI):3(CJ E&M)、さらにCJ E&M以外との共同パブリッシングも可能といった内容を提案したがGameHIから拒否されたという。補足しておくと、これは韓国オンラインゲーム史上最高額の契約内容だ。

 「サドンアタック」はサービス開始から7年間の間、常にトップランクの人気を維持し、累計会員数1,800万人を誇るCJ E&Mの主力タイトルだ。2010年度のCJ Internet(CJ E&Mゲーム部門の前身)の売り上げは約2,400億ウォン(約180億円)で、そのうち「サドンアタック」は539億ウォン(約40億円)の売り上げを記録している。再契約に失敗すると、いきなり1,800万人の会員と売り上げの4分の1近くを失う結果になってしまうので、CJ E&Mとしては是が非でも手放したくない立場だ。

 これだけ見ると韓国Nexonが親会社になったことで、その果実を得ようとするNexonの思惑を、CJ E&Mが何とかして食い止めようとしているように見えるが、GameHI側の話を聞くと両社の食い違いは別のところにあったのである。

 GameHIによると、「サドンアタック」の韓国サービスは特殊で、「Netmarble」でサービスされていても「サドンアタック」のサービス全般は元々GameHIがすべて運営していたという。アップデートやイベントといったサービス計画からGM活動まで、すべてGameHIの主体で動いており、CJ E&Mは今まで何の手助けしてなかったという。つまり親会社うんぬんの問題ではなく、単純にパートナーとして不的確という判定を下しただけというわけだ。

 そうした動きを裏付ける証拠として、CJ E&MはGameHIが韓国Nexonに買収されてから「サドンアタック」の会員に対して、なぜか「Special Force 2」や「Soldier of Fortune」といった自社の新作FPSの広告ばかりを掲示していた。「サドンアタック」にログインすると強制的に「Special Force 2」のホームページに移動するページが表示されたり、ゲームを終了すると「Special Force 2」や「Soldier of Fortune」の広告バナーがポップアップされるといった具合だ。

 CJ E&Mはこれに対して、「Netmarble」のVIP会員のみ対象にしたというが、いずれにせよまだ契約関係の続くGameHIにとっては背任に近い行為だ。そして、両社の葛藤はユーザーを巻き込む事態にまで及ぼした。

【公開声明】
両社は幾度も自社の立場に関する声明をあげていた。ユーザー側としては、契約内容がどのこうのより、「サドンアタック」のサービスがちゃんと続くのかが心配になるところだろう



■ 独断で実装された「認識票システム」。その内容とは?

スクリーンショットを撮るためF8キーを押すと部隊名と傭兵番号が聞かれる。登録した部隊名と傭兵番号はウォーターマークのようにスクリーンショットに表示される。若干、ややこしい作業で、ユーザーとしては、これだけだとやる意味がよくわからないだろう
認識票を登録すると自分のプレイ実績を細かく確認できる。このスクリーンショットをNexonに提出すればプレイデータをそのまま移転してくれるということだ

 CJ E&Mの業務妨害的行為に業を煮やしたGameHIは5月3日、「認識票システム」のアップデートを独断で実装した。「認識票システム」とは、F8キーでスクリーンショットを撮るときに、部隊名と傭兵番号を入力することができ、その情報をウォーターマークとしてスクリーンショットに張り込むことができるシステムだ。「認識票システム」システムを使用すると、ユーザーの経験値やキル数、デス数、クラン情報といった細かいプレイ実績が確認できるようになる。

 このシステムの説明だけだとよくわからないが、真の目的は別のところにある。上記機能はあくまで表向きの機能で、ユーザーが「認識票システム」を使用することで、ユーザーのプレイ実績が保存されたプレイデータがGameHIに転送されるようになってるのだ。GameHIはこのことを6月1日の声明で認めた。

 なぜこのようなことをしたのかというと、GameHIによると、CJ E&Mは「サドンアタック」の再契約が失敗するとユーザーたちのゲームプレイ情報(ゲームDB)を渡さない可能性があったからだという。

 具体的に説明すると、韓国のオンラインゲームでは、ユーザーに関する情報が保存されるDBが2つに分かれている。ユーザーアカウントに関する様々な情報が保存されるアカウントDBと、各ゲーム別にキャラクターのレベルや経験値、アイテムなど、様々なプレイ実績が保存されるゲームDBだ。

 「サドンアタック」の契約では、パブリッシング契約が終了するとゲームDBは開発元に返さねばならないが、アカウントDBまでは渡す必要がない。つまり、サーバー上で作成された膨大なキャラクターデータは開発元に戻ってくるが、肝心のユーザーアカウント情報は一切戻ってこず、キャラクターデータはどのアカウントに紐付けられたものなのかがわからなくなってしまうわけだ。

 アカウントDBを渡さないことに関してCJ E&Mでは個人情報の保護のためだと説明し、ユーザーの同意を得るために6カ月間の期間を契約延長してほしいと提案したという。GameHIとしては、6カ月間また他のFPSの広告に使われるだけだと判断して、この提案も拒否したという。

 そしてGameHIが対策として行なったのが、先述した「認識票システム」のアップデートだ。ユーザーたちがスクリーンショットを撮ることで、ゲームDBに認識番号を付けることができ、それによってアカウントDBがなくても、ユーザーとゲームDBを結びつけることができるというわけだ。

 これに対してCJ E&Mは「認識票システム」の技術的な内容をGameHIから受け取ってない状態で、GameHIがどういったデータをユーザーから収集しているのかわからないという。「サドンアタック」のホームページでは、今でもユーザーたちに「認識票システム」を使用するのは危険だと呼びかけている。開発元が実装した機能を運営元がユーザーに対して「危険だ」と呼びかける。オンラインゲーム史上に残る醜聞劇である。

 その後も両社の醜い戦いは続いた。CJ E&Mは、GameHIの運営アカウントの接続を遮断したり、「サドンアタック」のスクリーンショット機能をセキュリティ対策の一環として封印するといった手を打った。それに対して、GameHIがスクリーンショット機能の封印をクラックするツールを開発し、無料配布している状態である。

 信じられないことに、この両社の戦いは5月3日から6月10日まで、1カ月以上にわたって続いた。この間、ユーザーはただただ振り回され、韓国ユーザーたちの両社への信頼には深刻な傷を残す結果になってしまった。メディアやユーザーの間では、「これは実は両社が仕組んだ壮大なノイズマーケティングではないか?」と皮肉る声も聞かれるほどだ。




■ 一連の事件は一段落。両社の信頼回復のための頑張りが望まれるところ

6月2日に退任が明らかになったCJ E&Mゲーム部門の部門代表ナムグン・フン氏
GameHIはサービス移転の発表と同時に「認識票システム」の使用を誘導するイベントを実施した。韓国Nexonの「サドンアタック」ホームページにて、認識票が入ったスクリーンショットをアップロードすると、キャッシュ71,100ウォン(約5,300円)が貰える

 この争いが転機を迎えたのが6月2日。CJ E&Mのゲーム部門の代表ナムグン・フン氏の退任が発表された。CJ E&Mは個人の自発的な辞退だと説明しているが、今回の再契約の責任を負わされた結果だと見る業界関係者も多い。ナムグン氏ご本人からはノーコメントのままで、真相はわからない。

 そして、6月10日にはGameHIと韓国Nexonが「サドンアタック」韓国サービスの契約を交わしたと発表された。「サドンアタック」は7月11日から、改めて韓国Nexonを運営元にサービスされる予定で、サービス移管を正常に行なうために、「認識票システム」の使用を誘導するイベントを行なっている。

 その一方で、CJ E&Mはサービス移転が確定した今でもGameHIの動きに対して、先述した「『認識票システム』の技術的な内容をGameHIから受け取ってない状態で、GameHIがどのデータを収集しているのかわからない」という理由で「認識票システム」の使用を自制してほしいと真逆の呼びかけを続けている。

 これに対してGameHIは代表取締役社長キム・ジョンジュン氏の名前で、今後のデータ移管の方法がまったく伝達されていない件について、5つの質問を投げかけ、回答を求めている。

 以上が、これまでの流れとなる。「サドンアタック」再契約に巡る騒動は、まだ終わりが見えないが、サービス移転が決定した以上、関係各社が協力し合い、スムーズなサービス移転を期待したいところだ。CJ E&MとGameHIの両社にはユーザーたちの信頼を取り戻すための努力が求められるだろう。また、GameHIの親会社であり、新たな運営元となるNexonの手腕にも注目が集まるところだ。さらに長期化すれば、日本サービスへの影響も懸念される。ともあれ移転してからの「サドンアタック」韓国サービスに注目したいところだ。


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(2011年 6月 16日)

[Reported by DongSoo“Luie”Han]