【連載第84回】韓国最新オンラインゲームレポート

韓国Nexon、ゲーム開発者向けカンファレンス「NDC2011」を開催
10代を意識したゲーム作り。稲船氏「韓国は日本のように傲慢になるな」


5月30日~6月3日開催




 韓国Nexonは5月30日から6月3日までの5日間、韓国ソウル市のCOEXと韓国Nexon本社において、ゲームカンファレンス「Nexon Developers Conference 2011」(以下、NDC2011)を開催した。

 「NDC2011」は韓国Nexonが2007年から毎年開催している開発者向けのカンファレンスで、今年で5回目となる。元々はNexonグループ内の情報交換のために非公開で開かれてきたが、昨年の第4回目からは他の人たちも参加できるようにオープンとなったカンファレンスである。

 本稿では「NDC2011」の模様をはじめ、Devcat本部長のキム・ドンゴン氏による基調演説、そして唯一の日本人スピーカー稲船氏による講演の内容をお伝えしたい。



■ 5年目を向かえ初めてオープンカンファレンスとなった「NDC」

 「NDC」は元々Nexonグループ内での情報交換のために開かれてきたカンファレンスだ。昨年の第4回目からは業界全体で情報を共有し合い盛り上げていこうという思いでオープン化。それと同時に外部からのスピーカーも多数招待するようになった。なお、最終日の5日目だけは今でもNexonグループの人のみ参加できる非公開カンファレンスとなっている。

 規模的には5日間で117のセッションが設けられ、約500人の開発者が参加している。参加者はNexonグループの社員のほかに、オンラインゲーム産業に直接関わる人たちのみに絞っている。そういった性質からスピーカーの大半はNexonのスタッフで、Nexon内部の話もどんどん出てくるのが「NDC」の特徴だ。

 また、Nexon以外では、ncsoftやXL Games、Blizzard Entertainment、Epic Games、Autodeskといったライバルを含む大手メーカーの開発者がスピーカーとして参加する。日本からはカプコンを退社し、新会社comseptを立ち上げたばかりの稲船敬二氏が唯一参加した。

【会場の様子】
参加者たちは実際に韓国オンラインゲーム業界で仕事をしている関係者ばかり。自分たちの仕事にも関わっているため、全セッションにおいて非常に関心が高かった

【イラスト展】
会場ではNexonタイトルのイメージイラストも展示されていた



■ キムドンゴン氏「イノベーションだけを追求するのではなく、ユーザーの目線でゲーム作りをするべき」

Devcat本部長のキム・ドンゴン氏。「マビノギ」をはじめ、「マビノギ英雄伝」、「ハスキーエキスプレス」などの開発を総括し、今は「マビノギ2」を開発中
新世代のプレーヤー向けのゲーム開発は子供と100時間一緒に遊んであげるのと同じだという

 「NDC2011」の開幕として実施された基調講演ではNexon傘下の開発スタジオDevcat本部長のキム・ドンゴン氏による「旧世代である開発者に求められる新世代のプレーヤー向けのゲーム開発」が行なわれた。

 キム氏はまず、オンラインゲームが長く活きつづけるためには、常に新世代のプレーヤー、それも主に10代の新しいゲーマーをターゲットしたゲーム開発、アップデートが必要だと説明した。

 その理由は、オンラインゲームは定期的に一定の数が辞めていくためだという。オンラインゲームのサービスが長くなるほど、歳を取ったユーザーが離れていくことは自然的な現象で仕方がないが、その分新しいユーザーを獲得できればビジネス維持できる。これはNexonの基本的な戦略でもあるという。

 ゲームの開発者たちの殆どが30代を越えており、彼らはゲームジャンルを作り上げたような不朽の名作をプレイして大きな衝撃を受け、その後のゲームの進化も見届けてきた。そういう経験はゲーム開発においても影響され、新鮮なゲームジャンルを作ろうとする傾向が強いという。

 しかし、新世代のプレーヤーたちは不朽の名作からではなく、進化した新しいゲームから始めるため、ゲームに対する認識そのものに大きな隔たりがあるという。多くのゲーム開発者は自分自身が“まだゲームをプレイし、フィギュアを買い、アニメーションを見る”という理由から、自分はまだ若い世代と感覚を共有している、新世代のプレーヤーを良く理解していると勘違いしてしまうことが多いという。キム氏本人もそういう時期の経験があり、旧世代の開発者は良く次のような過ちを犯してしまったとあげた。

・新しいゲームメカニズムを作ろうとする執着:前述したように多くのゲーム開発者たちは革新的なゲームを作ろうとする傾向が強い。

・古いゲームルールを使用:昔は技術力や様々な理由で、RPGでのセーブポイントやFPSでのマニュアル照準といった不便でも仕方なく採用していた機能が多かった。そういったものを当然のように使い続ける。

・再構成の蓄積によるガラパゴス化:新しいゲームジャンルが生まれ、それが進化をし続けるとマニアだけが遊ぶゲームになりがちだという。その結果、ゲーム市場が全体が縮退してしまう恐れもある。

・プレーヤーに対しての競争心:過去のゲームはA.I.と勝負をするゲームが多くプレーヤーに競争心を与える難易度の高いゲームが主流だったが、今では通用しない。今では誰が遊んでも楽しく勝てるように調整するべきだという。

そして、今の新世代のプレーヤーの特徴について次をあげた。

・映像化世代:最近ではYoutubeといった多様な動画サイトが活発に活動しており、動画に馴染みがあるという。そのため、複雑な情報を短時間で入手でき、覚えも早い。しかし、本といった字を読むことには不慣れで、想像力が欠けるところもあるという。

・ゲームは普通:昔の韓国ではゲームをプレイする人が少なく、学生たちのなかでもクラスで1~2人ぐらいしか楽しまない文化だった。しかし、今では普通に楽しむエンターテイメントとして位置付けされている。そのため、友達との情報交流が多く、ゲームのルールが他の分野で活用されることにも抵抗がないという。

・過剰供給:すぐにでも無料で遊べるゲームが多く、パッケージ料金や月課金といった概念もなくなっている。どういうゲームをプレイしたいというのではなく、単純に人気ランキングで遊ぶゲームを決めることも多い。

・バーチャルでもOK:実物ではなくても楽しいと感じることができればいいと考えている。バーチャルのアバターやアイテムを自然に受け入れている。

 キム氏はこういったことを考慮すると、「字が多くなくても済む直感的なゲームデザイン」、「低いクオリティーのゲームではなく、誰もが認める高いクオリティー」が必要であり、“ゲーム開発者はゲームの機能ではなく、自分が味わった体験を中心にゲームを開発するべき”だと締めくくった。

【スライド】
最初のローンチで10万のユーザーを確保した場合、ゲーマーたちが歳を取ることで毎年20%のユーザーが離れていき、5年後は10万人だったユーザーは3万人と70%の売り上げがダウンすることになるという見込み。新しいユーザーを毎年10万ずつ確保できれば、売り上げは上昇し、5年後には30万人のゲームにできるというシナリオだ
新世代をターゲットしたシリーズものでは「Star Wars」や「仮面ライダー」が例としてあげられた。オンラインゲームでもサービスが継続するには、こういった戦略が必要だという
旧世代はゲームの進化を見続けることができたが、新世代は既に進化されたゲームが始めてのゲームプレイになる。だから、ゲームに対する認識に大幅のギャップが生まれるという
今のゲームジャンルはすべて80~90年代に登場している。「Angry Birds」もその例。イノベーションに熱狂する時代は過ぎたと告げた
昔はゲームに登場するキャラクターが「Bボタンを押せ」みたいなゲーム世界から離れた会話をしたり、自動的にHPを回復させてくれるのはダメだと思われていたが、今はそれが当然だという
1つのジャンルで既に多くのゲームが再構成を繰り返しており、拡大した市場は徐々にマニア化され縮退しているという
すぐにでも無料でプレイできるプラットフォーム、ゲームは多い。高い順位にランクインしたゲームにユーザーが集中する傾向があるという
技術的な面で知っていると自慢せず、新世代にどういう体験を伝えたいのか考えるべき




■ 稲船氏「日本のゲーム業界のように傲慢にならず、チャレンジ精神を持ち続けてほしい」

comsept代表取締役社長の稲船敬二氏

 「NDC2011」2日目では、comcept代表取締役社長稲船敬二氏による「ゲームのグローバル戦略とアジア企業の躍進と未来」の講演が行なわれた。本セッションはスライドは一切使用せず、稲船氏の話だけで行なわれた。

 稲船氏は先ず自分がカプコンを退社した理由について説明した。現在、日本のゲーム業界はチャレンジ精神を失われ、今のままでいいと満足しているという。それはカプコンも同じだという。自分もゲームクリエイターとして手遅れになる前に、またチャレンジ精神を持ち続けるため、カプコンを退社し、新会社comceptを立ち上げたという。

 稲船氏は10年前に始めて韓国に訪問したが、そのときの開発者たちの目は凄まじく、ハングリーでチャレンジ精神が溢れているという印象を受けた。その後、日本に戻って“今の韓国はアグレッシブで、今後もっと大きくなる。このままでは日本は追い抜かれる”という話をしたという。それは現実のものとなり、今のオンラインゲーム市場は日本はもはや手遅れになってしまったと説明した。

 一方、稲船氏は最近中国にも良く訪問するが、10年前の韓国のように熱意のある目を感じているという。韓国は日本のゲーム業界のように傲慢にならず、もっと努力をし続けるべきだと述べ、「才能や今の地位を守ろうとするだけでは、努力する者にいつかは負けてしまう」と力説した。

 傲慢とは自分で気付くのは難しく、気付いた瞬間ではもう手遅れの状態。稲船氏はそうならないために努力を怠らないと共に「自分たちと違う考えを持つ者との協業を恐れないこと」と提案した。

 具体的には、積極的に海外のメーカーと協業することで、自分たちでは考えてなかった一面を勉強することができ、新しいゲームを生み出すことができるという。稲船氏自身そういった経験で、「デットライジング2」を完成することができた。稲船氏は「NDC2011」を通じて韓国のオンラインゲーム業界の人たちに、今を満足せずもっと上を目指し続けるべきだと呼びかけた。

 最後に参加者からの質問により、稲船氏はComseptについて簡単な説明をした。Comseptはゲーム開発の一番最初の段階“コンセプト”を作る会社。自分たちが作ったゲームコンセプトをゲームデベロッパーに伝え、協業してゲームを完成させるのが仕事だという。

 今はこれまで作っていたコンソールゲームではなく、オンラインゲームやソーシャルゲームのコンセプトを考えているという。稲船氏は「コンソールゲームを作らないのではなく、先ず最初は初心者のように失敗を恐れずにオンラインゲームやソーシャルゲームといった新しいものに挑戦したいという気持ちです」と自らが挑戦者であることをアピールして講演を終えた。


【デッドライジング2】
カナダのBlue Castle Gamesと協業して作り上げた「デットライジング2」。稲船氏はカプコン時代から、海外との協業を積極的に進めていた

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(2011年 6月 3日)

[Reported by DongSoo“Luie”Han]