【連載第22回】開発者が語るiPhone/iPadゲームの最先端

iPhone Spotlight Report

世界で1,000万ダウンロードを記録した「スマーフ・ビレッジ」
ヒットの秘密と日本市場への参入意図をビーライン世古氏に聞く

 世界中でブームを起こしたiPhoneは、新たなゲームプラットフォームとしての地位を得た。続いて登場したiPadも、かつてないゲーム体験を生み出す可能性を秘めている。本連載では、iPhone/iPadゲーム開発者へのインタビューから、最新のトレンドや魅力を探っていく。



7月19日 収録


「スマーフ・ビレッジ」は、ベルギー生まれのキャラクター「スマーフ」達に指示を与えて畑を耕して作物を育てたり、家を建てたりして自分の村を好きなように発展させていくソーシャルゲーム

 世界で1,000万ダウンロードされているソーシャルゲーム「スマーフ・ビレッジ(Smurfs' Village)」が日本語化され、7月15日から配信が開始された。このゲームは、株式会社カプコンの子会社で、カナダにあるビーライン・インタラクティブ・カナダが開発したものだが、今年の4月に日本で株式会社ビーライン・インタラクティブ・ジャパンが設立され、日本語版はそこから配信されている。

 ビーライン・インタラクティブ・ジャパンを率いる取締役社長の世古学氏は、カプコン・インタラクティブ・カナダでモバイルゲーム開発部門の事業責任者を務めてきた。「スマーフ・ビレッジ」の開発を率いてきた人物でもあり、世界的なソーシャルゲームをヒットさせた数少ない日本人でもある。今回はその世古氏に、これまでの経緯やヒットの秘密、今後の展開についてお話を伺った。




■ 「スマーフ・ビレッジ」のヒットはFacebookとの連携と競合の少なさが要因

ビーライン・インタラクティブ・ジャパン取締役社長の世古学氏。パナソニック株式会社(旧松下電器産業株式会社)でのシステムエンジニアを経て、2008年よりカプコン・インタラクティブ・カナダでモバイルゲーム開発部門の事業責任者に就く

――iPhoneアプリを出す前は、どのようなゲームを開発されていたのでしょうか?

世古学氏: 2008年当時はフィーチャーフォンの開発をやっておりました。ところが2010年の頭くらいからフィーチャーフォンの売上が急激に落ち込んでしまったので、急遽開発をiPhoneアプリにシフトしました。開発機材のコンピュータもWindowsからMacに買い換えて、最初に開発をスタートさせたタイトルが「スマーフ・ビレッジ」になります。「スマーフ・ビレッジ」が配信されるまでにもいくつかのゲームを開発・配信してきましたが、ヒットが出なくて厳しい状態でした。そして2010年11月にやっと「スマーフ・ビレッジ」を北米で配信でき、それが大ヒットとなり、ついには日本でもローカライズされ配信されることとなりました。

――iPhoneのゲーム開発を始めようとしたきっかけは何だったのでしょうか?

世古氏: 単純にiPhoneの販売台数が増え始めたからです。2年ぐらい前から徐々に増え、iPhone 3GSで爆発的に増えたことが参入のきっかけとなっています。それと、僕や弊社スタッフが純粋に開発してみたいと思ったからです。熱意があるところではいいものが開発できると思っているので、事業責任者の僕としては、ここにお金を投下して取り組むべきだなと考えたからでもあります。

――7月15日に日本語版が配信された「スマーフ・ビレッジ」はどのようなゲームなのでしょうか?

世古氏: 農耕と街作りが楽しめるソーシャルゲームです。毎日、作物を植えて育てていき、実になったらそれらを刈り取って収穫していくという、育てる楽しみが味わえます。さらに友達が育てている村に訪れて、プレゼントを届けたりしたりしながら、友達と一緒に楽しめます。おかげさまで日本でも無料ランキングで上位を獲得させていただきました。

――Facebookで大ヒットしている、作物を育てていくソーシャルゲームのようなものですね。その手のゲームはFacebookでは乱立していて、熾烈な争いを繰り広げていますが、それをiPhoneで出すことにした理由を教えてください。

世古氏: iPhoneでは農耕育成型ソーシャルゲームは、Facebookほど種類が出ていなくて、競争も激しくはなかったからです。Facebookで大人気のゲームをiPhoneユーザーにも体験して楽しんでもらえればと思ったからでもあります。当初は、FacebookとiPhoneの両方で遊べる仕組みを考えていたのですが、両方を開発していくとなると開発に1年くらいかかってしまいそうだったので、とにかくスピード優先でiPhone版だけ出すことにしました。いち早くiPhoneユーザーに農耕育成SNSを楽しんでもらいたかったという思いもありました。

――全世界で1,000万本ダウンロードされるほど大ヒットしましたが、その要因は何だと思いますか?

世古氏: まずはブランドです。このゲームに起用しているキャラクター「スマーフ」は、欧米では子供の頃から絵本などで親しんでいる人気のキャラクターなので、遊びやすかったのではないでしょうか。元々はベルギーで誕生した人気コミックのキャラクターで、今夏には映画になるほど人気があります。もうひとつは、僕らがゲームを販売するタイミングでiPhone/iPod touchの本体台数が飛躍的に伸びたからだと思います。

――ほかにユーザー数の拡大に繋がったものはありますか?

世古氏: Facebookの友達を誘える機能が入れ込んであるのもよかったと思います。友達を招待してその人が遊ぶと、誘った人には特典(ゲーム内通貨)がもらえる仕組みになっています。ほかにもFacebookのウォールに自動で定期的にポストして、これ遊んでよと言う感じで広げていく口コミ効果(バイラルマーケティング)がユーザー数を増やしていく要因に繋がったと思っています。

――Facebookと連携させたのは何か理由があるのでしょうか?

世古氏: 利用者が大勢いるからです。北米でプレイして欲しい世代の人はFacebookやTwitterなどを利用しています。そこでゲームを開始する際のアカウント登録にはFacebookを利用していて、サインレスで始められるようにもなっています。それもよかったんだと思います。

――それはあると思います。iPhoneユーザーの場合、アプリやゲームを始めるのに独自のサービスに新規登録するのは嫌う傾向がありますからね。

世古氏: 当初は、会員の管理も自分達でやろうと企画はしていたのですが、個人情報を登録する煩わしさの障壁があります。僕らの1番の恐怖は、すぐにホームボタンを押されて遊ばれないことなのです。ホームボタンはとても便利に作ってありますが、これをユーザーに押されてしまうとアプリ開発者はそれで終わりなので、これをいかに押されないようにするかということを考えて開発しました。その結果として、Facebookを利用することにしたのです。FacebookのユーザーIDやパスワードならみんな利用していて覚えているし、日々ソーシャルネットワークを利用している人なら抵抗なく遊んでもらえるのではないかと考えたからです。

――Facebookをうまく利用しているのですね。

世古氏: Facebookとは連携していますが、友達を見つける方法として使っている程度です。Facebookの友達リストを取ってきて、その友達がこのゲームで遊んでいたら、友達の村一覧で出てくる仕組みになっており、その村を簡単に訪ねられるようになっています。あと、Facebookのウォールに「何レベルに達成しました」とポストできるような仕組みにもなっています。これがきっかけで、ほかのユーザーに本作を知ってもらえるようになっています。そういう意味ではFacebookは僕らの根幹になっているともいえます。




■ 日本のアプリ市場は北米と同じようにフリーミアムに変化していく!?

日本語版の「スマーフ・ビレッジ」。Facebookを通じて身近な人と遊べる点が、iPhoneユーザーにとっては新しい体験に繋がっている
村を好きなようにデザインできるので、ユーザーが面白いデザインを独自に作り、友達に自慢できる

――海外と日本市場の違いで感じる部分はありますか?

世古氏: もちろんゲームのテイストは違いますし、日本のiTunes Storeのレビューは手厳しいコメントが載りますので怖いです。もちろん欧米でも手厳しいコメントはあるのですが、ポジティブな意見も多いです。

――確かにレビューの意見がネガティブなものが多いですね。これは日本独特なものだと思います。ほかには、北米と日本で流行っているアプリの傾向で違いがありますか?

世古氏: 北米のトップセールス上位を見ても、無料のソーシャルゲームでアプリ内課金をさせるフリーミアムのものが7~8割程度を占めていると言った状況です。「Angry Birds」は別格ですが、残りはエレクトロニック・アーツのアメフトのゲームだったり、レーシングゲームが入ってきたりします。それと日本市場のランキングに入ってくるものを比較すると、日本はツールや電子書籍が多いです。日本のiPhoneユーザーはまだエンターテイメント的な使い方を体験する機会が与えられていないと思っています。面白いソーシャルゲームがあることを認知されていなくて、もっと楽しい時間の過ごし方を体験できていないのは残念です。それともっと質の高いソーシャルゲームのようなものがランキングに入ってきてもいいのかなと思います。北米のランキングTOP10に入ってくるものは、質も高くて面白くて、みんな喜んでお金を使ってくれているようなゲームが出てきています。今後も日本市場はそのようになっていくとは思います。

――日本のiPhoneユーザーには、アプリが無料でないとダウンロードしない人も多くいますが、北米のユーザーも同じなのでしょうか?

世古氏: 北米も同じような状況になってきています。2年前に4.99ドルでクイズゲームを出したのですが、それが1年後には0.99ドルでしか売れなくなり、デフレ化が進んでいきました。一方、無料ゲームは面白くない、質の悪いものが多くて、無料ゲームといえばそういうものだと認知されている状況でした。去年くらいから無料でなおかつ質の高いゲームも出てきて、ランキングでは0.99ドルのゲームが占めるほどになっていました。現在ではさらにデフレが進んで、ほとんどがフリーになってしまっています。しかもフリーで面白いゲームが増えており、その影響でユーザーはわざわざお金を出して買う必要がないと思うような状況です。今ではゲームは無料でダウンロードできて、もっと楽しみたいのであればアプリ内課金を利用するというスタイルになっています。

――「スマーフ・ビレッジ」でのアプリ内課金は、どの程度の割合で利用されているのでしょうか?

世古氏: アプリ内課金を利用されている割合は結構高くて、欧米業界平均の3~5倍です。

――その割合で、採算としては成り立つのでしょうか?

世古氏: そうですね。アプリ内課金を利用していただける方の中には、すごくお金を使っていただける方もいらっしゃいますし、少額の課金を月1回程度を利用している方もいらっしゃいます。そのため、このくらいの割合でも成り立つ市場規模になっています。

――日本は北米の市場規模の1/10程度なので、採算としては厳しいのではないでしょうか?

世古氏: 日本のアプリ市場は規模が小さいので商売としては心配ですが、それは僕たちのチャレンジでもあります。この数カ月、ランキングに入っているほかのソーシャルゲームの動向を見て、どのくらいの収入になっているいるのかを分析していますが、そこから判断すると、おそらく成り立つのだろうなと思います。ただし、ランキングの1位か2位を狙っていかないと成り立たないし、日本で1位にならないと、海外に出ていくなんてとんでもないと思っています。まずは日本で1番を取りたいと思っています。




■ Androidの台数が圧倒的に増えてしまうことで開発者が危惧すること

日本語版ではiPadにも対応しており、大きな画面で自分の村を育てられる。ただAndroid版はまだ提供されていない

――日本ではAndroidの台数が増えてきていますが、その中でiPhoneの勢力はどのように変化していくと思いますか?

世古氏: iPhoneはデバイスとして完成度が高いと思いますし、Appleはアプリに対する戦略をとてもよく考えていると思います。ランキングは目で見てわかるようになっていますし、マーケティングでお金を使ったら効果に表われるようになっています。しばらくは、iPhoneの優勢が続くとは思います。

――今後は、Androidアプリの開発も行なうのでしょうか?

世古氏: 日本ではAndroid端末がものすごく増えているので、そちらのことも考えなくてはいけないと思っています。僕が危機を感じるのは、Android端末の台数が圧倒的に増えてしまうことです。日本でのiPhoneの台数は間違いなく増えているとは思いますし、それに伴ってスマートフォンのアプリ業界は伸びていくと思います。しかしAndroidが圧倒的に伸びている今の状況のままだと、ゲームを作っている人間からすると、市場が死んでしまうのではないかという危惧があります。北米ではすごくいいものを作ろうとデベロッパーが多く参入していっているのですが、その割に儲からないという話も聞きます。

――それはどの点が問題で儲からないのでしょうか?

世古氏: Androidのアプリは粗悪なものが多く、課金のシステムも整っていないので、僕らとしてはユーザーさんからお金をいただく仕組みができていません。Androidにも質の高いものもいくつか出始めていますが、いくら儲かっているのか不明です。iPhoneに比べると、儲かる桁が1つか2つ違うのが現状なので、台数に比べるとメリットは少ないです。開発会社としては投資に見合う分だけの収入が確保できるか見極めをしている状況ですが、今後はAndroidにも期待は寄せています。

――今後、日本での展開はどのように計画していますか?

世古氏: 今回は「スマーフ・ビレッジ」の日本語版を出しましたが、近々、別のタイトルのローカライズ版を出す予定です。今後は日本オリジナルタイトルも開発していき、月1本のペースで配信していく予定です。来年前半くらいまでは、iPhoneやiPod touchなどのiOS用アプリに特化して開発していきます。カプコンと別ブランドにしていますが、元々は子会社で、流れている血はカプコンのものなので、クオリティの高いものを作っていきます。他社と差別化を図っていきながら開発し、新しい次元の綺麗なグラフィックスやアニメーションで、ハイクオリティなゲーム体験をユーザーさんに味わってもらいたいです。

――最後に、この記事の読者に対してメッセージをお願いします。

世古氏: 僕らは今後も質が高くて面白いゲームを低価格で出していきます。無料で遊んでいる方は、ずーっと無料で遊んでいただいて結構ですが、アイテムを買っていただくと畑をピンク色に飾ったりと自分好みにでき、さらに楽しみが広がっていきますので、ぜひこちらも体験してみてください。今後、追加できるアイテムも続々と増やしていきますので期待していてください。まだ「スマーフ・ビレッジ」を未体験の方は、無料ですので1度ダウンロードして遊んでみてください。そして、Facebookのお友達と一緒に遊んでみて、面白かったらさらに未体験の友達にも紹介したり、口コミで広めていただけると嬉しいです。最後に我が社「ビーライン」の配信する質の高いアプリに期待していてください。

――本日はありがとうございました。


(C)Peyo - 2010 - Licensed through Lafig Belgium - www.smurf.com. All game code (C)2011 Beeline Interactive Japan, Inc.

(2011年 8月 8日)

[Reported by 川村和弘]